幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 記念短編の執筆が上手くいかない私です、しぃです。
 ようやく梅雨入りの季節、蒸し蒸しして、我が家ではエアコン必須の時期になってきました、はい。


 さっきまで絶賛エアコン稼働しながら執筆していましたとも。
 まぁ、無駄話はここまでに、本編をごゆっくりどうぞ!


両想いな二人のリスタート
自分を信じるというのは、他人を信じるよりも難しい


 アイドルというのは、本来事務所に所属してこそ、真に活動を開始できる。練習環境から番組出演や仕事のスケジュール、多くのことをサポートされて、ステージに立ち、ファンに希望を届けられるのだ。

 それは、新進気鋭のアイドルグループ、『MORE MORE JUMP!』も例外ではない。幾ら、元国民的人気アイドルが居ても、例外はほぼありえない。

 

 

 だからこそ、四人は自分たちのコネやツテを使って、事務所探しに奔走していた。

 裏方であり、サポーターである、湊を除いて。

 

 ◇

 

 最近は連日、日課のように訪れることが増えたステージのセカイに、湊は今日も足を運んでいた。ある日は、練習のため。ある日は、KAITOから裏方についての仕事を詳しく教えてもらうため。ある日は、ただミクたちのライブを聞くため。

 かわるがわる理由を持って、彼はセカイにやってきた。そんな日々が続いたこの日、湊は特に理由なく、ステージが並ぶ不思議な場所に足を向けていた。

 

 

 強いて理由を上げるなら、暇だったから。

 どこまで行っても、湊は所詮裏方だ。そこら辺は弁えているので、彼女達の事務所探しに付いて行くことはしない。手伝える範囲は、自分のコネやツテから、事務所を見繕って紹介することくらいだ。

 けれど……ここ数日は、それも断られることが多くなっていた。

 

 

 原因を察してしまった湊は、ステージ袖で機械を弄るKAITOに愚痴るように、それを話す。

 

 

「──、とまぁ、こんな感じてさ。中々、上手くいかないんだよ」

 

「……やっぱり、大変そうだね。こっちのセカイでの僕たちは、事務所に所属しなくても、自由に活動ができるけど。あっちではそう、上手くもいかないし」

 

「まぁな。……あまり言いたくないが、正直な話、元々無理な気はしてたんだ」

 

「うん? それはまた、どうしてだい?」

 

「一応、引退したとはいえ、愛莉も雫も遥も、時代を賑わせたアイドルの一人だろ? そんな三人が、研究生にもなってない素人一人と組んで、グループでデビューさせてくださいなんて、難しい話そうそうない。加えて、下手に小さな事務所が取れば、引き抜きかって、元の事務所から圧力をかけられて、他に所属してるアイドルの芽を摘みかねない。起こしたての事務所や、まだ起こす予定の事務所でも、それは同じだ」

 

「なるほど。同業者は、基本的にライバルだから、そういうのもあるか……。ん? じゃあ、そこまで見えてた湊くんなら、なにか代案は浮かんでるんじゃないのかい?」

 

 

 純粋な疑問点。

 人間、そこまで察しがよく見えていたのなら、代案やそれに近いものは用意するか、考えてるはず。KAITOは、湊のそういう部分を信じていたし、期待していた。

 それを聞かれた湊も、素直に頷いてはいるが顔色はよくない。

 何故なら、今彼がやっているのは、仲間に期待できていない証明のようなものだ。気分がよくなるものではない。

 

 

 勿論、湊に仲間を──みのりたちを悪く言うつもりはない。だが、現実は現実。取れる手段は限られているし、その手段が上手くいく保証なんてどこにもない。

 最終的には出たとこ勝負になってしまうだろう。

 しかし、それでも湊には、彼女たちがアイドルとして輝ける道を、希望を届ける道を、舗装する役目があった。押し付けられたものではなく、自分で決めた役目があった。

 

 

「フリーの活動だ。候補としては、動画配信サイトで、活動記録やライブ放送をする……ってのが主になると思う。スケジュール管理や体調管理、打ち合わせに練習場所の手配は俺がやるにしても、問題が一つ残る」

 

「問題……?」

 

「炎上だよ、炎上。今時のネット社会は、一つの弾みで簡単に炎上するんだ。匿名性を利用した、心無い言葉が容赦なく突き刺さる。個々人の活動なら揉め事は起こらないけど、仲間でやっていく以上、どうやっても関係は親密になるし、感情的になることだって多くなる」

 

「自分のためではなく、仲間のために怒る……か。ないとは、言いきれないね」

 

「だからさ。爆弾が多過ぎる。それに、アイツら全員が俺を信じて、全てを任せてくれるとも思えない。まだ、上手く距離を詰められてないやつもいるしな」

 

 

 決定的に自信が足りていない湊は、他人ではなく自分を信用できない。

 他人から見える自分でしか、自分の価値を測れないことは多々ある。運よく今回は、それがいい方向に転がっているが、悪癖と言っても差し支えないだろう。

 仲間という他人も、友人という他人も、幼馴染みという他人も、全てを信じられる。相手のこともわかる。なのに、自分だけはどうしても信じられない。

 

 

 苦笑いをする湊は、KAITOから見ても、無理をしているのが丸わかりだった。恐らく、念には念を入れて、フリーで活動するようの資料やらをかき集めているのだろうと、察してしまう。

 誰かが必要としてくれなければ、彼は本領を発揮できない。

 いつだってやれることをやれるだけやって、備えることしかできない。

 

 

 月野海湊は表現者ではない。

 あくまで、彼は創造者であり、想像者。

 作り備える人間であって、作られたもので表現する人間ではない。

 

 

「頑張り過ぎないようにね。君が倒れたら、みんな心配してしまうから」

 

「あー……うん。善処するよ、多分」

 

「ふふっ……その答え方は、君らしいね」

 

「俺らしい?」

 

「だって、君はいつも自分より大切な誰かのために頑張って、傷つくことすら厭わない。その先の未来で、笑顔が見れたらそれでいっか……こう思えるだろう?」

 

 

 優しい笑顔なのに、図星を突くようなKAITOの言い草は、湊の中で少しだけ覚えがあった。

 追い付こうとした、もう一つの背中。

 辿ろうとした軌跡の一つ。

 優しくも厳しい、背中で語り、軌跡で道を示す──父親にそっくりだった。

 

 ◇

 

 セカイから家の自室に湊が戻り、リビングに降りると。疲れたのかソファで横になって眠っている雫を見つけた。彼ほどではないにしろ、疲労が浮かぶ寝顔からは、今日もダメだったことを容易に伺うことができる。

 小さくため息を吐いた湊は、物音を立てないようそっとソファに近付き、彼女の頭を撫でた。髪がソファに挟まれて癖にならないように梳かしながら、優しく撫でた。

 

 

「……………………」

 

 

 なにか言おう。

 そう思っては口を噤み、ただただ撫で続けた。

 少し時間が経てば、湊の感情も落ち着き。起こさないように雫を持ち上げて、自分の部屋のベッドまで運び、寝かせた。

 一切反応せず眠り続ける彼女は、まるで童話に出てくる白雪姫のようで。ふと、キスでもしたら起きてくれるのでは、と思ってしまうほど、綺麗だった。

 

 

「……声、聞きたいな」

 

 

 自然に漏れた弱音。

 これ以上一人でいたら、きっと自分は無理をし過ぎてしまう。

 つい先週末だって、それでからかわれた。

 そうやって、もっともらしい言い訳を取って並べる。しかし、本当の想いは隠せない。湊は、聞きたいだけだ。

 

 

 自分だけに向けられる甘い声が。

 自分だけに向けられる優しい声が。

 自分だけに届けられる熱い言葉が。

 聞きたいだけなのだ。

 

 

「でも……休ませるのも仕事、だよな」

 

 

 仕事、そんな便利な言葉で自分を納得させ、妥協点の落とし所として、耳に口付けをし、湊はその場から去っていく。

 

 

 愛莉から今後のことで話があるとメッセージが送られてきたのは、それから少し経ったあとのことだった。

 

 

 

 

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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