幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 課題に追われて投稿ができなかった私です、しぃです。
 いやぁ……まぁ……課題君がさぁ、がんばってもがんばっても終わらなくて、自業自得だから自分の所為としか言えないんですよねぇ。
 申しわけない。

 今回もオリジナル要素は少なめです……ごめんよ。


リブートして、リスタート

 夕暮れの放課後。

 寂しい風が吹く下校路で、湊は思いもよらない人物からの電話を受けた。相手はそう──桐谷遥である。

 

 

『……もしもし、月野海です』

 

『お疲れ様です、月野海先輩。電話を繋いだままにしますので、何も聞かずに、今すぐCheerful*Daysの劇場まで来てください。お願いします』

 

『ちょっと待て! 事情くらい──』

 

『雫のためです。だから、お願いします』

 

 

 幾らなんでも突然過ぎる。湊が困惑するのはしょうがないことだ。しかし、今の遥に事情を説明している余裕はない。愛莉の行動能力がどこまで高いか把握できていない彼女にとって、他グループが使っている劇場に乗り込んだ以降の行為は予測不可能だ。

 一歩間違えたら。その一歩は取り返しのつかないことになる。湊だって、雫だってそれを望んでない。

 

 

 だからこそ、『雫』という切り札で、彼の困惑を打ち砕く。それを使われたら、湊は絶対に動かざるを得ないから。

 

 

『わかった。……電話の方は頼む』

 

『はい』

 

 

 短く会話を終えた湊は、急遽方向転換し、宮益坂女学園ではなくCheerful*Daysの劇場に走り出す。スマホから流れ出る声を聞きながら、駆けていく。

 心ない言葉があった。

 悲痛な言葉があった。

 大切な親友の、心の叫びがあった。

 

 

『わたしは逃げた。わたしは、アイドルとして活躍できないことがイヤで逃げて、そこでもアイドルとして見てもらえなくて逃げたわ。本当は、もっともっとがんばって理想のアイドルに近づかなくちゃいけなかったのにね。……でも、雫は違うわ! アンタ達と一緒にファンに希望を届けるためにがんばってた! だから……!』

 

『……だから何?』

 

『……っ!』

 

『辞めたのは雫の意思でしょ。私達に何の関係があるの?』

 

『私達、別にあの子に辞めろなんて言ってないし』

 

『それにさぁ、雫ならアイドル辞めたって、モデル事務所とかが拾ってくれるんじゃないの?』

 

『本当、見た目がいいって得だよね。こっちは必死で頑張ってるのに……』

 

 もっとも、その言葉が相手に響くとは限らない。純粋な気持ちは、悪意を持ってしまった者の心に簡単には届かない。もう、仲間ですらない。もう、ライバルですらない相手の言葉なら尚更だ。

 走る湊の、表情が歪む。Cheerful*Daysのメンバーは、彼にとって間違いなく大きな存在だった。少しだけ、ほんの少しだけ、雫の話を聞いても期待が残っていたのだ。

 

 

 罪悪感はあると。

 悲しんでいるかもしれないと。

 幻想は呆気なく砕け散る。

 けれど、愛莉は言葉を紡ぎ続けた。贖罪、共感、後悔、懺悔。色々な理由が混ざった、グチャグチャな気持ちのまま、それら全てを吐き出していく。

 

 

『……っ、アンタ達の気持ち、わかっちゃうのが本当にイヤ……! そうよ。わたしもアンタ達みたいにうらやましかった! 雫は華があって、綺麗で、特別で……! 自分のほうがずっとがんばってるのに、どうして雫ばっかりって思っちゃうこともたしかにあった! でも……でも、ちゃんと見なさいよ! 雫は自分の才能にあぐらをかかなかった! みんなが期待したら、それに応えようって努力した! アイドルとして、ファンに希望を届けようとしたわ! だから人気があるの! だからセンターにいるの!! 妬んで、ふてくされてるだけのわたし達とは……全然違うのよ!!』

 

『……愛莉ちゃん……』

 

『ごめんなさい、雫……。わたし、最低だった。自分のことばっかりで、雫のことずっと傷つけて……。雫はずっとわたしの言葉を信じて、みんなに希望をあげるために、ずっとずっとがんばってたのに……!』

 

 

 汚い部分も、醜い部分も、全部さらけ出し言葉。

 刺さるものがあった。誰の心にも、刺さる言葉だった。日野森雫という人間を見ている者に、深く刺さる言葉の──はずだった。

 届かないのはどうしてなのか? 

 足りないのはなんなのか? 

 それすらわからない悪意が、醜い妬みが、チームメイトから呪詛のように投げかけられる。

 

 

『……ていうかさ、なんでまた雫がここに来るの? あんたのせいで仕事の予定もグチャグチャなのによく顔出せたね』

 

『愛莉に泣きついて、代わりに文句言ってもらいにきたわけ? そういうところがムカつくんだよね』

 

『あーあ、本当、雫がいなくなってくれてよかった』

 

『……! アンタ達……っ!!』

 

 

 見慣れた扉の目の前に、湊がようやく辿り着いた時。愛莉の怒声が、スマホのスピーカーと扉越しにダブって聞こえた。

 勿論、既に関係者ではない。見つかったら大目玉どころか、下手すれば警察沙汰。大事になったら面倒なことになるし、両親にも迷惑が掛かる。

 それを踏まえても、湊の脳と心は一切迷わなかった。勢いをつけて扉を開けて、中に踏み込んで行く。

 目の前に広がった光景は──

 

 

「桃井先輩!! ダメ!! ダメですよ桃井先輩!! 桃井先輩は『アイドル』なんですよ!! アイドルは、みんなに希望をあげる存在なんですよ!!」

 

 

 訴えるように叫ぶみのりの姿だった。愛莉の振りかぶった拳が空中に止まり、それを確実に抑えるように湊が手を添えた。握った拳を包むように、優しく抑え込んだ。

 

 

「みのりの言う通りだ。お前は、そんなことしちゃいけない」

 

「湊……? どうして、ここに」

 

「良い後輩がいてな、そいつに教えてもらった。……まぁ、話は大体聞いてたよ。元チームメイトに、雫が世話になった礼くらいは言わないとな」

 

 

 前へ進む。

 彼の足が、一歩、また一歩と進んで行く。

 怒りがある。

 憎しみもある。

 けれど、それと同じくらいに、憐れみがあった。

 

 

「な、なによ……アンタも文句があるの?」

 

「ないよ。あるとしても、言っても意味なんてないからな。ないのと同じだ。だから、俺が言うのは本当に、お礼だけだ。……ありがとう。お前たちのお陰で、雫との関係を変えられた」

 

「……そ、それだけ?」

 

「あぁ、それだけだよ。それ以上はない」

 

 

 負の感情には蓋をして、正の感情も押し潰して。変わらぬ表情で別れを告げる。この場所にもう用はない。長居もしたくない。そう吐き捨てるように、湊は雫の手を取って外に出る。

 後悔は一つもなかった。

 

 ◇

 

 アイドルとして、雫と愛莉は互いが理想の対になる存在だった。

 追いつきたくても、追いつけない。悔しくて悔しくて堪らないのに、もっとステージに上がる雫が見たいと、愛莉は言った。

 辛いとき、苦しいとき、支えになる言葉をくれたのは愛莉だった。本当のアイドルになる夢をくれたのもそうだと、雫は言った。

 

 

 だからだろうか。雫は愛莉の言葉を聞いて、愛莉は雫の言葉を聞いて。互いに、もう一度アイドルになって欲しいと願った。それ故の答えが、一緒にアイドルを目指すという道。

 まさに、大円団のハッピーエンド。誰の目から見てもそう見えた。

 

 

「取り敢えず、どこの事務所に入るかとか、ふたりでどうやって活動するかとか、ゆくゆくは具体的なことも考えなくちゃいけないけど……。まずはふたりで練習から、かしらね。ねえ雫。明日から放課後、屋上で練習しない? 勿論、湊には強制参加してもらうわよ?」

 

「え!? 本当ですか!?」

 

「……はぁ、わかったよ。元々、手伝う気だったしな。あーあ、前とった入校許可証、どこにあったか探さねぇと……」

 

「ふふっ。みぃちゃんもいるなら心強いわ。……けど、みのりちゃんは私達がいてもお邪魔じゃないかしら?」

 

「だっ、大歓迎です! よろしくお願いします!!」

 

 

 四者四様。それぞれが違えども、明るい表情の中。一人だけが──桐谷遥だけが苦しそうに口を噤んでいた。どこか寂しそうに、どこか辛そうに、一歩引いた場所で見守っていた。

 偶然だった。

 奇跡的だった。

 一瞬、そんな彼女と湊の目が合った。

 

 

 引退したとはいえ、流石元カリスマアイドルというべきか。遥は反射で表情を変えて、自然な形を作った。無表情より色があり、微笑みよりは薄い。そんな、自然な形。

 見た相手が相手なら、絶対に気付けない。

 しかし、それは月野海湊には通じなかった。何故なら、無理をしている人間の表情の特徴を、彼はよくよく知っているから。

 

 

「なぁ、桐谷。悪いんだけど、俺がバイトで行けない日の一日でも、気が向いたら一緒にやってくれないか? 正直な話、同じ立場のお前の方が教えやすい部分もあるしさ」

 

「……ごめんなさい、私はいいです」

 

「私からもお願いよ。遥ちゃんが教えてくれたら、きっと……」

 

「……っ」

 

 

 ただお願いしただけ。それだけなのに、遥は湊と雫の言葉を聞いて、酷く表情を歪ませた。さっきまで保っていたのが嘘のように乱れて、素の彼女が見えた。

 なにかを怖がっている遥の本音が、表情に現れていた。

 彼がフォローしようとして触れたのは、他者が簡単には近付いてはいけないトラウマ。遥がアイドルを辞めた理由の根幹にある一つ。

 反発が起こるのは、当然のことだった。

 

 

「やめて! 私に……アイドルをやる資格はない!」

 

「桐谷……お前……」

 

「ちょっと、アイドルをやる資格がないってどういうこと?」

 

「……言い間違えただけです。ともかく、私は参加できません。でも、三人のことは応援してるから、頑張って。それじゃ」

 

 

 誤魔化すような笑みで去って行く彼女を、その場にいる誰もが、追うことはできなかった。みのりでさえ、動揺して一歩も足を動かせなかった。

 大円団に見えた現状は、未だに拗れている。

 前進しただけで、関係が進んだだけで、手を取り合えてなかった一人がいた。

 まだ、ゴールは遠い。

 

 ◇

 

 月明かりと、物悲しい街灯が照らす夜の帰り道。

 手を繋ぐか繋がないか、ギリギリの距離感で、湊と雫の二人は歩いていた。あのあと、遥が帰ったあと。言い間違えのことについて話したが、答えはでず。話を聞くにも、話を待つにも、今日は間が悪いからと、別れることになった。

 

 

「遥ちゃん……大丈夫かしら」

 

「わからない。桐谷が話してくれない限り、俺たちはアイツの背負ってるものを知れないしな。辞めた原因を探ってもいいけど、出てくるのは週刊誌のデマか噂が関の山だよ」

 

「でもっ……!」

 

「気になるのはわかるけど、雫だってそれどころじゃないだろ?」

 

「ぁ……みぃちゃん──」

 

「謝らなくていい。言ったろ、過ぎたことにとやかく言いたくない。……それに、俺は雫の選択を信じてるし、肯定する。なにがあっても、お前の味方だ」

 

 

 そう言って、湊は雫の手を握った。離さないように強く、壊さないように優しく、大事だと伝えるように握った。雫も、照れたように頬を染めたあと、ぎゅっと握り返す。

 散々今までしてきた行為も、互いの想いがわかったら、心情も揺れる。手のひらを通して伝わる鼓動が生々しくてもどかしいが、離したいとは思わない。

 

 

「振り出しに戻ったけど、やることは変わらない。もう一度──ううん、今度こそ。日野森雫を、誰もが認める世界一のアイドルにする」

 

「みぃちゃん……! うん! 私、みぃちゃんや愛莉ちゃんたちと一緒に、世界一のアイドルになって、みんなに希望を届けてみせるわ!」

 

「……これからもよろしくな、雫」

 

「えぇ、がんばりましょう、みぃちゃん」

 

 

 繋いだ手を絡め、二人は未来を見据える。

 やることは多くあるが、最初は目先のことから。気が散らないように、手を取らなきゃいけない少女がいる。助けたいと思う少女がいる。

 湊と雫は、桐谷遥を助けたいと、心の底から思っていた。




 次回もお楽しみに!

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