天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第七話  人間界へ

 

 

 

 騒がしくもなんと楽しいひとときを過ごせたのだろう。

 姉様はやはり姉様、心優しく、そして我ら熾天使のことも信じてくれていた。

 

 だが最大の問題はこれからの戦いだ。

 それについて我ら熾天使と魔界は神を倒すため、これから共闘していくことを誓い合ったのである!

 

 

 

 その第一歩は魔界のVtuber組が人間界を精査し、人間の異能候補を絞ることである。それが見つかれば直ちに我らに教えてくれるという。おそらくは天界もまたこっちの共闘を掴んだら動き始めるだろうが、先手を取って異能使いを囲い込めればいい。

 

 その一方で姉様に会えたことにより我ら熾天使ユニットエンジェルスのVtuber活動はもはや不要になったはずなのだが……

 

「いや、必要じゃ! 人間界に食い込むことはこれからの戦いにおいて無駄ではない! 潜在的な味方を増やすことこそ戦略的前進ぞ!」

「まあ、そうとも言えるやろうけど…… 怪しいな。ガブリエル、本音は何や」

「努力を重ね、ウォッチャーをここまで増やしたのを無駄にしてはならん! ミカエル、もうちょっとで大台に乗るのじゃ!」

「やっぱりそうやろな」

 

 もう予定調和だ。この会話は想定内としか言いようがない。

 

「ボクもガブリエルの気持ちはよく分かるんだけど、続けなくちゃいけないほどの意味があるかなあ」

「ウリエル、後生じゃ! もう少し続けて…… せ、せめて姉様ユニットとのコラボ、いわば第二ユニットでもいいぞ」

「……」

 

 仕方がない。もう少しVtuberを続けることになりそうだ。

 確かに全く意味がないとまでは言えないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 日常が突然終わる。

 

 そういうものなのかもしれない。地震や津波だって突然来るものではないか。

 しかし言ってみればそれらは日常の範囲内での非日常だ。

 ちょっと混乱した言い方をしてしまったけど、つまり物凄くあり得ないことではないということだ。

 少なくとも理屈を理解できる。

 

 しかし僕が今、直面しているのは本当の意味で日常ではない!!

 

 だって、誰が天使に会ったことがあるんだろう?

 それは童話かお伽噺で語られるものなんだ。まさかそんな人間の話を聞いたことがないし、あるわけがない。

 僕の頭の方がおかしくなったんだろうか。

 

 こんな初夏の晴天の下、天使を見るとは!

 しかもはっきりとこっちを見て、迫ってきてるなんて!

 

 

 

 

 僕はただの中学二年生だ。

 

 いたって普通だ。いや、少しだけヲタク寄りなのは自覚している。

 でも絵に描いたようなヲタクではなく、深夜アニメを少し見たり、ラノベを十冊くらい買った程度のものでしかない。

 まさか全部のアニメをチェックしたりしていない。

 買ったラノベだってエッチィ要素の薄い正統派異世界ものだけだ。

 トラックに轢かれて異世界転生、安直に転生特典をもらって勇者になって活躍するものが多いんだけど、それがまたちょっと楽しかったりする。でも別に現実を見失ったりしちゃいない。

 

 一方でクラスにはヲタク度の高いディープな人たちが何人もいる。おそらくどのクラスにも同じくらいの人数でいるんだろうけれど。

 類は友を呼び、そういう人たちは休み時間になると集まって専門の話をしている。

 僕の席はたまたまその集まりから近いところにあるせいで彼らの会話も自然と聞こえてくる。

 だけどその内容は分からない。

 あまりに専門用語が多い! 東方とか幻想郷とか意味がよく分からない。おまけに会話には省略語が多いから余計分かりくいのだ。ダンまち、ガイル、少し考えないと元の言葉に変換できないのは僕が染まっていないためと思いたい。

 

「次の時間、英語かあ。予習してきた?」

「当たらなければどうということはない!」「貧弱ゥ、貧弱ゥ!」

 

 本当に何言ってるんだろう。

 だけど全部が全部分からないとも言い切れないから、僕も完全に別の人種とは言えないの……だろうか。

 

 

 もちろん僕は自分の部屋に目の大きいキャラのポスターを貼っていたりしない。可愛いと思うけど貼って愛でようとは思わない。

 

 だけど実はフィギュアなら一つだけ持っている。

 それは薄紫の長い髪を持ったセーラーとミニスカートの美少女フィギュアだ。ポーズは別に変なものじゃない。たまたま街にある中古用品のチェーン店に並べられてたのを見つけ、それだけが妙に気に入ったので思わず買ってしまった。

 

 それに似ていたんだ。

 僕は最近「エンジェルス」というVtuberを少し追っている。

 もちろん周りのヲタクの人ほど多くのVtuberを見てないし、入れ込んでもいないんだけど、その「エンジェルス」だけは見てしまう。

 

 だって面白い!

 

 なんかやけに気の短い黒髪の姫様も、明らかにキャラを自分で確立できていない猫耳も、ダンジョン探索パーティーの前衛が似合うような長身ナイスバディだけど常に仏頂面の女剣士も、一人くらいは絶対欲しいツンデレ幼馴染も。

 この四人のコントが絶妙に滑り続けているんだけど、それがまた楽しいんだ。

 そして僕は四人の中で一番「ミカミカ」というツンデレ幼馴染が特別気に入ってしまった。あのフィギュアはそれによく似ていて、画面がそのまま三次元になったようだったから買った。繰り返すようだけど持ってるフィギュアはそれだけだ。

 

 

 

 そんな僕は今日も学校に行き、放課後は当番だった廊下掃除をして、そして軟式テニスの部活まで終えた。

 

 その軟式テニスという部活を選んだ理由が微妙なんだけど、適度にスマートな運動部で、適度に楽だからだ。

 僕は決して体力自慢ということはないし、かといって将棋が得意とか絵が上手いとか、楽器ができるということもない。つまり選んだ理由としては若干ネガティブではあっても誰もが普通に考えるようなことだ。決して顧問の先生が美人だからというおかしなことじゃない。

 

「コトカ先生、じゃ、失礼します」「ソウタ君、はよ帰りー」

 

 今日は帰るのがちょっと遅くなってしまった。

 ボール集めに手間取ってしまったからだ。テニスコート周辺に生えている雑草の中どころか柵を越えて野球部のグラウンドまで転がってしまったものを回収していたら、部活終了規定時間ぎりぎりになってしまった。

 顧問の先生が校門の近くにいたため、そういう挨拶をしてから慌てて学校を出たんだ。

 

 そこから普通に家への帰り道を歩く。

 僕は友達が多くも少なくもないつもりだけど今日は一人で帰っている。

 

 この街は旭川という大きな川が真ん中を流れ、その土手もけっこう広い歩道になっている。学校から家までの大半がその道だ。

 僕はそこをボケっと歩いていたが、視線は少し上に向けていた。

 なぜなら晴れの多いこの土地柄でも初夏の季節は特に空が澄み渡って綺麗だからだ。わずかな雲もはるか彼方に見える。それに初夏ならこの時間でも全然明るい。

 

 

 視線を上げていたのが幸運だったのか?

 いや、後から考えたら本当に幸運だったんだ!

 

「えっ………… ええっ! 何だあれ!!」

 

 それしか言いようがない!

 

 最初は空のど真ん中に火花のようなものが散っているのが見えた。飛行機や雷なんかとは全然違う。音はしていないんだけど、いかにもバチバチという感じだ。次にちょうどその場所の中心にポツリと灰色の染みがあるのが見えたんだけど、あれは穴?

 でもそれも直ぐに消えた。

 見間違いか夢なのか?

 だけど今度は細かい点が見えたんだ。しかも今度は消えることはなかった。

 点々はぐんぐん大きくなり、やがてその理由が空から真っすぐ僕に向かって近付いているためと分かった。

 

 そして…… 次第に点々が何なのか分かってくるが……

 

 人? いや、人じゃない!

 人は空を飛ばないせいもあるけどそういう問題じゃないんだ!

 

 て、天使!!

 

 羽があり、白いコートみたいなものを着ているから一番あてはまるのは天使だろう。

 現実なのかどうかは別として。

 それが十人以上の数で、先頭からV字型の隊列を成して飛んできている。

 

 不思議だけど綺麗だな、と思ったのは最初のうちだけだ。

 どこに来るといってもなぜか自分に向かっている。この土手には今僕しかいないようだからたぶん間違いない。

 しかも結構な速さでぐんぐん来られてしまうのだから、怖くなってくる。

 意味がわからないけど逃げる!

 天使って、人間に悪いことしない存在のはず……

 しかしその全員が剣とか弓を持ってるってどういうこと! 物々し過ぎる!

 

 

 あっさり囲まれてしまった!

 

 いくら僕が逃げようとしたって空を飛んでくる天使から逃れられはしない。

 最後は背を向けていたのでどう隊列を崩したのかは分からないけれど回り込まれた。土手から転げ落ちるように河川敷へ降りたところで天使たちも僕の周りに着地し、そして前後左右どこにも逃げ場を失くしてしまった。

 

 

「あの、天使様、ですよね? ぼ、僕に何か?」

 

 やっとの思いでそこまで言う。

 すると正面に位置していた天使がそれに答えてくれた。天使にふさわしい綺麗な声で。

 

 でもしゃべり方はなんだか苦しそうで、言いたくないみたいだった。

 

「神に仕える智天使(ケルビム)の一人、アサエルだ。少年よ。用事というのは…… つまり、その、我々と一緒に来てほしい」

 

 

 

 

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