アンケートで取ってた記念短編をようやく投稿出来ました、はい。
いや、まぁアンケートの結果と内容を考慮して温泉回になりましたが、お許しください。
明後日の投稿も問題なくするつもりですので心配なく、楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは、本編をどうぞ!
p.s.
ビルゲンワース学徒さん、並びにT-AIさん☆9評価ありがとうございます!
紅葉も落ち、枯れ木が目立ち始めた冬の週末。
湊を含めた『MORE MORE JUMP!』の面々は、彼が昔からお世話になっている温泉旅館に一泊二日の合宿にやってきていた。
時代を感じさせる古めかしい作りと、それを古臭いだけで片付けさせない趣のある旅館。元アイドルの三人もみのりも、今まで来たことのない雰囲気の建物に圧倒されていると、その内に話を済ませて来たのか、受付から湊が戻ってきた。
「取り敢えずチェックインは済んだから、さっさと荷物置いてレッスンに入るぞ」
「……ねぇ、湊? 昔お世話になった温泉旅館とは聞いてたけど、ここってどういう所なの?」
「あぁ、父さんたちが缶詰するのに使ってたんだよ。近くにハイキング用の山と、市営の体育館で気分転換もできるし。都会と言うよりは田舎寄りだから、コンビニはあれど、娯楽施設はないんで丁度いいんだよ」
「へぇ……そうなんですね。じゃあ、今でも使ってるんですか?」
「さぁ? 最近はアトリエに篭もりっぱなしだし。息抜き程度には来てるんじゃない?」
どこか流すように遥の質問に答えると、湊は愛莉に部屋の鍵を渡して、スタスタと先に廊下を歩いていく。この旅館では用がない限り、仲居さんが部屋につくことはない。そもそも、泊まる人たちが泊まる人たちで、集中する空間を求めてここにやってくるからだ。
探そうと思えば、そこらの部屋には締切に追われる人気小説家や漫画家、果ては作曲家なんてのもいたりする。
食事も、湊たち客側が時間を指定して届けてもらうシステムのため、時間や人の気配を一々気にする必要がない。だからこそ、この宿「
会員でなければ予約が取れず、そもそも会員になる情報もどこに置かれているかもわからない秘境の地と言っても過言ではないのだ。
「一応、俺の部屋はお前たちの反対側にあるこっちだから、なんかあったら言ってくれ。予定としては、着替えて十分後にロビーに集合。午前中は山を使った体力トレーニング。午後は予約してた体育館でダンスと歌のレッスン……ってな感じだ」
「はいはい、湊くん!」
「どうした、みのり?」
「午後のレッスンが終わったら自由時間ってことなんでしょうか!」
「……一応な。ハメを外しすぎないように注意してくれれば、何しても文句は言わないよ。明日は観光して帰る予定だし、程々にな」
「やったぁ!」
「ふふっ。良かったわね、みのりちゃん」
嬉しそうに笑うみのりと微笑む雫を、湊は少しの間優しく見守り、そっと背中を向けた。今日と明日の合宿のために綿密なスケジュールを立て、全員の両親にも話をつけてきた彼としては、怪我や事件は許されない。
合宿の目的も半分は、アイドルになることを選んだ彼女たちに、少しでも青春の時間を提供するためなのだ。
「しっかりやらないと」
四人が泊まる広い部屋とは違い、こじんまりとした和室の部屋。少し寂しさのある部屋に、湊の覚悟が漏れた。
◇
終わった。
懸念していた怪我や事件が起きることなく、一日目の練習は無事に終わった。それはもうあっさりと、呆気なく終わった。
一名、体力不足でヒーコラ言っているみのりが居たが、問題が起きることはなく平和に時間が過ぎて、工程を終えたのだ。
「20時にお前たちの部屋で飯だから、それまでは自由にしてていいぞ。お土産コーナーでお土産を選んでもいいし、体を動かし足りないなら卓球台もあるからな。温泉は部屋に付いてる小さいやつと、大浴場があるから好きな方で。のぼせないように、ゆっくり体を休めてくれ。以上」
『はーい!』
アイドルと言っても、普通の少女の一面を併せ持つ彼女たちは、学生らしくこの後どうするかの楽しそうに話しながら部屋に消えていく。湊も汗をかいた体をさっさと流すため、タオルと下着を持って大浴場に向かった。
途中出会う人たちの大半は目が死んでいたり、顔色が白かったりと、死人一歩手前の状態ばかりで、会釈すらせず通り過ぎていく。
関わり過ぎない距離感が彼としては心地好く、軽くなった足取りで、歩き続ける。
脱衣所自体もシンプルな作りで、丸太をそのまま加工したような椅子と、所々にひびがありながらも、それを味として昇華させるテーブル。壁際には、ロッカーとそこに置かれた浴衣の入った籠。奥にはオマケ代わりの自販機が設置されており、懐かしい瓶の牛乳が並んでいる。
(あがったら飲むのも、悪くないな)
明日の観光のことを考えつつも、リラックスモードに移行した湊の脳は風呂上がりの一杯をぼーっと浮かべて、服を脱ぎ大浴場の戸を開いた。
彼の視界に広がったのは、岩で囲まれた湯気の出る温泉と、澄んだ星空にまん丸の月。この旅館の売りである露天風呂は景色は勿論、肩こりや美肌効果もあるらしい。
運がいいのか、一人も客が居ない時間に入ることのできた湊は、ゆっくりと湯に浸かれるよう、素早く丁寧に汗を流し、体と髪を洗う。
木の板の仕切りで隔たれた向こう側──女湯から、聞きなれた声がしてきたことを鑑みるに、雫も先に温泉に来たらしい。
騒がしくない、凛とした透き通る声はよく響き、彼のいる男湯にも届く。
(……他に声もしないし、一人で来たのか)
一人をあまり好まない彼女が、露天風呂というみんなで楽しめる空間に一人で来るなんて珍しい。呑気にそんなことを思いながらも、湊はそそくさと泡を流し、独り湯に浸かる。
ハードだった一日の疲れも、温かい湯が解して溶かしていく。
空っぽにした脳の赴くままに、大きく息をして、ゆったりと体を癒す。
輝く星と、月明かりを見上げて、湊は笑みを零す。
きっと、隣の湯でも彼女が──雫が同じ景色を見上げてるのではないかと思うと、無性に嬉しくなって胸がポカポカして、自然と笑みが零れてしまう。
「月が綺麗ですね」
「えぇ……死んでもいいわ」
なんとなく漏れた一言も、届いたから返ってきた言葉も、温かさで満ちていて。温泉だから温かいんじゃないと言われているようで、湊はのぼせるまで浸かり続けた。
◇
自分で言っておいて堂々とのぼせて、その後に回収された湊を、雫は彼の個室で涼ませていた。膝枕をしながら、センスを仰ぐ姿は絵になるが、湊からしたら申し訳なさでいっぱいいっぱいなので、冗談を言う余裕もない。
しかし、何度彼が謝ろうと、雫は受け取ろうとせず、優しく大丈夫と言い続けた。
死んでもいいわ。その言葉に諸説はあるが、雫からしたら本心そのものである。想い合って、もし結ばれたなら、死んだっていいと彼女は言ってのける。
歪んだ感情ではない。
ひねくれた想いでもない。
純粋に、一途に、雫は湊を愛している。彼に恋をしている。
今、この瞬間。
二人だけでいられる、それだけでも幸せを感じている。
本当に何気ない日常に、雫は幸せを見いだしている。
「体の方はまだ熱い?」
「まだな。でも、楽になってきたよ。ありがと」
「どういたしまして」
「…………」
「…………」
見つめ合う二人。
互いから漏れる、普段とは違う同じ香り。シャンプーの香り。湊はそっと腕を上げて、手の平で雫の頬を撫でた。柔らかくて、スベスベで、お風呂上がりだからかほんのり温かい。
伝わる体温一つとっても愛おしくて、胸が苦しい。
冷めない想いは何年続くのか。
終わらない恋なんてあるのか。
偶にそんなことを湊は考える。現状が奇跡的で、今の関係が最高で、終わって欲しくないと思う。未来も今も大切で、どっちかなんてもう、選べなくなってしまった。
これ以上があるのを知っていて、進め方もわかっていて、それでも行けない。
タブーを破ることになる。既に破っているのに、それでも縋り続けているのは、彼女のアイドルとしての道を閉ざしたくないから。
なんていう、湊のわがままだ。
「眩しいままでいて欲しいなんて、ズルいよな」
「あら? 私はみぃちゃんとなら、堕ちても構わないわよ?」
「……冗談でも、言わないでくれ」
「冗談なんかじゃないわ──半分は」
仲間がいる。
だからこそ、まだ堕ちるなんてできない。
このぬるま湯に浸かり続けることしかできない。
けれど、それすらもいつか消える灯火だ。
だから、二人は継ぎ足すように唇を重ねる。ぬるま湯に水を足し続ける。未だ熱い恋が冷めるまで。
マシュマロ URL↓
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次回もお楽しみに!
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