幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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  宮益坂女子学園の弓道部、顔面偏差値高過ぎて、敷居がヤバそう。

 p.s.
 ファイターリュウさん☆9評価、エルーシャさん☆8評価ありがとうございます! お気に入り登録してくれた方も、ありがとうございます!
 最後に一言。お気に入り登録と高評価が爆速で入ったのに、なんでUAが全然伸びないんですか?


ステージの上の偶像(アイドル)

 先日の遅刻騒動から早数日。

 湊は一人暗い顔で、夕暮れ時の下校路を歩いていた。いつもなら、雫が隣にいて、夕焼けに負けない眩しい笑顔で、彼に話しかけているだろう。しかし、生憎な事に、彼女は明日に迫った『Cheerful*Days』のライブ準備に励んでいる為、ここに居ない。

 今頃、ステージの上でリハーサルに精を出している筈だ。

 

 

 勿論、明日のライブには湊も誘われているが……少し困った事態が彼を襲っていた。

 ドタキャンだ。本来なら、雫の妹である志歩と一緒に行く予定だったのだが、つい数分前に電話があり「バイトの代勤が入って行けなくなった」と、伝えられた。何とか交渉しようとした湊だが、無理なものは無理とバッサリ斬られてしまい、途方に暮れている。

 

 

 しっかりと話せば、雫も志歩が来れない理由を理解してくれると、頭では分かっているが、湊は話せない。彼女が、悲しそうな気持ちを曖昧にするように微笑む未来が、簡単に見えてしまうから。

 

 

「どうするかなぁ……」

 

 

 呟くようにそう言って、湊は思考を巡らせる。

 代理の人間を捕まえようにも、残念ながら彼にそこまでの人脈はない。男を連れてったら即バレは確実。最低でも、背丈の近い少女ではないと話にならないだろう。

 

 

「あぁ……クソ。知り合いの少なさに泣きそうだ」

 

 

 そうして、湊が自分のぼっち具合を再確認していると、スマホから通知音が鳴った。

 確認する為にポケットからスマホを取り出し、通知画面を見ると。そこには、ここ最近で見慣れてきたSNS──Twitterのアイコンが表示され、DM(ダイレクトメッセージ)が来たことを知らせていた。

 

 

「DM……? あぁ、minoriちゃんから。内容は、っと……昨日発売されたアイドル雑誌について話したいです、か」

 

 

 文面を見て、湊は自然と頬が緩み、笑みが零れる。少しだけ、気分が晴れた。

 彼にとって、『minori』というアカウントは特別だ。知り合ったのは数ヶ月前で、SNS上の関係だが、大切な友人の一人として、湊は『minori』を認識している。

 理由は幾つでもあったが、その中で一番大きかったのは──『minori』がアイドルになろうと努力している一人だと、分かったから。

 

 

(昨日の雑誌……表紙が雫だったからもう買ってあるけど、中身は半分くらいしか見れてないんだよな。帰ったら──)

 

 

 読もう、そう考えた瞬間、閃いた。

 湊が以前聞いた話では、『minori』の身長は百五十八、体型は可もなく不可もない……らしい。服装を抜きにしても、帽子で顔は隠せる。

 

 

「……ダメもとでも、送ってみるか」

 

 

 申し訳なさと少しの期待を胸に、湊はスマホのキーボードを開き、指を動かした。

 

 ◇

 

「流石に、まだ来てないか……」

 

 

 翌日の昼、時刻は十三時三十分。ライブ会場に入場可能になる時間は十五時。

 なんとか『minori』に了承を得た湊は、前日の内に変装道具やらライブ道具を準備し、早めにライブ会場の前に来ていた。

 関係者席のチケットだが、並ぶことには並ぶし、物販もある。湊は諸々の事を含めて、一時間半前に訪れたのだ。

 

 

(えーっと……minoriちゃんの服装は、乙女色のセーターに薄黄色のスカート、白と橙の蝶リボン、と)

 

 

 事前に教えもらっておいた服装のメモを見たあと、湊はもう一度当たりを見渡す。既に人はまばらに来はじめているが、目的の人物『minori』の影は見えない。

 服装の確認はしたのに、何故昨日の内に集合場所を決めなかったのか? 

 湊は自分自身に腹を立てつつ、Twitterを開く。DMが来ていないか見てみると、「もう着きました!」というメッセージと、絶妙にダサいラッコのスタンプが送られてきていた。

 

 

「ん〜……それっぽい人は、見えないんだけどな」

 

「……あっ、あの! minatoさん、で合ってますか?」

 

「えっ?」

 

 

 突如、後ろから掛けられた言葉に、湊は驚き間の抜けた声を出してしまう。

 心を落ち着かせるように、ゆっくりと後ろに振り向くと、そこに居たのは乙女色のセーターに薄黄色のスカート、白と橙の蝶リボンを見に纏った可愛らしい少女だった。

 顔立ちはあどけなさの残る可愛らしいもので、明るい茶色の髪は肩先ほどのセミロングで整えられており、鼠色の瞳には少し不安の感情が伺える。

 

 

 在り来りな言葉で表現するなら、『minori』は美少女だった。

 

 

「……もしかして、君がminoriちゃん?」

 

「はっ、はい! 今日は誘って頂いてありがとうございます!」

 

「会えて良かったよ。あぁ……一応、改めて自己紹介しようか。リアルで会うのは初めてだし。月野海湊、17歳。神山高校に通ってるよ」

 

「わ、わたしは、花里(はなさと)みのり、16歳です! え、えっと……学校は宮益坂女子学園に通ってます!」

 

「ちょっ! みのりちゃん、声。声抑えて! 周りにも聞こえちゃうから」

 

「そ、そうでした! ごめんなさい!!」

 

 

 あわあわと慌てて謝る様子が、一瞬、ほんの一瞬だけ、湊の中での雫と重なった。いや、重ねてしまった。

 

 

 その後、一旦場所を移動した二人は、適当な場所で腰を下ろして、会場に入るまでの時間の潰し方を話していた。

 

 

「物販はどうする? 行くなら付き合うけど?」

 

「お願いしても、良いですか? Cheerful*Daysのライブに来たの初めてで……。曲やメンバーさんは知ってるし、一応うちわは作ってあるんですけど、ペンライトが無くて」

 

「そっか。俺のを貸すのもアレだし、この際、買っちゃった方が早いよね。何色にする?」

 

「まだ、決まってなくて……昨日の内に上がってるMVとか、ライブの映像は見たんですけど、どうしようかな、って」

 

「まっ、焦んなくてもいいんじゃない? 決めきれなかったら、無難に俺と同じで空色のペンライト振るのも悪くないよ」

 

「そ、その時はそうしますね。ありがとうございます!」

 

 

 さり気なく、自分の幼馴染みを押す湊の姿は、知り合いが見れば苦笑を零すこと間違いなしだろう。もっとも、みのりもSNS上で湊の推し(幼馴染み)を知っている為、若干引き笑い気味だったが、しょうがない事だ。

 

 ◇

 

 物販も周り終わり、程なくして入場時間になった。

 何度か顔を合わせたことがあるスタッフに湊がチケットを渡すと、みのりと共に違う道に案内されて行く。

 最初はウキウキとしていたみのりだったが、段々と人並みから離れていくのを感じ、ソワソワし始める。

 

 

「あ、あの、湊さん? わたしたち、どこに……」

 

「もっと、ステージが見えるところだよ。……言い忘れてたけど、今回のライブは特等席──関係者席で見れるよ」

 

「えっ……えぇぇぇぇぇえ──ー!?!?」

 

 

 驚き、固まってしまったみのりの手を引き、湊は関係者席まで歩いて行く。雫が無理を言って取らせてもらった席だ。後ろのスクリーンも、ステージ全体も見やすい位置にあり、アイドルが肉眼で相手を見ることだってできる最高の場所。

 気が遠のいているみのりに、湊は念の為、帽子を被せて座らせる。

 少し見辛くなってしまうが、そこは既にOKを貰っているから大丈夫。そう自分に言い聞かせて、彼も席に着いた。

 

 

 みのりの意識が戻るのと、Cheerful*Daysのメンバーがステージに上がって来たのは、ほぼ同時刻。

 彼女は、眩しいくらい明るいステージライトで目を覚ます。

 

 

『みなさーん! 今日は、私たちCheerful*Daysのライブに来てくださり、ありがとうございます!』

 

 

 センターである雫が、トップバッターとして挨拶をし、そして、それに続くように他のメンバーも言葉を紡いでいく。

 

 

『みんなのこと、ぜーったい楽しませるから! 最後まで盛り上がっていこーね!』

 

『それじゃあ、先ずは最初の一曲、いっくよー!!』

 

 

 会場の熱を冷ます余裕を与えないよう、Cheerful*Daysはオープニングの挨拶から、手早く最初の曲に移る。

 正直、そこから語ることは多くない。

 熱狂に次ぐ熱狂が会場全体を覆い、一切冷めることはなくライブが続いた。誰もがステージの上の偶像(アイドル)()()に視線も、意識も奪われる。

 

 

 唯一湊だけが、アイドルたち──ではなく、彼の思う最高の日野森雫(アイドル)に視線も意識も奪われていた。

 完璧だった。

 メイクで整えられた綺麗な顔、華麗で可憐な衣装、一つ一つの仕草、全てが調和され、仕上げられている。

 

 

 裏にある努力を、湊は知っていた。

 ステージに立つと言うことは、並々ならぬ努力の積み重ねの上に立つのと同義。しっかりとした土台が無ければ、呆気なく崩れ落ちる。

 だがしかし、湊は雫が崩れ落ちるなんて微塵も思っていない。

 誰よりも隣にいた自信があった。彼女の為に、やれることは全部手伝ったと思っている。

 

 

 それは信頼であり、ある種の期待だった。

 湊は、雫を心の底から、信じていたのだ。

 

 

『──────────────』

 

「……あぁ」

 

 

 視線がぶつかる。きっと、数秒にも満たない交差だ。

 けれど、湊はその数秒の重なりで、しっかりと思い受け取った。

 

 

『私から絶対に、目を離さないで』、そんな一途な思いを。

 

 ◇

 

 二時間のライブが終わったあと、湊は一人、関係者席から、控え室前に訪れていた。言わずもがな、雫のお迎えだ。彼は今日も今日とて、彼女を送ってきたのだ。

 因みに、みのりとは既に別れている。恐らく、近くでアイドルを見たお陰で、夢の炎にガソリンが投下されたのだろう。「早く帰って練習するね!!」と、言い残して去っていってしまった。

 

 

 湊としては、都合が良かったので、気を付けて帰るよう注意しただけだ。

 

 

「月野海です、雫を迎えに来ました」

 

「はーい! 着替えは終わってるから、もう入っていいよー」

 

 

 声がドア越しに聞こえてから、少し間を置いて、湊は中に入った。控え室にいたのは着替え終わって私服のCheerful*Daysのメンバーと、マネジャーであろうスーツの女性が一人。湊でも、全員が全員、知り合い程度には話せる人たちだ。

 

 

「態々いつもごめんね。事務所の私たちが送るより、君が送ってくれた方が安全だから頼っちゃって。……これ、少ないけど受け取って」

 

「別に、要りませんよ。俺が趣味でやってるようなもんですから。それに、アイドルの皆さんと話せるだけでも、充分貴重な体験です。……ほら、雫。遅くならない内に帰ろう」

 

「えぇ! それじゃあ、皆さん先に失礼します。お疲れ様でした!」

 

『お疲れ様です!』

 

 

 皆に帰りの挨拶を済ませた雫と湊は、控え室を出て、出口まで歩いていく。その中でも、雫はすれ違うスタッフ一人一人に「お疲れ様です」と、挨拶をする。そんな幼馴染みの真面目な仕事姿を見て、湊は誇らしく思った。

 

 

「本当にお疲れ様、雫。今日のライブも、最高だったよ」

 

「そう、よかったわ! ……ねぇ、みぃちゃん?」

 

 

 ようやく外に出て、駐車場に着いた二人。

 湊が雫を労い。雫が湊に微笑み返す。ライブ後にやる、お決まりの流れをやり終わったあと、雫の一言で空気が変わった。

 

 

「ど、どうしたんだ、雫?」

 

「今日、みぃちゃんの隣にいた子は、誰?」

 

「勿論、しぃ──」

 

「嘘はやめて。しぃちゃんを私が見間違えるはずないもの」

 

 

 冷たい視線が、刃となって湊に突き刺さる。これ以上の誤魔化しは効かない、本当のことを言うしかない。

 選択する権利自体は残されているが、未来は一つだ。──絶対に怒られる。

 

 

「……実はな、その、色々と事情が重なって、しぃが来れなくなってさ。俺の隣に居た子は、代理なんだ」

 

「代理?」

 

「そうだよ。雫、今回のライブ、張り切ってたみたいだから、ガッカリさせたくなくて。……ともかく、あの子は違う」

 

「なら、いいわ。ごめんなさいね、変に勘ぐって。さぁ、帰りましょう?」

 

「お、おう」

 

 

 にこやかな表情に戻った雫は、慣れた様子でヘルメットを被り、バイクの後部に着いた。

 顔がいい奴は怒ると怖い。噂ではなく事実だった。湊は今日のことを忘れないよう、心に刻み付け、今後は素直に全部話すことを誓う。

 帰宅途中、しがみつく強さがいつもよりキツかったのを、彼は忘れないだろう。

 




 次回もお楽しみに!

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