私の黒   作:VETCH

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第2話

そんなある日だった。

 

調べ物をしている最中に見つけた「裏ネット」と名前のついた掲示板。

 

どうやらそこは学校の裏サイトらしく、生徒達が学校への不平不満を書き綴っているものから転入してきた生徒についての噂。

 

コメントを見ても目をふさぎたくなるような罵詈雑言ばかり。

 

ばかばかしいと思いながらもそのどれもから目が離せない自分がいた。

 

こんなところで他人をたたくなんて弱い人間のすることだ。

 

そうわかってはいるけど読み進めれば読み進めるほど自分の中の黒い渦が少し浮かば

れるような気がして恐る恐るスレットを立てた。

 

内容は「校長について」

 

 

 

 

 

名無しN:いつも偉そうに指示ばかり。ちゃんと仕事してるの?

ちょとな:実際仕事してるとこ見たことないよね。校長室に居座る豚。

なし:ちょとな>>ワロタ。 実際役立たずだよな

 

 

 

 

 

「役立たず・・・・」

 

もう数えきれないくらい傷ついた言葉なのに、それが校長に向けられたのだと思うと心が楽になったのがわかった。

 

ふと気が付くとどんどん掲示板にのめりこんでいた。

 

「自分はこの人間より優れている」そう思うことで現実逃避することができた。

 

表では優秀な生徒会長の仮面をかぶって、裏では学校関係者への愚痴や不満を掲示板に書き込む。

 

人は悪口が一番盛り上がるとはよくいったものでそういった書き込みにはコメントがよくついた。

 

ある時いつものように学校の不満を書き綴っていると見たことがない名前でコメントがついた。

 

 

 

 

 

あめさん:この状況を自分で変えようとは思わないのか?

 

 

 

 

 

こういった場所では大抵皆特定されることを嫌い、名無しにもじった名前を使うことが多い。意表をつかれたのはこの「あめさん」の名前のせいかそれとも。

 

「自分でこの状況を変えようと思わないのか?」

 

まるで弱い人間だといわれたみたいでひどく屈辱的だった。

 

そして何より悔しかったのはその通りだと自分自身が否定できなかったからだ。

 

いつの間にか自分が一番嫌いだといっていた人間に変わり果てた自分がひどく情けない。

 

だけど誰にも助けを求めることはできないのだ。

 

このことを知るのは真自身。ただ一人だけなのだから。

 

 

 

 

雨宮蓮。

 

 

 

彼の名前を見たとき「あめさん」を思い出した。

 

あの後あめさんはいい子ちゃんぶるなと叩かれあのコメント以降あめさんは掲示板に現れなかった。

 

けどあの時の言葉がひどく胸に刺さる。

 

「自分でこの状況を変えようとは思わないのか?」

 

ただの綺麗事だ。物語の正義のヒーローのようにあらがえば何とかなると思えるほど現実は甘くない。そう思うのにまるで心に小さな棘が刺さったようにたまに思い出してはちくりと心が痛んだ。

 

傷害事件をおこし保護観察処分をうけた転入生。

 

どこから情報がもれたかはわからないが彼はたちまち学校の有名人になった。

 

どうせろくでもない生徒に違いないと思っていたのに想像とは違い彼はごく普通の青年に見えた。

 

何より印象深かったのは吸い込まれてしまいそうなほど暗く深い漆黒の瞳。

 

それはどこまでも自由に美しく飛んでいける鴉のように誇り高く美しかった。

 

思わず自分の中にある薄汚い黒を覆い隠してしまいたくなるようなそんな美しさだ。

 

彼に近づくのは危険。無意識のうちにそう判断した私はなるべく彼から距離を置こうとした。けどそんな時に限って校長が私を呼び出し彼を監視するように言いつけるのだ。

 

全く、あの校長は本当に余計なことしか言わない。

 


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