こういう場所では正しくあろうとすればするほど叩かれる。
案の定蓮は匿名の人物から叩かれさらし者にされていた。
だが唯一掲示板の中で蓮を攻撃しなかったのが「名無しN」だった。
蓮の言葉がきいた、というのは少しうぬぼれすぎかと思うがそれ以降名無しNが異常なまでのとげとげしさを見せることはなくなった。
同時期に蓮は真が校長から呼び出されている姿を見かけた。
大人の欲を丸めてつぶしたような瞳の中に彼女が入っていくことがひどく不快に感じる。
余計なお世話だろうかと思ったが心配になった蓮はこっそり後をおいかけ、扉に耳を張り付けて彼女と校長の会話を聞いた。
声が遠く細かいところまでは聞き取れなかったがようは真に蓮の監視をするように頼んでいるらしい。
えらく嫌われたものだな、と呆れると同時に彼女が少し哀れに思えた。
ただでさえ受験勉強や生徒会活動で忙しいだろうに、教師の雑務や学校の問題の解決など全て彼女に押し付けている。
そろそろでてくる頃だろうと校長室から少し離れる。
校長室からでてきた彼女はこらえるように唇をかみ、今にも泣きそうだ。
しばらく遠くから眺めていると彼女は携帯をだし何か必死につづっている。
彼女が文字を打ち終えたと同時に裏ネットに新しいスレットが増えた。
それは彼女の心の悲鳴だった。
しばらくたった時、名無しNは再びスレットを立てた。
「あめさん」という人物を知らないかと。
助けをもとめられていると思った。
ここはおそらくこの人にとっての逃げ場。何かあった時に気持ちを整理するための。
表ではあんなに堂々としている風に見えるがそうじゃない。
強くならないといけない状況に周りが追い詰めているだけだ。
「心の怪盗団」を作り上げたのは半ば復讐のような気持ちだった。
かつて自分を貶めた大人に復讐してみせると。
だけど鴨志田を改心させたとき、杏や竜司のあの笑顔を見たとき違うと感じた。
心の怪盗団は人を救うために使うべきだと。
権力ばかりの大人に苦しめられている人々を助けるために。
ならば蓮は真を助けるべきだ。彼女のためではなく自分のために。
勿論自分が心の怪盗団張本人だという事は秘密で。
「…あきれたでしょう?あんなに偉そうに先生を叱っていたくせにね」
情けない。掲示板にさんざん悪口を書き込んだ後真はいつも自己嫌悪に陥っていた。
こんなことでしか気持ちを発散できない、自力で現状を変化させることもかなわない己の弱さが憎かった。
先生たちの間で怪しい取引があることも、生徒達が蓮について根も葉もない噂を流して楽しんでいることも気づいていた。
でも気づいたところでなんになる。
それをどうこうする力もすべも私はもっていないのに。
自分にできるのは「現状維持」。
よくなることもないがせめてこれ以上悪くなることがないように。
ふと、窓に映った自分の姿を見る。
どこか頼りないその顔は真を責めるときの姉とよく似ていた。
姉も、自分と同じように迷っているのかもしれない。
「数日間貴方を見てきたし、今日の出来事で貴方が皆が噂しているほど悪い人ではないということもわかった」
「それはありがたいです」
「貴方…怪盗団に関係しているの?」