幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 三人称の練習作品です。



両片想いなプロローグ
いつも通りの朝


 清々しい朝、というものがある。

 よい天気で、気分が晴れているいい朝を指す言葉だ。他にも言い方は色々あるが、皆に馴染み深い言葉はこれだろう。

 因みに今日の空は、雲ひとつない快晴で、間違いなくよい天気。そんな日の朝、同い歳で幼馴染みの美少女アイドルに起こされる彼──月野海(つきのうみ)(みなと)は、清々しい朝を超える、眩しい朝を迎えた。

 

 

「みぃちゃん? みぃちゃん、早く起きて! そろそろ起きないと、学校に遅刻してしまうわ!」

 

「ん……あぁ……」

 

 

 鈴の音にも似た落ち着きのある声音が耳に響き、湊は微睡みから目を覚ます。

 ぼんやりとした意識の中、彼が朝一番に目にしたのは、見慣れても見飽きない、顔がいい幼馴染み──日野森(ひのもり)(しずく)の困惑の表情だった。空色のウェーブがかった長い髪を揺らし、透き通るような薄灰色の瞳が輝いて見える彼女は、あわあわと少し慌てた様子も見える。

 どうやらなにか不味いらしい、ふわふわとした思考でも湊はそれを理解し、微かに聞こえていた『遅刻』、と言う単語から時間関係か、となんとなく察する。

 

 

「…………なんだ、まだ七時半じゃないか。これなら全然遅刻しな──」

 

「確かに、私は遅刻しないけど……私を送るみぃちゃんが遅刻しちゃうわ!」

 

「……あっ」

 

 

 雫の言葉に、湊は遅れて気付き間の抜けた声を出した。

 幼馴染みとして、日常の中で当たり前過ぎたが故に、彼は失念していた。日野森雫は極度の機械音痴であり方向音痴。迷子癖も激しい為、今までに一度も、一人で目的の場所に着けたことがない。それは、行き慣れた学校や仕事場でも関係なく、決まってどこかで迷って、毎度毎度、湊が助けに行く流れが長年でできていた。

 女子校であり雫が通う宮益坂女子学園と、湊が通う共学である神山高校は距離が地味に遠いが……送らないという選択肢は湊になく、どうやって自分も雫も遅刻しないかを考える。

 

 

「どうしよう、みぃちゃん? 朝ごはんを食べても食べなくても、今からじゃ間に合わないわ。今日は諦めて私一人で……」

 

 

 悲しそうにそう言う雫を見た湊は、自分の負うデメリット考えるのは止め、最善の策を捻り出す。

 

 

「いや、いいよ。俺が諦める。怒られるの覚悟で、バイクで送るよ」

 

「ごめんなさい。私がもっと早くに気付いて起こしに来てれば、こんなことにはならなかったのに……」

 

「いや、元々は俺が寝坊したのが悪いし……ってか、どうやって家に入ったんだ? 母さんたちは昨日から出てたはずなんだけど」

 

「それなら安心して! おば様から鍵は預かってたから!」

 

「……そうか」

 

 

 諦めが付いた湊は、雫に先に下で待っているよう頼み、ベットから出て着替え始める。そして、着替え始めた湊を見て、雫もそそくさと部屋を出た。

 湊には、こんな時の為に取った普通二輪の免許があり、買ったバイクがある。祖父が経営していた中古車店で、身内割りを利かせて買ったが、高校一年時から貯めたバイト代と、お年玉貯金はほとんどなくなった。だが、彼は後悔はしていない。

 元々バイクは好きだったし、雫のことに関しては年が経つにつれて義務感が出てきたからだ。

 

 

 しかし、時々思ってしまう。

 

 

(……高校二年生にもなったんだから、みぃちゃん呼びは止めて欲しい)

 

 

 それが、彼に芽生えた、小さな願いだ。

 

 ◇

 

 制服に着替え、学校用のバックを持って、湊が自室のある二階から下りてくると、甘い匂いがリビングから漂ってきた。

 

 

「作って欲しいなんて、一言も言ってないんだけどなぁ……」

 

 

 呆れ混じりの笑いを一人零した湊は、開いていたリビングのドアを通り、中に入る。そこには、可愛らしい水色のエプロンを着てキッチンで料理をする、雫の姿があった。

 スタイルのよさと顔のよさが相まって、何をやっても絵になる。そんな雫が、新妻のように鼻歌を歌いながら料理をしてる光景は、見る人が見たら一発でノックアウトだろう。

 

 

 現に、幼馴染みでその姿を幾分が見慣れている湊も、見蕩れていた。

 

 

「…………」

 

「あっ! みぃちゃん、もう下りてきてたのね? おば様が作り置きしてくれてたフレンチトーストがあったから、今焼いているの。あと少しでできるから、座って待ってて」

 

「……あ、あぁ、助かる」

 

 

 湊は思う。天は二物を与えず、なんて言葉を作った奴は世界を広く知らなかったんじゃないか、と。何故なら、自分の幼馴染みは、顔がいいし、スタイルもいい、性格も悪くなければ、家事ができないわけでもなく、頭も、アイドル活動をしていてマメに勉強ができてる訳じゃないが、酷くはない。

 とりわけ、自分の事を過小評価し、平々凡々だと言い張る湊も、天に二物を与えられている一人だ。

 

 

 癖のない赤茶の髪に、燃えるような真紅の瞳、落ち着きのある整った顔立ちで、身長も百七十五を超えている。偶に、ヤンキーや熱血キャラに間違えられるが、本人にそこまでアウトドアな趣味はなく、偶にツーリングするくらい。

 基本、自分の自由な時間は読書や映画鑑賞に使うことが多く、それ以外はバイトや雫の用事に付き合ったりしている。

 

 

 湊と雫の関係を知るものたちは「付き合わないの?」と、茶化するより、「過保護か!」とツッコムことが多い。

 本人たちが、お互いの偏った関係に気付くのはまだ先だ。

 

 

(……一応、(つかさ)に連絡でも入れとくか)

 

「お待たせ、みぃちゃん! 朝ごはんできたよ?」

 

「悪いなわざわざ。……少し待ってくれ、保険で連絡入れてるから」

 

「大丈夫よ。でも、冷めないうちに食べてね?」

 

 

 自分の数少ない友人にスマホでメールを送る湊に対し、雫は流れるように綺麗な所作でバッグから文庫本を取り出し読み始める。

 二人の間に無言の時間が続き、その間に、湊はメールを終えて、朝食であるフレンチトーストを食べていく。朝にしては少し重いが、男子高校生の胃袋の敵ではなく、湊はパクパクと食べ進める。そして、丁度半分を食べ終わった頃、視線を感じた彼がふと顔を上げると、本越しにニコニコと自分を見つめている雫と視線がぶつかる。

 

 

「雫? 流石に見られてると食べ辛いんだが……」

 

「気にしないでちょうだい、私が勝手に見てるだけだから。ね?」

 

「はぁ……心配しなくても、美味いよ。焼き加減がよくて、食べやすい」

 

「そう? ならよかったわ!」

 

(うっ……眩しい)

 

 

 無邪気な笑顔が、湊を照らす。

 余計食べ辛くなったことに湊が気付いたのは、すぐあとだった。

 

 ◇

 

 湊がお気に入りのバイク──ホンダゴールドウィングGL1800を走らせること十数分。ようやく、遠目に学校が見えてきた。雫も学校が見えたのか、ちょんちょんと湊をつつく。

 言葉を介さずとも、湊は意図を理解し、道路脇にバイクを止める。

 

 

「……ふぅ。ありがとう、みぃちゃん」

 

「本当にここで大丈夫か? 最悪、校門くらいまで送るぞ?」

 

「心配しないで平気よ! 近くに何人か同じ制服の子も見えるし、それに変に噂になったらみぃちゃんも困るでしょ?」

 

「それはそうだけど……まぁ、お前がいいならいいか。帰りは誰かに送ってもらうかしろよ、なんなら俺のこと呼んでいいから」

 

「ふふっ、もしもの時はそうさせてもらうわ」

 

 ヘルメットを湊に預けた雫は、笑顔でそう言って、手を振りながら学校に歩いていく。湊は、それを見送ると、ヘルメットを後部に固定し、自分の高校に向けてバイクを走らせる。

 一挙手一投足、全てが絵になるのが日野森雫だ。

 見過ぎていたら、時間があっという間に去ってしまうことを、湊は知っていた。

 

 ◇

 

 何とか遅刻せず、学校に着いた頃、湊はまだ朝だと言うのに、気だるさを体に感じていた。

 2-A、自分のクラス、窓際の机に突っ伏し、朝のSHRが始まるのを待つ。そんな彼を見て、対照的にハイテンションな友人──天馬(てんま)司が声をかけた。

 橙色の明るい髪に、凛々しい顔立ちで、黙っていれば女子に告白されること間違いなしなイケメンだが、常時ハイテンションで、スターを目指しての奇行が目立つ。

 

 

 その為に、学校では三変人の一人として名を馳せており、クラスではリーダーシップの高さから中心人物として動き、日々教室を騒がしくしている。

 

 

「ふっははははは! 朝から疲れ気味だな湊! 遅刻しなくてよかったな!」

 

「……司か。あぁ、朝からお勤めだったからな、お疲れ気味だよ、全く」

 

()()()()()?」

 

「いつもの。今日は、俺が寝坊してな、バイクで来た。駐輪場探すのが大変だったよ……うちの学校、校則ゆるゆるなところあるのにバイク登校禁止だし」

 

「……一つ疑問なんだが、何故いつもお前が連れて行くんだ? 雫には志歩(しほ)がいるだろ?」

 

 

 志歩、会話の流れで自然とでてきたこの名前の主は、雫の妹だ。司の妹、天馬咲希と同い歳の幼馴染み。姉と違い、サッパリとした性格をしており、目や髪の色もあまり似ていない……が、根底には姉と同じく世話焼きだ。

 しかし……

 

「しぃはダメだ、雫のシスコンが発揮されて遅刻の可能性が上がる。……アイドルの仕事の所為で、ただでさえ登校回数が少ないのに、遅刻させたくない」

 

「湊……お前、相当過保護だぞ」

 

「シスコン仲間のお前に言われたくねぇ」

 

 

 そう毒を吐いた湊は、また机に突っ伏し、体を休める。

 結局、放課後は志歩に呼ばれ、雫を迎えに行ったのは言うまでもない。

 

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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