天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第八話  剣のライバル

 

 

 

 僕を連れて行く?

 天使からとんでもないことを言われ、驚くとともに当たり前のことを聞いた。

 

「え、それは、どこに……」

「どこといっても、連れていくのは天界だ。神の命令によって君を召さなければならない」

「て、天界!? 召すって、どういうこと!」

 

 これには絶句した。

 天界に召されるというのはいわゆる死ぬということじゃないだろうか!

 こんなにあっさりと僕は死ぬ? 確かに天使を見るということはそういうことを意味するのかな…… でも別に病気でもないのに。

 

「僕はもう寿命だったってこと…… でも何で……」

「少年、私も気の毒とは思っている。本当のところを言うと寿命でもないし死ぬわけでもない。天界へ行くというだけなのだが、おそらく戻ってこれることはない」

「だ、だったら、余計どうして! そもそもなんで僕が」

 

 わけが分からない!

 

 僕は物凄く楽しい生活をしているわけじゃないけど辛い生活でもない。腐れ縁の友達もいれば、猫も飼っている。普通の中学生なんだ。

 いきなり人生を中断し、天界へ行きたくはない。

 

「今回は特別だ。だからせめてできることをしたい。一番良い形を考えたし、それを私の権限で実行する」

「一番良い形って何? みんなの記憶から消えるってこと?」

「そこまでは無理なのだが…… ここに偽装の得意なヨキエルを連れてきている。そこで、せめて川で溺れている子供を助けて代わりに消えるという偽装をしたい。そうすれば残された者たちのショックは小さくなるはずだ」

「それでも嫌だよ」

 

 嫌に決まっている!

 

 天界へ行くのも嫌だが、残された人間のことを考えると……

 僕の存在が記憶から消え、最初からなかったものになるならマシだと思う。

 でもそうじゃないなら家族や友達はきっと悲しむ。僕はそんなにいい息子でも友達でもなかったかもしれないが、それでも悼んでくれるだろう。

 

「分かってくれ、少年。君がいなくなるのはもうどうしようもなく決まっていることなのだから。ただ単なる神隠しよりはそうした方がいいだろう。そして君が消えた後の家族のことならば責任をもって見守ろう。必要な支援をするつもりだ。そのあたりで納得してもらえないだろうか」

 

 僕に話してくれている天使アサエルはやっぱり苦しそうだ。

 問答無用で何でもできそうなのに、僕に気を遣ってくれている。

 たぶん個人的な優しさと責任感で僕の家族に対するフォローを申し出ているのだろう。なんとなくそう思える。でもやっぱり納得はできないけれど。

 

 

 

 

 

「むう、遅かったか! ミカエル、急ぐぞ!」

「向こうはけっこう多いで。十人はおるようやな。四枚羽(クワッド)が二人だけ、残りは二枚羽(デュアル)みたいや」

「その程度、蹴散らす!!」

「ラファエルはやっぱり血の気が多いわ」

 

 わたしとミカエルは急行している!

 

 魔界のVtuber組から連絡があったのだ。

 人間界で異能を持った者を見つけた。その者をなるべく早く確保してほしい、と。

 だからわたしとミカエルがその任務のため直ぐに出立した。

 それでも一歩遅かったようだ……

 目的の人物は既に天界においても察知され、天使たちが遣わされていたとは。

 大きな川の河川敷でその人物は天使たちに囲まれて拉致される寸前まで行っている。

 

 だが最悪ではない!

 まだ取り返しがつく。天界から遣わされてきた天使たちはそこそこの数がいるが、わたしとミカエルに敵うことはないだろう。

 

 四枚羽(クワッド)というのは我ら熾天使の直下に当たる智天使(ケルビム)のことだ。

 実はこれは魔界の者たちが天使をその外見で区別する時に使う蔑称なのだが、我らは神に反逆すると決めた時からあえてこの言葉を使っている。

 

 そして智天使(ケルビム)よりも下、つまり座天使(ソロネ)以下の階級は全て二枚羽(デュアル)なのである。

 

「このまま連れていかせはしない! ミカエル、直ちに突っ込むぞ! わたしが四枚羽(クワッド)を引き受けた。他を頼む」

 

 そして急降下、わたしは目的の人物と四枚羽(クワッド)の二人を確認する。

 

「む、アサエルとヨキエルだったのか…… ヨキエルはほぼ偽装専門だから戦力ではないが、しかしアサエルとは多少厄介なことになるな」

 

 

 

 向こうの一団も気付いたようだ。

 急遽話し合いらしいものを止め、目的の少年らしいものを確保しようと動き出した。

 しかしこっちも速い。

 わたしが少年の前を猛スピードで飛びすさり、牽制をかけた隙にミカエルが少年を保護にかかる。

 

 そしてわたしは宙に弧を描いて戻ると、最大の障害になるであろう四枚羽(クワッド)のアサエルと対峙するように着地する。

 

 

「アサエル、わたしが来た以上もう無理だ。拉致は諦めろ」

「くっ、反逆天使のくせに! やはり邪魔しに来たか!」

「アサエル、邪魔をしているのはそっちの方だ。少年に用事があるのはこっちも同じこと、このまま預からせてもらう」

「神の御意志で動く我らに何を言う! 御命令は絶対だ! そんなことはさせられるかッ!」

 

 アサエルの返事はやっぱりそうなるか。相変わらずの奴だな。

 昔からアサエルは忠誠心と責任感だけが頭に詰まっている奴だった。だからこそわたしも傷つけたくない。

 

「…… アサエル、よく考えてみろ。こちらにはわたしの他にもミカエルがいる。熾天使が二人、本気で戦えばもはやどうにもならないことは分かるだろう。素直に退いてはくれないか。こちらの目的はその少年であり、戦うことではない」

「神に逆らった者たちを前にむざむざと退くことはできん!」

「本当に頭の固い奴だ」

 

 

 

 

 わたしとアサエルはどちらも退かない。戦うのはやはり必至のようだ。

 

 互いにゆっくりとオリハルコンの剣を抜く。

 反りのない細身の長剣である。純度の高い白い輝きがその禍々しさを隠し、優美にすら見せている。

 

 

 横でメガネをかけたヨキエルがあたふたしているが眼中にはない。それよりもわたしはミカエルが目的の少年を保護したのを見て取り、安心する。もちろんそこへ下級天使たちが殺到しているようだが、ミカエルはうまくいなしている。

 

 

 剣を振る。

 

 二人がほぼ同時に仕掛けた剣撃は中央でぶつかり合い、高い音を立ててどちらも弾かれた。その威力の余波で空気がゆらめく。

 

 続いて角度をわずか横に傾けた第二撃も同様だ。

 そこからは高速で互いに仕掛け、防ぎ、逆撃をかける。

 

「強いな…… アサエル、さすがに天界最高の剣士と呼ばれただけのことはある」

「ぬかせッ! 反逆天使などから褒められる筋合いなどない!」

 

 五合、十合と打ち合うとアサエルの優勢がはっきりしてくる。

 

 均衡が崩れ、やがてわたしは打ち負け、ついにその剣が手元から弾かれて宙を舞うことになる。

 

 だが精神的に余裕があるのはわたしの方だ。

 アサエルの方は勝ったなどと微塵も思っていないだろう。わたしに異能、絶対切断(アルティメットソード)がある限り。

 

「恥ずかしいことだ。わたしは異能に頼ることを覚えてしまい、やはり剣の鍛錬に甘さがあったとみえる。こんなに差を付けられるとは正直自分でもふがいない」

「だったら何だ、ラファエル」

「やっと名を呼んでくれたな、アサエル。昔はよく一緒に剣の練習をしていたのに……」

 

 そう、昔は仲が良かったのだ。

 天使は様々な個性があるが、剣を使う武闘派は案外少なく、その少数の中の二人だったから。本当に思い出深い。

 

 

 だからこそアサエルに対しては最後まで異能を使いたくなかった!

 

 絶対切断(アルティメットソード)は全てを斬り払うもの、それを受けることはできず、相手が剣士なら必ず傷つけてしまうからだ。本意ではなくとも。

 しかしこれも武の定め。

 実力を敢えて使わないのはかえって武人を辱める行為である。互いに武人と任じる以上、仕方のないことだ。

 

 わたしは横にすっとんで転がり、そこらにあった灌木の枝を折り取って手に持つ。

 立ち上がるとそのひん曲がった枝を両手に持って再び対峙する。

 

 だが、これで充分!

 

 わたしの異能は立派な剣を持つ必要はどこにもなく、というか正確に言えば()()()()()()()()()()()()()なのである。発動した異能が斬るのだから何を使ってもいいのだ。

 

 

「アサエル、腕一本もらっておく。しばらくは不便をかけるだろうが十年も経てば回復するだろう。異能発現、絶対切断(アルティメットソード)!!」

「くうッ!」

 

 本当に済まない。アサエル。

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

「へっ!?」

「えっ!」

 

 

 

 

 あれ?

 いつものように斬撃の軌跡が…… 出ていないぞ。

 

 異能が発現していない!!

 なぜだ? 相手がアサエルだから遠慮したということはなしに、本当に絶対切断を出したはずなのに!

 

 こ、これでは曲がった枝なんかを振っているわたしが馬鹿みたいではないか!!

 

 やたらと自信を持って変な技名を言って…… それで凄いことをしたつもりになっている妄想癖の子供と何ら変わるところがない。

 周りから見たらとっても痛い奴だ!

 

 まさかアサエルが何かしたのか?

 

 いや、そうじゃない。

 アサエルだって口をあんぐりと開けて止まっている。

 そもそもアサエルは腹芸ができるほど器用な奴ではなく、そんな奥の手があるなら最初から言ってるだろう。

 周りを見てもヨキエルだって同様に驚いているし、下級天使に何かできるとも思えない。

 

 

「ラファエルーー! ちょっと、どないなってんねん!」

 

 その時、遠くからミカエルの叫びが聞こえてきた!

 けっこう悲痛なものだ。

 

「あかん、暴炎熱威(ストームフレアー)が出えへん! なんでや!」

 

 何としたことだ。向こうでも異能が発現できていない!

 たぶんミカエルは下級天使たちを退けるのに自分の異能暴炎熱威(ストームフレアー)を使おうとしたのだろうが、それが出せないので焦っている。

 

 

 

 これは地味にピンチかもしれない!

 

 初めて経験する異常事態、こうなった原因は実のところ目の前にあった。

 

 目的の少年は自分でも意識せずダダ漏れに異能を出していたのだ。

 その異能、聖天調和(スカイハーモニー)は一定の範囲の異能発現を強制的に抑えるというものだった。それを知るのはしばらく後のことになる。

 

 

 

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