遅ればせながら、お気に入りが百人突破したので、記念短編でも作ろうかと考えています。ひな祭りとかホワイトデーみたいなイベントは別として、です。
アンケートを作っておくので、投票の方お願いします。
因みに、記念短編の内容は全く考えてないので、こういうシチュエーションがみたいななどの要望がありましたら、お題箱を用意しておくのでコメントを下さい!
p.s.
tokyoomegaさん☆9評価、冷たい雨さん☆9評価ありがとうございます!
何事にも、理由はついてまわる。言葉に、表情に、動きに、理由がないなんてこと、ありえない。湊が踏み出せないのにも理由があり、雫がもがくだけで助けを求めないのにも、理由がある。
鶏が先か卵が先か、そんなの考えるのも野暮な話だが、大抵の場合、ある理由によって想いが生まれ、想いが理由になり派生していく。
至極厄介で、面倒なシステムが人間には備わっていて、それを経由しないで何かを選択することはできない。
彼が踏み出せないのは、想いに向き合えないほど臆病だから。怖くなって、勝手に諦めて、逃げているから。
彼女が助けを求めないのは、想いに向き合えば向き合うほど苦しくなって、傷付いて、怖くなってしまったから。
けれど、関わらないなんてできなくて、ずるずると関係が続き、今に至る。
今日だってそうだ。慣れ親しんだバイト終わりの帰り道。誰に言われるでもなく、いつも通り雫を迎えに行く湊。
そして、連絡を貰わずとも、彼を待つ雫。手袋を忘れたのか、手を擦ったり息を吹きかけたりして寒さを紛らわす姿は、切り抜いた映画やドラマのワンシーンのように綺麗で、憂いの表情も相まって、儚さを感じさせる。
「……どうすれば、よかったのかしら」
ポツリと零した言葉が、辺りに響き消えていく。
最近、『Cheerful*Days』内でのいじめは、日に日に酷くなっている。タオルを隠されたり、陰口を叩かれたり。世間一般のいじめに比べたらまだまだ序の口に見えても、彼女はアイドルだ。それ以外の重荷がどんどんと積み重なっていく。
更衣室で聞いてしまった言葉が、頭から離れない。
『……また雫だけ雑誌の表紙の仕事入ってる。あれ絶対ひいきされてるでしょ』
『ほんと、顔が綺麗ってだけで得だよね。歌もダンスも私達の方が上手いのに……』
言葉のナイフだった。刺さって、刺さって、抜けない。そんな仲間を、雫は憎めるほど強くはなく、嫌いになれるほど弱くはない。誤魔化して、騙して、偽って、微笑むだけ。
最初は違ったのに、結成したての頃はこうじゃなかったのに、いつからか彼女の仕事だけが増えていって、不安や妬みできた溝が深くなっていた。
「……ふぅ……ふぅ……」
手を温めるのは、寒いからだったのか、痛みから逃げるためだったのか、雫は次第にわからなくる。雨は降ってないのに土砂降りで、雪はまっていないのに結晶が見えた。
あべこべでぐちゃぐちゃで、今にも自分が溶けだしてしまうような錯覚を覚える。
(溶けてなくなったら……どうなるんだろう)
そう思った直後、雫の凍える両手を、一回り大きい手が包み込んだ。最悪のタイミングに、最高の役者が現れた──いや、最高だった役者が現れた。
いつも通り、その役者は湊だ。
「悪い、待たせたよな。早く帰ろう」
「そうね。そうしましょう」
「……なにか、あったか?」
「ふふっ、最近そればっかり。大丈夫よ、なんでもないわ」
「……大丈夫、なんだな?」
「えぇ、安心して。心配性なみぃちゃん」
見破られてることなんて、なんとなくわかっている。嘘はバレている。
雫はそれでも、微笑みを浮かべ続ける。湊の臆病な優しさを利用し続ける。泣いたらダメだ、泣いたら終わってしまう。そう自分に言い聞かせて、今日も嗤った。
◇
翌日の放課後、何度か目になるみのりの練習に、雫と愛莉が付き合い、遥がそれを見守っていた。
ようやく、最初のスタートラインである面接練習が終わったのが、その日だった。
「いいわね! 自己PRもバッチリまとまってきたじゃない!」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「そういえば、書類選考用の写真は撮れた?」
「あ、はい! えっと、こんな感じなんですけど……」
そう言って、みのりが見せたスマホの画面には、シンプルな服装に身を包み、自然体な姿の彼女が写っていた。
不自然に盛られた箇所はなく、かと言って堅苦しい雰囲気も感じない、応募に使う写真としては十分だ。
もし、見せられた写真が変なものだったら、愛莉も一言二言ツッコンでいたが、彼女のセンサーは合格点と判断したらしい。
「あら、ナチュラルでいい感じじゃない。写真はこれでいいと思うわ。でも! 実物のほうを磨くことも忘れないよーに! 写真と違いますね〜、なんて言われたくないでしょ?」
「た、たしかに……! でも、他の子達はみんなかわいんだろうなあ。写真も、実物も……。うう……不安になってきちゃった……。……日野森先輩みたいにキレイだったら、こんなに不安にならなかったのかなあ……」
悪気のない一言。みのりの不安が漏れた一言が、雫に突き刺さる。昨日言われた言葉とダブって聞こえて、じくじくと胸が痛む。
みのりは、何も悪くない。見えない地雷を踏むななんて、無理な話なのだから、しょうがない。そう、しょうがないのだ。
しかし、雫がそう割り切れたとしても、胸の痛みが治まるわけもなく。どうにかして、取り繕う。残された心の支柱を思い出す。
「……アイドルは見た目でなれるものじゃないわ。アイドルはハートが大事なの。ファンのためを思ってがんばる心──それが、アイドルにとって一番大切なものなのよ」
「雫、それ……」
「──って、昔、ある人に教えてもらったのよ。ふふっ急にまじめな話をしちゃったわね。みのりちゃんはとっても素敵だから、自信を持って。ね?」
「……はい! ありがとうございます!」
無垢な笑顔が、純粋な笑顔が、みのりから雫に向けられる。雫はそれに微笑みで返した。
嘘つき、誰かが耳元でそう言った気がしたが、彼女は知らんぷりをして向かい合う。利用した、今度は大切な後輩を、利用した。
どんどん自分が堕ちていく、中身がどす黒く染まっていく。やりたくないことをしないと、保てない。やりたくないことをしないと、壊れそう。
好きも嫌いもわからなくなりそうで、怖い。そんな曇った感情が心を埋めつくしていく。
練習が終わるのが、いつもより遅く感じたのは言うまでもなかった。
「はあ〜。今日も疲れた……」
「おつかれさま、みのりちゃん。今日も頑張ったわね」
「今日できなかったとこの確認、ちゃんとやっておくよーに! いい?」
「はい! ……あ、痛たた」
「え? ちょっと、大丈夫?」
「あ、ちょっぴり足ひねっちゃったみたいです。でも、すぐ治ると思いますから……」
「見せて、みのり」
「え? 遥ちゃん?」
どこから話を聞いていたのか。読んでいた本を閉じ、遥はすぐにみのりに駆け寄った。じっくりと観察し、安心したのか、少ししたところでホッとため息を吐いた。
彼女は医者ではないが、ダンスレッスンでの怪我なら何度も見た。酷いものか軽いものか、ちゃんと見れば大体わかる。
だが、怪我を見せるように言った、遥の有無を言わせない表情には焦りが濃く伺えた。
「……よかった、腫れてはないみたい。でも、湿布を貼っておいたほうがいいかも。みのり、練習を頑張るのはすごくいいことだよ。でも、無理はしないでね」
「う、うん! ありがとう、遥ちゃん」
(……遥ちゃんって、素敵だなあ。かわいいだけじゃなくて、優しくって、カッコよくって……。やっぱりわたし、遥ちゃんみたいな素敵なアイドルになりたい……!)
初めて四人が合った日と同じく、全員で固まっていると、あの日の再現のようにみのりのスマホが光り始めた。
「わ……!? な、なに!?」
『みのりちゃん!』
「み、ミクちゃん!? とうしてまた……」
『驚かせちゃってごめんね。本当はセカイで待ってようと思ったんだけど……みんな元気がないんじゃないかなって気になっちゃって』
「え? わたしは元気だけど……」
「……………………」
『みんなで私たちのライブを見に来てほしいの! そしたらきっと元気になれると思うから』
「ライブ?」
『あとでプレイリストを見てみて! それじゃ、セカイで待ってるから!』
そう言い残すと、ホログラムのミクは消え、みのりのスマホは元に戻った。以前と同様に、まるで人間が喋っているような自然な口調が妙にリアルで、夢とはとても思えない。
「やっぱりこれって新手の広告なのかしら? 随分こってるわね」
「セカイ……あのミクちゃん、前もセカイって言ってたわね」
「あ、そう言えばプレイリストを見てみてって……。あれ? なんだろう、これ。『Untitled』って曲が入ってる」
「『Untitled』? 無題ってこと?」
「この曲を聴いてってことなのかな?」
「……!?」
「わわっ!? す、スマホが光って……!」
瞬間、四人は光に包まれ、その場から消えてしまった。セカイへの入口を開いた彼女たちは、恐らくそこに吸い込まれていったのだろう。
屋上には、一冊の本だけが残されていた。
◇
時を同じくして、神山高校の廊下を湊は歩いていた。
迎えの時間までもう少し。無駄に余った時間をどう使おうか。現実逃避する思考で、そう考えていた。
宛もなく学校内をぶらつくのも悪くないが、疲れるのは嫌で、とは言ってもやることはない。
司や類はフェニックスワンダーランドという遊園地で、ショーバイトに精を出しているし、以前知り合った後輩たちも、今頃ライブカフェで青春を謳歌している。
「呆れた。俺って、ほんとに友達少ないんだな……」
「なら良かったですね! ボクみたいなカワイイ後輩が、偶然にも今日、学校に来ていたんですから」
「み、
「え〜、ボクそんなに学校来てないわけじゃないんだけどなぁ。湊先輩が見つけられてないだけじゃない?」
「よく言うよ、まったく。……暇だったら、話し相手になってくれないか? 予定までの時間が無駄にあるんだよ」
「しょうがないなぁ〜! 湊先輩の頼みだし付き合ってあげるよ」
湊を先輩と呼ぶ彼女──いや、彼の名前は
女子用の制服を着ているが、一応男性である。カワイイものならなんでもウェルカムが信条らしく、いつもあざといと言われるようなことを軽々とやってみせる。
そんな諸々の事情と、不登校というオプションが付いているので、一部の生徒からは避けられているが、湊は他人の趣味や生き方にどうこう言う人間ではなかったために懐かれ、こうして偶に来た瑞希と世間話をする。
知り合い以上、友達未満の先輩後輩関係だ。
だからだろうか、なんのしがらみもなく話せる瑞希との会話は、重かった湊の心を少し軽くしてくれた。
「瑞希。……もし、相手が踏み込んで欲しくないと思ってることに、自分が踏み込まなくちゃいけない時、どうすればいいと思う?」
「哲学の話かなにか?」
「真面目な話だよ」
「ふーん……。まぁ、しっかり相手と向き合えれば、それだけでいいんじゃないかな? 待つ手段が取れないなら、ボクはそうするよ」
「向き合う、か。そうだよな、向き合わなきゃ、始まらないよな」
「いいアドバイスになった?」
「あぁ……助かった。そろそろ時間だし、行かないと。途中まで一緒に行くか?」
「大丈夫。寄りたい所あるし、一人で行くよ。それじゃ、またね湊先輩〜♪」
手を振りながら去っていく瑞希を見送ったあと、湊も学校を出た。
早めに出たお陰で、まだ少し時間に余裕がある。「相手と向き会えれば、それだけでいいんじゃないかな?」、この言葉を信じるなら、信じたいなら、まずは想いと向き合わなければ話にならない。
「セカイは、想いでできてる。なら、セカイに行けば、変われる?」
胸に湧き上がった小さい勇気を振り絞り、湊は再び『Untitled』をタップした。
次回もお楽しみに!
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