幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 お待たせしました、しぃです。
 いやぁ……モアジャンイベ、やってますね。
 私も、せっせこイベランして、なんとか1000位圏内には入ってます。
 推しは諭吉3枚で出てくれました。満足。
 今回はセリフ多めなので、サクッと読めると思います。
 ……六千字くらいあるけど。


 p.s.
 あきたいぬさん、☆9評価ありがとうございます!
 九条ユウキさん、☆10評価へのアップありがとうございます!
 これからも、誠心誠意頑張りますので、よろしくお願いします!


 それでは、本編をどうぞ!


セーブ・ア・ライブ

 月は影。

 月は太陽の反射板。

 アイドルを支える裏方が、湊の担当であり、一番力を注いでいる仕事だ。

 だからこそ、彼は誰よりも早くセカイに訪れる。みのりや雫、愛莉や──遥の為に、ステージの準備に勤しむ。隣にいるKAITOに導かれながら。

 

 

「湊くん。さっき言っておいた、スピーカーの音量調整と、照明の調整は順調かな?」

 

「問題ないと思う。試しにイントロ流してみたけど、客席の方にもしっかり届いてる感じあったし。そっちは?」

 

「僕の仕事もそろそろ終わるよ。あとは……彼女たち次第、だね」

 

「……最初からそうだよ」

 

「もしかしなくても、心配してるかい?」

 

 

 様子を伺うようにKAITOがそう問いかけると、湊は静かに頷いた。

 信頼してると、心配してないは同義ではない。確かに、彼はみのりや雫、愛莉のことを信頼しているが、それが心配しない理由にはならない。

 何時だってそうだ。本番が始まらなければ、湊の中の不安や心配は消えてくれない。練習が完璧でも、リハーサルに問題がなくても、簡単に消えてなくなるものじゃない。

 本番で、彼女たちが本当に輝くまで、不安は拭いきれないものだ。

 

 

 けれど、今回に限っては、湊の中で以前よりその感情は薄い。

 雫や愛莉という真剣に経験を積んだアイドルが隣にいて、その中心にはアイドルとして必要な素質を完璧に持ち合わせたみのりがいる。

 絶対はない。

 絶対はないが、ありえないも存在しない。

 未知数な可能性を、湊はあの三人から感じている。

 

 

「なんとかなる。今は、そう信じるしかない」

 

「ふふっ。やっぱり、湊くんはアイドルが好きなんだね。その言葉から、伝わってくるよ」

 

「カイトだって、そうなんだろ? じゃなきゃ、自分もアイドルだってのに、裏方(こっち)の仕事に手を出したりしないし」

 

「バレバレだった?」

 

「わかりやすいよ。俺も、よく雫に言われる」

 

 

 苦笑いを浮かべるKAITOと対称的に、湊は柔らかい笑みを浮かべた。

 ここまで来たら、彼のやるべき事は多くない。

 残された湊の仕事は、託し、見守り、押し出すこと。

 それだけだ。

 

 ◇

 

 準備完了から約十数分。ようやく、セカイに役者が揃った。

 可憐な衣装に身を包み、ステージに立つ、みのりたち。

 同じぐ、可憐な衣装に身を包みつつも、観客席。遥が佇む場所に向かった、ミクとリン、加えて湊。

 そして、一人。ステージ裏の舞台袖て、皆を見渡すKAITO。

 

 

 離れた場所に居れど、想いは同じ。

 輝くであろう少女たち(アイドル)に、湊は託した。あとは、見守り、その時が来たら押し出す。

 全員が覚悟を胸に、ライブが始まろうとしていた。

 

 

「こんちにわ! 花里みのりです! 突然ですが、わたしには憧れのアイドルがいます! それは、桐谷遥ちゃん──あなたです!」

 

「……………………」

 

 

 普段のほわほわとした優しい表情からは想像もできないくらい、熱く強い感情が、みのりから遥に向けられる。

 逃げ場はない。

 逃げられない。

 受け止める以外の選択肢が、遥は取れない状況にある。

 

 

 憧れ。

 全てを壊してしまった言葉を、遥は受け止めなければいけなかった。

 しかし、憧れだけでみのりの言葉は終わらない。

 

 

「遥ちゃんはわたしに、たくさんの……とってもたくさんの希望をくれました! でも遥ちゃんは今、とっても苦しくて辛い気持ちになってて、悲しい顔をしていて……。せめて少しでも、前を向いて進めるようになってもらいたい。そう思ってこのステージに立ちました! 今日は精一杯ライブします! よろしくお願いします!!」

 

「最後まで聴いていってね」

 

「最っ高のライブ、見せてあげるわ!」

 

「心をこめて、歌います!! 聴いてください!!」

 

 

 その言葉が合図だったのか、曲のイントロが流れ始め、一瞬にして青色のペンライトで観客席が埋まっていった。

 歌い出しは完璧。みのりの声に震えはなく、奥の奥まで響くような強さがある。緊張からか、肩に力が入ってるが、動きも申し分ない。

 

 

 間違いなく、届く。湊はそう感じていた。

 見間違いじゃなければ、遥の背中からは、ステージに対する恐怖と同等か、それ以上の期待が見えていたから。

 

 

(ほんと、初めて会った時から随分成長したな、みのりちゃんは……)

 

 

 未だに、愛莉や雫、遥のような本物のアイドルには及ばない部分はあるが、それを補ってあまりある素質がステージで歌い、踊る彼女から溢れている。

 たった数年にも満たないが、曲がりなりにも、アイドルと近くで接して、目が肥えた彼だからこそわかることがある。

 素質、言わば才能だ。

 軽く見ただけではわからないが、深い仲になってステージを見れば、嫌でもわかる。

 

 

 生易しい職業じゃないからこそ、才能は死なない。人によってはその場で開花させる者もいるくらいだ。

 その中でも、みのりは追い詰められた時が一番強い。

 限度はあるが、必要な眠った才能を叩き起せる人間だ。

 誰かに希望を届けたい、そんな感情を当たり前に持てる人間だ。

 勿論、努力の下積みがあるからこそだが。

 

 

「湊くん、行こう。そろそろだよ?」

 

「歌も終わっちゃうしね! 早く早く〜!」

 

「……あぁ、あと一押し」

 

 

 急かすリンと、誘うミクに引かれ、湊は歩き出す。

 遥の背中を目指して。

 

 

「そう、あの景色が……みんなの想いがあっから……私は……」

 

「遥ちゃん、ライブは楽しめてる? みんな、たっくさん練習してたんだよ?」

 

「それに、見て! 青い光があんなに遠くまで見えるよ!」

 

「届いてるか、みのりの……みんなの想い」

 

「ミク、リン……月野海先輩……」

 

「見えてるし……届いてますよ。大切な景色も、そこにある想いも」

 

「ステージの上から見たら、もっと綺麗だぞ」

 

 

 震える彼女を気遣うように、ぽつりと湊が呟く。

 わかっている。

 遥だって、覚えているから。上から見た、ペンライトの青い海が綺麗だって。

 それでも、動かない。動けない。

 足が震えて、一歩前に進むことすら難しい。

 

 

 進みたい、けど進めない。そう悩んで、固まっている内に、音楽が止んだ。

 

 

「はぁっ……はぁ……っ、あ、ありがとうございました!!」

 

 

 精一杯歌い切って、踊り切って。

 息も絶え絶えなままでも、みのりは笑顔でそう言った。

 続けて、遥に向き直り、先程感謝を口にした時の笑顔とはまた違う笑みを浮かべて、言葉を紡いだ。

 

 

「……ねぇ、遥ちゃん! ステージに上がらない? 今、すっごく綺麗な景色が見えるよ! この景色を遥ちゃんに見てほしくて、わたし達、頑張ったの! きっとステージの上から見れたら──遥ちゃんもまた、前を向いて進めるんじゃないかって……!」

 

「……………………ごめんなさい。それは無理なの。ただステージの前にいるだけでも、こんなに足が震えてる……」

 

「それなら、わたしの手を掴んでっ!」

 

「えっ…………?」

 

「──あのね、遥ちゃんはわたしに、たくさんのものをくれたんだよ。子供の時、遥ちゃんみたいになりたくてダンスの練習を始めたの。運動は苦手だったんだけど、やってたらだんだん楽しくなって、気づいたらダンスが大好きになってたんだ。遥ちゃん会いにライブに行ったら、友達もたくさんできたよ。遠くの県に住んでてあんまり会えないけど、その子たちとは今もよく連絡とってるんだ。それに、ライブで遥ちゃんに初めてファンサ貰った時は、嬉しくって、ドキドキして、泣いちゃって……。誰かを好きになることが、こんなに嬉しいことなんだって、初めて気づけたんだよ」

 

 

 あなたが教えてくれたの、とみのりは言った。

 

 

 雫がいなかったら、今の湊がいないように。

 遥がいなかったら、今のみのりはいなかった。

 互いが互いに必要だった。

 互いが互いに返そうとしていた。

 

 

 希望も、愛情も。

 感謝も、謝罪も。

 貰った一つ一つが大切で。貰った一つ一つが思い出で。貰った一つ一つが忘れられないもので。

 絶対に替えがきかないもの。

 

 

「それから……それから……! 遥ちゃんはわたしに、アイドルになるっていう夢をくれたよ! わたしができることは、これくらいしかないけど。この景色を見て、前を向いて、思い出してほしいの! 明日はきっといい日になるって──信じてほしいの!!

 

「みのり……」

 

「……桐谷、お前はどうしたい?」

 

「私……私は……ステージに上がりたい……! もう一度、あの景色が見たいよ……!」

 

「遥ちゃん……!」

 

「ほら、みのりちゃんの手をとってあげて! きっと大丈夫! わたしたちも、遥ちゃんがステージに上がるの手伝うから!」

 

『せーのっ!』

 

 

 一も二もなく、湊も手伝って、遥は背中を押され、みのりの手をとってステージに上がる。

 だが、上がれたことに驚くと同時に、恐怖が彼女の足を竦ませた。

 一瞬、湊の表情に陰が見えかけたが、それは嘘のように消え去り、穏やかなものに変わる。

 

 

 過去に支えられた者が。

 過去に弱くて助けられた者が。

 強さを取り戻して、今、弱くなって苦しくなって、崩れ落ちそうになる遥を支えた。

 雫と愛莉が、隣に立っていた。

 

 

「何度でも支えるわ。そのために、私達がいるんだから。腰をまわして。愛莉ちゃんの方にも」

 

「そうそう! ひとりで無理なら、周りに頼りなさい! ──ほら、遥。そんなに足下ばっかり見てないで、振り返って前を見てみなさいよ!」

 

「あ………………綺麗」

 

 

 零れた言葉は、想いの発露で。

 包み、覆い隠されていない、本音だった。

 

 

「この光は全部、遥ちゃんがくれた、希望の光なんだよ。わたしがアイドルを目指してるのも、ここでライブができたのも、先輩達と一緒にライブができたのも、全部、遥ちゃんが希望を届けてくれたから。遥ちゃんがいなかったら、わたしもこの景色は見れてない。この光の数だけ、遥ちゃんはわたしたちに希望を届けてくれたんだよ。だから……何度だって、私は伝えたいの! 本当に本当に、ありがとう、遥ちゃん! わたしに希望をくれて……!」

 

「私が……希望を………………そっか。ちゃんと、届けられてたんだね……」

 

「遥ちゃん……!」

 

 

 希望を届けられていた。

 希望は届けられていた。その言葉を聞いて、遥はホッとしたような表情で、一筋の涙を流した。

 義務感という言葉だけでは表せない、強い感情が涙になって流れ落ちる。

 結局の所、みんな、アイドルが大好きだったのだ。

 

 

 アイドルになりたくて。

 アイドルでいたくて。

 アイドルで在りたくて。

 アイドルでいて欲しくて。

 

 

 やっと、本当の想いが出揃い、『Untitled』は歌に変わる。

 

 

「スマホが……『Untitled』が光ってる……?」

 

「みのりのだけじゃない……。わたし達の『Untitled』も、光ってる……!」

 

「本当の想いを見つけられたから、みんなの想いから歌が生まれようとしてるんだよ。歌は、人の心の中にある本当の思い出できてるから」

 

「本当の想い……。わたし達の本当の想いって……?」

 

 

 最初から持っていた、みのりだけが知らない。

 みのりだけが到達できない、本当の想い。

 

 

「ふふっ。みのりにはわからないかもしれないわね。最初からずーっと持ってたんだから」

 

「そうね。私達がなくしかけた時も、みのりちゃんだけはずっとこの想いを大事にしていたわ」

 

「え?」

 

「──アイドルになりたい、アイドルでいたい、アイドルで在りたい。それと、アイドルでいて欲しい。みんなに希望をあげられるような……そんなアイドルに。それが私の……ううん、私達の本当の想い。ありがとう。みんながいなかったら、私、きっと立ち止まったままだった。ずっと後悔してた。ありがとうございます、桃井先輩、月野海先輩、雫。……そして、本当にありがとう、みのり」

 

「え? そ、そんな! わたしはなにも……! ずっと、先輩達に助けてもらってばっかりで……!!」

 

 

 自分を卑下するわけでもなく、純粋にそう思ったみのりだが、その場にいる全員が違うと言った。

 本当の想いを見つけられたのはみのりのお陰だと。

 大切なことを思い出せたのはみのりのお陰だと。

 最後に、みのりが手を引っ張ってくれたから、この想いを取り戻せたんだと。

 

 

「みのりちゃん、誇っていいよ。俺たちにとって、君は間違いなくアイドルだ」

 

「遥ちゃん……桃井先輩……日野森先輩……月野海先輩……!」

 

「ねえ、この歌、みんなで歌おうよ! わたしも一緒に歌っていい?」

 

「えっ!? ミクちゃんと!? ミクちゃんと一緒に歌えるなんて……すごく嬉しいよ!!」

 

「よーし! それじゃあわたしは、MCで盛り上げちゃおーっと! みんな最高のステージにしようね!!」

 

 

 ステージにいる全員が笑い合い、準備を始める中、湊だけは観客席でずっとそれを眺めていた。

 あくまで裏方。

 彼は表現者の端くれではあるが、自分のステージが──舞台がそこではないと知っている。

 

 

 このまま気配を消して、観客席の前列中央、特等席で見るのも悪くない。そう思っていたが、それを許さない人間が一人、いた。

 

 

「みぃちゃん! 一緒に歌いましょう? みんなで歌ったらきっと楽しいわ!」

 

「……いや、俺は──」

 

「逃げるんですか? 月野海先輩? 私にあれだけ言っておいて」

 

「ち、違うだろ! それとこれとは話が──」

 

「あぁ、もう! アンタのそういう所が嫌いなのよ! ほら、つべこべ言わずに上がりなさいよ!」

 

「け、けど……」

 

「湊さん! わたしも、一緒に歌いたいです!」

 

「……わかった、わかったよ。こうなりゃ道ずれだ、リン! カイトも連れてきてくれ!」

 

「やったぁ! 楽しくなりそうだね!」

 

 

 無理やり、殆ど力づくでステージに上げられた湊の服装が、一瞬にしてカイトとお揃いのアイドル衣装に変えられる。

 赤茶色の長いマフラーに、全てを受け入れるような白を基調とした華やかな作り。参考にしたいくらいには綺麗な衣装だ。

 さながら、本物の男性アイドルだろう。

 

 

 そして、少し遅れて、本物(KAITO)がやってくる。

 

 

「盛大に巻き込んだね、湊くん。嬉しいよ、君がこっち(アイドル)に来るなんて」

 

「雫たちが、どうしてもって言うからな……今回だけだよ」

 

「中々似合ってるよ、その衣装。マフラーもね」

 

「えぇ! カイトさんの言う通り、すっごくカッコイイわ、みぃちゃん!」

 

「……急に会話に入ってくんなよ……まぁ、ありがと」

 

 

 その後、総勢八人でのライブが行われ、結果は大成功。

 多くの歓声が送られた。

 

 

 想いから生まれた歌の名は『アイドル親鋭隊』。

 可愛らしく、アイドルとしての覚悟と、ファンに希望を届けることのできる歌。

 最高の──歌だった。




 次回もお楽しみに!

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