幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 お待たせさまです、しぃです。
 皆様のアンケート投票のお陰で、記念短編でかくないようがきまりました!
 選ばれたのは………………絵名ifです!
 タイトルは未定ですが、現在プロットは完成し、前後編の2話で投稿予定です。
 来週中には出せると思いますので、しばしお待ちを!


 それでは、本編をごゆっくりお楽しみ下さい……


悔やまない選択をあなたに

 誰も彼もが、自分の選択を100%信用なんてできない。

 時間が過ぎれば過ぎるほど、過去の選択を悔やむし、悩む。間違いだったのではないか、意味がなかったのではないか。そうやって、自分の中でその選択が大きければ大きいほど、迷い続ける。

 事実、愛莉も雫も、自分の選択を後悔しなかったなんて口が裂けても言えない。

 

 

 朝起きる時も、夜寝る時も、愛莉は「本当にこれで良かったのか」と、自問自答した。何度も何度も、考えて問いかけた。

 最初は、もうみんなから冷たい目で見られない。プライベートな時間が持てるし、湊との関係だって……そう思っていた雫も、深い部分ではアイドルや愛莉との関係を捨てられなかった。

 

 

 アイドルは、愛莉にとっても、雫にとっても大切なものだった。

 大切に至った理由は違うし、アイドルになった理由も違うが、行き着いた先は同じだった。

 

 

 湊だって、過去の夢を完璧に捨てられていない。

 ペンタブは今でも、机の引き出しに眠ってるし、デザイン案の詰まったノートも開かれることはなくなったが、同じく眠っている。

 

 

 それぞれに、同じかそれ以上の苦悩があって。

 それぞれに、同じかそれ以上の大切があった。

 

 

 人間は人間。アイドルもファンも、違う人種のようだが根っこは一緒。希望を与えられる側と、貰う側に別れて見えるが、互いが居なかったら成立しない。

 それが、アイドルだ。

 だからこそ、みのりは走り出した。ファンとして、桐谷遥(アイドル)に希望を与える為に。花里みのり(アイドル)として、遥から貰ったものを返せるように。

 

 

 全力で、走り出した。

 

 ◇

 

 朝。太陽の半分を雲が覆う、少し暗くて、けれど明るい時間。

 屋上のドアを勢いよく開いて、みのりは現れた。

 

 

「わたし──遥ちゃんのためにライブをやろうと思うんです!」

 

 

 セカイで見つけた、遥の純粋な想い。

 青いペンライトが描く、一面海のような青色が、彼女にとって大切な思い出の景色。それを、みのりはもう一度見せたかった。

 

 

 明日がきっといい日になると信じられなくなってる遥に。

 前を向いて歩けなくなってしまった遥に。

 友人として、ファンとして、少しでも前を向いて歩けるように、大切だった景色を見せてあげたい。

 ペンライトが生み出す光の海は、遥に希望を貰った人たちの想いの光だったから。アイドルを辞めてしまったとしても、彼女に前を向いて進んで欲しいという、お返しの光だったから。

 

 

 絶対に届きます、みのりはそう言った。言い切った。

 そして、その言葉に、篭った想いに。愛莉は呆れながら、雫は微笑んで、手を取る。

 一輪だった花の傍に、可愛らしいピンクの花と、綺麗な空色の花が咲いた。

 

 ◇

 

 時は流れ、放課後。

 場所は移り変わり、セカイ。

 

「ふぅ。久しぶり、でもないか。ここに来るのは」

 

「……アンタが五人目なのは、ミクやリンから聞いて知ってたけど。なんか、こっちで会うのは変な気分ね」

 

「そうかしら? 私は、みぃちゃんがいてくれると、とっても心強いわ♪」

 

「わたしも、湊さんがいると気が引き締まる感じがします!」

 

「はいはい。……ほら、ミクやリンたちのところに早く行きましょう。今日は本番で使う、ステージの確認のために来たんだから」

 

 

 緩んでいるのか引き締まっているのか分からない空気感。それを纏めるように、愛莉が先導し前を歩いていく。

 運がよかったのか、はたまたあっちから来てくれたのか。歩き始めてから数分とかからずに、ミクやリン、KAITOと会うことができた四人は、彼女たちに事情を説明する。

 

 

 ライブの話を聞いていたミクたちは、ステージの確認の件に一も二もなく首を縦に振り、そのまま練習に使っていけばいいとも言ってくれた。

 

 

 そして、それから。愛莉と雫、湊による厳しい指導の下、みのりは練習が始まった。悩みが吹っ切れたためか、今までよりずっと早いスピードで成長していく彼女はまるで、眠っていた才能が開花したかのような、異常とも言える吸収力を発揮。

 希望を届けるというアイドルとして天性の才能と、希望を届けたいと想うアイドルとして最高の心を共鳴させて、力を引きずり出していく。

 

 

「ストーップ! 腕の振りが小さいっ! 後半になるとすぐ動きが小さくなるわよ! 一番遠くの客席にまで、みのりの想いを届けられるように意識! ハイ、もう1回!」

 

「はいっ!」

 

「それから、音程が少し不安定になってるわ。体に力が入るとどうしてもそうなりがちだから、緊張する時ほど、自分の呼吸のペースを気を付けてみて。その方が、みのりちゃんの想いもっともっと届くわ」

 

「はい! ……ゆっくり息をして……肩の力を抜いて……」

 

「みのりちゃん、最後にいい?」

 

「は、はいっ!」

 

「──笑顔、忘れないでね。楽しむことを、忘れないでね。自分の想いを届けたいなら、桐谷に前を向いて欲しいなら。自分が一番前を向いてなきゃ」

 

「……はいっ!!」

 

 

 みのりの力強い返事を聞いた湊は、笑って頷いてからステージの端に歩いていく。

 コーチとしての彼の仕事は、この段階まで来れば残ってない。人事を尽くして天命を待つ、この言葉の通り、あとは彼女たち次第。本番でステージに上がる彼女たち次第。

 

 

 どうなるかなんて想像もつかないが、きっと悪くはならないと。湊の中にはそんな確信があった。努力も才能も、全て出し切ったステージに失敗なんて言葉はありえないことを、彼は知っていたから。

 けれど、ダメ押しは必要だ。

 何事も、最悪の事態を想定するのが鉄則。

 

 

「……もう、行くのかい?」

 

「あぁ。愛莉に雫、ミクやリンに──カイトもいるしな。俺までいたら鬱陶しいだろ?」

 

「そんなことはないよ。ここは、君のセカイでもあるんだから」

 

「冗談だよ、用事で出るだけ。この調子なら、俺抜きでもなんとかなりそうだしな。……言い忘れてたけど、ありがとう。カイトのお陰で、俺変われたよ」

 

「僕、何かしたかな?」

 

 

 含み笑いなのか、少しだけニヤついた、あまりに人間臭く笑うKAITOを見て、湊も同じ様な笑みを浮かべて、去っていった。

 

 ◇

 

「急に呼び出して悪いな、桐谷。少し、話したいことがあってさ」

 

「別に、特に用もなかったので平気ですけど……話ってなんですか?」

 

 

 全国にチェーン店を広げるファミレスの、隅にあるテーブルで、遥と湊は会っていた。会話の通り、呼び出したのが湊で、呼び出されたのが遥。

 感情を見せないポーカーフェイスを見せ合う二人の雰囲気は、店内でも浮いており、注目されてはいるが誰も近付けない。それもそのはず、湊が雰囲気をわざと作ってるのだから、入ってこられるわけもない。

 

 

 もし、入ってこられる人間がいるなら、その人間には感情がないか、振り切れたポジティブ精神の持ち主か、はたまた空気が読めない不思議ちゃんくらいだろう。尤も、湊は誰が入ってこようと会話を切るつもりはないが。

 

 

「身構えなくても、変な話はしないさ。……ただ、明日の放課後、暇かなって」

 

「それだけ、ですか? だったら、こんな所で会わないで、メールでも──」

 

「ダメだ。最悪、それだと逃げられるしな。昨日みたいに」

 

「……明日の放課後、何をする気なんですか?」

 

 

 あくまで、『逃げる』という言葉は無視して、話を続ける遥。

 この時点で、湊の勝ちは確定したも同然だった。罠に獲物がかかったような感覚。跳ねて喜びたいが、バレてはいけない。

 落ち着いた様子を崩さないまま、湊も話を、続けた。

 

 

「ライブだよ。セカイでライブをするんだ。桐谷には、それを見に来て欲しい。勿論、無理強いはしない。嫌だったら断ってくれて構わない。みのりたちには、俺から伝えるよ。なぁ……どうする?」

 

「……行きます。けど、その代わり──月野海先輩の話を聞かせて下さい」

 

「俺の話……?」

 

「先輩は夢について。どう、思ってますか?」

 

 

 死角から貰った一発。

 気配も見せなかった一言が、湊を襲った。

 一瞬、ほんの一瞬、彼の表情が崩れる。

 

 

 遥からすれば単純な興味。昨日言われた言葉が、やけに心に引っかかるから聞いただけの事。地雷だとしても、彼女は聞きたかった。

 夢を諦めて、夢を諦めきれないのに、進み続けてる湊の夢の価値を。

 

 

「……俺にとっての夢は、理想で、目標だった。そうなりたいって思って、そうなれたらいいなって頑張るものだった。過去形だけどな。今は──わからない。自分の中途半端な才能が、本当に憎いよ

 

「ありがとうございます。なんとなく……先輩のことがわかった気がします」

 

「お前がいいならいいけど。じゃあ、明日。放課後の屋上で待ってる」

 

「はい。……また、明日」

 

 

 テーブルの上に置かれていた伝票を持って去っていく湊を、遥は見送り。残ったフライドポテトを一本口にする。冷えて、シナシナで、美味しくないはずなのに。程よい塩味が、口の中に拡がっていく。

 桐谷遥から見た月野海湊は、背伸びして頑張る子供のようだった。

 




 次回もお楽しみに!

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