「掲示板を見て私を改心する必要があると判断したから、貴方は私に近づいたの?」
「いいや。ただ貴方が助けを求めているように見えたから」
助けを求めているように見えた。
ただそれだけで人を本気で助けようとする人がどれくらいいるだろうか。
「困っている人がいるなら俺は助けたい」
『お父さんはね、困っている人を助ける仕事がしたいんだ』
彼の姿が一瞬父の姿と被った。
生前父はいつも人のためになる人であろうと努力した。
勿論全ての人を助けることなんてできなかっただろう。だけど父はいつだってその時できる最善をつくす努力をしてきた。
その姿に幼い真は憧れたのだ。
「心の怪盗団が俺に関係あったとしてどうするつもりですか?
警察に通報する?それとも誰か改心してほしい人が?」
「…わからない。貴方は噂ほど悪い人じゃないという事はわかる。
だけど怪盗団が正しいのかどうかまだわからない」
誰かを改心させる。
どうやって改心させるのかは謎だが安易に想像できるのは催眠術や洗脳、または脅迫だ。
鴨志田先生の時はそれが正義になったが、やはり人の心を操るという事が本当に正しいのかといわれると真は素直に頷けない。
改心させる必要があるとするならそれはそうしないと多くの人が犠牲になる時だ。
「貴方は怪盗団をどう思うの?」
「俺は怪盗団は正しいと思います」
「理由を聞いてもいいかしら」
「誰かがやらないと何も変わらない。
鴨志田先生の時も班目のときも多くの人が犠牲になり苦しんできた。
それなのに彼らのほうが評価される。そんなのは許せない。」
傷害事件を起こして学校を追い出されたとは思えないほど彼は正義感に溢れている。
自分でこの状況を変えようと思わないのかというのは彼が言った言葉だ。
彼は彼なりに自分の正しいと思うことを信じそして貫こうとしている。
何故彼はあんな問題を起こしたのだろう。
やむを得ない事情があったのか、それとも誰かの罪をかぶせられたか。
彼を多く知っているわけではないが、目の前にいる青年はとても誰かを理不尽に傷つけるような人には見えない。
彼をもっと知りたいと思うのは探求心かそれとも
「・・・わからないわ。ならどうして貴方はあんな事件をおこしたの?」
「俺は正しいと思う事をしただけだ」
「自分に非はなかったと?」
「わからない。だけど間違ったことはしていない」
細かい事情ははぐらかされたが、おそらくそれは私たちがあまり親しい間柄ではないから言いたくないといいったところか。
おそらく坂本竜司や高巻杏には話しているのだろう。
「私は怪盗団が本当に正しいのかわからない。
そもそも人の心を変える方法なんて洗脳や恐喝くらいしか思いつかないわ。
もしそれが怪盗団のやり口なら申し訳ないけど私はそれが正義だとは思えない」
「…」
「だけど、でももしそれ以外のいいやり方で誰かの心を変えることができるなら私も変えたいと思う」
見えない不安に怯え、己の弱さに打ちのめされるのはもうたくさんだ。
わかっているのに、なかなか抜け出せない自分がもどかしい。
この状況から抜け出せる可能性があるのならそれに縋りつきたいのだ。
「…なんて掲示板にあんなこと書いてたくせに説得力ないわよね」
「確かに褒められることじゃないと思います。
だけどあそこは居場所がなくて苦しんでいた貴方の唯一の心のよりどころだったんだと思う。それを否定するなんて俺にはできません。」
言葉を聞いた瞬間、こらえていた気持ちがあふれ出そうになった。
否定されると思っていた。
表では口先だけで正義を語り、裏では匿名の壁に隠れて人の悪口をつづる。
情けない奴だと罵倒されてもおかしくないと思っていた。
だけど彼はあの場所を私にとっての唯一の心のよりどころだったと言ってくれた。
誰にも言えなかったことを理解してくれる人間が一人いる。
そう思うだけで抱えていたものが少し軽くなった気がした。
「本当にどうしようもない人間は変わりたいとすら思わない。
むしろ自分が正しいとすら思ってる。そんな奴を変えるのが怪盗団です。
貴方や世間が怪盗団をどう考えているかはわからない。
だけど怪盗団は彼らが信じる正義を貫こうとしてる」
「彼らが信じる正義…」
真っ黒な瞳の中に私が映る。
どこまでも深いその色は全てを飲み込んでしまうようだ。
「貴方がもし俺を信じてくれるなら、貴方の目で確かめてほしい。
彼らが信じる正義が貴方にとって有益かどうか。」
「有益じゃないと判断した時は?」
「通報するなりなんなりしてくれていいです。ただしそれなりの対処はさせてもらいますが」
「どうしてそんなリスクをおかしてまで私に怪盗団の話をするの?」
「なんとなく。貴方は怪盗団にとって有益な人物だと思ったのと黒く染まった貴方はとても綺麗だと思ったから」
「は…?」
私の反応にくすりと彼が笑う。
「怪盗っていうのは夜、闇に紛れて活動するものでしょ。
だからもし貴方が怪盗団に協力するなら黒く染まるっていうのが適切かなって」
「意外と気障なこというのね」
「…少し臭かったかも」
「ええ。そうね」
自分で格好つけたくせに途中で恥ずかしくなったのか彼の頬は少し赤い。
だけど彼の黒く染まるという言葉は嫌いじゃなかった。
黒というのは何者にも染まらない。
故に恐れられ、また憧れるのも黒だ。
「でも本当に、そう思います」
そう言い残し、駅まで私を送り届けた彼は夜に消えていった。
「黒く染まる・・・か」
私も黒くなりたい。自分の弱さに負けない父のような強さを持ちたい。
私が惹かれた黒は今目の前にいる。
なら確かめないといけない。自分が憧れたものが本当に正しい正義なのか。
そして黒く染まる覚悟が自分にあるのかも
家に帰って、裏サイトのアカウントを削除した。弱い自分と決別するために。
そしてこれから私は自分の信じる正義を探しに行くのだ。
いつか胸を張って「困っている人を助けられる自分」になれるように。
大好きな姉とともに肩を並べて歩けるように、私は私の黒を貫き通す一歩を踏み出すのだった。
『戦う覚悟はできましたか?今日は偽りの自分からの卒業記念日です』
私の黒 完結しました。
読んでくださった皆様。本当にありがとうございます。