幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 毎回代わり映えのない挨拶をする私こと、しぃです。
 いやまぁ、正確にはしぃ君です。
 最近の悩みは、ペンネームをしぃ君にしたことで、みんなにしぃ君さんと呼ばれること……ですかね。
 嬉しいんだけど、むず痒い感があります。ぶっちゃけ嬉しいですけど、ね?


 と、どうでもいい話はここまで。
 今回のお話はあくまで幕間、章跨ぎの繋ぎのようなお話です。かと言って、伏線君を回収したり投げ捨てていったりするので、私のお話は本編から逸れても、ある程度楽しめるようになってます……多分。


 長話もこれまでに、本編をどうぞ!
 


幕間「向き合い、向き合われ、囁く」

 向き合う、という言葉は、なにも人に対してだけ使われる言葉じゃない。

 逃げていた現実と向き合う。

 目を背けていた過去と向き合う。

 諦めてしまった夢と向き合う。

 色々な『向き合う』があり、それは決別だったり、覚悟だったり。多くが、未来に繋がる行動である。

 

 

 だからこそ、月野海湊には、日野森雫以外に向き合わなければいけないものが、もう一つあった。

 それは逃げていた現実で、目を背けていた過去で、諦めてしまった夢だ。両親と同じ道、デザイナーになる。なんていう、幼い頃に描いた夢。

 自分の才能を察し、記憶の底に沈めていた、淡い泡沫のような夢。

『MORE MORE JUMP!』と関わって、掘り起こした過去の遺産と、湊は向き合おうとしていた。

 

 ◇

 

「……ふぅ」

 

 

 一連の出来事が終わったあとの週末。一区切りをつけるため、レッスンは休みにし、暇ができた日。湊は、朝から自室の机の上に、ペンタブレットとアイデアノートを広げ、眺めていた。

 本当に、ただただ眺めていた。

 触るわけもなく、ましてや使う様子もなく、ぼーっと懐かしむように眺めていた。

 

 

 人間、いざ大切なものに向き合うとなると萎縮する。彼だってそれは変わらない。目の前にあるのは、大切だったもの。大切にしていたもの。ペンタブレットと至っては、使う理由もないというのに、こまめなメンテナンスは欠かさなかった。

 それだけ、それだけ、湊にとっては大切なものだった。何度も何度も後悔して、後悔する度に自分の才能を思い出して苦しくなって、しまい込むくらいには。

 

 

「……強くなったと、思ったんだけどな」

 

 

 懐かしむのが精一杯。

 もし、懐かしむのを止めて、手を伸ばそうとすれば、触れる直前で彼は固まってしまうだろう。

 椅子に座って眺め始めてから、かれこれ一時間が経過した。時計の指す時間は、丁度午前九時。そろそろ、朝ごはんを作り終えた雫が、湊を呼びに来る。

 

 

 しまうなら頃合だ。

 一旦止めて、朝ごはんを食べてから再チャレンジするのも悪くない。

 気分が変われば、心持ちもよくなる。触れる可能性も、1%から1.1%くらいにはなれってくれるかもしれない。

 そんな楽観的な考えで、椅子から立ち上がろうとした時、湊は一瞬考えた。

 

 

(雫が隣に居たら……どうなるんだろう)

 

 

 純粋な疑問。純粋な期待。

 しかし、それは賭けだ。博打だ。

 やってもいいことなんて起きない可能性の方が高い。運が悪ければ、雫に引っ付かれて、そのままなぁなぁで……なんてこともありえる。

 

 

(でも……このままいても、変われるかなんてわからないよな)

 

 

 浮かそうとした腰を戻し、湊は静かに、雫が来るのを待つ。そして、予想通り、数分もしない内に、彼女は満面の笑みで現れた。

 可愛らしい空色のエプロンを纏い、料理のためか髪を一つ結びにした状態で。

 

 

「あら? みぃちゃん、もう起きてたのね?」

 

「少し、やりたいことがあってさ……」

 

 

 恥ずかしいことでも、やましいことでもないのに、湊は濁した。

 もっとも、濁した程度では雫を騙せない。それが通じるほど、浅い仲ではない。だから、彼女が机の上の物に気付くのは、早かった。

 少しだけ目を見開いて、そのあとは優しい微笑みで、そっとノートに手に取った。

 

 

 一枚、また一枚と、ページをめくり、そこに描かれた自分だけの服を見て、雫はポロリと涙を流した。

 悲しい、とか。辛い、とか。暗い理由で出る涙ではなくて。『あぁ、私はこんなにも愛されていたんだ』と、確認できたからこそ溢れた涙だった。

 

 

「雫……?」

 

「ごめんなさい。……嬉しくて、つい。だって、これ。みぃちゃんはとっくに、捨ててるものだと思ってたから」

 

「……捨てられるわけないだろ。それは、俺の──」

 

「夢、だから?」

 

「わかってるなら、言うなよ。……あぁ、クソ。最近、負けてばっかだ」

 

「負けてても、みぃちゃんはかっこいいわよ?」

 

「はいはい、ありがとな」

 

 

 テキトーに聞き流すように、湊はそう言って、もう一度向き直る。

 隣には、雫がいる。だからだろうか。彼は、かっこいい自分を見せたいと思った。子供らしく、好きな人に自分の強いところを見せたいと思った。

 けれど、そんな強がりは必要ないと、雫は湊の手に自分の手を添える。

 

 

 言わない優しさ。

 察してくれる温かさ。

 重かった手が、届かないと諦めかけた手が、前に進む。隣にたった幼馴染みが、隣にたった大切な人が、湊の背中を押してくれる。

 

 

「……あ」

 

 

 触れた。

 手に取れた。

 ようやく、向き合えた。

 

 

 泣き笑いを零した湊は、過去を取り戻すかの如く、ノートを見返す。

 最初の方は、お世辞にも上手いとは言えず、グチャグチャだった絵は、ページをめくるごとに上達していき、いつしか一定以上のものを描けるようになって……最後のノートのあるページを境に、パタンと終わる。

 

 

 やめた理由は幾らでも言えた。

 才能がなかった。

 努力し続けることができなかった。

 雫のことを応援したかった。

 自分を信じられなかった。

 

 

 他にも、言おうと思えば幾らでも言える。

 どれもこれも言い訳で、逃げるための言い訳で。つまらない嘘を吐き続けるだけの、簡単な作業だ。

 だが、湊はそれをしなかった。できなかった。

 何故なら、誰も彼を責めなかったから。ある一人を除いて、誰も何も言わなかったから。

 

 

 結局、ある一人だけが消えて、優しい人だけが彼の周りに残った。

 後悔がないないんて、死んでも言えない。

 

 

「雫……悪いけど、飯の皿持ってきてくれるか?」

 

「……そう。頑張り過ぎないでね?」

 

「善処するよ……多分」

 

 

 贖罪やら、なんやらの縛りもなく、単純に。湊は描きたかった。

 成長した雫に似合う服を。今の自分の最大限の技術で。

 

 ◇

 

 二人だけの休日はあっさりと流れてゆき、外は月が顔を出し始めた。

 付き合ってから初めての家デートで彼女を放置するなんて、ものに寄っては極刑を免れない行為だが、雫は気にしていない。

 寂しくないのではなく、気にしていない。

 ホットミルクを飲みながら、最近出たばかりの本を読むのだって十分楽しいし。何より、大好きな人が自分のために頑張っているのだから、応援してあげたい。

 

 

 しかし、限界は訪れるもの。

 何かあるかもしれない、と少しだけ期待して、身なりをしっかりと整えてきた雫からしたら、寂しさが募っていくのは当然のこと。

 欲望に逆らわないのは心地がいいが、雫だって乙女。順序だてて進むのも嫌いじゃないし、ムードだって大事にしたい。

 

 

 普段は、湊の方がそう思うことが多いが、普段と今は違う。想い合って結ばれた恋人同士が、一つ屋根の下、今日両親は帰って来ない。絶好の条件が揃ってて、勘違いしない人間はそうそういない。

 肝心な時に限って、彼は鈍感……というより、違う方を向いてしまっている。

 

 

「ちょっとくらいなら……イタズラしてもいいわよね……?」

 

 

 特に意味のない自問自答。結果は勿論OKだ。

 クスリと小悪魔な笑みを零した雫は、軽やかな足取りで、二階の湊の部屋へと向かって行く。

 気付かれないよう、軽くひそひそと。

 

 

(……どうしようかしら、ふふっ。耳元で囁く? それとも、また……痕を付ける?)

 

 

 笑みを抑えられないまま、雫は彼の部屋の扉を開ける。扉の先に広がる光景を見て、彼女の表情は呆れたような懐かしいようなものになった。

 

 

「……もう、みぃちゃんったら。頑張り過ぎないでねって……言ったのに」

 

 

 椅子に座っている湊は、やり切った感のある子供のような顔つきで眠っている。ペンタブレットとのペンを握ったまま、完成したであろう服をPCのディスプレイに映したまま、眠っている。

 服の種類は、肩出しの長袖ロングワンピース。色は紺がベースで、白を使った水玉模様。他にも、走り書きで書かれた付箋に、合わせるといい小物がつらつらと並べられていた。

 

 

 サッとデザインだけを見れば、至ってシンプルな服だが。よくよくちゃんと見れば、雫の為に着やすさや動きやすさを重視した、プロ顔負けの仕上がりになっている。

 万人に届けられる物ではない、自分だけに渡されるであろう服を見て、雫の心にあった寂しさはどこかに飛んでいった。

 

 

「みぃちゃんの作る服、私は好きよ。誰かの為を想って作られてるのが、伝わってくるもの。……だから、これはお礼」

 

 

 そう言った雫は、髪が湊に当たらないよう耳にかけて、寝てる彼の唇に自分の唇を重ねた。頬でもいいとは思ったが、ちょっとしたイタズラだ。

 一人ぼっちにさせたみぃちゃんが悪い、そう自分の中で納得させて、何度もそれを繰り返した。触れるようなキスを、起こさない程度に。

 何度も、何度も。

 

 

 やがて、唇が湿ってきた頃、彼女は近付けていた顔を離す。

 運がよかったのか悪かったのか、雫はその時、可愛いを見つける。それは、引っ込んでいた小悪魔が戻ってくるには、丁度いい起爆剤だった。

 

 

「起きてるの、バレバレよみぃちゃん? 耳、真っ赤っか♪」

 

 

 部屋から出る直前、囁くように耳元でそう言い残して、雫は去っていった。

 悶えた湊の、声にならない叫びが、月野海家に響くのは、それから約三秒後の話である。




 皆様、いつもアンケートにご協力頂き、ありがとうございます!
 厳選なるアンケートの結果、記念短編はifENDになりました。
 ヒロインは別途アンケートを用意しようかとも思いましたが、今回は私の都合により『志歩』を選ばせて頂きます!


 投稿日は、そこまで開ける気はありませんが、もう少々お待ちください!

 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

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