幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 時間が流れるのが早くて執筆に焦った私です、しぃです。
 今回は前回に比べてボリューム控え目ですが、次回と次々回で文化祭編には決着をつけるので悪しからず。

 あと、皆様のお陰で、またまた日間ランキングにのせて頂きました!
 ありがとうございます!
 これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!

 p.s.
 志無さん☆10評価、与夢さん☆9評価ありがとうございます!


夜はまだ来ない

 夢が夢で終わらないよう努力する人間は少ない。普通に人生を歩んでいたら、まず出会わないだろうし、出会ったとしても友達に一人か二人いれば多い方だ。

 しかし、そうではない場合もある。

 湊の周りがいい例だろう。

 

 

 日野森雫はアイドルをやる中で、その在り方に惹かれ、理想を夢として目指した。

 日野森志歩は幼馴染みと始めたバンド活動によって、音楽に惹かれ、プロを目標として目指した。

 天馬司は妹のため、今はショーを見てくれる人を笑顔にするため、スターという夢を目指した。

 東雲絵名は幼い頃から憧れていた父の背中を見て、プロの画家を目指した。

 東雲彰人も、一度挫折を経験しながらも、音楽に惹かれその道を目指した。

 

 

 理由に差はあれど、彼の周りにいる人は揃って夢を持ち、その夢のために努力を惜しむことなくし続けた。

 

 

 捨てた自分とは正反対な周囲。

 諦めた自分とは違い、眩しいくらいに輝く幼馴染みや昔馴染み。

 止まった自分との溝を深めて進んでいくみんなを、湊は今まで眺めているだけだった。

 

 

 けれど、それは今、変わり始めている。

 いい意味でも、悪い意味でも。

 

 ◇

 

 文化祭準備最終日。

 いよいよ明日からは、待ちに待った文化祭であり、頑張った成果のお披露目日である。湊が所属するクラスも、劇の本番に向けて、今日何度目かの通し練習をしていた。

 作った衣装を着て、覚えたセリフに心を込めて全てをぶつける演技は、約三週間とはいえ、司を中心に真剣に取り組んだ結果だろう。

 

 

 創造者の立場でもある彼からしたら、自分の作った衣装が映えるのは嬉しいことであり、誇らしいことだが……もっとも、今の湊はそんな感情に浸っている余裕はこれっぽっちもない。

 寝不足からくる頭痛に目眩、連日続く練習による疲労感や体のだるさ。それらを誤魔化すだけでも精一杯。演技だけは気合いで続けているが、気を抜くと意識が飛び飛びになるため、セリフもとちる。

 

 

 運がいいのか悪いのか、間として好意的に受け取られているが、それもずっと続くなんてことはない。何故なら、彼のクラスには司がいる。全体指揮を執っているが故に、湊を注視することはないが違和感は確実に覚えられているだろう。

 

 

(……司に勘づかれる前に、なんとかしないと)

 

 

 家から持ってきた頭痛薬を、机まで取りに行こうと足を動かした瞬間、湊はなにもない場所で転けた。あまりにも唐突なことに、近くにいた女子は小さく悲鳴を上げ、それに気付いた司や他数名の男子が駆け寄る。

 

 

「湊っ!! 大丈夫か!」

 

「うるさい、平気だよ平気。自分で立てるって……」

 

 

 テキトーな作り笑いをヘラヘラと浮かべて、手に力を入れようとした湊だが、どうしてか上手く力が入らない。何回も、何回も力を入れようと試したが、一向に体が起き上がる気配はなく、痺れを切らした司が湊を無理矢理持ち上げる。

 

 

「……悪い」

 

「保健室まで運ぶ、文句は聞かないからな。……すまないが、みんなはそのまま劇の練習を続けてくれ。本番は明日だからな」

 

 

 それだけ言うと、司は湊を抱いたまま教室を出て保健室に向かう。

 真剣な表情のまま自分を運ぶ司を見た湊は安心したのか、糸が切れた人形のようにゆっくりと瞼を下ろした。

 

 ◇

 

 無理したツケは、いずれ自分に返ってくる。

 たとえそれがどんな形であろうと、避けることはできない。

 今回のように。

 

 

「送ってくれてありがとう、司くん」

 

「すまない。俺がもっとしっかり見ていれば……」

 

「司くんが謝ることないわ。元はと言えば、私が止めなかったんだもの」

 

「……それにしても。相変わらず、子供のような寝顔だな、こいつは」

 

「可愛いでしょ?」

 

 

 クスクスと笑う雫につられて、司も少し笑った。

 昔とは違い、変わってしまったものは多いが、関係のない温かさがそこにあって、二人はほっとする。居心地のいい湊の部屋で、彼の寝顔を肴に昔探しをしては、他愛のない会話に花を咲かせた。

 

 

 勿論、湊と雫の現状を司は知っている。

 互いに想い合い、結ばれた事実を知っている。

 だからだろうか、区切りのいいタイミングで会話を切り上げ、バッグを持ち上げた。

 

 

「帰るの? なら、玄関まで──」

 

「気にするな、オレはスターだからな! 一人でも問題ない。……それに、起きた時独りだと寂しいだろう?」

 

「ごめんね、司くん。ありがとう。気をつけて帰ってね」

 

「あぁ。湊が起きたら、心配をかけるなと言っておいてくれ」

 

「任せて」

 

 

 元気づけるためか、意味なくポージングをしながら去っていく司を、雫は微笑みを浮かべながら見送り、静かに息を吐いた。

 倒れたという報せを受けた時に比べれば、大分心に余裕はあるが、胸の痛みは簡単には消えない。

 

 

 頑張らないでと言えばよかった。

 頼ってと言えればよかった。

 休んでと念を押せばよかった。

 

 

 仕方がないでは割り切れない感情と、ほんの少しの納得。枷がなくなった彼は、どこまでも自分を追い詰めて走り続けてしまうという可能性の確定。

 支えなければいけない、という使命感が雫の中で強くなる。

 

 

「本当に頑張り屋さんね、みぃちゃんは」

 

 

 他人に与える優しさの一割でも自分に向ければいいのに。

 体を労るだけでいいのに。

 がんばってがんばって、がんばり過ぎて、こうなってしまった。

 

 

「なんで、嫌いになれないのかしら」

 

 

 倒れるまで走り続ける姿を見て、雫は愛おしいと思ってしまう。

 友達のためにそこまでできる彼の在り方を、否定できない。

 見ていて苦しいのに、見ていて辛いのに、湊があまりにも一生懸命だから、応援したいと思ってしまう。

 

 

「恋をするって……やっぱり苦しい」

 

 

 止まらない想いが苦しい。

 収まらない欲が苦しい。

 潰されそうになっても、彼が自分の食事を美味しそうに食べてくれるだけで、体も心も軽くなる。──愛おしくて苦しい。

 

 

「みぃちゃんはいつまで、私だけのものでいてくれるのかしら」

 

 

 歩き出し向き合い始めた湊を見て、雫はどうしてもそう思ってしまう。

 変化は慣れない。未だに変化を恐れる心が、恋を揺さぶる。

 

 

 太陽は沈まず、月はまだ昇らない。




 顔がいい四コマ
「だーいすきなのはーひーまわりのたねー」
 
 前略、vvbsの中でハムスターこはねにひまわりの種を与えるのが流行り、それが湊と雫にも伝えられたとある週末。
 お昼ご飯を食べ、ゆっくりのんびりと過ごしていたおやつ時。最近にしては珍しく、月野海家に顔を出していた志歩に対して、二人は有無を言わさずひまわりの種を皿に出して、テーブルに置いた。
 
 
「なにこれ……?」
 
「おやつよ! 最近、剥き身のひまわりの種が流行ってるらしいの♪」
 
「聞いたことないんだけど……」
 
「片手間で食えるし、悪くないんじゃないか? ほら、一粒食べてみろよ?」
 
「別にいいけどさ……」
 
 
 音楽雑誌を読みながら、片手間にポリポリひまわりの種齧る志歩を、湊と雫は微笑ましい表情で見守る。時たま、雫が「あーん」で無理矢理口に運び、志歩が受け取る流れも挟まれているところを見ると、こ慣れている感があるが無論初めてである。
 頬張るでもなく、モグモグ一粒ずつ食べる様子は可愛らしく、いつものツンとした態度は鳴りを潜めているようだ。
 
 
(……司にも教えとこ)
 
 
 シスコン増し増しな親友に教えれば、即刻やることだろう。
 問題があるとするならば、バレた時、怒られるのは自分だということ。
 
 
(まぁ……雫も楽しそうだし、いっか)
 
 
 恋人の笑顔を見た過保護なシスコンは思考を放棄し、自分も餌付けに加わる。
 ──今日も平和な月野海家でした。

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