春休みシーズンが到来して、課題とやるべきことが増し増しで死にそう。
それでも、週一投稿はする予定なので、お気になさらずゆったり待っていてください。因みに、昨日少しだけ日間ランキングのってました!!
やったぜ!
p.s.
蛭貝さん☆9評価ありがとうございます!
数日ぶりに湊が訪れたセカイは、やけに薄暗く、どこかで見たことのあるような機材が所狭しと並んでいた。ステージが永遠に隣り合うこのセカイに、機材がない方がおかしいのだが、注目すべき点はそこではない。
最も注目すべき点は、その機材を動かしている人物だった。
若干外ハネしたダークブルーの髪と同色の瞳、加えて青いロングマフラーの衣装が特徴的な男性バーチャル・シンガ──ーKAITO。
「カイト……?」
「……ん、あぁ、湊くんか。もう少し待っててね? あとちょっとで、自動運転に切り替わってくれるから」
「……わかった」
真剣な表情で機材を操作するKAITOを見ながら、湊は改めてセカイの不可思議さを目の当たりにする。以前会ったリンが着ていた可愛らしい衣装とは違うが、KAITOが着ている衣装も間違いなくアイドルが着る華やかなものだ。
想いでできたセカイ。セカイにいるアイドルのようなバーチャル・シンガー。点と点がわかりやすく、繋げるのも難しくない。
(このセカイは俺を含めた五人の、アイドルに対する想いで成り立っている……のか?)
あくまで仮説。けれど、一番納得がいく仮説だ。
しかし、逆にその真実に近い仮説が、彼の心を追い詰める。
アイドルに対する想いで、湊が最初に思い描くのは──思い浮かぶのは、雫の笑顔だ。何度考え直しても、何度違う方向からアプローチしても、結局は誰よりも先に、何よりも先に雫が現れて微笑んでいる。
恋は猛毒、愛は劇薬。どちらも、摂取し続けたら死ぬ以外の未来はない。逃げるのにも限界がくる。今の湊は崖っぷちだ。取り返しのつかない一点をとうに越えて、あと数歩で奈落にさようなら。
ちっぽけな勇気で立ち向かうには無謀な所にいる。だが、向き合わなければ、全てを失うのは避けられない。自業自得で地獄に堕ちるのだ、大切な人と一緒に。
臆病だから、優しいから、弱いから、変わるためにセカイへ足を向けた。
そして、KAITOもそれを察している。故に、優しく柔らかい笑顔で湊に向き合った。
「待たせてごめんね、湊くん」
「問題ない──いや、問題は大ありだけど、大丈夫だよ」
「そっか。……それで、今日はどうしてセカイに来たんだい? 自分から来るってことは、何か用事があったんだよね? 僕でよければ、力になるよ」
無理に距離を詰めるわけでもなく、かといって距離を置くわけでもない優しさが、じんわりと湊の心に染みる。とても虚構の存在とは思えない温かさに、塞き止めていた感情が溢れ出しす。
「俺さ、ずっと逃げてきたんだ。向かい合わずに勝手に諦めて、その方が幸せだって自分に言い聞かせて、想いを捨てようって何度も泣いて、逃げてきたんだ。大切なのに、泣かせたくないのに、苦しめたくないのに、知らんぷりして、隅に追いやって、俺が一番傷つけてきた」
「……頑張ったね」
「違う!! 俺は何もやってない!! 頑張ってなんかない!! あいつからの信頼を利用して逃げ回ってた大バカ野郎だ!!」
「それでも、君がとった方法は、全部が全部間違いだったわけじゃない。……今ならまだ間に合う、変わりたいからここに来たんじゃないのかい?」
「……そうだよ。なぁ、KAITO。どうすれば、変われるかな? あいつに──雫に向き合えるかな?」
苦しくて泣き出しそうな弱々しい声で、隠していた本音を剥き出し、KAITOにぶつける。
期待があった。彼なら答えてくれるんじゃないか、という期待があった。KAITOにはそれに応えられる力があって、応えてあげたいという思いがあったから、言の葉は詰まることなく伝えられる。
「怖いなら怖いままでいいよ、大事なのは一歩踏み出すことなんだ。小さくてもいい、他人にどう思われようと構わないで、大切な人のために一歩踏み出そう! それができたら、あとは難しくない。大丈夫、勇気は自分自身の想いで大きくできる。それに、心配しなくていい。君は既に一歩踏み出してるんだから」
「俺が、もう一歩踏み出してる?」
「君は、
KAITOは、拳をそっと湊の胸に当てて、送り出すように軽く押す。
二人の間に、それ以上の会話は必要なかった。
◇
場所は違えど、五人が全員セカイを訪れた翌日。
雫は、昨日まで隣に居た湊の変わりように驚いていた。無論、見た目が変わったわけではない、言葉では表現し辛いが確実に昨日までの彼とは違う。
セカイやセカイで見たライブにも驚いたが、それ以上の衝撃が雫を襲った。
きっと、湊の変化は悪いものでは無い。幼馴染みとしての勘がそう言っているが、恐怖は留まることなく膨れ上がる。まただ、また変わってしまった。
目まぐるしく成長する青春の一時、変わるなと言う方が無理な話だが、彼女は変化を恐れていた。成長よりも、変化を恐れていたのだ。
成長とは雫の中で、日々の積み重ねの果てにあるスキルアップに過ぎない。喜ばしいことであり、恐れ怖がることではない。
しかし、変化とは彼女の中で、日々の積み重ねの果てにある進化だ。見た目の進化、心の進化、大きく分けて二つあるが、雫が真に恐れるのは心の進化であり変化。
優しかった者も、いずれ傲慢になり、疑念や嫉妬で醜い化け物になってしまう。今の自分の、仲間のように。
(みぃちゃんは……どうなったんだろう?)
わからない。わからない、分からない、ワカラナイ。未知は不安を呼び、不安は恐怖に訴えかける。負の連鎖が彼女の中で回っていく。
そんな時、偶然にも愛莉を
「おはよう、愛莉ちゃん。昨日はすごく不思議だったわね」
「おはよう、雫。そうね……セカイって場所もミク達のことも。いったいどーなってんのかしらね。曲を再生したら別の場所に行っちゃうなんて」
「でも、愛莉ちゃんは、楽しかったんじゃない?」
「……え?」
「ライブを見てる時の愛莉ちゃん、目がキラキラしてたから」
「……そんなこと……」
賭けだった。
触ってはいけない部分に触れてでも、雫は確かめたかった。味方はまだいるんだって、自分はまだ一人じゃないんだって、聞きたかった。
本当にただそれだけで、傷つけるつもりなんてなかったのに。
「ねえ、愛莉ちゃん。愛莉ちゃんは、本当はまだ……」
「…………やりたいって気持ちだけで、どうにかなるわけじゃない。雫だって、知ってるでしょ。わたしがどうして、アイドルを辞めたのか」
「…………」
押し黙る雫を見ながらも、愛莉は過去を語る。
きっかけは、本当に運が良かったとしか言いようがない、奇跡だった。たまたま路上ライブを見ていた局のお偉いさんが、トークが上手くて面白いと言って、ゴールデンタイムにやっているバラエティ番組のオファーをくれて、必死に努力した。
悪夢の始まりとも知らずに。
「……チャンスをもらって、必死にがんばったわ。トークも……漫才だって勉強して……。それが受け入れられて、みんなに喜んでもらえた時はとっても嬉しかったわ。でも……」
少しずつ、バラエティの仕事が増えていって、アイドルの仕事は減っていった。マネージャーがオファーを持ってくる度に喜んで、それがミニライブの日に重なってもグループのためだと、我慢した。愛莉は耐え続けた。耐え続けてしまった。
楽しみにしてくれるファンに申し訳ないと思いつつも、貰った仕事をアイドルとしてこなそうと、食らいついた。
押し殺して押し殺して押し殺して、蓋をして蓋をして蓋をして。アイドルを守り続けた、グループのためにという大義名分の──
その結果が、バラエティタレントとしての桃井愛莉の売り出しだった。
「……抗議したけど、ダメだった。事務所は一番人気が出る形でプロデュースした方がいい、業界で生き残るためにはこうした方がいいの一点張りで……。納得がいかなくて、移籍もしたわ。けど、次の事務所も最初は上手いこと言って、すぐに手のひら返し……。結局わたしは……業界にもアイドルだって思われてなかった。それに、わたしを見てくれる人たちも……」
「そんなことないわ!! 愛莉ちゃんは立派なアイドルよ。みんなに希望をくれる、誰よりも素敵な……」
「やめて、雫。わたしだって本当はわかってるの。わたしは……」
「でも……!」
「……やめてよっ!!」
怒声が、学校の中庭に響く。前に聞いた時より一層感情が籠っているのが、嫌でもわかる。雫は、半端な覚悟で立ち入ってしまった。
自分勝手な都合と、親友への思いやり、どちらかだったらこうはならなかったのかもしれない。けれど、もうどうにもならない。
爆弾はもう爆発した。消火活動に意味はなく、慈悲のない感情の濁流が吐き出された。
「雫に何がわかるのよ! 華があって、才能があって……! 顔も普通で、必死に頑張っても認められない、わたしの何がわかるっていうのよ!! 最初から生まれ持ったものだけで、みんなからアイドルだって認められるくせに!!」
「……愛莉……ちゃん……」
「あ……! ご、ごめ……っ!」
「っ!!」
二人とも、選択を間違えた。
言葉を誤った。
たった一瞬で、縁という糸は捻れ絡まり、そして──解けた。
◇
逃げて、逃げ出して、いつの間にか知らない路地裏で蹲って、雫は動けずにいた。折れた、折れてしまった、残っていた支柱の一本も、呆気なく簡単に折れてしまった。
アイドルはハートが大事、希望を与える存在が前を向かなければダメ、そんな大切な事を教えてくれた愛莉でさえ、雫の生まれ持ったものを責めた。
自分が悪いことなんてわかってる。自業自得だと知っている。
でも、それでも彼女は、聞きたかったのだ。言って欲しかったのだ、アイドルが好きだと。諦めてないと。最後になっても構わない、もう一度一緒にステージで並びたかった。
淡い希望も、微かな光も、全てが絶望に変わっていく。
好きだと言って欲しい、必要だと抱きしめて欲しい、もう自分すらわからない。みんなに変わらないで欲しかった、ずっと昔のままの関係で、想いあっていきたかった。
アイドルを好きかもわからない、アイドルを続ける理由も薄れていく。アイドルではない
(……雨? あぁ、よかった。これなら、泣いていても気付かれない)
天気予報にはなかった唐突な大雨、一向に止む気配はなく、ただただ雫の体を濡らしていく。通りすがりの人も何人かは彼女に声をかけたが、返事が返ってこない気味悪さに去っていくのみになり、誰も傍に寄ってこなくなった。
声を殺して泣いて、冷たい雨粒にうたれて心が凍えていく。
助けを呼ぶ気にもなれず、助けを呼ぶ者もいないまま時が過ぎていく──はずだった。月野海湊が、居なければ。
「……雫! 大丈夫か!!」
「……みぃ……ちゃん?」
「なにやってんだばか! こんな所でびしょ濡れになって! ほら、バッグ貸せ、おぶってかえ──」
「何も、言わないで」
「雫……?」
「お願いよ、みぃちゃん」
「…………」
「ありが、とう……ありがとう」
聞きたいことは山ほどある、が今聞いている余裕がないことくらい、表情を見なくても声で感じとれる。何かあった、何かがあった。それさえわかれば十分。今、湊がやるべきことは、縋り付く雫を優しく抱きしめることだけ。
降りそそぐ雨粒が互いの顔を濡らし、どちらが泣いているのか、泣いていないのかすらも判別がつかない。ただ一つ言えるのは、雨の中、嗚咽が一人分響いていたということ。
次回もお楽しみに!
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お気に入り200人突破記念短編(現在のシチュエーション)変わる可能性あり
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