タグ付けとけよって話ですが、基本「幼馴染みは顔がいい」は週一投稿です。
そこら辺を踏まえた上で気長にお待ち下さい。
そうそう、皆様のおかげで! なんとなんと、日間ランキングにのりました! 別作品で一度乗ったことはありますが……嬉しい、嬉しいです! お気に入りもUAも増えて万々歳ですね!
今後とも、よろしくお願いします!
p.s.
セイランさん☆10評価、稲の字さん☆9評価、わけみたまさん☆7評価、ありがとうございます!
バーに色が着いたので、その色に恥じぬ話を書いていきます!
月野海湊はアルバイターだ。平日に二日、土日に一日、バイト先である古本屋に出勤し、コツコツ働いて小金を稼いでいる。
バイクのメンテナンス代や、アイドルグッズ代、本や映画鑑賞にかかる代金。なにかとお金がかかる趣味が多い彼にとって、バイトは生命線だ。もしそれが途絶えたなら、新たなバイト先を目指して走り出すことになるだろう。
だが、それも要らぬ心配だ。湊は、基本的に努力を惜しまずするタイプで、職人気質な面もある。知らないこと、分からないことは調べ、覚えて、実践して確認。
慣れてくれば、どうすれば効率が良くなり、作業の時短に繋がるのか、店長や先輩の技を見て盗んでいく。
加えて、湊は昔から、祖父と遊びでオモチャやバイクを改造したり、雫が壊したり不調にした機械の修理をしていたこともあり、細かい作業はお手のもの。
勤め始めて一年半が経った現在では、頼るより頼られる立場に回ることが多く、時給も上がりまくりだ。
そして、彼は今日もバイトに精を出している。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ〜」
会計を終え、去っていく客に、湊は定型文を言い持ち場の加工台に戻る。彼がふと時計を見やると、時刻は九時を回っていた。
(……やべぇ、上がる時間とっくに過ぎてる。確か、お昼に入ったから……一時間過ぎてるな)
湊の背中に嫌な汗が流れた。彼が働く古本屋は、全国各地に店を構える、チェーン店である。そして、そこのシフトは、休憩含めて八時間が限度。それ以上の労働は、本部に自動でメールが送信され、回り回って店舗に連絡がくる。
過去、湊が店長に注意を受けたのは一度ではない。「仕事に真摯に向き合う姿勢はいいけど、限度は覚えて」と、何回言われたことか。
(諦めは肝心、諦めは肝心)
そう、心の中で呟きながら、カウンターを他の同僚に任せ、彼は退勤を切って従業員室に歩いていく。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
すれ違う同僚に挨拶し、辿り着いた従業員室。パスワード式のドアを開けて中に入ると、休憩中の店長が椅子に腰かけて、スマホを弄っていた。
いつものように「お疲れ様です」と、一言声をかけてからエプロンを脱ぎ、奥の金庫がある部屋で、作業着から私服に着替える。
店長も男性だが、湊は着替えを見られていい気分がする人種ではない。
「……すみません、店長。明日発売の雑誌の件なんですけど──」
「Cheerful*Daysの特集記事があるやつだよね? 大丈夫、大丈夫。もうここにとってあるから、帰りに買っていっていいよ」
「いつも、ありがとうございます……!」
「湊くん、いつも落ち着いてるけど、雫ちゃんの雑誌や本を貰う時は凄くいい顔してるよね〜」
「そう、ですか?」
「うんうん。一年半も一緒にいれば、なんとなくわかるよ。本当に大好きなんだね?」
「まぁ、それは……」
時間のことを問い詰められる前に、話題を作ろうとした湊だが、どうやら墓穴を掘ったらしい。自分の方をニヤニヤと見つめてくる店長から逃げるように、ロッカーに向き直り、荷物を取り出す。
バッグからスマホを取り出し、代わりに作業着を突っ込む。
雫に今日もレッスンがあることを知っていた湊は、もう帰ってるだろうと思いつつも、GPSを起動し彼女の現在地を確認した。
「……珍しいな、こんな時間までやってるなんて」
スマホの画面に映し出された地図のある場所に、雫のマークが重なる。そこは、Cheerful*Daysの事務所兼劇場だった。
◇
雫たちがレッスンをするCheerful*Daysの劇場には、冬だというのに熱気が立ち込めていた。誰もが滝のように汗を流しながら、次回のライブのために、必死で練習し続けているからだ。
そして、その中でも群を抜いて汗や疲労感が目立つものが一人。──いや、そんなもの抜きにしても、圧倒的なオーラを放つ存在が一人、居た。
雫だ。
彼女は、他のメンバーが休憩する時間も全て練習に当てて、モデルの仕事で出遅れている分を取り戻す。
仕事が貰えるのは有難い事だが、それを理由にダンスのキレをなくしたり、歌の部分を犠牲にはできない。
完璧な
だが、そんな彼女の姿をよく思わない者は、少なからずいる。残念なのは、その少ない者が仲間として、彼女の傍に居たこと。
スピーカーから流れる音楽に混じって、軽蔑の
広いシアターに、多くの仲間がいて。支え合って、踊って、歌っているのに、自分だけが浮いている感覚。
虚しくて、悲しくて、辛いのに、微笑みだけは絶やさず、練習を押し通す。そうこうしていたら、いつの間にか時間は過ぎていき、劇場に残っているのは雫だけになっていた。
途中、何人かは、帰ろうと声をかけていたが、彼女は「遅れている分、早く追いつきたいから」と断り、練習を止めようとしなかった。
「はぁ……はぁ……もっと、頑張らなくちゃ……!」
彼女を、雫を追い詰めるのは、矜恃なんてちっぽけなものじゃない。ファンを想う心はあれど、アイドルが本当に好きかもわからなくなりつつある、そんな彼女を追い詰める理由は──恋だった。
見に来てくれる幼馴染みに、最高のパフォーマンスを魅せたい。歌も、ダンスも、一つ一つの動きを完璧にして、届けたい。
何度も頼って、ダメなところを散々見せた雫だが、ステージの上でだけは完璧な
どこからか歪んで、関係も変わって、伝えられない恋心が雫を追い詰める。
(ステージの上でだけなら、みぃちゃんは私だけを見てくれる。私を……見続けてくれる。──でも、それは本当の私なの?)
完璧な
地道な努力によって作り上げたのが完璧な
十七年の人生の軌跡が生み出したのが素。
それが雫の認識だ。
もし、 湊の前で見せている素の日野森雫ではなく、ステージの上の完璧な
とっくに彼女の中で答えは出ている。自分の恋はバッドエンド。絶対に実らないし、実ったとしても苦しくなって逃げていくのがオチだ。
見て欲しい、見続けて欲しい、そんな思いと、素の自分を好きになって欲しいという思いが、混在する。
グチャグチャになって、吐き出せなくなって、でも、湊の前に立ったら忘れてしまう。嬉しくて、温かくて、忘れてしまう。
「私は……なにがしたかったのかしら」
誰もいない劇場に、彼女の声がポツリと響く。
練習を続けようにも、やる気はもう、出てこない。さっきまではあったものが、スっと抜けていく。冷めていく。
途端に肌寒くなって、雫はそそくさと更衣室に駆け込んだ。
中は、蛍光灯の調子が悪いのか妙に薄暗く、なのに何故か暖かい。仲間の誰かが気を利かせて、暖房でもつけておいてくれたんだろう。
些細な心遣いが、彼女の胸に響く。
ロッカーを開ければ、「お疲れ様」と書かれたメモと、その上に重石のように置かれたスポーツドリンクがあった。
一瞬、涙が顔を出したが無理やり引っ込めて、すぐに着替えて劇場の外に出る。
無論、一人で帰れるわけもなく、スマホを出して、父親に電話をかけようとしたその時。彼はいつもと変わらない、なんてことないような声音で雫に声をかけた。
「お疲れ、雫。……こんな時間まで残ってるなんて、珍しいな」
「えぇ、そうね。最近はモデルのお仕事が立て込んでて、レッスンの時間が取れてなかったから頑張ろうって思ったんだけど……心配かけちゃったみたい」
「俺は、珍しいな、としか言ってないんだけど」
「それでも、心配はしてくれたんでしょ? みぃちゃんは」
「……………………」
「ごめんなさい。……少し熱くなりすぎて、周りが見えてなかったみたい。ダメよね、私。センターなのに」
自嘲気味に笑う雫を見て、その言葉を聞いて、湊は怒ることなく寄り添い、自分に巻いていたマフラーを外し、彼女の首に巻いた。
「周りが見えてないってことは、逆に言えばそれくらい熱中できてる、夢中になれてるってことだ。一概に悪いって決め付けるのは良くない。……それに、俺は雫のそういうアイドルに対して真摯に向き合ってる姿は──好きだ」
「……ぇ?」
「ほら、風邪ひく前に帰るぞ」
「……っ! ま、待って、みぃちゃん! 今日は……ゆっくり帰らない?」
「お前がそれでいいならいいけど……寒くないか?」
「ううん。とっても、あったかいわ」
「そうか」
そう言うと、湊は近くに止めて置いたバイクを取りに行き、雫はそれを待ちながら空を見上げた。
夜空には黄金色に輝く満月と、宝石のように光る星が浮いていて、彼女の口からは自然と、ある言葉が出てくる。
「みぃちゃん! みぃちゃん! 見て見て、お月様が凄く綺麗よ!」
「……あぁ、星も綺麗だな」
「ゆっくり帰るって決めて正解ね、みぃちゃん!」
「かもな」
離れた関係を埋めるように、縮まらない距離を埋めるように、二人は並んで帰路に就く。
会話が絶えることは、なかった。
因みに、この話までがプロローグです。
次回からはようやくユニットストーリーだぜ!
次回もお楽しみに!
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