幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

25 / 69
 ここ三日間でお気に入りが47人増えて、高評価を5件貰えて、ランキングにものって嬉しみを感じてる私です、しぃです。
 皆様のお陰で赤いバーが伸びました! やったぜ!
 投稿はゆっくりですが、のんびり待ってもらえたら幸いです。
 感想も待ってます!


 p.s.
 九条ユウキさん☆9評価、稲の字さん☆9評価、零奥0さん☆10評価、ほんわかさん☆10評価、雨狐さん☆9評価、狩る雄☆9評価、grimmさん☆9評価ありがとございます!!!!!!


想いに縛られ、想いに潰され

 不思議な空間『セカイ』に湊が入り込み、雫がバーチャルシンガーであるミクにあった翌日。狐に化かされたとも、白昼夢を見たとも言える不可思議な体験をした2人の空気は、どうしてか昨日より幾かマシになっていた。

 それを、気が逸れてるだけと捉えるか、他の見方で捉えるかは、個人の問題だろう。

 けれど、空気が良くなったのは事実で、彼らの会話が途絶えることはない。

 

 

「──でね、オフの日は、その子のレッスンを見ることになったの」

 

「ふーん……まぁ、いいんじゃないか? 次のライブまで余裕はあるし。送り迎えはいつも通りするんだろ?」

 

「えぇ、お願いするわ。少し時間が遅くなっちゃうから、気を付けて来てね、みぃちゃん」

 

「はいはい、わかってるよ」

 

 

 愛情の押し付け、とまではいかないが、雫は自分以上に湊を心配する。それは、単に大切に想ってるからではなく、彼の「自分より友人を──大切な人を優先する」という在り方に忌避感を感じてるから。

 もっとも、その核たる部分を作ったのが彼女なのだから質が悪いし、それをわかっていて尚改善しない湊も同罪。

 まさに、生まれるべくして生まれた関係性なのである。

 

 

(それにしても、みのりちゃんのレッスンを雫と愛莉がやるなんて……偶然じゃあ、すまないよな)

 

 

 巡り巡って、五人は既に出会っている。偶然ではすまない運命が、動き始めている。それに気付かない湊ではない。自分と同じように、「雫にも昨日何かあったのではないか?」と、彼が思い至るのは当たり前のことだ。

 ここまでくれば、あとは尋ねるだけ。ただ一言、「昨日、何かあったか?」と。簡単だ、数秒ですむ問だ。誰でも言えて、誰でも答えられる。子供にだって難しいことじゃない。

 

 

 そのはずなのに、湊はその一言が──言えなかった。

 理由を探せば、きっとゴロゴロと出てくる。最近の雫の情緒の不安定さ、昨日よりも酷い空気にしてしまったらどうしようという恐怖、踏み込んで傷付けたくないという優しさ、踏み込むに足りない勇気。最後に、全ての根源である、ただ一言を言うためにグチャグチャと心を掻き乱す、自分自身の想い。

 

 

 無視せずにはいられないほど膨れ上がった想いが、あと一歩の邪魔をする、あと一歩の枷になる。そうやって、湊がモタモタしてる内に、いつも別れる場所に着いていた。

 

 

「みぃちゃん、今日もありがとう。行ってきます!」

 

「……あぁ、行ってらっしゃい」

 

 

 詰まりかけの喉から出る言葉は、いつもより低く。彼の首が絞まるような苦しさと、臆病な自分に対する嫌悪が流れ出たようだった。

 

 ◇

 

 放課後、約束通り雫と愛莉が屋上に向かうと、練習着に着替えたみのりが、準備万端といった様子で待っていた。

 

 

「日野森先輩! 桃井先輩! 今日からよろしくお願いします!」

 

「ふふっ、よろしくね、みのりちゃん。力になれるようがんばるわ」

 

「勿論、ストレッチはすませてるんでしょうね?」

 

「はい! 教えてもらう時間は全部練習に使いたいので!」

 

「ふふん、いい心がけじゃない。……ところで、なんであそこで桐谷遥が本読んでるわけ?」

 

 

 愛莉が指を向けた先には、制服姿の遥が座っており、会話や練習に口を出すでもなく、静かに本を読んでいた。

 本人曰く、「ここが一番人が来なくて静かだから」、とのこと。ダンスや歌のレッスンをするのだから煩くなるに決まっているのに、何故そこまでするのか愛莉にはわからなかったが……雫は彼女の気持ちが少しだけわかる気がした。

 見覚えがあったのだ、遥の表情に。

 

 

(……遥ちゃんも、心配なのね)

 

 

 上手く取り繕ってる。完璧に誤魔化せてる。遥はそう思っているだろうが、それは間違いだ。何故なら雫は、今の遥に似た表情でレッスンを見てくれた存在を、知っているから。月野海湊が、いつもそうしていたから。

 だから、愛莉やみのりには気付かれないように、雫は微笑みで遥に「大丈夫」と伝える。姉の性だったのかもしれないし、ただ雫が優しい人間だったからなのかもしれない。

 

 

 不安定でも、アイドルが好きかもわからなくても、いじめに苦しんでも、想いに押し潰されそうでも、雫は誰かのアイドル(太陽)だった。

 

 

 そして、それは愛莉も同じ。やると言ったら全力でやりきるのが桃井愛莉。コーチとして、先輩としての彼女の練習はスパルタだ。

 

 

「取り敢えず、最初は自己PRと面接の練習よ。一次審査はダンスじゃなくてそっちなんだから。アンタ、対策はできてる?」

 

「は、はい! もちろんです!!」

 

「へぇ? じゃあ、自己PR、ちょっとやってみせてよ」

 

「は、はい!! 『花里みのりですっ! 趣味は振り付けの完コピ! 特技はキャッチフレーズをつけることです! 今日は自分にキャッチフレーズをつけてきましたっ! 夢が実って花になる♪ 花里みのりですっ☆ よろしくお願いします!』」

 

「……2点ね。100点満点中」

 

「ええーっ!? どうしてですか!?」

 

「アンタがどういう人間なのか、まったく伝わってこなかったわよ。キャッチフレーズもよくわかんないし」

 

「うう……」

 

 

 先程までの自信満々な様子はどこへやら、一気にみのりのテンションが急降下する。暴論ではなく正論だからこそ、みのりは反論できないし、キャッチフレーズの絶妙なセンスのなさに、雫どころか本を読んでいた遥さえ苦笑いしている。

 

 

「いい? 自己PRは、自分の強みをもっと見せるの! わたしならそうね……『バラエティに強い』とか、『どんな無茶ぶりでもこたえます』とかかしら」

 

「桃井先輩、いーっぱいバラエティ出てましたもんね! 芸人さん達とのやりとり、すっごくおもしろかったです!」

 

「……そうね、私も好きだったわ」

 

 

 一瞬、愛莉の表情が陰り、それを見逃さなかった雫がつかさずフォローに入った。面白いとは言わず、好きと言うだけだったが、愛莉は少しだけ救われたような笑顔を雫に見せた。

 

 

「……まあ、視聴者からそう見えていたなら何よりだわ」

 

「ん〜……わたしは、何が強みなんだろう?」

 

「そうね。今のアンタなら……『がんばり屋』かしら。それをアピールしたほうがいいんじゃない?」

 

「がんばり屋……? でも、みんながんばってるんじゃ……」

 

「ひとりでも頑張れるって、案外誰にでもできるわけじゃないわ。私だって、みぃちゃんや愛莉ちゃん、Cheerful*Daysのみんながいなかったら、ここまでこれなかったもの。十分あなたのアピールポイントになるわよ。オーディションに50回落ちても頑張っているところなんて、すごくいいエピソードだと思うわ」

 

 

 他者を褒めるために自分を下げる。

 昔からの古典的な方法だ。しかし、言い方は悪いが、雫はそこまで考えていない。思ったことを素直に口にしただけなのだ。彼女は本心から、みのりが『がんばり屋』だと思っている。

 想いを糧に頑張れている自分とは違うと、言えてしまう。

 

 

 自然な流れで起こる自己犠牲に、その場にいる誰も気付かなかった。

 

 

「た、たしかに……!」

 

「ま、今日はダンスの練習じゃなくって、自己PRを磨いた方が良さそうね。いい自己PRができるまで徹底的にやるわよ!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 夕暮れの太陽が、燃え尽きるような輝きを見せるのと同じく。雫にも少しずつ、暗い闇が迫っていた。

 

 ◇

 

 時を同じくして、神山高校の屋上。湊ともう一人、彼の数少ない友人である神代(かみしろ)(るい)が、日陰で隣合って座っていた。

 紫に水色のメッシュが入った髪の毛と黄金色の瞳が特徴の青年で、顔立ちは司と同じく、イケメンの一言が似合う整ったものだ。

 いつも笑みを浮かべており、何を考えているのかわからない為、周囲から気味悪がられ、変人と呼ばれることが多い。神山高校変人トップスリーの一人。

 

 

 因みに、湊も不良枠兼、司と類と普通に喋れる逸般人として、トップスリーの最後を飾っている。

 そんな二人が、放課後の屋上に居るわけとは……

 

 

「スマホのソフトウェアにバグがないか見て欲しい……ね。ハード自体に問題はなかったのかい?」

 

「昨日の夜に一応確認したけど、変な機能が外付けされた痕跡がなかったんだよ。あるとしたら、中のソフトウェアかなって。プログラム系ならお前の方が得意分野だしさ」

 

「ふむ……わかった、やってみるよ。十分ほど時間をくれるかな?」

 

「俺が頼んでるんだし構わないよ。それに、司から聞いたけど……ようやく仲間ができたんだろ? あんま時間取りたくないし、長引くようなら暇な日に回してもらっていいから」

 

「相変わらず、優しいお節介だね」

 

「褒め言葉として貰っとくよ」

 

 

 少しの軽口を叩いたあと、類は作業を始め、湊はそれを横から眺めながら、ぼーっと過ごしていた。会話はなく、それを気にする素振りもない。

 話さない方が心地いい、無言の時間を苦に感じない、そんな間柄。だからだろうか、類の踏み込む言葉に、湊は驚きを隠せなかった。

 

 

「急にこんなことを調べて欲しいなんて、何かあったのかな?」

 

「話してもいいけど、結構突飛な話だぞ? 厨二病もいいところな妄想話かもしれないし……」

 

「それでもいいさ。面白い話なら大歓迎だよ」

 

「お前なぁ……はぁ。わかった、話すよ」

 

 

 そう言った湊は、ぽつりぽつりと話し始めた。不思議な空間──『セカイ』。自分を含めた他四人、花里みのり、桐谷遥、桃井愛莉、日野森雫の想いでその『セカイ』ができており、『Untitled』を再生することで『セカイ』への出入りができること。そして、『セカイ』の中にはバーチャルシンガーの鏡音リンや初音ミクが、人間と変わらない体を持って存在していたこと。

 

 

 全て話し終わる頃には、類の作業も終わっていて、彼は笑いながら湊にスマホを返した。

 

 

「バグらしきものはなかったよ。君の言う『Untitled』の音楽データも調べたけど、特に問題はなかった」

 

「……あれ、夢だったのかな」

 

「さぁ、夢かどうかは君が決めることだ。僕がどうこうできることじゃないよ」

 

「話せって言ったのはお前なのに、よく言うよ……。まぁ、ありがとな。話し聞いてくれて、少しは整理できた」

 

「いや、いいさ。君にお礼を言われるのはむず痒いからね。でも、まさか……君も巻き込まれてるとは」

 

「そうかよ……ん、君も?」

 

「ふふっ、なんでもないよ、気にしないでくれ。ほら、そろそろお姫様を迎えに行く時間じゃないかな?」

 

「やべっ。……悪い、もう行くわ」

 

「あぁ、また明日」

 

 

 引っ掻き回すだけ引っ掻き回された湊を、類は送り出し、去って行く彼を見送る。類は、答えを持っていたが口にはせず、見守ることに徹しようと決めた。

 想いは自分で見つけるものだ。他人に言われて気付くのも悪くないが、彼は湊が自分で気付くとわかっていた。気付けると、信じていた。

 

 

「生まれた想いの歌を、いつか僕にも聞かせて欲しいな、湊くん」

 

 

 黄昏時の屋上で、アルケミスト(神代類)は不敵に笑った。




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想や評価にここ好き、お気に入り登録もお待ちしております!

お気に入り200人突破記念短編(現在のシチュエーション)変わる可能性あり

  • 悲恋if(ヒロインは雫)
  • 嫉妬if(ヒロインは雫)
  • 温泉回(個別orモモジャン)
  • 水着回(個別orモモジャン)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。