あの日見た黒を私は生涯忘れることはないだろう。
何もかも失った日だった。いつものように学校に行って、誰もいない家のドアを開けて晩御飯の用意をしながら父と姉の帰りを待つ。
いつもの日常がたった一本の電話で全て失われた。
「父が事故に巻き込まれた」と一言。震える姉の声が聞こえた。
何を言われたのか理解できないまま無我夢中で病院に足を走らせた。
そこにいたのは変わり果てた父の姿。
厳しくも男手一つで私たち姉妹を育て上げてくれた父。
涙もでなかった。ただ目の前の出来事が夢のようで。
自分たちを憐れむような視線が煩わしく現実から逃げ込むように勉強に夢中になった。
受験勉強・合気道・生徒会活動。どれも手を抜かずに常に1番をキープし続けた。
おかげで奨学金も苦労することなく都内の進学校に入学が決定した。
ここでなら両親がいないことを憐れむ人もいない。
思う存分自分の能力をいかすことができるはずだ。
そう思ったのに待ちわびていたのは私利私欲にまみれた大人たちに利用される毎日だった。
間違っていると思うのにうまく言葉にできない。
それに下手に歯向かって姉に迷惑がかかったら?
ただでさえ男社会の中女だてらにエリート検察官と呼ばれ忙しい毎日を送りさらに未成年の妹の世話役まで。
真もある程度自分の身の回りのことができるようになっていたとはいえ、周りの友達はまだまだ両親の脛をかじりながら気楽にすごしているのに自分ひとりで何もかもこなしてしまう。はたから見れば完璧に見える姉の冴だが、彼女はそうなったのは完璧でなくては生きていけない社会にいるからだった。
そんな姉にこれ以上負担をかけるような真似はしたくない。
ただ普通に生活しているだけでも生活費や学校の教材費で迷惑をかけてしまっているのだ。
その証拠にだんだん冴は真に八つ当たりすることが増えてきた。
今抱えている案件も非常に難しいようでいつも眉間にしわを寄せている。
最近真は姉にたいして「ごめんなさい」という言葉しかかけていないような気がしていた。
唯一血のつながった姉妹なのに生きているだけでだんだん溝があいてゆく。
どうにかしたいのにどうにもできない自分が悔しく情けなかった。
そして自分の周りにいる同級生たちが何も知らず無垢な笑顔で毎日を過ごしているのが妬ましく自分の中に黒い渦のようなものが湧いて出てくるような感覚を覚えた。
あなたたちも苦しめばいいのに。
無意識にそう思った自分に嫌気がさす。だけどそんなこと思ってはいけないと思えるほど真は余裕を持てなかったのだ。