幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 変わることなく一週間ぶりですね、私です、しぃです。
 ここ一週間は辛かった……本当に辛かった。主に学校の課題くんが!
 まぁ、なんとか乗り切って、筆の勢いもあるので、今日中に記念短編も出せそうです! 文字数が少なくても悪しからず。


 それでは、本編を楽しんでどうぞ!


夢のサポーター

 ザワつく教室の窓際の机で、湊はノートにペンを走らせていた。書かれていることは、動画配信サイトで本格的な活動を開始した『MORE MORE JUMP!』の、練習メニューやスケジュール。

 バイトをしているみのりや、部活に入っている愛莉や雫の日程を調整しながら、時間を効率的かつ有効に使う最適なメニューを一つ一つ書き込む。その様は、まるでベテランのマネージャーやプロデューサーを思わせる。

 

 

 問題点を上げるなら、彼がそんな真面目な仕事をしてる時間が、月末に迫った文化祭の係決めをする大切な時間だということだ。

 当然のことながら、こんな催し物に湊の親友──天馬司が名乗りを上げないわけはなく、今しがた出し物でやる演劇の素晴らしさを説いている。

 

「──というわけだ! どうだ! みな、演劇をやりたくなっただろう!!」

 

「あそこまで力説されちゃねぇ〜」

 

「面白そうだし、まぁ、ありっちゃありじゃない?」

 

「いいねいいね! やろうぜ!」

 

「俺らも賛成だぜ、天馬ー!」

 

「……ふむ! 満場一致で決定だな! あとは──湊! お前はどうだ?」

 

「………………」

 

 

 問いかける司の言葉を湊は華麗にスルーし、あーでもないこーでもないと頭を悩ませながらペンを走らせる。クラスの空気が、一瞬凍った。

 普段から、無断欠席に無断早退、遅刻を繰り返す問題児なのは周知の事実だったが、別段クラスメイトが彼を非難することはなかった。何故なら、司の親友だったから。優等生……とは言えないが、人がいい彼が信じる親友なら、と誰も口に出さなかった。

 

 

 だが、クラスが文化祭準備で盛り上がってる中でのスルーは、非常に痛手だ。現に、あの司でさえ居た堪れなさに表情が引き攣っている。

 

 

「お、おい! 湊! 聞いているのか!」

 

「………ん? あぁ、聞いてるよ。文化祭の出し物だろ? 演劇なら演劇でいいよ。係は──うん、任せたわ。お前なら、俺がやれること知ってるし。どこに割り振っても文句言わないよ」

 

「な、ならいいが……お前、本当に聞いてたのか?」

 

「当たり前だろ。作業しながらでも、デカい声は嫌でも耳に響くよ。まぁ……すぐ反応出来なくて悪かった」

 

 

 最後に一言そう言うと、湊はまたノートとのにらめっこに戻り。クラスの雰囲気もなんとか持ち直して、滞りなく話し合いは進んでいった。

 この時は、誰もその選択が最善の未来に繋がると信じていなかった。

 

 ◇

 

 話し合いが終わり、放課後。

 夕暮れの下校路を、湊と司は並んで歩いていた。互いに予定がなく、暇だったから。一緒に帰る理由はそれだけで十分だった。

 

 

「それで、係決めはどうなったんだ? 役職とかあるなら把握しておきたいんだけど?」

 

「しっかり黒板に書いただろうっ! 全く……お前の係は二つだ。劇の準主役級のキャラを一人と──衣装作成代表」

 

「……は? いや、待てよ。衣装作成って……演劇部から借りるんじゃダメなのか?」

 

「何分人数が多いからな。他のクラスも映画を撮ると言っている所もあるらしいし……それに、オレが書いた脚本に合う服があるかわからん!」

 

「……わかったよ。衣装は何人分で、予算はどれくらいだ?」

 

「少なくとも十人分。……予算は出せて四万、だな」

 

 

 流石の湊も、固まった。

 予算四万の一言が脳をグルグルと回り、虚空を見つめる。

 普段着なら、リサイクルでなんとかなるだろうが、今回のはオーダーメイドに近い。素材となる服を用意できても、足りない部分は必ず出てくる。演劇に使うなら、尚更世界観を意識せざるをえない。

 

 

 数秒の間に、湊の脳は高速で回り始め、概算を開始する。

 父親のツテで業務用の激安素材を買って、そこからは有志で服を募り、衣装に合う小物まで完璧に用意し、リアルさより映えを意識。

 残り期間は一ヶ月。採寸、デザイン、作成の三工程に加え細かな作業。

 光栄なことに、湊にはその上に、劇の台本を覚えて、『MORE MORE JUMP!』練習を見るという仕事も入る。

 

 

 激務も激務。とても、高校二年生にできる量じゃない。

 かと言って、司を頼ろうにも、彼は演技指導や小道具大道具の用意に、あっちこっちを駆け回ることだろう。

 断れ、と湊の脳が危険信号を出す。

 限界が来て倒れるのがオチだと、警告してくる。

 

 

 しかし、いつも通り、彼の選択の中にNOは存在しない。

 数少ない友人であり、親友。昔馴染みの頼みだ。夢を知っていて断るなんて、湊にはできない。

 

 

「やはり、無茶だったか?」

 

「まぁな。無謀だよ、無茶じゃなくて、無謀。……けど、いいよ。やるよ。文句は言わないって言ったしな」

 

「本当かっ! すまない! 本当にありがとう!」

 

「謝る必要なんてないだろ。お前が本気なのは知ってるし、お前の夢も知ってる。友達なんだから、これくらいのこといくらでもやるさ」

 

「湊っ!! それでこそ、我が友! お前を誇りに思うぞ!!!」

 

「はいはい。なら、早く帰って脚本データを俺に送れ。すぐ衣装案のラフに取り掛かるから」

 

「よし、任せろ!!」

 

 

 いつもの三倍は暑苦しくなった司を湊は鬱陶しく思いながらも、まぁいいかと受け流し、雫が待つ家へと足を早めた。

 置いて行けたら楽だな、と思ったのは彼の心の中だけの秘密である。

 

 ◇

 

 ゆっくりと変わる日常の中で、湊は一人静かにパソコンに向き合い、脚本を眺めながら、要素を取りだしラフの作成に勤しんでいた。その表情は、とても柔らかく、切羽詰まっている人間のものには見えない。

 ただ、彼は司の書いたシナリオを見ながら、変わらぬ人柄に安心したのだ。

 悲哀の物語『ロミオとジュリエット』のパロディで、『ロミオ 〜ザ・バトルロイヤル〜』なんて喜劇を作り出すなんて、いかにも彼らしい。

 

 

 内容もハチャメチャで、起承転結の柱は守られているが、展開は突飛なものばかり。だけど、これで笑えない観客はいないと断言できるほど、面白かった。

 

 

「……うん、今日の作業はまずまず、か」

 

 

 筆が乗って、思ったよりも早く完成したラフを見ながら、湊はふぅと息を吐く。完璧な仕上がりではないが、一先ず一段落。そう言わんばかりに、椅子の背もたれに寄りかかった。

 本音を言えば足りない部分は幾つかあるが、全てが彼の一存で決められるわけじゃない。

 

 

 ぼんやりと、足りない部分をリストアップし、アイデアが生まれないかと天井を眺めていると、スっと間を遮るように、雫の顔が湊の視界を覆った。風呂上がりなのか、甘い花のシャンプーの匂いが髪から流れ、彼の鼻腔をくすぐる。

 

 

「お仕事、終わったの?」

 

「一応一段落ってところ。……いい匂いだな、シャンプー変えたか?」

 

「ふふっ、そうなのよ。愛莉ちゃんにオススメされたやつ買ってみたの。みぃちゃんはこの匂い、好き?」

 

「好きだよ。雫に合ってると思う」

 

 

 優しく頬を撫でながら、湊は雫を見つめる。薄灰色の瞳に、吸い込まれていく。綺麗も、可愛いも、全部が詰まったその瞳に吸い込まれていく。

 やがて、撫でるのをやめれば、湊は雫に誘われるがまま、彼女をベッドに押し倒していた。白いレースのネグリジェを着こなした雫は、汚してはいけない天使のようで、視線を離せなくする。

 

 

 アイドルらしい可愛らしさと、モデルらしい妖艶さが混ざりあった輝きが、湊の心を揺らす。

 

 

「ゆっくり休みましょう、みぃちゃん。夜は、長いから」

 

「……休むだけだぞ」

 

「えぇ、勿論。──痕、つけちゃダメよ?」

 

「っ……! 寝る」

 

「あらぁ……残念」

 

 

 体制を変え、クスクスと心地よく笑う雫を背に、湊は眠る。背中に感じる柔らかい感触は、朝まで残っていた。




 次回もお楽しみに!

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