私です、一月一日は流石に休んだしぃです!
いやまぁ、ふっつうにまだまだ忙しくて本編の更新は難しいですが、お茶濁しは続けます。はい。
短めですが、今回は湊くんと絵名の一幕です。
2000文字くらいなのでサクッと読めると思います。
重くも軽くもない、何でもない日の一幕です、ゆっくり楽しんでいってください!
頑張り過ぎは体に悪い、休むのも仕事の内だ。そう言って、定期的に完全オフの日を作るようになってから時間は流れ、何度目かの休日。雫が愛莉たちと買い物に出かけたのを見計らった湊は、仕事ではなく趣味だと言い張って、タブレットにペンを走らせる。春と言うには暑く、夏と言うには涼しい中途半端なその日。
彼は家で、一人だった。
◇
物事はいつだって、最初が命。
はじめの一歩で、大体のルートが決まり、その後の行動が上手くいくか分かれていく。静かな部屋は集中するにはもってこいで、湊の出だしは順調そのものだった。鼻歌をしながらスラスラとペンを動かせるくらいには、それはもう活き活きしていた。
思ったようにペンが動き、望んだように服のデザインが完成していく流れは完璧で、ラフからペン入れまで今日中でなんとかなりそうだと、彼が笑ったのも束の間、事件はーー突然起きる。
急に、急に手が止まったのだ。
さっきまであんなに滑らかにタブレットを踊っていたペンも、時が止まったかのようにピタリと止まって、ポンポンと出てきたアイデアもすっかり枯れて、鼻歌も響かなくなる。
クリエイターあるある、突然の失速。
学生がテストの回答をド忘れするのと同じく、そのあるあるは死角からヌッと現れる。嫌な奴。湊だって、何度も経験したことのある、面倒臭いモンスター。
「……白紙だけ見てたらダメ、だったよな」
父親である誠に良く言われていた言葉を思い出し、彼は本棚にしまってある適当な雑誌を手に取った。それは、雫が表紙を飾ったレディースのファッション誌だ。デビューして間もない頃、少しだけ背伸びをして、大人っぽい服とメイクで着飾った彼女を初めて見た時、息を飲んで見惚れたのを湊は覚えている。撮られた写真一枚一枚を懐かしむように、過去の宝を撫でて、彼はもう一度PC画面に向き合う。
下手に沼っていたら描けるものも描けなくなってしまう。
程々に切り上げ、対峙する。
煮詰まった時、一番必要なのは客観的な意見。
現在の時刻とナイトコードのオンライン状況を一通り確認した湊は、黒を基調とし赤のラインが入ったマイク付きヘッドホンを被り、ある友人に電話をかけた。
(起きるのが遅かったから、今は十一時過ぎ。オンラインにはなってるけど、あんま機嫌よくないだろうな……)
しかし、背に腹はかられない。
1コール、2コールと繋がらない音声通話の画面を眺めて、考える。
女王様な幼馴染みーー絵名でも、新しいデザートをご馳走すると言えば、不機嫌でグチグチ悪態をついてくるだろうが、意見やアドバイスはくれるだろう。
負けず嫌いで、感情の振れ幅が激しい彼女だが、根は優しい。人の痛みを受け止め、一緒に泣くことだってできる少女なのだ。だからこそ、湊は頼る。ブランクがある彼からしたら、絵名は荒野の先を行く同志。
きっとーーピッ、
『もしもし? いきなり悪いな、今の時間平気か?』
『やだ、眠い』
ブチッ。その音のあと、ピーピーピーと悲しい切断音が、一人ぼっちの部屋に鳴り響く。
流石の湊も、諦めて物で釣った。
◇
『ーーってこと。わかった?』
『なるほど……そういうのもありか』
『珍しく通話なんてかけてくるからなんだと思えば、デザインの相談とか……もう少しなんかないの?』
『覚えてるぞ、俺。この前、用があって通話繋いだ時は俺が一言目を話す前に切っただろ?』
『しょうがないでしょ? 私だって疲れてたんだから! 出てあげただけでも感謝してよ!!』
イラストの話し合いが終わればこれである。
仲がいいのか悪いのか、二人の通話は、仕事の部分以外だと終始こんな雰囲気だ。湊の冗談や皮肉に絵名が噛み付いて、その返しで余計に拗れる。傍から見れば喧嘩してるようにも思えるが、彼らにとってこれはじゃれ合いと同じ。結局はなんだかんだ、またねと笑顔で終わり。
『はぁ……雫とはどうなの?』
『ちゃんとやっていけてると思うよ。あくまで俺は、だけど』
『言いたいことは言ってる?』
『言える時にな』
『そう』
思いの詰まった一言。
安心した、と言葉にはせずとも言ってくれてるようで、湊は嬉しくなってクスリと笑みを零す。昔もそうだった。誰よりもみんなを心配していたのは彼女で、周りの違和感には聡いタイプ。
少し前までは、自分自身のダメージで見失っていたが、本来の東雲絵名は他者の痛みに寄り添える少女だったのだ。
『ーーそれはそうと、私の服、忘れてないわよね? 今度会った時、ラフ持ってきてもらうから』
『うっ。わかった……持ってくよ。来週の日曜は行けるか?』
『あー、スケジュール的には問題ない。リテイクあってもなんとかなりそう。じゃ、ショッピングモールのいつもの場所で。買い物も付き合ってよ』
『はいはい。了解しましたよ、お嬢様』
からかうようにそう言って、湊は通話を切った。
速攻でメッセージが飛んできたが、気にせず、作業に戻る。
止まっていたペンはまた踊りだし、途中だったデザインが纏まっていく。やっぱり相談して正解だったな、と一人呟き、彼はスラスラと新しい作品を進める。頭の片隅で、わがままな幼馴染みの服の構想を考えながら。
マシュマロ URL↓
https://marshmallow-qa.com/narushi2921?utm_medium=url_text&utm_source=promotion
次回もお楽しみに!
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