見つけてもらいたくて迷子になるとか、最高かよっ!!
遅れましたが、mitsuさん。星10評価ありがとうございます!
UA増えませんが、お気に入りと高評価は少しづつ増えて嬉しいです!
太陽が本格的に仕事を始めた祝日のお昼過ぎ。湊は、仕事終わりの雫を迎えに行くために、バイクを走らせていた。目的地でもある収録先は、いつも送り迎えをしている事務所兼劇場の近くであり、彼にとっては来慣れた道だ。
もっとも、だからといって雫が一人で帰れるわけもなく、湊は今日も今日とて彼女の足となる。
「確か、この辺だったよな……?」
スマホのナビ画面と辺りの様子を確認しながら、幼馴染みの影を探す。もし、人波に紛れていたとしても、雫は目立つ。圧倒的なオーラと顔の良さで、周りが勝手に避けていく。
それを見つけるのは、そこまで難しいことじゃない。ましてや、湊は幼馴染み。何度、妹分である志歩と一緒に、彼女を探し回ったことか。
彼にとっては、朝飯前も同然……の筈なのに。いくら見渡しても、影が見えない。湊の心がざわつく。嫌な予感がした。
(……大丈夫。少し確認するだけだ)
自分にそう言い聞かせ、湊は嫌々ながらもマネージャーに電話をかけようとしたその時。偶然か必然か、マネージャーの方から電話がかかってきた。
ため息が漏れる。どうやら、湊の嫌な予感は的中していたらしい。
『……もしもし、月野海です』
『ごめんなさい、湊さん! ……実は、日野森さん、もう先に帰っちゃったの!! 何度も止めたんだけど、「大丈夫です!」って、笑顔で言うものだから……そのまま。こっちでも探してるんだけど、中々見つからなくて……悪いけど、お願いできる?』
『わかり、ました。俺も動きます』
その言葉を最後に電話を切り、急いで雫の電話に取り付けられたGPSの信号を確認する。親御さんが心配して取り付けたものだが、主に利用して彼女を探しているのは湊だ。
愚痴りたい気持ちは少なからずあったが、それを飲み込み、GPSが示す場所に向かおうと、もう一度バイクを走らせた。
運がいいことに、渋滞に引っかかることもなく、湊は着々と雫との距離を詰めていたが──またしても嫌な予感が彼を襲う。
とっさの判断で、GPSが映し出される画面のスクリーンショットを撮った次の瞬間、先程まであったGPSの点が消えた。
お忘れかもしれないが、日野森雫は、地図が読めない極度の方向音痴であり……
それは、バイクのような乗り物でも例外はなく、運が悪ければ五回に一回の確率でメンテナンス行きにさせられる始末。
頑張れば直せる程度で済んでいるのが、唯一の救いだ。
「……最悪だな」
なんとかスクリーンショットを撮れたは良いが、湊はため息を吐くしかない。理由は単純、撮った写真に映る位置から、雫がどう動くか完全にランダムだからだ。
来慣れた、見慣れた道を歩く人間のパターンは決まっているが、彼女のような散歩好きの独特な感性を持った人間が歩く道に、パターンなんてものは存在しない。
信号待ちの間、湊が道路脇で頭を悩ませていると、スマホに電話がかかってくる。彼が画面を見ると連絡先設定はされてないのか、番号だけが羅列されていた。湊は少しだけ、どこかで見たことのある番号だと思った。
『もしもし、月野海ですが……』
『よかった……あってたみたいですね』
『……ん?』
電話越しに聞こえる女性の声音も、どこかで聞いたことがある。「誰だったっけ?」、頭の中に浮かぶもやもやが、掴めるようで掴めない感覚。
そんな湊の状況を知ってか知らずか、通話相手の女性が話を進める。
『実は今、日野森雫さんを保護しているんです。……彼女曰く、この番号に電話すれば大丈夫だと言われたので連絡したんですけど、月野海湊さんで間違いないですよね?』
『あ、あぁ。間違いないけど……って、雫を保護してる!?』
『はい。道に迷ってるようだったので』
『……ホント、すみません。今から迎えに行くんで、場所教えて貰っていいですか? あと、お名前も』
『私の方こそすみません。名前、言い忘れてました。──
『……はぁ?』
雫を保護した相手は、国民的人気アイドルグループ『ASRUN』に所属し、その中でもカリスマ的存在で人気を誇っていた『桐谷遥』その人だった。
◇
「月野海さんに連絡がついてよかったね、雫」
「ありがとう、遥ちゃん。お陰で助かったわ。……ごめんなさいね、プライベートなのに」
「全然平気。それに、最近は会うこともなかったし、話したいこと色々あったから」
「そう! それじゃあ、みぃちゃんが来るまでいっぱい話しましょう!」
穏やかな笑みを零す遥と、ニコニコと笑う雫。
ファミレスの店内、奥角にある二人が座るテーブルは、そこだけが隔離されたかのように浮いていた。
雫の容姿も確かに目を引くが、遥も負けていなかった。雫の流すような空色のロングヘアと対比された、キチッとまとめられた中縹色のショートヘアに、人を惹き込むアクアブルーの瞳。可愛らしいとも綺麗ともとれる端正な顔立ちは、モデルの仕事が多い雫にも、全く引けを取らない。
会話はありふれたものが多く、最近の調子や、面白かったドラマ、ハマっている本、流行の服。コロコロ変わっていくが、雫は痛い部分に触れないように、仕事に関しては何も言わなかった。
共演の回数が減り、『ASRUN』のライブの回数も減少、最近ではテレビでも遥の露出が少なくなってること。彼女はなんとなく、気付いていた。
しかし、触れようとはしなかった。自分にも、触れられたくない部分ができてしまっているから。それで動揺している所を、いつ来るかわからない
「前から聞きたかったんだけど……雫にとって、月野海さんってどんな人なの?」
「私にとっての、みぃちゃん?」
「うん。妹さんの話もよく聞くけど、月野海さんの話も偶にするから。何回か会ってちょっと喋っただけだし、気になってたんだ」
「……みぃちゃんは、私にとって、お月様みたいな人」
「月? それは、どうして?」
「みぃちゃんはね、凄く優しいの。鈍感な時もあるけど、細かい気遣いができて、私が言い出せなくてもゆっくり待ってくれる。苦しい時も辛い時も、何も言わずに支えてくれる。ファンに希望を届ける私の、あたたかい希望の光なの」
「……そっか。月野海さんは、雫の大切な人なんだね」
「えぇ。みぃちゃんは大切な、幼馴染みよ」
幼馴染みと言い張るには、些か慈しみや愛しさが溢れ過ぎていたが、遥はそれに気付きながらも、口を出そうとも思わなかった。
むしろ、出したくないとすら思った。アイドルの恋は毒だ。いずれ、自分も周りも侵し、殺してしまう。けれど、アイドルの恋は儚いからこそ美しい。実らなかったとしても、その恋は未来に繋がる。
一瞬、遥は未来の自分を雫に重ねてみた。悪い気は、しなかった。
それから待つこと十数分。湊がようやく二人の元を訪れた。
雫は先程まで遥に向けていた笑顔より数倍明るいものを、彼に向ける。周りから見たら一目瞭然なのに、彼女は隠せていると思っているのだろうか。
「いい笑顔で出迎えてくれてありがとう、雫。でも、顔がいいからってなんでも許されるわけじゃないからな? わかったら、今度から俺を待て。今日は桐谷が拾ってくれたから助かったけど、何かあったらどうする気だ?」
「みぃちゃん……」
「まぁまぁ、そこまで言わないであげてください。私は迷惑なんてしてませんし、雫と久しぶりに話せて嬉しかったですから」
「桐谷……お前がそう言うなら、いいけどさ」
呆れたような困ったような、そんな曖昧な表情の湊は一息つくためにも席につき、入れ替わるように、雫が化粧直しで席を立った。
湊と遥は初対面ではない。仕事場で何度か顔を合わせ、少しくらいなら話したことがあるが、その程度。友達の友達と一緒にいるのは、案外居心地が悪い。
何か話題がないか遥が考えていると、湊が雫と同じように、「最近どうなんだ?」と問い掛けてきた。
「最近、ですか?」
「あぁ。……言っちゃ悪いけど、最近は雫と共演もしてないし、ASRUNのライブ回数も減ってる。ちょっと前まではテレビで引っ張りだこだったのに、今じゃ顔もあまり出さない。一ファンとして、気にならない方がおかしいだろ?」
「……………………」
「……言えない、か?」
「はい」
「ならいいよ。聞いた俺も悪いし、忘れてくれ」
幼馴染みとして、湊と雫にそこまでの違いはない。
湊は気付いて踏み込んでも、最後の一歩は弁える。雫は気付いていたら、そもそも踏み込まない。
助けたい思いはあっても、傷つけたいとは思わないから。
「月野海さん」
「……湊でいいよ。桐谷に敬語を使われるのは、少し肩がこるし、後輩もそんなんばっかだから」
「じゃあ、湊さん」
「なんだ?」
「湊さんにとって、
含みがあった。
あくまで、遠回しに聞いた。
直接聞くのを遥は少しだけ躊躇った。
「俺にとってのアイドルは……お日様──太陽かな」
「……太陽、ですか」
「どんなに苦しくても、辛くても、ステージに立てば、俺たちファンを照らしてくれるあたたかい光。ファンの為に、必死になって努力する眩しい存在だよ。アイドルは」
「ありがとうございます。湊さんのこと、なんとなくわかりました」
この先の未来を、二人はまだ知らない。
だから、特に絆を紡ぐこともないし、気張らない。ファンとアイドルであり、友達の友達。微妙な距離感があった。
◇
「みぃちゃん、ありがとう。遥ちゃんに畏まらず、話してくれて」
「別に、お礼を言われることじゃないよ。俺は、桐谷をアイドルとして、人として尊敬してるけど、彼女は畏まって喋られるのは嫌なタイプだと思ったから、普通に話した。桐谷にも、普通でいいって言った。俺がそうしたかっただけだよ」
「……それでも、ありがとう」
「どういたしまして」
照れを隠すように、湊は駐輪場まで歩いていく。雫も、それに置いていかれないように後に続く。
隣ではなく斜め後ろで、顔を覗き込むように、ニヤニヤと笑みを零す。
そして、忘れていたことを思い出したように、また表情を変えた。
「──そうそう! 私ね! 今日は帰る方向自体は間違えてなかったの! 少しだけ脇道に逸れちゃったけど、もう少しで帰れたと思うわ!」
「……おめでとう」
「昔みたいに、撫でて──くれないの?」
「人前だからな」
「けど、昔はどこにいてもやってくれたわ」
「せめて……変装してからな」
「今がいいの。それとも、嫌?」
顔がいい幼馴染みの上目遣いは、効果がバツグンだ。
相も変わらず、湊に選択肢はなく。
夕暮れ前、人通りがそこそこに多い歩道で、雫の頭を撫でる彼の顔は、羞恥に赤く染まっていた。
次回もお楽しみに!
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