天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第九話  微妙な異能

 

 

 

 異能が出せない!

 

 こんな経験は初めてだ!

 

 むろん異能が使えないとしても、わたしとミカエルが熾天使であることに変わりはなく、基礎的に強い神聖力を持っているが……

 それでも状況は良くない。

 向こうは数が多いのに加えてアサエルという剣の達人がいる。異能を出せずにまともに戦えば良くて互角、堂々と打ち倒して目的の少年を連れていくことは望めない。

 

 もはやあれこれ考えている時間はない。

 だったらまだアサエルが驚いているうちにできることをする!

 

 わたしは足元を思いっきり蹴り、アサエルたちへ目一杯小石を吹っ飛ばした。

 

「うわっぷ! ラファエル、姑息な戦法を! もはや熾天使のプライドも失くしたか!」

「うるさいバーカ! バーカ!」

 

 姑息でも何とでも言うがいい! 石の多い河川敷というメリットを使っただけだ。

 ここに犬の糞の一つでも落ちていれば手でつかんで投げてやるところだがそう都合よく落ちてはいない。

 

 自分でも正直ちょっと変わったと思わなくもないが、それはVtuberでめちゃくちゃ恥をさらしているうちに吹っ切れたのかもしれないな。怪我の功名というやつだ。ガブリエルに少しは感謝しよう。

 

 そうしてからすかさずミカエルの方へ移動する。

 見るとさすがにミカエルも熾天使、あまり剣技が得意な方ではないのにも関わらず、剣だけでなんとか下級天使を近寄らせてはいない。

 

 わたしも下級天使を殴り倒しながら合流する。

 そんなわたしを見てすっかり怯えたような目をした少年を無理やり抱えこみ、飛び立つ。

 傍から見ればたぶんわたしの方が悪役にしか見えないだろうな。

 少年もそう思ったろうが今は誤解を解く暇はない。

 

 

「させるかッ! 追うぞ!」

 

 もちろんアサエルたちも追って飛び、たちまち空中でレースを展開する。上昇、下降、そして旋回だ。

 わたしが少年を運んでいる分飛行にかなりの不利といえるかもしれない。

 ただし元の馬力が違う。

 熾天使の六枚羽は伊達ではない!

 ほぼ同スピードになるが、そこでミカエルが身軽に飛び回り、適切な牽制をかけ続けたおかげで引き離すことができた。

 

 それでもアサエルたちが弓を使ったり剣を投げてきたりしたら大変にマズかっただろう。

 だが向こうはそこまでしてくることはなく、最終的に逃げ切れた。

 

「弓は使うな! あの少年に当たったらどうする」

 

 そんなアサエルの声が遠くから聞こえてくる。

 

 たぶん温情なのだろうな。

 この少年を我らに持っていかれるくらいなら弓で射た方がいいに違いない。しかしアサエルはそういうことを決してしない。そもそも少年を無理やり天界へ連れていくことが嫌だったのだろう。それがブレーキになっていわば見逃しの格好になったというわけだ。

 そういう奴なんだ。あいつは。

 

 

 

 わたしは河川敷から相当離れた空き地を見つけて着地した。

 少年は目を回してぐったりしているがそれは仕方ない。わたしもそこまで気を遣う余裕はなかった。しかし死んだわけではないので、ものの三分くらいで目を覚ましてきた。

 

「驚かせて済まなかったな。先ずは強引な手段をとったことを詫びよう。空中は怖かったのではないか。だがそれもこれも天界の者たちが君を拉致するのを阻止するためだったと理解してくれ。そして我ら二人のことだが……」

 

 ん?

 変だ。

 

 この少年は聞いちゃいない。というかこっちを見てもいない。

 なぜかミカエルの方ばかり向いて、瞬きもせず目を大きく開けているではないか!

 

「ミ、ミカミカだ…… 三次元で、おっきい。動いてる!」

「…………」

 

 なんだそれは。

 一瞬の間を置いて、ミカエルがニタっと笑う。

 わざとらしく薄灰紫の長い髪を手で上から下までふわりと広げたではないか。傾ける顔の角度もいかにもそれっぽい。

 おまけに足をそそそと動かし、いつのまにか少年から見たら斜め逆光の位置に回っている。

 ミカエル、何の演出のつもりだ。

 

「うちのこと見とってくれたん? 嬉しいわあ」

「うわ! エンジェルスってCGじゃなかったんだ! どうして!? 凄い!」

 

 おい少年。そこズレてるだろ。

 

 言葉から察するとエンジェルスのウォッチャーだったんだろうが、ありがたいけれどそこに感動している場合じゃない。

 本物だったら本物で問題があるとは考えないのか。

 羽があるとか空を飛んだとかツッコミどころが他にてんこ盛りだと思うぞ。

 まあ、あまりに非現実感があると脳がいったん逃避してしまうのは分かるんだが。

 

 

 

 

 

 

 ___ 僕の脳はキャパオーバーだ。

 

 最初に天使を見たことや、天界へ行くという話だけでいっぱいいっぱいになってしまった。本当のこととは思えない。

 

 そしてどう返事をすべきか考えている間もなく、あの河川敷へいきなり別の天使二人が入ってきた、いや乱入してきた。

 めちゃくちゃカッコよく剣で戦っていたようだが非現実過ぎてよく分からない。

 

 だが途中からアルティメットソードとかいかにも中二病が思いつきそうなことを叫び、木の枝を振り回すのは意味不明だ。

 

 これは重度の中二病患者の舞台劇なのか? そうなのか?

 そう思っていたらいきなり他の天使を殴りつけながら僕に突進してくるというバイオレンス劇になり、そしてとどめに空中飛行だ。

 はは、僕は何をどう考えたらいい?

 

 ただし良い意味で驚いたことがあった。

 ミカミカがいたんだ!

 画面のままの姿で目の前にいる。身長は僕のクラスの女子とあまり変わらず、髪は長く、本当に可愛い。それが目の前で動いている! この非現実だけはちょっと嬉しい。

 

 

 そのミカミカが僕にいくつか説明してくれた。

 ちなみにバイオレンス女剣士はVtuberで見た通りの仏頂面でミカミカに説明役を譲ったようだ。

 説明では、先に来た天使の一団が本当に天界なるところから来たもので、僕を拉致するためだったということを聞かせてくれた。

 神というものは個人の事情など考えもしないことも。

 自分たち二人はそれに対抗し、だから妨害にかかったことも。

 

 僕はそれに対して半信半疑でうなずくしかできない。

 理屈が通るといえば通るけど、本当かどうか確認のしようもないじゃないか。

 

 しかし説明が僕自身のことに差し掛かるとさすがに異議を唱えたくなる!

 

「そんでな、君には異能があると思うんや。せやからうちらがここに来た。あの連中と戦ったのはたまたまかちあったせいで、仕方ないことやった。逆に言えばあいつらまで君を狙ったいうことは異能を囲い込むためとしか考えられへん。間違いない」

「よ、よく分からないんだけど…… その異能って何……」

「異能は異能や。どんな法則にも縛られず、使える特別な力のことや。もっぺん言うけど君もそれを持っとる」

「そ、そんなものが僕に? まさか!」

 

 どんどん話が中二病になってきているぞ!

 そんなことがあるわけが無い!

 そういう「自分は他の人間とは違う」とか、「見えている現実は真実ではない」とか、中二病の人間の典型的な考え方じゃないか。僕は中二だけどその恐ろしい病気にかかっていない……はずだ。

 

 

「ふーん、そういうものが無いと思うてるんか? それも自分には。自覚がないだけやで。実はな、ちょっと思いついたことがあるよって、証明したるわ。暴炎熱威(ストームフレアー)!!」

「…………」

 

「やっぱりやな…… なんも出えへん」

 

 うわ、ミカミカも真正の中二病だった!

 さっきの乱闘騒ぎの時にも同じセリフを聞いたような気がするが、いかにもラノベにあるような魔法詠唱という奴を恥ずかしげもなくまた言ってのけた。

 でも別に何も起こらない。

 起こるわけが無い。

 むしろそれを聞いた女剣士が慌てたみたいだったけど、それだけのことだ。

 

 

 

「こっからな、少し離れるけどよく見とってんか」

 

 ミカミカは羽を一振りして、すっと浮かび上がった。

 スピードを上げて言葉通り離れていき、たちまち小さくなった。もう声は聞こえない距離だ。

 

 そして僕は驚いた!!

 小さいミカミカの周りにその数十倍もの大きさの火球が出現したのだ!

 きれいなオレンジの光、しかしそれはたぶん炎の熱によるものだ。

 

 たっぷり十秒ほどしてからミカミカは炎を消し、また僕のところへ戻ってきた。

 

「あれがうちの出した異能や。炎が分かったやろ。でもな、君が側におるとあれが出せへんのや。これはもう事実やで。つまり君は異能を出せないようにする異能を持っとるというこっちゃ」

「え、僕の異能って…… あるとしてもそんなものなの?」

 

 今のミカミカの話が仮に、本当に仮に真実だとしよう。

 凄く微妙だ!

 何て言うか、一番地味じゃないか! しかも使い道が見当たらないやつだ。

 ちょっとだけ期待してしまってたさっきの自分を殴ってやりたい。

 

「微妙やという顔しとるなあ…… でも、これは凄いんやで! ラファエルもそう思うやろ。うちら二人、さっきは無茶苦茶慌てたわ。あれほど慌てたこともないんちゃうか」

「ああ、ミカエル。少年のこの異能はまさに異能の天敵だ。思うにそういう性質の異能だから今まで自覚がなかったんだろう。周囲に異能者がいなければ悟られるはずがない」

「ほんまや。まあダダ漏れにされとるとうちらも困るんで、使い方も覚えてもらわなあかんけどな。しかし何でやろ。そういう異能を持ったんは。たまたまかいな?」

 

 

 実は僕に心当たりが全くないということはなかった。

 

 僕の親はサラリーマンだけど、その親、つまりおじいちゃんは神主なんだ。生きてる時にはその世界で凄い人だったらしい。もしかするとその道では結界みたいなものがあるのかもしれない。天使とは全然宗派が違うけど…… 

 とにかく僕がその血統であることだけは確実だ。

 

 

 

 

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