幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

17 / 69
 新年、あけましておめでとうございます!
 私です、一月一日は流石に休んだしぃです!

 いやまぁ、ふっつうにまだまだ忙しくて本編の更新は難しいですが、お茶濁しは続けます。はい。
 短めですが、今回は湊くんと絵名の一幕です。
 2000文字くらいなのでサクッと読めると思います。


 重くも軽くもない、何でもない日の一幕です、ゆっくり楽しんでいってください!


時が過ぎても、変わらぬ者よ

 頑張り過ぎは体に悪い、休むのも仕事の内だ。そう言って、定期的に完全オフの日を作るようになってから時間は流れ、何度目かの休日。雫が愛莉たちと買い物に出かけたのを見計らった湊は、仕事ではなく趣味だと言い張って、タブレットにペンを走らせる。春と言うには暑く、夏と言うには涼しい中途半端なその日。

 彼は家で、一人だった。

 

 ◇

 

 物事はいつだって、最初が命。

 はじめの一歩で、大体のルートが決まり、その後の行動が上手くいくか分かれていく。静かな部屋は集中するにはもってこいで、湊の出だしは順調そのものだった。鼻歌をしながらスラスラとペンを動かせるくらいには、それはもう活き活きしていた。

 

 

 思ったようにペンが動き、望んだように服のデザインが完成していく流れは完璧で、ラフからペン入れまで今日中でなんとかなりそうだと、彼が笑ったのも束の間、事件はーー突然起きる。

 急に、急に手が止まったのだ。

 さっきまであんなに滑らかにタブレットを踊っていたペンも、時が止まったかのようにピタリと止まって、ポンポンと出てきたアイデアもすっかり枯れて、鼻歌も響かなくなる。

 

 

 クリエイターあるある、突然の失速。

 学生がテストの回答をド忘れするのと同じく、そのあるあるは死角からヌッと現れる。嫌な奴。湊だって、何度も経験したことのある、面倒臭いモンスター。

 

 

「……白紙だけ見てたらダメ、だったよな」

 

 

 父親である誠に良く言われていた言葉を思い出し、彼は本棚にしまってある適当な雑誌を手に取った。それは、雫が表紙を飾ったレディースのファッション誌だ。デビューして間もない頃、少しだけ背伸びをして、大人っぽい服とメイクで着飾った彼女を初めて見た時、息を飲んで見惚れたのを湊は覚えている。撮られた写真一枚一枚を懐かしむように、過去の宝を撫でて、彼はもう一度PC画面に向き合う。

 

 

 下手に沼っていたら描けるものも描けなくなってしまう。

 程々に切り上げ、対峙する。

 

 

 煮詰まった時、一番必要なのは客観的な意見。

 現在の時刻とナイトコードのオンライン状況を一通り確認した湊は、黒を基調とし赤のラインが入ったマイク付きヘッドホンを被り、ある友人に電話をかけた。

 

 

(起きるのが遅かったから、今は十一時過ぎ。オンラインにはなってるけど、あんま機嫌よくないだろうな……)

 

 

 しかし、背に腹はかられない。

 1コール、2コールと繋がらない音声通話の画面を眺めて、考える。

 女王様な幼馴染みーー絵名でも、新しいデザートをご馳走すると言えば、不機嫌でグチグチ悪態をついてくるだろうが、意見やアドバイスはくれるだろう。

 

 

 負けず嫌いで、感情の振れ幅が激しい彼女だが、根は優しい。人の痛みを受け止め、一緒に泣くことだってできる少女なのだ。だからこそ、湊は頼る。ブランクがある彼からしたら、絵名は荒野の先を行く同志。

 きっとーーピッ、

 

 

『もしもし? いきなり悪いな、今の時間平気か?』

 

『やだ、眠い』

 

 

 ブチッ。その音のあと、ピーピーピーと悲しい切断音が、一人ぼっちの部屋に鳴り響く。

 

 

 流石の湊も、諦めて物で釣った。

 

 ◇

 

『ーーってこと。わかった?』

 

『なるほど……そういうのもありか』

 

『珍しく通話なんてかけてくるからなんだと思えば、デザインの相談とか……もう少しなんかないの?』

 

『覚えてるぞ、俺。この前、用があって通話繋いだ時は俺が一言目を話す前に切っただろ?』

 

『しょうがないでしょ? 私だって疲れてたんだから! 出てあげただけでも感謝してよ!!』

 

 

 イラストの話し合いが終わればこれである。

 仲がいいのか悪いのか、二人の通話は、仕事の部分以外だと終始こんな雰囲気だ。湊の冗談や皮肉に絵名が噛み付いて、その返しで余計に拗れる。傍から見れば喧嘩してるようにも思えるが、彼らにとってこれはじゃれ合いと同じ。結局はなんだかんだ、またねと笑顔で終わり。

 

 

『はぁ……雫とはどうなの?』

 

『ちゃんとやっていけてると思うよ。あくまで俺は、だけど』

 

『言いたいことは言ってる?』

 

『言える時にな』

 

『そう』

 

 

 思いの詰まった一言。

 安心した、と言葉にはせずとも言ってくれてるようで、湊は嬉しくなってクスリと笑みを零す。昔もそうだった。誰よりもみんなを心配していたのは彼女で、周りの違和感には聡いタイプ。

 少し前までは、自分自身のダメージで見失っていたが、本来の東雲絵名は他者の痛みに寄り添える少女だったのだ。

 

 

『ーーそれはそうと、私の服、忘れてないわよね? 今度会った時、ラフ持ってきてもらうから』

 

『うっ。わかった……持ってくよ。来週の日曜は行けるか?』

 

『あー、スケジュール的には問題ない。リテイクあってもなんとかなりそう。じゃ、ショッピングモールのいつもの場所で。買い物も付き合ってよ』

 

『はいはい。了解しましたよ、お嬢様』

 

 

 からかうようにそう言って、湊は通話を切った。

 速攻でメッセージが飛んできたが、気にせず、作業に戻る。

 

 

 止まっていたペンはまた踊りだし、途中だったデザインが纏まっていく。やっぱり相談して正解だったな、と一人呟き、彼はスラスラと新しい作品を進める。頭の片隅で、わがままな幼馴染みの服の構想を考えながら。




 マシュマロ URL↓
https://marshmallow-qa.com/narushi2921?utm_medium=url_text&utm_source=promotion

 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想や評価にここ好き、お気に入り登録もお待ちしております!

お気に入り200人突破記念短編(現在のシチュエーション)変わる可能性あり

  • 悲恋if(ヒロインは雫)
  • 嫉妬if(ヒロインは雫)
  • 温泉回(個別orモモジャン)
  • 水着回(個別orモモジャン)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。