幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 お待たせしました。課題に忙殺されて投稿をできなかった私こと、しぃです。
 いや、ほんと、辛い。
 Twitter見てる方はわかるかもですけど、課題でちょこちょこ頑張ってて、こっちは無理でした……すみません……

 年内は本編投稿よりお茶濁し短編か、記念話になると思いますので、よろしくお願い致します。それでは、ごゆっくり楽しんでいってください!


ただ、君が隣にいるだけで

「三十八度五分……完全に風邪ね。学校の方には連絡してあるから、みぃちゃんはお布団から出ちゃダメよ?」

 

「わかってる……ゴホゴホッ!」

 

「……無理しないでって、いつも言ってるのに」

 

「それは、ごめん」

 

 

 前略、仕事のし過ぎで疲労した湊が風邪を引いた。最近は毎日夜遅くまでパソコンに向かい合っていたから、その影響もあるのだろう。頬を熱で赤く染めて、息苦しそうに時たま咳をする。

 この状況でいい事があるとすれば、大人しく、素直になった湊の姿が見れることだろうが、雫はそれ以上に彼の体調を心配して休みを取り、家に残った。

 

 

 乾燥する時期、インフルの流行に被っていることもあり、そういう意味でも心配だが雫の移動手段は限られてる。タクシーでも呼べば解決するが、アイドルである以上、目立つのは御法度。こんなことで、自分たちの生活を害されたくない気持ちが少しだけあって。助けたい、癒してあげたい、そんな思いとぶつかり合う。

 

 

(……ううん、今はやれることをやらないと。暖房はついてるからいいとして、まずは、濡れタオルと加湿器。朝ご飯も食べてないからヨーグルトとか、色々準備しなくちゃ!)

 

 

 今できる最善を模索し、母が自分にやってくれたように、自分が志歩にしてあげたように、湊を看病する環境を整える。掃除や洗濯は後回しで、さっさと仕事を進めて、彼の部屋に戻る。

 熱の所為でぼーっとしているのか、ふわふわした様子で天井を見つめる湊を尻目に、雫はベッドの近くに加湿器をセットし、テーブルの上に輪切りにしたバナナを入れたヨーグルトの容器を置き、濡れタオルを彼のおでこに広げた。

 

 

 ひんやりとした冷たさが気持ちよかったのか、幾分か表情が和らいだのを見て、雫は声をかける。

 

 

「みぃちゃん、お待たせ。お腹は減ってるかしら? ヨーグルトを持ってきたけど、食べられる?」

 

「あぁ、食べたい」

 

 

 短くもそう答えた湊に応えるように、雫は彼の頭の下に敷かれている枕とクッションを重ねて背中に入れ、無理のないように少しだけ体を起こさせて、食べやすい姿勢を取らせる。

 その後は、慣れたような手運びで、湊の口にスプーンを持っていく。幼い子供のように、甘いヨーグルトとバナナを食べては笑みを零す彼を見て、心を揺さぶられたのは雫だけの秘密である。

 

 ◇

 

 その後、もきゅもきゅと時間をかけてヨーグルトを食べ終わる頃にはお腹が膨れたのか、湊の瞼は自然と閉じていき、眠りに就いた。すやすやと可愛らしい寝息を立てて眠る姿は、いつもの彼とは正反対でそれを今、自分だけが知っていると思うと、雫の心はポカポカとした気分になり、家事はスムーズにいった。

 

 

 一通り洗濯や掃除が終わると、温くなった濡れタオルを交換に行き、そのまま彼の様子を見ながら短歌集を眺める。恋の歌が自然と目に入った。いつの時代も想いの籠った言葉には魂が宿っていると、雫は考える。

 例え、悲恋だとしても、恋に意味がないなんてありえはしない。

 苦しくても、悲しくても。淡く揺らいでしまう、儚いものでも。芽生えた尊き感情は、誰にも穢すことはできない。していいはずがない。

 

 

 悩み、苦しんだ決断の果てにあるのが後悔なんて、嫌じゃないか。

 湊と愛し合う度に、過去の行動を振り返り、雫はこれでよかったんだと自分の心に刻みつける。傷付いて、傷付けあって、今がある。迷惑をかけてる自信はあるが、こうやって癒せている自信もある。

 

 

 未来で彼の隣に立つのが自分以外なんて、もう描けなくなって、溺れてるんだなと自覚しても、これでいいんだって納得した。

 

 

「みぃちゃんは、どう思ってるのかしら」

 

 

 そっと髪を撫でながら、問いかける意味のない独り言を呟いて、雫は本を閉じる。ゆっくり思いに耽ければ、時刻はもう午後の一時、そろそろ昼食の頃合だ。今の湊でも食べられる卵粥を作りに、彼女はキッチンに向かった。

 静かな家は慣れてるのに、目に入らない湊の姿が寂しくて、チクリと心が傷んだ。

 

 ◇

 

 食後、汗もかいて熱も引いてきたのか、少し話せるようになった湊の下に見舞い客は次々にやってきた。司に類、瑞希に絵名、冬弥と彰人に杏、志歩に一歌たち、最後は仲間である愛莉たちも。

 交友関係の広さが作り出す輪なのか、入れ代わり立ち代わり人が訪れ、見舞い品と称して果物やアップルパイにチーズケーキ、果てには看護ロボを置いていった。

 

 

 調子が戻ってきた湊は、適当に相槌を打ちながら来てくれたとみんなと喋り、また明日と言葉を交わして、やっと落ち着いた頃に雫とまた二人きりになった。

 大勢を相手をした分疲れたのか、湊はふぅ、と息を吐き自分の看病をする雫に目をやる。寂しくないよ、隣にいるよ、というように指を絡め手を握る彼女は、本を読みながらも、時たまこちらを見て微笑みかける。

 

 

 たったそれだけが、凄く嬉しくて、湊も強く指を絡め手を握った。

 風邪をひいた時、一人の時間というのは果てしなく長い。スマホやゲームには手が伸びず、テレビの音は頭に響く騒音と同じ。漫画や本も同様だ。寂しく、自分の見える世界の範囲に人はいない。

 

 

 寄り添って欲しい、誰でもいいから手を握って欲しい、幼い幼くないに関わらず一度は誰しも経験するもの。それが風邪を引いた時の、孤独感。いくら一人が好きでも、限度がある。誰も見つけてくれない一人部屋のなかで、不安になって、怖くなって、体も辛くて苦しい時。手を握ってくれる誰かが人間には必要で、湊にとっての誰かは雫だった。

 

 

 それだけの話。

 

 

「私はどこにも行かないわ」

 

「うん……」

 

「みぃちゃんを一人にしない」

 

「うん……」

 

「だから、もうおやすみなさい。眠いんでしょう? 大丈夫。絶対、離したりしないから」

 

「……うん」

 

 

 目を閉じても、手から伝わる温もりは消えず、ずっと隣に雫がいる感覚が湊にはあった。それで十分すぎるほどに、彼は安心して眠りに就く。

 起きた頃にはきっと、熱は下がっているだろうとぼんやりと思いながら。




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