幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 アンケートもとっていた記念短編になります。
 時系列的には、今まで投稿された中で一番過去にあたるものです。雫のアイドルとしての仕事が軌道に乗り始め、メディアへの露出もそこそこ多くなった頃だと仮定して書かれています。


 まぁ、色々と設定として曖昧な部分があるので、そこら辺はゆる〜く見てやって下さい!
 付き合ってない時間軸のイチャラブはこれが限界です。
 無自覚キス? 無自覚スキンシップ、ねぇよそんなもん。


花よりあなたに見惚れてる

 中学二年の春。雫がアイドルを始めて、世間への露出も多くなってきた頃。とある面倒事が、休日を家でのんびり過ごす湊のもとに舞い込んできた。

 それは──

 

 

「夜桜を見に行く?」

 

「えぇ! 咲希(さき)ちゃんの調子もいいみたいだし、しぃちゃんたちとみんなで行きたいなって、思ってるの!」

 

「……おじさんたちはなんて?」

 

「遅くならないうちに迎えに行くから、それまでなら大丈夫だって。それと……みぃちゃんと司くんが来るならOKって言ってたわ!」

 

「俺ら頼りか……」

 

 

 呆れたように表情を歪ませ、湊は天井を仰ぐ。妹を溺愛している過保護シスコンの司が来るのは確定事項だ。この場合、湊が首を縦に振ったら夜桜鑑賞は決まったも同然。

 本音を言えば、彼としては雫をあまり外に出したくない。駆け出しとは言え芸能人。プライベートなんてあってないようなところもある。

 

 

 諦めて、家の中でのんびり遊べばいいじゃないか、そう言えたらどれだけ楽か。雫に懇願された湊が取れる選択肢は、YESかはい以外は存在しない。

 上目遣い且つ、捨てられた子犬のような表情で迫られたら尚更だ。

 

 

「……わかったよ。一緒に行く。何かあっても困るしな」

 

「ありがとう、みぃちゃん!」

 

「これくらい、別にいいよ。んで、いつ行くんだ?」

 

「今日よ。今日の夜!」

 

「はっ?」

 

「みぃちゃんも、ちゃんと準備しておいてね! 私も、色々準備してくるから!」

 

「いや、ちょっと待て! 今日行くとか聞いてな──」

 

 

 湊が言葉を言い終える前に、雫は姿を消し。独り言になった言の葉が、虚しくリビングに響いた。

 久しぶりに感じる幼馴染みのぶっ飛び具合に、彼は早々と胃を痛める。最近はそこまで酷くなかったから油断していたが、雫の行動は予測不能な事が多い。考えるな、感じろという無茶振りをナチュラルに要求してくる。

 

 

 だからこそ、湊は雫から目が離せないし。彼女の一挙手一投足にドキドキが止まらない。彼が自分の想いに気付くのは、もう少しだけ先の話だ。

 

 ◇

 

 夕日も沈み、月の仕事が本格的に始まる時間、即ち夜。

 七人の幼馴染み集団は、小さい時から遊んでいた懐かしの公園に足を運んでいた。桜の木の本数はそこまで多くないが、その分人混みもなく、ゆったりと広くスペースを使える。湊はいい場所がないか探しながら、中学に上がってから中々会えていなかった、面々と言葉を交わす。

 

 

「一歌も穂波も咲希も、全員身長伸びたな。元気そうで良かったよ」

 

「湊さんもお元気そうでなによりです」

 

「はい、志歩ちゃんからお話は聞いてましたけど、湊さんこそ身長伸びたんじゃないんですか?」

 

「うんうん! 湊先輩、かっこよくなってる!」

 

「そうか? 自分じゃわかんないんだけどな……」

 

 

 綺麗で流すような黒髪に、薄灰色の瞳が特徴の星乃(ほしの)一歌(いちか)。外見だけを見たらクールな印象を受けるが、友人想いの優しい少女。

 サイドテールに纏めたふわふわとした茶色の髪に、薄水色の瞳が特徴の望月(もちづき)穂波(ほなみ)。おっとりしてるように見えるがしっかり者で、包み込むような優しさを持つ少女。

 ツインテールに纏めた穂波のようなふわふわとした金髪に、透き通るような週色の瞳が特徴の天馬咲希。司を兄に持つ、明るい少女で、志歩たち幼馴染みのムードメーカー。

 

 

 ぬるま湯のような落ち着く空気だった。雫や志歩といる時に感じるものとは、また違う温かい空気に癒されつつも、湊は持ってきたブルーシートを引きながら、そそくさとお花見の準備を始める。

 

 

「準備はこっちで適当にやっとくから、四人は自由にしてていいぞ」

 

「良いんですか! じゃあじゃあ! いっちゃん、ほなちゃん、しほちゃん! ジャングルジム行こうよ! 今ならきっと桜と星がいーっぱい見れるよ!」

 

「……えぇ、この歳でジャングルジムって」

 

「まぁまぁ、志歩ちゃん」

 

「悪くないと思うし、志歩も行こうよ」

 

「はぁ……少しだけならいいよ」

 

「やったぁ! ならなら、早く行こー!」

 

 

 三人を引っ張って行く咲希を、司が微笑ましく見守り。引っ張られる志歩を、優しい表情で雫が見守る。

 普段の二人を知ってるが故に、姉や兄としての姿は新鮮で、どこか面白い。

 弄りを入れてもいいな、と少しだけ思ったが、すぐに考えを改め、準備を進めていく。荷物が割と多かった為か、重石は十分。簡単にブルーシートを引くことができた。

 

 

「流石未来のスター! ブルーシートを敷くくらい赤子の手をひねるようなものだったな!」

 

「そうね、簡単に済んでよかったわ!」

 

「……変なテンションにはつっこまねぇからな。というか、みんな荷物多いな。何持ってきたんだよ……」

 

「ふっ! 聞いて驚け! 俺が持ってきたのは──これだっ!!」

 

『……紙芝居?』

 

「そうだ! 監督オレ、シナリオ構成オレ、主演オレの勇者ツカーサの大冒険!!」

 

 

 大きめのハンドバッグから司が取り出したのは、紙芝居でよく見る木製の枠と、そこにセットされた『勇者ツカーサの大冒険』というタイトルの紙芝居。

 絵はデフォルメ感がある可愛らしいもので、子供受けは良いだろう。だがしかし、タイトルはセンスのなさが際立ってる。わかりやすさと親しみやすさが大事な紙芝居で、王道を征くタイトルではあるが、とても中学生の妹とその友人に見せるものではない。

 

 

 勿論、湊はそれを見た瞬間、微妙な感情から顔を歪ませたが、雫は対照的に面白そう、と笑顔を浮かべている。感性の違いも、ここまでくれば摩擦熱でかぜをひく。

 

 

「……そうか。雫、お前は何持ってきたんだ?」

 

「えーっと、みんなで食べられるように、おにぎりとかの軽食を持ってきたわ! ほら、お味噌汁もあるのよ?」

 

「またか……あのなぁ、いくら保温性が高いからって、水筒に入れんなよ」

 

「でも、こっちの方が飲みやすいし……」

 

「おいっ! オレの話を無視するなー! 湊、そこまで言うなら、お前は何か持ってきたんだろうな!?」

 

「暇になったら嫌だしな。トランプとか、UNOとか、適当なカードゲームは持ってきたぞ」

 

『……………………』

 

「な、なんだよ」

 

 

 紙芝居という一風変わったものを持ってきた司に、相変わらず気が利くのにどこかズレた物を持ってくる雫から見た湊の持ち物は、無難の一言に尽きる。悪く言えば面白味がない。

 雫は彼のそう言う普通なところを好いているので特に何も言わないが、司は違う。

 

 

「はぁ……湊、お前はこれだからダメなんだ。いいか、エンターテイナーと言うものはだな──」

 

「……また始まったよ」

 

「ふふっ、良いじゃない。司くんが夢を語ってる時は、すごくイキイキしてるもの」

 

「それもそうか」

 

 

 納得したのか、湊は含み笑いを浮かべて、司の話を聞いた。

 その後も、帰ってきた志歩や一歌たちとジュースやお菓子、軽食をつまみながら談笑し、ゆるく楽しい時間を過ごした。風が吹いては散る桜を眺め、星が輝く空の下で、笑いあった。

 

 ◇

 

 迎えの時間まであと少し、そんな時。みんなで片付けを始める前に用を足しに行っていた湊が帰ってくると、何故か全員が慌てていた。その光景を見て違和感を感じないほど、彼は鈍感ではなく、即座にため息を吐いて辺りを見渡した。

 雫がいない。

 恐らく、誰にも言わずフラフラと散歩に出かけ、どこかに消えてしまったのだろう。

 

 

 幸い、公園自体は広くないが、外に出られていたら手に負えない。前科として、桜の花びらを追いかけて迷子になったのが、日野森雫という少女だ。外に出てないとは言いきれない。

 汚い言葉が出るのを喉元ギリギリで抑え、司にここでみんなと待つよう伝え、湊は一人走り出す。

 

 

 この時の彼は、まだGPSなんて大層なものは使っておらず、大体の捜索を勘と経験で補っていた。それ位には二人は通じ合っていて、尚且つ雫の行動範囲は広くなかった。

 問題は雫の思考回路は、そんな湊でも簡単には読めないこと。

 右に行こうとして左に行ったり、左に行こうとして右に行ったり。挙句、引き返そうとしても来た道を覚えていなかったり、と散々だ。

 

 

 今回の場合、前科である、花びらを追いかけて迷子と似た状況ということもあり、湊は風が吹く方向に足を進める。

 いつかの彼女と同じように花びらを追っていくと、そこには見慣れた後ろ姿が目に映った。

 

 

「はぁ……はぁ……あんまり、遠くまで行かないでくれよ。探すのも、大変なんだぞ?」

 

「でも、みぃちゃんは絶対に、私を見つけてくれるでしょ?」

 

「どうだろうな。お前の迷子癖が治らなきゃ、流石の俺も嫌になって──」

 

「嘘ね。みぃちゃんは優しいもの。私のことを見捨てたりなんかしない」

 

「はぁ、なんなんだよ、その謎の自信は」

 

「幼馴染みの勘、かしら」

 

 

 そう言って、振り返り。いたずらっ子のように微笑む雫は、舞い散る桜がただの添え物になるような美しさがあった。

 綺麗で、可愛くて、惹き込まれるような存在感。彼女以外の全てが、彼女のために存在してるかのような錯覚すら覚えてしまう。

 

 

「……………………」

 

「みぃちゃん? 大丈夫?」

 

「いや、なんでもない。ただ、綺麗だなって……思っただけだ」

 

「ふふっ、そうね。綺麗よね、()が」

 

「っ……あぁ、本当に綺麗だよ。ほら、帰るぞ。手は離すなよ」

 

「心配しなくても、勝手に離したりなんかしないわ。みぃちゃんが握ってくれる限り、ね」

 

 

 きっと、この頃から、少しずつすれ違いは始まっていた。見えないような距離感で、壁に傷はついていた。小さな小さなひびが、入っていた。

 だが、それでも二人には幸せがあった。灯火のような、吹いたら消えるような、儚い幸せがあったのだ。




 次回もお楽しみに!

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