アンケートがなかったのは……まぁ……忘れてたからですね。いや、ほんと、まさか、そんなポンポコ1万UA増えると思ってなかったんですよ……
すみません。
今回は四コマなしの、ただの日常回です。
そして、多分最初で最後の普通のデート回……かも?
それでは、本編をお楽しみに!
時計の針が十二時を回り、月明かりが淡く夜を照らす頃、湊は眠気を堪えながらパソコンに向かい、来週のレッスンメニューやスケジュールを組んでいた。ようやく配信も軌道に乗り、再生回数も安定して伸びている。そんな時期に手を抜くわけにはいかない。
配信で使う継続企画の準備や新しい企画の立案、その他諸々の仕事を湊は任されている。他のメンバーに手伝ってもらうのは、精々企画の立案や台本にカンペの作成程度のもの。
それだって、湊が通しで書いたものを経験の長い遥や愛莉が修正し、みのりや雫がアイデアを足す、なんてところ。デザインの勉強をするのはそのあとになるため、酷い時の彼の睡眠時間は四時間を切る。
雫のサポートをしていた時から荒れた生活をしていた湊だが、最近は人数ややることが増えた分、更に荒くなっていた。
勿論、そんな彼の状態に隣を歩く雫が気付かないわけもなく、そっと支えるのが日常の一部になっていた。
「みぃちゃん。はい、ココア」
「……俺、コーヒーって言ったんだけど」
「だーめ。最近働き詰めなんだから、偶にはゆっくり休まないと」
「それは、わかってるけど……」
後ろから優しく抱きしめて、横で微笑む彼女に、湊も反論を言い淀む。言わせないやり方を、反論の余地を与えない動きを雫は知っている。しかし、何故彼女がそこまでやるかと言われたら、純粋に体調を心配してるだけではない。
足りない。
圧倒的に足りてないのだ。
触れ合う時間が。
気を使って、集中を邪魔しないように雫が動けば、仕事をしている湊との触れ合う時間は自然と減る。自分たちのためにがんばってくれてるのはわかる。それだけ本気だということも知っている。けれど、雫だって歳頃の少女だ。好きな人と触れ合いたい、一緒に居たいと思うのはなんら不自然ではない。むしろ、至って正常だ。
だからこそ、彼女はこうやって湊の退路を断つ。そして、わがままを囁く。
「ねぇねぇみぃちゃん? 明日──あぁ、もう今日になっちゃったけど。お休みなんだし、偶にはお仕事を忘れてお出かけしない?」
「いや、行きたいのは山々だけど。変装とか下調べとか、色々面倒だろ? なら、普通に家でゆっくりした方が……」
「ふふっ、安心して♪ 遥ちゃんに穴場の水族館を教えて貰ったの! そこなら、人もあんまり多くないし、変装も軽くで済みそうだって!」
目をキラキラと輝かせながら、雫は久しぶりのデートに湊を誘う。いつもと同じく、この時点で、彼の中からは断る選択肢が消えて、呆れ混じりの笑みが零れる。
本当にズルいなぁ、と湊は一人心の中で愚痴り、作業を保存しパソコンの電源を落として、昨日からの預かり物を雫に渡した。紙袋に入れられたそれは、彼の母親である友香が趣味で作った新しい服。上から下までを合わせれば、諭吉が揃って財布から飛んでいく一着だ。
「あー……母さんから、また試着して欲しいって言われてたやつ。良かったら、出かける時にでも着てみて、感想を聞かせてってさ」
「まぁ、おば様からなんて嬉しいわ!」
「もしいいなら、デートの時に見せてくれ。雫が着たらどうなるのか、俺も見てみたいから」
「……みぃちゃんは中身、見たの?」
「ううん、見てないよ。でも、母さんのことだから、色んなことを見透かして、軽い変装をしても違和感がないやつだと思う。明日は冷えるし、マフラーとかメガネとか、帽子なんかで隠せばバレにくいだろ。そこら辺は任せるよ。なんかあったら言ってくれ、手伝うから」
「えぇ、ありがとう、みぃちゃん」
紙袋を抱きしめて微笑む雫を見て、湊は少しだけ、ほんの少しだけ自分の母に妬いてしまった。
◇
案の定と言うべきか、何もしてなくてもオーラを溢れさせる雫を連れ出すのは困難を極めた。バイクでの移動は髪のセットを崩すためNG。電車やバスなどの公共交通機関も自分がいるためNG。
最終的にタクシーを呼んで無理矢理解決したが、先が思いやられる開始になった……が、館内に入ってしまえばその不安は薄れた。
水槽にいる魚たちを美しく魅せるための薄暗い明かりや落ち着いた雰囲気。これで、客も多くないんだから、遥がおすすめする理由も頷ける。
もっとも、そんな場所に来ても、湊が見つめるのは雫なのだが。
(……ほんと、綺麗だな)
お節介にも、友香から送られた新作は、今の湊では到底作れない代物。雫の容姿を活かしつつ、防寒具と合わせても色褪せない存在感。どんな服でも、雫ほどの人間が着れば、服に着られている感覚なんて微塵もなく、逆に服を喰ってしまうのだが、今着ているこれは違う。
服と、それを着る人間の完全な調和。
お互いが主張しあって喧嘩してもいいのに、それが起きない絶妙なラインを突いた傑作。
こんな服を作りたいという気持ちと、自分の方がもっといい物を作れるはずなのにという気持ちが同時に湧いて、それを雫の横顔の美しさが溶かしていく。
珍しい魚や、不思議な海の生き物に驚き、コロコロと表情を変えて楽しむ彼女を見て、湊の中の対抗心や嫉妬心は消えて、温かい感情が心に満ちていく。
どこにでもいる普通の恋人のように人前で手を繋いで、少し腕を組んで、本当の意味で立場を忘れて楽しんだ。併設されたレストランで食事をして、ペンギンと触れ合って、イルカのショーを見て、幸せなひと時を過ごした。
「……そろそろいい時間だな」
「クラゲさん、かわいかったわ〜♪」
「だな。生で見ると、遥がペンギン好きになる理由もわかるかも。楽しかったよ、今日は」
「じゃあ、あとは夜ご飯でも食べて──っ!」
「雫!?」
一瞬の不調を湊は見逃さず、すぐに隣にいた彼女の体を支える。右足を庇うような歩き方から察するに、捻ったか靴擦れでも起こしてしまったのだろう。兎も角、これ以上刺激を与えないよう、ゆっくりと歩いて彼は近くのベンチに雫を座らせた。
新しい靴なのはわかっていたが、長時間履くのには雫の足に適していなかったらしく、靴擦れ防止のテープでも抑えられず、肌色のストッキングにも薄く赤い血が滲んでいる。
雫が、心配しないよう気遣って痛みに耐えてたのかもしれないと思うと、湊は気付けなかった自分に怒りを覚える。でも、それ以上にそこまでしてくれる彼女のことが愛おしくて、額にそっと唇を当てた。
「み、みぃちゃん!?」
「ほら、帰るぞ。タクシー呼べるとこまでおぶってくから」
「……ごめんなさい。折角、最後まで楽しめるはずだったのに」
「いいよ。気遣って貰えただけでも嬉しかった。それに──」
「それに……?」
「色んな雫の表情が見れてよかった。また、明日からがんばれる」
「バカ」
小さくそう言った彼女の言葉を、湊は聞こえないふりでやり過ごし、水族館を去っていく。夜空に煌めく星と、浮かぶ月を二人眺めながら、ポツポツと他愛ない話をして普段と変わらない時間に戻っていく。
偶のデートも悪くないが、湊と雫にとって一番落ち着ける時間は、本当になんでもない時を二人で共に過ごすこと。
温かい背中の上で、雫は改めてそれを認識して。彼女をおぶる湊も、その重さと温かさに、改めて自覚する。
色々な感情をぶつけ合って尚傍にいられるのは、一重に相手を想っているから。
抱えきれない重荷も、遥か先にある夢も、一人ではなく二人なら、きっと届く。
「夜はうどんにするか。付け合せのお新香とかおかずとか、まだあっただろ」
「鍋焼きうどんにしましょう! 二人で突きながら食べるの♪」
「はいはい、わかりましたよ、お姫様」
時が過ぎて移ろい、変わっていくものの中で、二人は激動のない波穏やかな日常を愛していた。寄り添い、励まし合い、支え合い、愛し合う。そんな、どこにでもあって、自分たちにしか作れない平々凡々な日常を、愛していた。
マシュマロ URL↓
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