幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 前書きの挨拶が地味に長い私です、しぃです。
 偶にうざいかなぁ、って思うんですけど、ついつい書いちゃうんですよね。なんだかんだ癖みたいになってきました。
 今日はちょっと難産だったので出来は……まぁ、最低レベルです。


 書いてて思ったのは、私ちょっと湊に厳しかったかなぁってことくらいですかね、はい。


 まぁ、テキトーな話はここまで、本編をごゆっくりどうぞ!


進んで戻って、また進む

 愛莉から連絡を貰った翌日。彼女の意見により、『MORE MORE JUMP!』のアイドル活動は、事務所に所属しないフリーの形になった。動画配信サイトに中心に活動を展開していく形が無難だと。宛もなく動き回るより、心配しているファンに希望を届けたいと。みんなが納得した結果だ。

 

 

 ただ、湊だけは違う。

 ずっと、ずっと考えている。今回の選択が正しかったのか。それだけをずっと、考えている。

 勿論、みんなの結論にケチをつけたいわけでも、邪魔したいわけでもない。寧ろ、その逆。もっと幸せな未来に繋がる選択肢が他になかったのかと、悩んでいるのだ。

 

 

 以前までなら、こんな風に思い悩むことはなかった。その場その場で、未来に繋がる最善策を引っ張り出して、提案できていた。

 なのに、それなのに。今はできない。

 何故ならそれは、今の笑顔を壊すことになるから。

 未来で雫が笑っているならそれでいいと思えた湊の中の自分が、彼女と向き合ったことで、段々と欲を抑えきれなくなって矛盾していく。

 

 

 将来、隣にいるのが自分じゃなくていいと思っていたのに、違う誰かがそこにいることを想像すると胸が痛くなり。

 今の笑顔を壊れるくらいなら、未来の笑顔に価値があるのかと思ってしまう自分がいる。

 薄々、湊自身も気付いていた。向き合うことで変化していく自分に。

 それはきっと、恋による心情の変化であり、相手を大切に想っているからこその進歩(退化)

 

 

 決して悪いわけではない。

 恋は人を強くも弱くもする。痛いほどわかっていたはずなのに、いざ自分が弱くなれば、歯痒い気持ちでいっぱいになって文句を言うなんて、わがままだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 制服も脱がないままダイブしたベットの上で、最近、鬱陶しくなって数えることすらやめたため息が漏れる。

 未来を想うが故に今を捨てられた自分が薄れ、今を想うが故に未来を擲つ自分が濃くなっていく。比率としては五分五分、相も変わらず中途半端だ。

 一歩間違えばどちらにでも転がれる場所で、綱渡り。大切な幼馴染みが、思考回路を犯していく。無意識の内に溺れていく。

 

 

 今を捨てようとしたら、隣で微笑む雫の姿が脳裏に過り。

 未来を擲とうとしたら、隣で微笑む雫の姿が脳裏に過る。

 言葉だけ見ればどちらも同じだ。どちらも同じだが、意味は全く違う。今、失われる笑顔か、未来で失われる笑顔か。

 

 

 選べない。

 選べるわけがない。

 どっちも大切で、どっちも見たいし見ていたい。

 際限がなくなる欲が、思考を掻き乱して、整理させてくれない。

 向き合うということの辛さを、湊は改めて痛感させられた。

 

 ◇

 

「みぃちゃん……? ご飯美味しくなかった? 味付け間違えちゃったかな?」

 

「……いや、大丈夫。美味しいよ」

 

「そう……なら、いいけど」

 

「……………………」

 

 

 いつもなら温かい幸せを感じられる夕食も、湊の喉を上手く通らない。噛んで、飲み込んで、吐き出しそうになるのを無理やり抑え込んでる感覚は中々に辛く、時折表情が変に歪む。

 当然の如く雫は気付いているが、喋りたがらない湊に踏み込まない。幼馴染みだからわかる経験則が、そうするべきではないと教えてくれる。

 

 

 何より、雫は湊を信じていた。

 抱え込めなくなって潰れそうになった時、湊は絶対に誰かを頼る。昔なら、自分を心配させまいと他の人を頼っていただろうが、今は違う。隣にいるのは自分だと、最後には自分のところにくると、絶対的な信頼がそこにある。

 

 

 だから、何も言わない。

 言う気もない。

 しかし、気遣わないなんてことはしない。

 

 

 夕食を食べ終わり、片付けも済み、湊が自室に行こうとしたところで、雫は呼び止めた。

 

 

「みぃちゃん」

 

「……どうかしたか?」

 

「ん」

 

「…………いや、いいよ」

 

「ん!」

 

「……はぁ、わかった。大人しく膝枕されればいいんだろ?」

 

 

 ポンポンと自分の膝を叩き、一言で主張を繰り返す雫に湊はあっさりと負けを認め、ソファに歩いていき、彼女に頭を預ける。柔らかいと温かいが布越しに伝わる感触には慣れないが、彼の中にあった不安は不思議と安心へと溶けていく。

 対して、大人しく彼が来たのが嬉しいのか、頬を緩める雫は、預けられた頭を優しく撫でる。いつも湊がしてくれるように、微睡みに誘うように。

 

 

 一言で、全ては伝わらない。

 一回の行動でも、それは同じだ。

 

 

 湊は、雫が今どんな想いで自分を撫でてくれているのか、わからない。

 雫は、湊が今どんな想いで自分に撫でられているのか、わからない。

 二人が共通してわかるのは、一つしかない。

 この瞬間だけは、互いのセカイに自分たちしか映っていないということ。

 

 

「……疲れた」

 

「お疲れ様、みぃちゃん」

 

「ごめん。俺、弱くなったかも」

 

「強くなっても、弱くなっても、みぃちゃんはみぃちゃんでしょ? 大丈夫、私だけは何があっても隣にいるから。苦しい時や、辛い時は、半分こ。それが、恋人じゃないかしら?」

 

「──そっか。うん、ありがとう、雫。お前のお陰で、軽くなった」

 

 

 スッキリした笑顔でそう言った湊は、最近の疲れからか、スヤスヤと寝息を立てて眠ってしまった。

 軽くなった、とは言ったが、なくなったわけではない。今後もきっと、湊は未来と今を天秤にかけて、どっちも取りたいと欲張りながら悩んでいくことになる。

 

 

 仮令ば、それは夢の話かもしれない。

 仮令ば、それはどうしようもない現実の話かもしれない。

 

 

 けれど、結末は決まりきっている。

 

 

「……湊、私ね、バットエンドは嫌いなの。だから、ハッピーエンドをちょうだい?」

 

 

 月が眩く輝き、海に浮かぶ夜。

 数日ぶりにするキスの味は、雫しか知らない。




 次回もお楽しみに!

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