これからもよろしく!!!!!!!!!
……てなわけで、去年は物理的にできなかった雫の誕生日回です。
一人称です。いつもとよろしく、ノリと勢いのお話です。頭を空っぽにして楽しんでください!
伏線なんてもんはねぇよ!!!
みぃちゃんの違和感に気付いのは、年の瀬も迫る十二月に入ってからだった。私のことを避けるように、一人で部屋に籠って作業をするし、ご飯に呼びに行ったら何かを隠すように慌ててドタドタと物音を立てる。
浮気なんて微塵も疑ってない。
彼の優先順位の一位に私がいることは、わかりきっている。
それでも気になるし、不安になるのが乙女の恋心という厄介なもの。まるで物語の中のヒロインのように、私はみぃちゃんの一言に感情を揺さぶられ、表情をコロコロと変えていく。
手を繋いで伝わる温度が、肩を触れ合わせて感じる重さが、唇を重ねてわかる味が、思考を溶かす。
恋は麻薬。ある小説に書いてあったのは本当で。くっついて、離れてを繰り返す度に愛おしくなり、苦しくなる。
唯一絶対がこの世に存在するなら、たった一つ。みぃちゃんは、私が幸せなれないことをやらない。今の状態は、言わば幸せになる前段階。空腹が、食事に対する最高のスパイスになるのと同じ。ちょっとしたアクセントだ。
あぁ、でも、寂しいものは寂しい。
だから、最近はいつも、強く彼を抱き締めて瞼を閉じる。少しでも長く、愛する人を感じられるように。
◇
いくら、雫のためとはいえ、寂しい思いをさせてる自覚はあった。
明日に迫った、彼女の誕生日。配信や家族との時間があるから、俺と過ごすのは明日の朝まで。限られた時間の中で、雫にできるだけ笑顔になって欲しくて、幸せを感じて欲しくて、スケジュールを調整し綿密な計画を立てた。
他の作業もあって、少々──いや、大分時間にロスが出たが、なんとかプレゼントである手編みのマフラーも完成した。久しぶりだったこともあり、完璧ではなく少しだけ不格好だが、想いも一緒に編み込めたと思ってる。
あとは、愛莉やみのり、遥たちがショッピングで時間を稼いでる間に、料理の準備を進めるだけだ。
「ケーキは既製品になっちゃったし……料理はがんばらないとな」
そう、一人だけのキッチンで呟いて、雫が好きな湯葉とうどんが食べられるように調理をしていく。彼女はよく、俺の料理は優しい味がすると言うが、実際のところはどうなのだろうか。
濃すぎず、かといって薄過ぎず、そんな絶妙なラインが雫の舌の好みに合っているのか、合っていないのか本当はあまりわからない。
俺が出した料理を、彼女は決まって美味しいと言って、ほわほわと微笑みながら食べている。不味くはない、と思う。そういう嘘やお世辞は、素の雫には難しい。
だとしても、できるなら、現状出せる最善最高の料理で誕生日を祝ってあげたいんだ。
「……にしても、湯葉とうどんって食い合わせ微妙だよな。う〜ん……まぁ、なるようになるか」
無駄な思考は理解の外へ。
今必要なのは、雫を喜ばせる最大限のもてなしなのだから。
◇
みんなに誘われて行ったショッピングからの帰り道。みぃちゃんこそいなかったが、明日のお誕生日配信の打ち合わせや準備は諸々片がついて、あとの予定もなかったから楽しんだけど、どうやら気を遣われていたらしい。
なんとなくの違和感で話を聞けば、最近は忙しくてしっかりと相手をしてあげられなかったから、遊びにでも誘ってやって欲しいと彼から頼まれていたとのこと。
嬉しいと思うと同時に、ちょっと、ほんのちょっとだけズルいなぁと思った。
色んなことを乗り越えて強くなって、前よりも鋭くなって、私のことなんてお見通し。私もみぃちゃんのことならなんでもわかるつもりだけど、やっぱり敵わない。
支えて、支えられての関係は、崩れそうで崩れなさそうな境界線でゆらゆら揺れて、私たちはゆっくり隣を歩いてるようで、追って、追いあってを続けてる。どっちかが成長したら、もう片方も成長して、追いかけてくるのを待っている。
偶に並んで歩いたら、また走って。
変わらない、変われない──変わりたくない。
なんて、わがままを言う。
きっとでも、最後は歩調を合わせて、未来に向かっていく。今はまだ、私もみぃちゃんも成長し続けてるだけだから。
「ふふっ♪ お返しはどうしようかしら」
構ってもらえなかった分はツケ。代わりなんていらないから、お返しでもしよう。そうやって、彼にするいじわるを考えていると、いつの間にか家に着いていた。
「ただいま〜!」
聞き慣れた声は返ってこず、ただただ静寂が辺りを包む。
恐る恐る廊下を歩いて、明かりがついたリビングに入ると、そこにはいつもより柔らかい笑みを浮かべたみぃちゃんが居て、落ち着いた声音で私を出迎えた。
「お帰り、雫」
「えっと、ただいま?」
「よかったよ。丁度、料理ができたところなんだ。すぐテーブルに持ってくから、座っててくれ」
「わ、わかったわ」
なんだか雰囲気の違うみぃちゃんの勢いに押され、私はカバンをソファに置いて、椅子に座る。数分もしない内に、テーブルは料理で埋め尽くされていく。焼きうどんに、刺身湯葉、きんぴらごぼうにたくあん、最後にお味噌汁。
どれもこれも、私が好きなものばかり。
バランスなんて考えてない、子供のような献立が妙に嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。彼もそれに気付いたのか、嬉しそうに顔を綻ばせて、食べるように促してくる。
食べ始めれば、口に広がるのは幸せの味で、並べられた料理一つ一つが丁寧に作られたことがわかった。私が食べやすいように少し薄められた味付けも完璧で、胸が温かさで満ちていく。
「美味しい! 美味しいわ! みぃちゃん!」
「そりゃよかった」
ふにゃふにゃとしそうになる顔を抑えてるのか、彼はぶっきらぼうにそう言って、自分の箸を進める。本当に、デザートのケーキも含めて、最高の夕食だった。
食べ終わったあとは、二人で観ようと言っていたレンタルの映画を、ソファでくつろぎながら観て、恥ずかしがるみぃちゃんを押し切ってお風呂にも入った。
明日もあるというのに、私は時間を忘れて彼との時間を満喫した。
多分、底を尽きかけていたみぃちゃん成分を補填したかったんだと思う。そうに違いない。誰に届くわけもない、不思議な言い訳を重ねて、寄りかかる。
今日は私が産まれた日じゃない。
その一日前だ。
だと言うのに、みぃちゃんは──私の湊は、誰よりも早く祝うために。誰よりも近くで祝うために、隣にいてくれる。
改めて、彼に出逢えたことを感謝した。
「みぃちゃん」
「ん?」
「ありがとう。私、今、きっと世界で一番幸せだわ」
「なら、俺も世界で一番幸せだよ」
月並みな言葉しか出てこないが、本気でそう思ったから、口から漏れた。
時計の針が十二時を指す数秒前。最後の仕上げをするように、みぃちゃんはそっと私の目を手で塞いで、首にモコモコとした温かい物を巻いた。
それがなにかなんて聞かなくてもわかって、感覚に任せて唇を運んだ。何度目か数えるのをやめてしまった口付けは、蕩けるくらい甘い味がして、クラクラする。
人が作った物差しじゃ測れない想いが体を駆け巡り溢れ出す。
「ちゃんと言わせてくれよ……」
「もう十分もらったから、いいと思って。嫌だった?」
「嫌じゃないけど、言いたいんだよ。しっかり言葉にしたいんだ」
「そう。なら、言ってよ、みぃちゃん」
「……もう。──誕生日おめでとう雫。君が産まれてきてよかった。君に出逢えてよかった。大好きだ」
「私も、大好き!」
恋人になって初めての誕生日。
私たちはまた一歩、前へと進んだ。
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