幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 本編の更新は二週間ぶりの私です、しぃです。
 お待たせしました。いや、本当に申し訳ない。
 時間はかかりましたが一応終わらせることはできました。

 おまけとして、今回から「顔がいい四コマ」というなの短いお話をつけさせていただきました。ゲームのような台本形式で進むのか、小説風に進むのかは私の気分次第ですので悪しからず。

 p.s.
 どなたかはわかりませんが、☆9評価と☆6評価を頂きました、ありがとうございます!
 Twitterでも呟きましたが、皆様のお陰で2万UAを突破致しました!
 ですので、記念短編を予定しています。

 あとがきにマシュマロのURLを貼っておきますので、こういうシチューエーションの話が見たい! などのアイデアがございましたら、送って頂ける幸いです。
 顔がいい四コマの小ネタも募集しています!!


語り語られる夢

 才能を呪ったのが湊なら、才能に追い詰められたのが雫。

 

 才能を捨てたかったのが雫なら、才能を欲したのが湊。

 

 まるで、コインの表裏のように、二人は対をなしていた。しかし、結局は二人とも、同じ道を進んだ。同じ道を歩いていった。上がれない階段に苦悩し、壊せない壁に立ち止まり、小さな石につまづいた。

 最良の選択以外切り捨てて、最善の未来以外求めない傲慢で、雫も湊もぶつかり合い、結ばれた。恋に正解なんてないのに、それすらも最良を選びたいと思うのは、果たして傲慢なのだろうか。

 

 ◇

 

 朝のSHRが始まる十分前。眠気眼を擦りながら、湊は教室に足を踏み入れた。

 首筋に貼った絆創膏を気にかけつつ、慣れた日常の挨拶を返して自分の席に向かっていると、後ろから鼓膜を破壊するレベルの声が飛んでくる。

 それは、馴染みのある声だった。

 

 

「おはよう! 湊! 朝送られたラフ、確認したぞ!」

 

「……おはよう、司。偶には声のボリュームを落としてくれていいんだぞ?」

 

「それは難しい相談だ! なにせ、オレはスターになる男だからな!」

 

 

 相も変わらず、自信に満ち溢れた表情と声は、湊からすれば眩しい。雫と同じそれは、自分にはない眩しさだ。手を伸ばしても届かない太陽と同じく、見ているのも辛い眩しさだ。

 迷いがない司の言葉は、時折、湊の心に突き刺さる。

 理屈なんてない。感情の発露とも言える司の言葉は、現実からも夢からも逃げようとする湊の足に刺さり、簡単には抜けてくれない。

 

 

 スターになる男、なんて言っているが。湊からすれば、彼は今でも十分にスターだ。きっと、気付かぬ所で誰かの心を救っている。

 

 

 もっとも、それはそうとして。朝から大声を出すのは止めて欲しいと、湊は切に願う。

 

 

「さいですか。……んで、ラフの方はどうだった?」

 

「うむ。問題ない、それどころか想像以上のデキだ!」

 

「想像以上……ね。俺としては、あともう一つ足りない気がしてるんだけど……お前から見て、なにかアイデアとかないか?」

 

「なら、マークのようなものを入れたらどうだ? 一応、劇中の設定では、バトルロイヤルには出場権を出している。ワッペンの形にして、それを落とすことで勝敗を決める……というのも、今からなら変更がきくしな」

 

「……なるほど。よし、それでいこう。やっぱ、お前に相談して正解だったよ、司」

 

 

 珍しく、司に対して素直に感謝を口にした湊の表情は柔らかく、真剣に仕事に向かい合ってるのがわかる。──少しだけ、司は昔の湊を思い出した。

 服を作ることに対して、誰よりも真摯に向かい合い、笑っていた彼のことを思い出す。切っ掛けはわからないが、最近の湊はそういう表情が増えてきた。

 諦めて燻っていた彼の影は、遠のいている。

 

 

 今なら、と思う司がいた。

 今なら、昔描いた夢の一つを叶えられるんじゃないか、と思う司がいた。

 スターは欲張りに、言葉を濁さない。自然と、その想いが漏れる。

 

 

「……湊」

 

「なんだよ改まって? 追加のアイデアでもあるのか?」

 

「いや、違う。少し先の話をしたくてな」

 

「少し先の話?」

 

「お前さえよければ、いつか、オレたち『ワンダーランズ×ショウタイム』の衣装を作ってくれないか?」

 

「……は? いやいや、俺なんかに頼まなくても、フェニランの方から支給されるのが──」

 

「オレは、お前の作った衣装で、最高のショーがしたいんだ」

 

 

 煩いと言えるほどの声量ではないのに、司の言葉はドンと心の芯に響く。

 伝えられた言葉がお世辞で言ってるわけじゃないのは、湊からすればすぐにわかることだ。伊達に長く付き合ってない。だが、だからこそ、余計にわからない。

 フェニラン──フェニックスワンダーランドは、フェニックスグループという超がつくほどの有名会社が運営している遊園地。1ステージに過ぎないとはいえ、そんな有名所の仕事を自分に回すのはいったい何故なのか。

 

 

「…………考えとく」

 

「あぁ! 是非頼むぞ!」

 

 

 夢が、少しずつ、湊の周りを取り囲む。

 まるで、彼の背中を押すように。

 

 ◇

 

『MORE MORE JUMP!』の活動場所は、基本的に屋上だ。放課後の限られた時間や、朝のSHR前までの時間を有効活用して、ダンスや歌のレッスンを行う。天候が関係することも多いため、その時はセカイのステージを借りて、練習に励む。

 

 

「うん、時間もいい頃合だし、そろそろ上がろうか」

 

「そうね。出来なかったところは各自練習ってことで」

 

「あぅ……が、がんばります……」

 

「ふふっ、焦らなくていいのよ、みのりちゃん。一歩一歩確実に、成長していきましょう!」

 

「一歩一歩……そうだよね! わたし、がんばるよ、雫ちゃん!」

 

「その意気よ♪」

 

 

 励まして、励まされて。

 同じ苦悩をしたことがある雫からの言葉は、みのりの心にそっと寄り添う。湊がいつかくれた言葉を、雫はみのりに使っている。

 自分がそう言われて嬉しかったから。

 

 

「……それにしても、アイツ、今日も来なかったわね」

 

「湊先輩のこと?」

 

「そうそう。忙しいんなら忙しいって一言言って休めばいいのに、律儀に練習メニューは送ってくるし……ちゃんと休んでるのかしら」

 

「大丈夫よ、みぃちゃんなら。昨日はぐっすり眠ってたわ」

 

「し、雫ちゃん……!」

 

「アンタねぇ……」

 

「ま、まぁまぁ。休んでるみたいなら、大丈夫じゃないかな」

 

 

 慌てるみのりに呆れる愛莉を、遥が抑える構図は最近の鉄板だ。

 安心してるのか警戒心がないのか、雫はよく口を滑らせる。本当に大事なことは言わないが、それ以外のことはポロッと漏れるので、知ってる人間からしたら、たまったものではない。

 

 

 その後、なんとか雫の口を塞ぎ、下校路に就くと。彼女はいつもの笑顔とは少し違う、憂いのある表情で語り出した。変わりつつある、湊のことを。

 

 

「今は、みぃちゃんにとって大切なときだと思うの。一度諦めた夢を、すくいだして、掴もうとしてる。簡単なことじゃないわ。とても、勇気がいること」

 

「……湊が夢、ね。どんな夢なの?」

 

「デザイナーよ、お洋服の。……元々、おじ様とおば様がデザイナーだったこともあって、目指してたんだけど。追い付けない背中を見続けるのは嫌だって……止めちゃって……ずっと後悔してた」

 

「……だから、私にあんなことを」

 

「けど、今はもう一度夢に向かってるんだよね? それってすごいことだよ!」

 

「えぇ、本当にすごいわ。私の湊は

 

 

 温かい、陽だまりの微笑みを浮かべながら、雫は小さく呟いた。

 独占欲の一言では語り尽くせない、想いの籠った一言に、みのりは頬を赤く染め、遥は苦笑いを零し、愛莉はため息を吐く。

 

 

 新進気鋭のアイドルグループ『MORE MORE JUMP!』の関係性は、着々と固まりつつあった。




 顔がいい四コマ「クソダサTシャツ」

 休日の夕方頃。羽を伸ばすため丸一日休みにし、ゆっくりと新しい服のデザインに勤しんでいた湊の下に、愛莉たちとのショッピングから帰ってきた雫がやってきた。
 いつにも増してニコニコと笑う彼女の姿を見て、何かいいことでもあったのか、と聞こうとしたのも束の間。雫の着ている服を見て、彼の思考が止まる。彼女が着ていたのは、何の変哲もないTシャツだ。種類だけで見れば、よく見るものだ。


 しかし、デザインがあまりにも酷い。その道を目指す湊からしたら、到底信じられるものではない。
 布地は黒。許せる。
 その布地に、白で満月とそれを見上げる男女。まだ許せる。
 最後、満月と男女に被らないよう、両脇に添えられた『死んでもいいわ』の──虹色創英角ポップ体で書かれた一言。これが許せない。


「……いや……雫……それ、なに?」

「これ? これね! 可愛いわよね!? 実は、みんなで買い物をしてる時、偶然目に入って、カップル用だって書いてあったから、買うしかない! って思って買っちゃったの! 似合うかしら!?」


 眩しい微笑みを向ける雫に対して、湊は酷い言葉を返せない。いや、そもそも似合う似合わない以前の問題なのだから、何も返せないと言った方が正しいまである。
 デザイナーとしての感覚に任せるか、幼馴染みの笑顔を守るか。
 しょうもない、と切り捨てられそうで切り捨てられない二択。
 だが、もっともな話、彼が後者を選ばないなんてできるわけはなく、感情を押し殺したような表情で、重い……とても重い口を開いた。


「……………………似合う、ぞ」

「ふふっ! みぃちゃんならそう言ってくれると思ったわ! ほら、この袋にみぃちゃん用の服が入ってるから、着てみてちょうだい?」

「……………………今じゃなきゃ、ダメか?」

「やっぱり、カップル用のペアルックなんて……いや?」


 理性を壊す、上目遣いと涙目、加えて強請り声のコンボ。
 退路は塞がれた。

 ◇

 五分後。月野海家のリビングには、それはそれは仲睦まじい、お揃いTシャツを着たカップルがソファに座っていた。
 彼氏のシャツには、『月が綺麗ですね』と書かれており。
 彼女のシャツには、彼氏の告白に対する定番の返事である、『死んでもいいわ』と書かれていた。


 違和感のある点が存在するとしたら、彼氏の──湊の表情があまりにも不憫な、絶望しきったものだったことだろう。

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 マシュマロ URL↓
https://marshmallow-qa.com/narushi2921?utm_medium=url_text&utm_source=promotion

 次回もお楽しみに!

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