幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 投稿は遅れましたが、私は元気です。今日は文字数多め。
 今やってるレオニードのイベントで運営の強さを思い知りましたよ、まったく。焦らしプレイの天才ですね、カラフルパレットの人たちは。


 遅れましたが! 連続で日間ランキングにのることができました!
 皆さま、ありがとうございます!!!


 p.s.
 かしうりさん、☆9評価ありがとうございます!
 明日は頑張ってバレンタイン短編もあげるつもり。


運命の歯車は動き出し、セカイは繋がる

 月曜日の朝。それは多くの人間にとって憂鬱な朝だ。学校や職場に行くために早く起きて、身だしなみを整えて、食事をとって家を出る。

 電車、バス、自転車に車、徒歩。様々な方法で、目的の場所に向かう。朝日の眩しさも、この日だけは鬱陶しく感じるのが人間だ。

 例外はなく、湊もそれなりには憂鬱に感じ、面倒臭いと愚痴を零す。そして、雫は微笑みながらそれに相槌を打つ。

 

 

 毎週のルーティーンと言っても過言ではなかった。リンゴが木から落ちるくらいには、川に投げた石が沈むくらいには、極々当たり前のものだった。

 お決まりの流れ、と言うやつで、彼にとって日常の一部に自然と溶け込んでいた──その筈なのに。

 今日に限って、彼女の相槌は返ってこなかった。

 

 

(……しぃが言ってたのは、本当だったのか)

 

 

 原因は分からないが、雫の調子が良くないのは、既に湊の耳に入っていた情報だ。多少驚くことはあれど、表情には出さず、今朝方に志歩から送られたメールの文面を思い出す。

 

 

『今日のお姉ちゃん、なんか変だった。私が話しかけてもずっと上の空で……なにかあったんだと思う。気にかけてあげて、湊にい』

 

 

 反抗期なのか、チューナーやスピーカーの修理以外でろくに連絡をよこさなかった妹分からの、意味深なメール。変な嘘などつかないとわかっているからこそ、彼は重く考えていた。

 今の雫に、気休めの言葉はいるのか、気の利いた言葉はあるのか。そんなことを考えながら、湊は適当な話題を振って様子を見る。

 

 

 時々、彼女はハッとしたように我に返って、当たり障りのない言葉で答えてくれるが、それだけ。会話の八割は彼の一人語りで、寂しさが漂ってくる。

 届きそうで届かない、そんな場所で雫は一人泣いている……ように、湊には見えた。現に、そうだった。

 

 

 彼女の脳裏に渦巻く感情は、疑心、罪悪感、不安、恐怖。全てが負の感情で、埋まっていた。Cheerful*Daysの仲間からのいじめ、アイドルを不純な理由で続け、アイドル自体が好きかわからなくなってる自分。

 グルグルと巡って、巡って、混ざり合って溶けていく。どうすればいいのかわからなくて、泳げないくせに底の深いプールに入って、溺れていく。もがけばもがくほど沈んでいくのに、じたばたと足掻くだけで、差し出された手を見もしない。

 

 

 あることは分かってる。きっと、掴めば引き上げて、楽にしてくれるんだろうな、と気付いてる。

 けれど、雫は──アイドルだ。湊にとって最高のアイドルだ。失望して欲しくない、今まで積上げたものを壊したくない。

 嫌われるのが、怖い。

 

 

 だから、なにも言えない。伝えられない。

 想いは、変わっていないはずなのに。

 

 

「雫? もう見えてきたぞ、学校」

 

「……あら、本当ね。ここまでで大丈夫よ、みぃちゃん。今日もありがとう」

 

「別に、いつものことだろ。律儀だな、雫は」

 

「お礼は、言うのが大事なのよ?」

 

「……そうだな。まぁ、帰りも来るから。用事があるなら連絡してくれ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

「なんかあったら、言うんだぞ?」

 

「心配し過ぎよ、みぃちゃん」

 

 

 愛想笑いは、雫の中で武器の一つ。だが、湊には、向けたくないものだった。

 

 ◇

 

 湊と別れたあと、雫は完璧な自分を演じて一日を過した。多分、きっと、自分ではそのつもりだったのだろう。もっとも、彼女をよく知るものからしたら、不自然でしかなかった。

 何故なら、あまりにも力が入り過ぎていたから。

 演じて他人は騙せても、親友は騙せないし、自分も騙せない。運が悪いことに、雫の親友は同じクラスにいた。

 

 

 研究生時代からの、大切な親友──桃井愛莉が居た。放課後になって問い詰められたのは、当然のことだったのかもしれない。

 

 

「雫、ちょっと話があるの。屋上まで付き合ってちょうだい」

 

「……すぐ、行くわ」

 

 

 2-Dの教室から屋上までの道のりは長くないのに、雫の足取りは重かった。元とはいえ、同業者(アイドル)に愛想笑いや作り笑顔は通じない。湊にも通じてるか怪しいのに、使えるわけがない。

 道中、愛莉に掛けられた言葉は、耳に留まることなく抜けていく。雫は曖昧な返事しかできなかった。そして、それが心配している愛莉の心を逆撫でする。

 

 

「はっきりしなさいってば!!」

 

「っ!」

 

「……いい? ちゃんと話すまで帰さないからね! ほら、早く来なさいよ!」

 

 

 怒鳴ってしまって申し訳ないと思いつつも、愛莉の中の感情は収まらない。歩くのが遅い雫の手を引きながら、誰もいないであろう屋上のドアを力いっぱいに開けた。

 青空が広がる清々しい景色だが、今の二人の視界にそんなものは入らない。

 

 

「……雫。わたし、昔の後輩から聞いたのよ。アンタがメンバーとうまくいってないとか、移籍するとか、変なウワサが立ってるってこと」

 

「…………」

 

「……本当なの?」

 

「それ……は……」

 

「はっきりしなさいよ! 中途半端な態度が一番良くないのよ! アンタがそんなだと、ファンだって不安になるじゃない!」

 

「わかってる。わかってるけど……」

 

「大体! アンタにはこういう時、頼りになる人間が身近にいるでしょ! なんで相談しないの!?」

 

「みぃちゃんは関係ない!!」

 

 

 心配だからこそ怒っている愛莉に対し、雫は逃げ続けるだけだった。希望の光は──解決への糸口は目の前に垂らされているのに、取ろうとすらしない。

 一歩前へ進めたら変わる。逆に、一歩前に進んだら変わってしまう。

 関係は変わらずとも、距離は離れずとも、心の持ち方が変わってしまう。

 

 

 お互いに言葉を口に出せず、悪い方向に空気が持っていかれそうだったその時、給水塔の影から二人の少女が現れた。

 一人は、アイドルを目指す少女花里みのり。もう一人は今日、所属していたアイドルグループ『ASRUN』が解散し、芸能界からの電撃引退も同時に発表されたカリスマアイドル、桐谷遥。

 

 

 偶然にも、アイドルを辞めた少女と、アイドルを目指す少女──そして、未だにアイドルである少女が揃った。

 

 

「……!! ASRUNの、桐谷遥……!? アンタ、この学校の生徒だったの!?」

 

「遥ちゃん……?」

 

「久しぶり……でもないか。ファミレスで話して以来だね、雫」

 

 

 さっきまでの話を聞いていたとは思えないほどスムーズに、遥は二人の間に割って入る。あくまで自然体で、それでいてアイドルとしての形も保っている姿は、とても綺麗だった。

 しかし、大切な話をしている側の愛莉からしたら、たまったものではない。本来向けられないはずだった怒りは、暴発して遥にも飛び火した。

 

 

「ちょっと、こっちが話してるのよ! コソコソ盗み聞きなんていい度胸じゃない!」

 

「盗み聞き? そっちが勝手に誰もいないって思って、大声で騒いでただけじゃないですか」

 

「なっ……!!」

 

「安心してください、さっき聞いたことは誰にも言いません。辞めたとはいえ、それくらいの常識はありますから」

 

「な、なんて生意気な……! まったくこれだから大手のアイドルは……! ま、今聞いたこと話さないならいいけど! そっちのアンタも話さないでよ!?」

 

「い、言いません! 誰にも言いません!」

 

 

 自分の注意力のなさと、それに比例して募る苛立ち、関係のない人間にも当たってしまった不甲斐なさ。

 普段の自分からはかけ離れた行いに、愛梨はため息を吐くことしかできず、これ以上なにかしてしまわないように、出ていって欲しいと伝えると……

 

 

「あ、あの……でも……」

 

「何よ。……まだ、何か用?」

 

「あとから来ておいて出て行けなんて、勝手ですね。彼女の方が先に、ここでダンスの練習をしていたんですけど」

 

「はぁ……? ダンス? ひとりで? なんでよ? アンタ、ダンス部かなにかなの?」

 

「あ、えっと……わたし、その、アイドルを目指してて……!」

 

「アイドル? アンタが?」

 

「は、はい! わたし、アイドルになるのが夢なんです!」

 

 

 アイドルになるのが夢だと宣言するみのりの表情は、希望に満ち溢れていて、それとは対照的に他三人の表情は暗い。

 その後、愛莉が呆れながらも話を聞いていくと、悲しい現実がポロポロ出てくる。五十回応募して、書類審査を通ったのは三回、二次審査に通ったことは未だになし。

 

 

 自分に自信があっても、アイドルが夢だとしても、それだけやれば諦めもつくだろうに。みのりは、「がんばります!」の一点張り。

 確かに、努力は報われる。結果が伴わずとも、努力したという事実は残る。けれど、それだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。

 頑張って努力して偉いね、こう誰かに褒められればマシなだけで、現実は甘くない。

 

 

 みんながみんな努力している。みんながみんな頑張ってる。努力量がいくら違っても限界はあるし、結果は伴わない。

 愛莉はだから言うのだ。自分が過去にそうだったから。

 

 

「がんばっただけで、なんとかなるわけないじゃない……!」

 

「え?」

 

「……アイドルを目指すのやめたほうがいいわ。アンタ、向いてなさそうだから」

 

「そんな……」

 

「──待って、愛莉ちゃん」

 

「……何よ」

 

「その子の夢を否定しないであげて。……愛莉ちゃんは、今はお仕事していないけど、みんなに希望をあげる、アイドルでしょう?」

 

「……!」

 

「だから……愛莉ちゃんにはそういうことを言ってほしくないの」

 

 

 昔の自分をアイドルとして支えてくれた愛莉に、雫は『アイドルになりたい』という夢を否定しないで欲しかった。我儘だと気付いていても、そう言ってしまった。

 アイドルにとって大切なものを教えてくれた親友に、変わってしまった親友に、変わらない優しさを求める。

 綺麗事でもいい、泡沫の夢幻でも構わない。みのりに、希望を見せてあげたかったのだ。

 

 

「わかってるわよそんなこと! ……わかってるわよ……」

 

「…………」

 

「わ、わたし、向いてなくてもがんばります!」

 

「だから、がんばったからってなんとかなるわけじゃ……!」

 

「わたし、信じてるんです!」

 

「信じてる……?」

 

「『今日がいい日じゃなくても、明日はいい日になるかもしれない。だからみんなが、明日こそ大丈夫って信じてがんばれるように。このステージから明日をがんばる希望を届けたいんです』……この言葉を!」

 

「それは……」

 

 

 みのりが言った言葉は、一言一句間違いなく、遥がライブの中、ステージの上で言ったものだ。彼女の大ファンになるに至ったキッカケの一つであり、(アイドル)を目指すみのりにとって、心の柱とも言っていい言葉。

 遥が居なかったら、夢を見つけられなかった。

 言葉がなかったら、折れて半ばで諦めてしまっていた。

 

 

「だから、合格するまで絶対絶対諦めません! ダメでもがんばってがんばってがんばり続けますっ!」

 

『ふふふっ♪』

 

「え?」

 

『今の言葉、とっても素敵だね!』

 

「だ、誰よ! まだ他に誰かいたの?」

 

「あれ? わたしのスマホが光ってる……?」

 

 

 どこかで聞いたことのある電子音声が、自分のポケットにあるスマホから流れ、更に光っていることに気付くのは、みのりにとって難しいことではなかった。

 彼女が急いでスマホを取りだすと、そこには──

 

 

『はじめまして、みのりちゃん!』

 

 

 バーチャルシンガーの初音ミクが、映し出されていた。ホログラム、と言えばいいのだろうか。まるで、そこに存在して、意志を持った人間のように、ミクはみのりに話しかけてきた。

 

 ◇

 

 それとほぼ同時刻。湊は奇妙な空間に迷い込んでいた。

 見覚えのあるいくつものステージが隣あい、キラキラと光るペンライトがそこかしこで振られている。振っているのは人間のようにも見える、立方体で構成された白いナニカ。

 

 

「どこだ、ここ……?」

 

「あっ!! 湊くんが一番乗りだね!」

 

「……一番乗り? それは、どういう……こと、だ?」

 

「やっほー! はじめまして、鏡音(かがみね)リンだよ〜♪」

 

「え……はっ……?」

 

 

 困惑する彼の目の前に現れたのは、バーチャルシンガーの鏡音リン。誰もが一度は目にしたことがある、歌で希望を届けるアイドルに等しい存在。

 そんな彼女が、湊の前に現れた。

 ホログラムなんてものじゃない、ましてやロボットにも見えない。人だ。今、彼と対面している鏡音リンは、体温と心──意志を持った、人と同じ形で立っている。

 

 

 夢かと思い、自分の頬を抓る湊だが、当たり前のように痛い。ついでに、リンの頬を人差し指で突いてみるが、透けることはなく、プニプニとして柔らかい頬っぺたに触っただけだ。

 どう足掻いても夢じゃない。そんな、整理されてしまった思考が導き出した答えに、湊は頭を抱えてうずくまる。

 

 

「……湊くん? どうしたの?」

 

「あぁ、いや……気にしないでくれ」

 

「気になるよ!」

 

「……まず、聞きたいんだけど。ここはどこなんだ?」

 

「うーんとね、ここはセカイ! 湊くんたち、五人の想いでできたセカイ!」

 

「想いでできた、セカイ。……ちょっと待てよ、五人? 他の四人は?」

 

「今は、ミクちゃんが話してるよ? 名前は確か……みのりちゃんに遥ちゃん、愛莉ちゃんに──雫ちゃん♪」

 

「……………………は?」

 

 

 全員が全員、彼の聞き覚えのある名前だった。逆に、約一名を除けば、大勢の人間が知ってる名前だ。

 元アイドルが二人に現役アイドルが一人、最後にアイドル志望が一人。

 お昼に遥の引退を知った時も驚いたが、今の湊はそれ以上に驚いている。三人までなら偶然で済むが、四人目からは運命だ。

 

 

「……大体の事情は、まぁ、わかった。一つ聞きたいんだが、このセカイはなんのためにあるんだ? 想いでつくられたなら、なにか意味があるんだろ?」

 

「そうだった! 危ない危ない、忘れるところだったよ〜! このセカイはね、みんなに『本当の想い』を見つけてもらうためにあるんだ! でねでね、もし本当の想いが見つかったら、それが歌になるんだ! すごいでしょー♪」

 

「想いが、歌に……」

 

 

 自分の中で反芻させるようにそう呟いたあと。湊はセカイに来る前の最後の記憶を、思い出した。

 雫を迎えに行く道中、暇潰しに音楽を聞こうとした時に見つけた、『Untitled』という見覚えのない曲名を。

 

 

(…… Untitledの再生が、セカイに行く方法?)

 

「あぁ、なるほど。そういうことか」

 

「むむっ! 何かわかったの、湊くん!」

 

「なんでもないよ。……ただ、このセカイが不思議な場所だって、思い知っただけ」

 

 

 誤魔化して、うやむやにしたが、湊は気付いた。

 

 

 本当の想いを見つけた時、想いが歌になる。そんな不思議なセカイへの入口は『Untitled(無題)』という曲。

 セカイと現実世界を繋ぐ『Untitled』は、ある種、湊たち五人を繋ぐ──五人に関連する想いと同じ。

 もし、五人が本当の想いを見つけて歌になったなら、『Untitled(無題)』にはきっと最高の名前(タイトル)がつくことになる。

 

 

「なぁ、リン? この『Untitled』を停止させれば、俺はセカイから出られる……そうだよな?」

 

「そうだよ! でも、もう帰っちゃうの? さっき来たばっかりだよ? そろそろライブの時間だし、見て行ってよ〜!」

 

「悪い、また今度にしてくれ。幼馴染みが待ってるかもしれないんだ」

 

「……んー、そっかぁ〜。なら、しょうがないよね。それに、またってことは、次来た時は聞いてくれるんでしょ?」

 

「勿論、時間があればいつでも」

 

 

 その言葉を最後に、湊は『Untitled』の再生を停止し、現実世界に帰還した。

 

 

 この日、全てが始まったのだ。

 




 次回もお楽しみに!

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