幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 遅ればせながら、愛莉の誕生日短編です。
 クオリティは……まぁ、頑張ったね! って感じなので生暖かい目で見守ってくれると嬉しいです!


アイドルらしくなくても、悪くない

 愛莉の誕生日が一週間後に迫った週末。湊と雫は二人でプレゼントを買いに出かけていた。勿論、雫は変装をしているし、湊に至っては──女装をしている。

 誤解が生まれるかもしれないが、仕方のないことなのだ。お嬢様学校でもある宮益坂女子学園の通学路ならまだしも、普通のショッピングモールに変装なしで突っ込むのは無謀もいいところ。

 

 

 加えて、アイドルの暗黙のルール、恋愛御法度事情もある。彼ら二人が揃って外に出る場合、湊の女装は避けられない壁なのだ。

 

 

「ごめんなさいね、みぃちゃん。その格好、あんまり好きじゃないのに」

 

「……別に、慣れたから問題ない。色んな役者さんに演技のコツとか聞いといて正解だったって、今更ながら思うけど」

 

 

 今の湊は、化粧とさらしパッドの効果も相まって、女子校に一人はいるイケメン女子レベルに抑えられている。服装は、灰色のロングTシャツに黒のジャケット、下は紺のジーパンとスニーカー。

 歩き方もできるだけ女性らしさを意識し、声のトーンも気持ち上げているので、パッと見ただけで、彼を男性だと見破るのは至難の業だろう。

 

 

 それに対して、雫の変装はサングラスにマスク、つば付き帽子を被ってるだけのシンプルなもので、服装は真っ白なロングワンピース。

 どう足掻いても芸能人オーラが隠せていないが、同性の友達と一緒にいる印象がある為か、近付いてくるファンはいない。

 そもそも、近付いて来たとしても、湊に追い返されるのは目に見えているのだが。

 

 

「んで、買う物は決まってるのか?」

 

「そうね……愛莉ちゃんは猫が好きだし、猫グッズをプレゼントするのが一番だと思うけど……」

 

「まっ、それが無難だよな。じゃあ、雑貨屋から覗きに行くか?」

 

「えぇ、それがいいわ。みぃちゃん、お願いね」

 

「はいはい。わかりましたよ、お嬢様」

 

 

 勝手にどこか行かないように手を引きながら、湊は雫を連れて雑貨屋を目指す。道中、あっちこっちと目移りする彼女を引き留めるのが、湊的には一番の苦労だった。

 そして、ようやく着いた雑貨屋。なるべく雫から離れないよう、湊は彼女の近くで商品を物色する。偶然にも、『にゃんこフェア』という猫グッズの大放出セールをやっているらしく、店内は猫一色で賑わっていた。

 

 

「雫、どうだ? いいのは見つかりそうか?」

 

「ん〜……可愛いのが沢山あって迷っちゃうわ。愛莉ちゃん、どれが気に入るかしら」

 

「時間は余裕あるし、迷っていいぞ。真剣に選んだプレゼントなら、なにを送っても喜んでくれるよ、愛莉だし」

 

「ふふっ。それじゃあ、遠慮なく迷っちゃうわ♪」

 

「あー、言っとくけど勝手に一人で──」

 

 

 そう言って湊が、先程まで雫がいた場所に振り向くと、既に彼女はいなくなっていた。最早異能力である。

 恐らく店外に出てはいないが、人混みの多さも考えると、無理に探すのは愚策。彼は、一度考えを切り替え、プレゼントを選びに集中することにした。

 適当な商品を取っては他の商品と見比べ、愛莉に渡した際の反応をシミュレートする。大体の商品が猫グッズの為、反応は似通っているが、その中から一番いいものを探す。

 

 

 時間が流れること数十分。店内をある程度回り終わり、プレゼントの品定めも完了した湊が、ぼちぼち雫を探し始めたその時。視界の端に、特徴的な桃色の髪を捉えた。

 

 

「……不味い」

 

 

 顔面蒼白、とまではいかないが、湊の顔色に青が混じる。

 今回、雫が計画した愛莉の誕生日会はサプライズだ。当日、彼女の家に愛莉を招き、そこでお祝いをする。当然、招く理由はただ久しぶりに遊びたいから、という嘘である。

 少々──どころかだいぶガバガバな計画だが、雫曰く愛莉にはバレてないらしい。

 

 

 なんとか、湊は雫が買い物を済ませるまで時間を稼ぐ必要がある。幸いにも、今の姿なら簡単にはバレない。彼的に少々心苦しく、精神的にくるものがあるが致し方ない。

 

 

「アイドルの桃井愛莉さんですよね! 私、ファンなんです! 握手してもらってもいいですか!?」

 

「……アンタ、なにやってんの湊」

 

「……いや……これは……」

 

「まぁ、人の趣味に文句は言わないけど、気を付けなさいよ。警察の御用になっても助けないからね」

 

「ち、違うんだよ、これは! 今、雫と来てて、何かあった時のために変装してるんだよ!」

 

「ちょっと待って……なんで雫とこんな所来てるわけ?」

 

「……あ」

 

 

 間の抜けた声が湊の口から漏れる。明らかに、やらかした時に出る『あ』だった。そして、それを愛莉が見逃すことはなく、根掘り葉掘り聞かれ最終的に湊は全てを話してしまった。

 

 

「……はぁ、なるほどね。わかったわ、このまま気付てないフリしといてあげる」

 

「やっぱり、雫の嘘はバレてたか」

 

「あの子が嘘下手なのアンタなら知ってるでしょ? 向いてないのよ、人を騙すのとか」

 

「だよな。雫だし」

 

 

 その後、愛莉は事情を理解し、雑貨やから離れていった。湊はそれを見送ったあと雫を拾い、買い物を済ませてそそくさと家に帰った。

 女装は二度としないと湊が誓う日は、そう遠くない。

 

 ◇

 

 日は過ぎ、誕生日会当日。愛莉のノリノリなサプライズのウケもあり、明るい雰囲気でパーティは始まった。前座はすぐに終わり、ケーキも食べ終わった三人は、早くもプレゼントを渡すターンに入る。

 

 

「はい、愛莉ちゃん! 誕生日おめでとう」

 

「持ち手が猫のしっぽのマグカップ……! 可愛いじゃない! ありがとう、雫」

 

「どういたしまして。……ほら、みぃちゃんも早く早く」

 

「わかってるよ。……はい、誕生日おめでとう、愛莉」

 

「猫の肉球マーク付きのリボン……! こっちも可愛い! 湊、ありがとね」

 

「世話になってるし、ファンだからな。……まぁ、応援の気持ちってことで」

 

 

 照れたように顔を逸らし。湊はゴミの片付けを始める。愛莉と雫はそれを見ながらクスクスと笑い、お喋りを楽しんだ。

 華やかな誕生日会ではないし、アイドルらしくもないが、友人たちと過ごすその時間が、彼女にとって最高のプレゼントだった。

 




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