幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 苦し紛れの投稿を、お許し下さい。前回ifの続きになります。
 本編は来週必ず上げます!

 クオリティには目を瞑って……


志歩if「Drown in you」

 あの日から、私と湊にいの関係は変わってしまった。

 苦しい、と言ったら抱きしめてくれるようになった。

 辛い、と言ったら頭を撫でてくれるようになった。

 悲しい、と言ったら胸を貸してくれるようになった。

 

 

 変えてしまった。私が、変えてしまった。

 怖い、怖い、怖い。お姉ちゃんに知られていたら、と思うと私は怖い。ずっとずっと、私が避けてきたことを許してくれたお姉ちゃんが、許してくれないかもしれない。許されなくてもいいと思ったけど、それでも怖い。

 

 

 誰にも言えない歪な関係が、痛い。望んだはずなのに、抜け出したくないとわがままを言ったのに、痛い。

 全部全部自己満足で、私の勝手な独占欲のせいなのに。

 見えない。なにも、見えない。プロになる未来も、この関係のまま幸せになれる未来も。

 

 

 恋が、この想いが、吐き出して終わりじゃないなんて、聞いてないよ……。

 

 ◇

 

「志歩……そろそろ……」

 

「わかってる……ごめん」

 

「いや、いいよ。断らなかった、俺の所為なんだから」

 

 

 何度目か数えるのすら忘れたごめんが、口から出て、聞きなれた否定が耳に入る。本当に、湊にいは優し過ぎる。怒ってくれていいのに、叱ってくれていいのに、なにも言ってくれない。

 私を助けるために、なにも言わない。

 私を壊さないために、なにも言わない。

 優しい、優しいけど、刺されたみたいに心が痛い。

 段々、抱きしめられるだけじゃ満足できなってくる自分が、嫌で嫌でしょうがないんだ。

 

 

「下に行くけど……志歩は、どうする?」

 

「帰る」

 

「そっか。……ちゃんと、飯食えよ」

 

「…………うん」

 

 

 変わったのは私への態度だけじゃない。

 呼び方も、変わった。きっと、湊にいの中で、私はもう妹じゃない。だってそうだ、妹は兄を好きになったりしない。私たちの生きる世界はフィクションじゃないんだから。……お姉ちゃんも多分、こういう変化が怖かったのかな。

 

 

 そうやって、意味のない想像を膨らませて、私は湊にいの部屋から出て、階段を下りる。リビングに居るお姉ちゃんには、会わない。会いたくない。合わせる顔もない──なのに、嫌われたくないと思ってしまう。

 恥ずかしくて嫌だったお姉ちゃんからのハグが、恋しい。

 

 

 掛け違えたボタンがズレるように、私と二人の関係が拗れていく。

 

 

「……じゃあ、また明日」

 

「あぁ、また明日」

 

 

 泡沫の夢を見せるぬるま湯は、まだ冷めてくれない。

 また明日が、終わってくれない。

 私は最低だ。こんな時間に幸せを感じる私なんて、最低だ。好きになんて、ならなければ(なれて)よかった。

 

 ◇

 

 なんとなくもうすぐかな。なんて考えていた、終わりの時は。お姉ちゃんからのメッセージで知らされた。

 

 

『大切なお話があります』

 

 

 いつもなら、もっと絵文字とか、長文で送ってくるお姉ちゃんから送られてきたシンプルで短い文章。察しは簡単についた。ようやく、終わるんだって。

 少しだけ、開放された気分になれた。

 楽になれる。もう、捨てられる悪夢で魘されることはない。

 何故なら、今日それが現実になるんだから。夢での出来事に苦しめられるなんて、起きっこない。

 

 

 あぁ、でも、嫌だな。

 嫌われるのは、嫌だ。

 

 

「……入るね、お姉ちゃん」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 

 優しい声が、震えて聞こえたのは、気の所為だ。

 怒ってるから震えてるんだ。

 自分を殺せ。最低な妹を演じろ。幸せになれるかもなんて夢を見るな。罰を、大人しく受けろ。それが、ケジメだ。

 

 

 そう言い聞かせて、私はお姉ちゃんの部屋に入った。中に居たのは、勿論お姉ちゃんと、湊にい。

 

 

「……なんで呼んだか、しぃちゃんはわかってる?」

 

「わかってるよ。私がお姉ちゃんの湊にいを奪おうとしたからでしょ? 最初からハッキリ言ってよ、勘違いするからさ」

 

「そう……なら、いいわ」

 

 

 いい? 

 なにがいいの? 

 私がやったことを許すの? 

 意味がわからない。意味を理解できない。

 許す理由なんてないのに、なんで──

 

 

「……ぇ」

 

「ごめんね、しぃちゃん。……ずっと、苦しかったわよね。本当に、ごめんね」

 

 

 お姉ちゃんが、私を抱きしめて、謝ってる。

 なんで? 

 なんで、謝ってるの? 

 違う、違うでしょ。私が謝るべきでしょ。

 どうして……なんで……お姉ちゃんが、謝ってるの? 

 

 

 縁を切られて当然のことをした。手を上げられて当然のことをした。実の姉妹だからこそ、許されないことをしたのに。抱きしめられてるのは、なんで? 

 

 

「おねえ……ちゃん?」

 

「ごめんね。私、しぃちゃんの気持ち、全然わからなかった。ずっと苦しかったんだよね? みぃちゃんから聞いたわ」

 

「で、でも……お姉ちゃんが謝る必要なんて……!」

 

「妹を幸せにするのは、姉である私の役目でもあるわ!」

 

 

 もう……なんでかな。

 なんで、そんなに優しくしてくれるのかな。

 わからなくなっちゃうよ。泣いて全部なかったことにしたくなっちゃうよ。

 怒られて、殴られて、縁だって切られていいと思ってたのに。全部なかったことにして、全部見ないふりをして、幸せになりたくなっちゃう。

 

 

 ダメなのに。いけないのに。

 涙が、溢れてくる。

 ポタポタと、流れて落ちていく。

 

 

「ごめん……ごめんなさい……!」

 

 

 苦しいよ、辛いよ、痛いよ。

 けど、嬉しい。温かくて、ぬるま湯より心地いい。

 罰がなくても、罪だけでも背負って、歩こう

 

 

 恋に気付けて、本当によかった。




 次回もお楽しみに!

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