p.s.
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最後に一言。お気に入り登録と高評価が爆速で入ったのに、なんでUAが全然伸びないんですか?
先日の遅刻騒動から早数日。
湊は一人暗い顔で、夕暮れ時の下校路を歩いていた。いつもなら、雫が隣にいて、夕焼けに負けない眩しい笑顔で、彼に話しかけているだろう。しかし、生憎な事に、彼女は明日に迫った『Cheerful*Days』のライブ準備に励んでいる為、ここに居ない。
今頃、ステージの上でリハーサルに精を出している筈だ。
勿論、明日のライブには湊も誘われているが……少し困った事態が彼を襲っていた。
ドタキャンだ。本来なら、雫の妹である志歩と一緒に行く予定だったのだが、つい数分前に電話があり「バイトの代勤が入って行けなくなった」と、伝えられた。何とか交渉しようとした湊だが、無理なものは無理とバッサリ斬られてしまい、途方に暮れている。
しっかりと話せば、雫も志歩が来れない理由を理解してくれると、頭では分かっているが、湊は話せない。彼女が、悲しそうな気持ちを曖昧にするように微笑む未来が、簡単に見えてしまうから。
「どうするかなぁ……」
呟くようにそう言って、湊は思考を巡らせる。
代理の人間を捕まえようにも、残念ながら彼にそこまでの人脈はない。男を連れてったら即バレは確実。最低でも、背丈の近い少女ではないと話にならないだろう。
「あぁ……クソ。知り合いの少なさに泣きそうだ」
そうして、湊が自分のぼっち具合を再確認していると、スマホから通知音が鳴った。
確認する為にポケットからスマホを取り出し、通知画面を見ると。そこには、ここ最近で見慣れてきたSNS──Twitterのアイコンが表示され、
「DM……? あぁ、minoriちゃんから。内容は、っと……昨日発売されたアイドル雑誌について話したいです、か」
文面を見て、湊は自然と頬が緩み、笑みが零れる。少しだけ、気分が晴れた。
彼にとって、『minori』というアカウントは特別だ。知り合ったのは数ヶ月前で、SNS上の関係だが、大切な友人の一人として、湊は『minori』を認識している。
理由は幾つでもあったが、その中で一番大きかったのは──『minori』がアイドルになろうと努力している一人だと、分かったから。
(昨日の雑誌……表紙が雫だったからもう買ってあるけど、中身は半分くらいしか見れてないんだよな。帰ったら──)
読もう、そう考えた瞬間、閃いた。
湊が以前聞いた話では、『minori』の身長は百五十八、体型は可もなく不可もない……らしい。服装を抜きにしても、帽子で顔は隠せる。
「……ダメもとでも、送ってみるか」
申し訳なさと少しの期待を胸に、湊はスマホのキーボードを開き、指を動かした。
◇
「流石に、まだ来てないか……」
翌日の昼、時刻は十三時三十分。ライブ会場に入場可能になる時間は十五時。
なんとか『minori』に了承を得た湊は、前日の内に変装道具やらライブ道具を準備し、早めにライブ会場の前に来ていた。
関係者席のチケットだが、並ぶことには並ぶし、物販もある。湊は諸々の事を含めて、一時間半前に訪れたのだ。
(えーっと……minoriちゃんの服装は、乙女色のセーターに薄黄色のスカート、白と橙の蝶リボン、と)
事前に教えもらっておいた服装のメモを見たあと、湊はもう一度当たりを見渡す。既に人はまばらに来はじめているが、目的の人物『minori』の影は見えない。
服装の確認はしたのに、何故昨日の内に集合場所を決めなかったのか?
湊は自分自身に腹を立てつつ、Twitterを開く。DMが来ていないか見てみると、「もう着きました!」というメッセージと、絶妙にダサいラッコのスタンプが送られてきていた。
「ん〜……それっぽい人は、見えないんだけどな」
「……あっ、あの! minatoさん、で合ってますか?」
「えっ?」
突如、後ろから掛けられた言葉に、湊は驚き間の抜けた声を出してしまう。
心を落ち着かせるように、ゆっくりと後ろに振り向くと、そこに居たのは乙女色のセーターに薄黄色のスカート、白と橙の蝶リボンを見に纏った可愛らしい少女だった。
顔立ちはあどけなさの残る可愛らしいもので、明るい茶色の髪は肩先ほどのセミロングで整えられており、鼠色の瞳には少し不安の感情が伺える。
在り来りな言葉で表現するなら、『minori』は美少女だった。
「……もしかして、君がminoriちゃん?」
「はっ、はい! 今日は誘って頂いてありがとうございます!」
「会えて良かったよ。あぁ……一応、改めて自己紹介しようか。リアルで会うのは初めてだし。月野海湊、17歳。神山高校に通ってるよ」
「わ、わたしは、
「ちょっ! みのりちゃん、声。声抑えて! 周りにも聞こえちゃうから」
「そ、そうでした! ごめんなさい!!」
あわあわと慌てて謝る様子が、一瞬、ほんの一瞬だけ、湊の中での雫と重なった。いや、重ねてしまった。
その後、一旦場所を移動した二人は、適当な場所で腰を下ろして、会場に入るまでの時間の潰し方を話していた。
「物販はどうする? 行くなら付き合うけど?」
「お願いしても、良いですか? Cheerful*Daysのライブに来たの初めてで……。曲やメンバーさんは知ってるし、一応うちわは作ってあるんですけど、ペンライトが無くて」
「そっか。俺のを貸すのもアレだし、この際、買っちゃった方が早いよね。何色にする?」
「まだ、決まってなくて……昨日の内に上がってるMVとか、ライブの映像は見たんですけど、どうしようかな、って」
「まっ、焦んなくてもいいんじゃない? 決めきれなかったら、無難に俺と同じで空色のペンライト振るのも悪くないよ」
「そ、その時はそうしますね。ありがとうございます!」
さり気なく、自分の幼馴染みを押す湊の姿は、知り合いが見れば苦笑を零すこと間違いなしだろう。もっとも、みのりもSNS上で湊の
◇
物販も周り終わり、程なくして入場時間になった。
何度か顔を合わせたことがあるスタッフに湊がチケットを渡すと、みのりと共に違う道に案内されて行く。
最初はウキウキとしていたみのりだったが、段々と人並みから離れていくのを感じ、ソワソワし始める。
「あ、あの、湊さん? わたしたち、どこに……」
「もっと、ステージが見えるところだよ。……言い忘れてたけど、今回のライブは特等席──関係者席で見れるよ」
「えっ……えぇぇぇぇぇえ──ー!?!?」
驚き、固まってしまったみのりの手を引き、湊は関係者席まで歩いて行く。雫が無理を言って取らせてもらった席だ。後ろのスクリーンも、ステージ全体も見やすい位置にあり、アイドルが肉眼で相手を見ることだってできる最高の場所。
気が遠のいているみのりに、湊は念の為、帽子を被せて座らせる。
少し見辛くなってしまうが、そこは既にOKを貰っているから大丈夫。そう自分に言い聞かせて、彼も席に着いた。
みのりの意識が戻るのと、Cheerful*Daysのメンバーがステージに上がって来たのは、ほぼ同時刻。
彼女は、眩しいくらい明るいステージライトで目を覚ます。
『みなさーん! 今日は、私たちCheerful*Daysのライブに来てくださり、ありがとうございます!』
センターである雫が、トップバッターとして挨拶をし、そして、それに続くように他のメンバーも言葉を紡いでいく。
『みんなのこと、ぜーったい楽しませるから! 最後まで盛り上がっていこーね!』
『それじゃあ、先ずは最初の一曲、いっくよー!!』
会場の熱を冷ます余裕を与えないよう、Cheerful*Daysはオープニングの挨拶から、手早く最初の曲に移る。
正直、そこから語ることは多くない。
熱狂に次ぐ熱狂が会場全体を覆い、一切冷めることはなくライブが続いた。誰もがステージの上の
唯一湊だけが、アイドルたち──ではなく、彼の思う最高の
完璧だった。
メイクで整えられた綺麗な顔、華麗で可憐な衣装、一つ一つの仕草、全てが調和され、仕上げられている。
裏にある努力を、湊は知っていた。
ステージに立つと言うことは、並々ならぬ努力の積み重ねの上に立つのと同義。しっかりとした土台が無ければ、呆気なく崩れ落ちる。
だがしかし、湊は雫が崩れ落ちるなんて微塵も思っていない。
誰よりも隣にいた自信があった。彼女の為に、やれることは全部手伝ったと思っている。
それは信頼であり、ある種の期待だった。
湊は、雫を心の底から、信じていたのだ。
『──────────────』
「……あぁ」
視線がぶつかる。きっと、数秒にも満たない交差だ。
けれど、湊はその数秒の重なりで、しっかりと思い受け取った。
『私から絶対に、目を離さないで』、そんな一途な思いを。
◇
二時間のライブが終わったあと、湊は一人、関係者席から、控え室前に訪れていた。言わずもがな、雫のお迎えだ。彼は今日も今日とて、彼女を送ってきたのだ。
因みに、みのりとは既に別れている。恐らく、近くでアイドルを見たお陰で、夢の炎にガソリンが投下されたのだろう。「早く帰って練習するね!!」と、言い残して去っていってしまった。
湊としては、都合が良かったので、気を付けて帰るよう注意しただけだ。
「月野海です、雫を迎えに来ました」
「はーい! 着替えは終わってるから、もう入っていいよー」
声がドア越しに聞こえてから、少し間を置いて、湊は中に入った。控え室にいたのは着替え終わって私服のCheerful*Daysのメンバーと、マネジャーであろうスーツの女性が一人。湊でも、全員が全員、知り合い程度には話せる人たちだ。
「態々いつもごめんね。事務所の私たちが送るより、君が送ってくれた方が安全だから頼っちゃって。……これ、少ないけど受け取って」
「別に、要りませんよ。俺が趣味でやってるようなもんですから。それに、アイドルの皆さんと話せるだけでも、充分貴重な体験です。……ほら、雫。遅くならない内に帰ろう」
「えぇ! それじゃあ、皆さん先に失礼します。お疲れ様でした!」
『お疲れ様です!』
皆に帰りの挨拶を済ませた雫と湊は、控え室を出て、出口まで歩いていく。その中でも、雫はすれ違うスタッフ一人一人に「お疲れ様です」と、挨拶をする。そんな幼馴染みの真面目な仕事姿を見て、湊は誇らしく思った。
「本当にお疲れ様、雫。今日のライブも、最高だったよ」
「そう、よかったわ! ……ねぇ、みぃちゃん?」
ようやく外に出て、駐車場に着いた二人。
湊が雫を労い。雫が湊に微笑み返す。ライブ後にやる、お決まりの流れをやり終わったあと、雫の一言で空気が変わった。
「ど、どうしたんだ、雫?」
「今日、みぃちゃんの隣にいた子は、誰?」
「勿論、しぃ──」
「嘘はやめて。しぃちゃんを私が見間違えるはずないもの」
冷たい視線が、刃となって湊に突き刺さる。これ以上の誤魔化しは効かない、本当のことを言うしかない。
選択する権利自体は残されているが、未来は一つだ。──絶対に怒られる。
「……実はな、その、色々と事情が重なって、しぃが来れなくなってさ。俺の隣に居た子は、代理なんだ」
「代理?」
「そうだよ。雫、今回のライブ、張り切ってたみたいだから、ガッカリさせたくなくて。……ともかく、あの子は違う」
「なら、いいわ。ごめんなさいね、変に勘ぐって。さぁ、帰りましょう?」
「お、おう」
にこやかな表情に戻った雫は、慣れた様子でヘルメットを被り、バイクの後部に着いた。
顔がいい奴は怒ると怖い。噂ではなく事実だった。湊は今日のことを忘れないよう、心に刻み付け、今後は素直に全部話すことを誓う。
帰宅途中、しがみつく強さがいつもよりキツかったのを、彼は忘れないだろう。
次回もお楽しみに!
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