難産だったので、酷くグチャグチャの内容かもしれませんが、あしからず。
p.s.
またしてもランキングにのれました! やったぜ!
時間内労働さん☆9評価、You.choさん☆9評価ありがとうございます!
バレンタインと初恋クリティカルアタック
これは、物語が始まる一年前の話。
切なくも甘い、チョコレートのようなバレンタインの日の話である。
◇
嫌な夢を見た。初恋を自覚する、遅過ぎた後悔の夢を見た。それだけで、朝から憂鬱な気分になって、湊は布団から出るのが億劫になる。
幸いにも今日は祝日、わざわざ早起きする必要も無い。
(二度寝でも、するか……)
もう一度、枕に顔を埋めて、目を閉じる。
だが、目を閉じた瞬間、湊の脳裏に先程まで見ていた夢の光景が過ぎっていく。何気ない日常の中で、少しずつ離れていく互いの距離が、彼に自分の想いを見つけさせた。
湊が自分の想いを自覚した日は、本当になんでもないある日だった。慣れ始めた一人での下校路の中、本屋で一冊雑誌を見つけただけ。それで、それだけで、全てが変わってしまった。
表紙に写る、雫の見たことのない表情、化粧を施されてより洗練された顔のよさ、スタイルを活かして見繕われた可憐な衣装。その一つ一つが、湊の心を穿ち、隠れていた想いを掘り当てた。
「……無理だな、これ」
今の精神状態では、まともに眠ることすらできない。もし、また目を瞑ろうなら、今度は一人自室で嗚咽を漏らす、過去の自分を思い出すことになる。
湊は諦めたようにため息を吐き、体を起こしてベッドから出る。清々しい朝とは真反対の、重苦しい朝を迎えた。
朝一番の彼に目に映ったのは、机の上に置きっぱなしにされていた写真立てと、隣合うように置かれたアイドル雑誌。
見たくもない現実が迫ってくる感覚が胸の中に渦巻き、湊はそっと写真立てを伏せ、雑誌の表紙を裏返す。
正直、寝巻きを着替えることすら面倒臭く感じたが、着ていたら着ていたで、ふとした瞬間に夢を思い出してしまいそうで、彼はすぐに部屋着に着替え、一階に下りた。
運が良いのか悪いのか、今日の湊はバイトもなく、特にこれといった用事もない。久しぶりの暇な一日だった。
陰気な気分で過ごすなんて意味がない。そう思った彼は、前日のうちに借りてきていた映画でも見ようと、空元気を出してリビングに入ったが……
「いや……なんで二人ともここにいるんだ?」
「おはよう、みぃちゃん! 今日は早起きね?」
「遅い、湊にい」
「……はぁ」
質問に答えず両極端な返しをしてくる雫と志歩──日野森姉妹に、湊は今日二度目となるため息を零した。
二人が揃って月野海家を訪ねてくるのは、最近では珍しい光景。何か用があるのは確実で、志歩の機嫌が悪いことから見るに、彼女はあまり乗り気ではないところを、姉である雫に無理矢理連れてこられた口だ。
長時間拘束される。湊の中に、そんな未来が薄ぼんやりと見えてきた。いつもなら二つ返事で了承する彼だが、今はタイミングが悪い。
(……なんでこう、嫌なことは重なるかなぁ)
夢を見た直後に雫と顔を合わせるのはむず痒く、居心地が悪い。しかし、彼の中に断るなんて選択肢は存在しない。「YES」か「はい」以外は残っていない。
だから、聞くしかないのだ。
「今日は、何の用なんだ? 二人揃ってくるなんて久しぶりだろ?」
「みぃちゃんは今日がなんの日か覚えてる?」
「あー……バレンタイン?」
「そう! 一日遅れで明日になっちゃうけど、去年お世話になった人たちにブラウニーを送ろうと思っててね。みぃちゃんには、お手伝いと味見役を頼みたいの、お願いできる?」
「俺はいいけど……志歩はどうしたんだ?」
「……お姉ちゃんに、湊にいとお父さんには日頃の感謝として送ろう、って言われて無理矢理」
「そ、そうか……」
嫌々ながらも、姉の為に付き合うのは、志歩の根底にある優しさなのだろう。湊はそれを微笑ましく思いつつも、自分に向けられる圧に表情を苦くする。
三者三様の思いを抱いたまま、幼馴染み三人組のバレンタインイベントが始まった。
◇
チョコ作りの過程を一言で表すなら『地獄』。雫が触れただけでダメになる家電機器に、砂糖の配分をミスし甘ったるい失敗作や、黒焦げなブラウニーを生産する志歩。そして、二人のカバーにドタバタと忙しなく動き回る湊。
最終的な判断として、レンジなどの家電機器を使わないブラウニーのレシピをネットの海から拾い上げ、なんとか完成まで漕ぎ着けた。
湊は、リビングで最後の工程であるラッピングをしている姉妹二人を視界の端にとめながら、惨憺たる
「これ……あとで掃除するの俺なんだよなぁ……」
所々に飛び散ったチョコ、お釈迦になった電気式の料理器具、山のように積み重なる失敗作。チョコと料理器具は簡単に終わるだろうが、問題は盛りに盛られた
胃の強さにそこまで自信がない彼としては、味見の時食べだ分でお腹いっぱい。手を出さずにゴミとして捨てたいが、良心がそれを許さない。
『食べるのに覚悟を要するものも幾つか混じっているが、捨てるのは如何なものか』、と。
「毒を以て毒を制す……毒を食らわば皿まで……」
案外、全部食べれば味が裏返って美味しくなるかもしれない。追い詰められた湊が出した答えは、無謀の極みだった。これは挑戦とも言えない愚かな選択だが、いつも通り。彼の中では、いつも通りなのだ。
「湊にい……はい」
「……おぉ、ラッピングもう終わったのか」
「私は二個だけだし、すぐだよ」
「ははっ、それもそうだな。お疲れ、しぃ。あとで美味しくいただくよ」
「……いつも、ありがと。それだけ」
照れ臭そうにそう言った志歩は、湊にラッピングされたブラウニーを手渡すと、すぐに家を出て行ってしまった。雫はそれを見ながらも、特に引き留めることをせず、黙々と作業を続ける。
手持ち無沙汰になった湊は、自然な流れで雫の対面に座り、彼女に習うようにブラウニーのラッピングを始める。
バイトで単純作業の繰り返しを飽きるほどやった彼にとって、ラッピングはそこまで苦ではなく、手を止めることなく完成品を量産していく。
普段なら、どんなに空気が悪くても、ポツリポツリと会話が続く二人だが、この時ばかりは、互いに口を開かなかった。
単に作業に集中しているわけでもなく、かといって雰囲気が悪いわけでもない。そんな原因のわからない、絶妙な無言の時間を破ったのは、雫だった。
「みぃちゃんは、好きな人いるの?」
「別に……いないよ。逆に、そう言う雫はどうなんだ?」
「私? ……いるわ」
堂々と、彼女は湊の問に答えた。嘘で誤魔化した彼とは正反対に、微笑んで。
だが、問題はそこではなかった。本当の問題は、湊に向けられた雫の微笑みが、十六年間一緒に居た彼でさえも見たことがなかったこと。
嘘はついてない、彼女には本当に好きな人がいる。目を離したくないくらいには、好きな人が、目の前に。
「ちょ、ちょっと待て雫! お前の好きな人って──」
「さぁ、誰かしら?」
「……………………」
「今日は手伝ってくれてありがとう、みぃちゃん。あとは私一人でなんとかなるから、もう行くわね」
「あぁ、もう。勝手にしてくれ」
「ふふっ、ハッピーバレンタイン、みぃちゃん。……今年は、渡せてよかったわ」
先程までの微笑みを崩さぬまま、雫はラッピング途中のブラウニーや道具を持って、リビングから──月野海家から去っていった。
残されたのは丁寧にラッピングされた小箱と、小さなカード。
そこには一言、「私のお月様へ」と書かれていた。
次回もお楽しみに!
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