幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 お待たせしました!
 皆様のお陰で、またまた日間ランキングにのせていただいたしぃです!
 今回も程々ではありますが、どうぞ楽しんでいってください!


 p,s
 ふぇりさん☆9評価、蓮兎さん☆5評価ありがとうございます!


憧れという名の毒と翼の折れた天使

 人目を気にして、湊たちが学校の前からファミレスに移動したあと。真衣の口から語られる告白は、罪を懺悔するようなそんなものだった。

 最初に憧れ、次に隣に立ち、立ち続けることに苦悩し、折れる。

 いつかの未来で、もしもの未来で、みのりが味わうことになるかもしれない。そんな苦痛。

 

 

 桐谷遥の「みんなに明日をがんばる希望を届けたい」という、彼女の言葉が大好きで。苦しい時、何度も励まされて。気付いた頃には、真衣は彼女に憧れていた。それから、必死に歌とダンスの練習をして『ASRUN』のオーディションに受かり、晴れて遥と同じ舞台に上がることができた。どんなに厳しい練習も、キツいスケジュールも、遥がいたから乗り越えられた。

 

 

 自分の力ではなく、遥がいたからだと真衣は言い。続けて、少しずつ自分自身にも人気が出始めたことを、気恥しそうに話した。

 けれど、その空気はあっという間に暗いものに逆戻りする。

 

 

「きっとそこまでだったんです。短い間だけでも遥ちゃんの隣に居られたのは奇跡でしたから。……だから、『ASRUN』に入って三年目に、私がスランプになったのもしょうがなかったのかもしれません」

 

「スランプ……ね」

 

「はい。本当に、些細なことがきっかけだったんです。新曲を上手く歌えなくて、どんなに気を付けても自分のパートでミスして……それが原因でライブでも思い切り踊れなくて。みんなにも、迷惑かけちゃって……自分のことを段々信じられなくなったんです」

 

 

 自信の欠如は、巡り巡って他の部分に支障をきたす。

 隣で話を聞くみのりも、正面で話す湊も、フォローには入れず。雫も愛莉も口を噤む。

 もし自分を信じられなかったら、信じられなくなったら、人間はどうするのか。

 答えは多くない。殆どの人間が、自分を信じる他者の言葉を信じる。

 真衣にとって、それは遥だった。「今日がいい日じゃなくても、明日はいい日になるかもしれない」、その言葉を信じて走り続けた。血が出てるのに気付かないまま。

 

 

 悪者はいなかった。都合のいい悪はなかった。叩いたファンも、助けられなかった遥も、悪役ではなかった。他者の努力を知らないから傷つける無知と、他人を完璧には理解できない子供がいただけなのだ。

 ファンは真衣の努力を知らなかった。

 遥は真衣という仲間を完璧には理解できなかった。

 

 

 当たり前にある不完全さが、何の因果か重なり合い起こった衝突事故に等しい事件。

 真衣は練習のし過ぎで喉を壊し、高音域が出せなくなった。リハビリには少なくとも数年単位でかかるという医者の言葉は、彼女にとってアイドル人生が絶たれたも同然の報告。

 

 

 足掻いても変わらない結末に絶望した真衣は、遥に言ってはいけない言葉を口にしてしまった。

 

 

「希望を持てばなんて、嘘じゃない!! 私は……頑張ったせいで、こんな……っ!! 返して……! 私の時間を……アイドルを! 返してよ!!」

 

 

 それが、アイドルとしての桐谷遥を終わらせてしまった言葉だと、真衣は語る。原因なんてそれしか思いつかないと、悲しそうに語る。

 桐谷遥は、長くない人生の中で一人の夢を壊した。仮令、それが故意ではなかったとしても、相当なトラウマになる。

 何故なら、彼女はアイドルだ。ファンに夢と希望を与える偶像だ。ガラス細工のように繊細で、それでいて美しくなければならない。強くなければならない。

 

 

 しかし、この話を聞いて湊の中にある疑問が生まれた。

 カリスマアイドルである桐谷遥が、仕事に自分なりの矜持を持ってる彼女が、事件一つで簡単に辞めるのか。

 確かに、遥はまだ子供。年端もいかない女子学生。だが、アイドルとしての彼女が簡単に折れるとは思えない。

 事件があればより一層仕事に励み、贖罪をしようとアイドルを続けるはずだ。

 

 

(桐谷は……まだ、なにか隠してるのか? アイドルをやる資格以前に、何かあるんじゃないか?)

 

 

 あくまでファン。その線引きがあるからこそ、湊は気付けた。

 それでも、今すぐには答えが見つからない。

 心の中でため息を吐き、やりたくなかった一か八かの賭けに、彼は打って出る。

 

 

「謝りたいんだよね、真衣ちゃんは」

 

「……はい。謝ってもどうしようもないかもしれません。それでも、私は、遥ちゃんに謝らなくちゃいけないんです……」

 

「ならそうすればいい」

 

「そうね。ふたりの間にどんな確執があるのか、わたしたちにはわからないけど……。でも、伝えたいことがあるのなら、ちゃんと話したほうがいいわね」

 

「私も、みぃちゃんや愛莉ちゃんと同じよ。もし、傷つけてしまっていたとしても、ちゃんと話せれば、前に進めるかもしれない」

 

「……月野海さん、桃井さん、日野森さん……ありがとうございます……」

 

「……………………」

 

 

 深く、深く感謝する真衣を見ながらも、みのりはどこか遠い場所を眺めていた。遥がいる彼方を眺めていた。

 

 ◇

 

 翌日。約束を取り付けられたこともあり、真衣は無事に遥に謝ることができた。

 妹を慰める姉のように、自分の本音を押し殺して優しく接する姿は、アイドルの名に恥じないもので、湊はそれが、逆に見てて苦しくなる。

 

 

 真衣が最後に言った言葉を謝ったら、遥は追い詰めたことを謝って。

 真衣が辞めさせてしまったことを謝ったら、遥は自分の意思だと普通の学生になりたかったんだと偽った。全部が嘘だとバレるから、本心に少しの嘘を混ぜる、そんな小技で押し通した。納得させてしまった。

 

 

「お待たせ。真衣ちゃん、校門まで送ってきた」

 

「ありがと、湊。……ごめんなさいね、遥。だましうちみたいなマネして、悪かったわ」

 

「……いえ。先輩達は、私が昨日変なことを言ったから気にかけてくれたんですよね」

 

「まあ……ね。それより遥、本当にあれで良かったの?」

 

「……………………」

 

 

 優しい声音だった。さっきまで、遥が真衣に向けていた声音と同じ。

 妹のいる姉として、大切な後輩に問いかける。

 隠したままでよかったのか。

 偽りのままでよかったのか。

 揺さぶる為に言ったわけではなかったが、その言葉は確実に遥の心に届いた。

 

 

「……たしかに、アイドルをやる資格ないって思ったのは、真衣のことがあったからです。でも、それは真衣には言いません。絶対に。……あの子には、過去を引きずり続けて欲しくないので」

 

「遥ちゃん……」

 

「実際、私はもうアイドルに未練はないんです。やれるだけのことはやりましたから。それに……私が届けられるものは、もうありません」

 

 

 諦めの色が滲む笑顔で、遥はそう言った。

 未練はない。

 やれるだけのことはやった。

 届けられるものは、もうない。

 

 

 同じアイドルだったからこそ、その言葉に雫と愛莉は口を閉ざした。

 幼馴染みとして、アイドルの近くにいた湊も何も言えなかった。

 残ったのは一人。

 ファンであって未だアイドル未満のみのり、ただ一人。

 純粋にファンだったから言える言葉が、想いと共に溢れて外に出る。

 

 

「そんなことない」

 

「……え?」

 

「届けられるものがないなんて、そんなことないよ。遥ちゃんはたくさん希望をくれた! だからわたしは、こうやってアイドルを目指せてる! 何度落ちてもくじけないでがんばれるのは、遥ちゃんが、明日をがんばる希望をくれたからだよ! だから、何も届けられないなんて……そんなこと言わないで!」

 

「…………………」

 

 

 零れる涙を抑えようともせず言い切ったみのりに、遥は思わず言葉を失った。

 愛莉が刺した杭を、みのりが完璧に押し込み、遂に遥の心をこじ開けた。

 悲しいくらいに、手が尽くせないパンドラの箱だったが。

 

 

「……ありがとう、みのり。すごく嬉しいよ。でも、私はもう、本当に何も届けられないの。だって──ステージに立ちたくても、立てないから」

 

 

 神様が与えた罰は、少女から大切なものを奪った。

 能力ではなく、権利を奪った。

 ステージに立てないアイドルは、一体なんなのか。

 点と点が繋がり、湊の脳裏で答え合わせが終了する。

 

 

 桐谷遥はアイドルをやる資格がない少女であり、やる権利すらなくした少女だった。

 

 

 

 

 




 短編ifは今のところ絵名ルートで構想を固めています!
 ……票数が変わったらその時は作り直しますので、気にしないで投票お願い致します!

 次回もお楽しみに!

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