幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 かだい、つらい


幕間「風向きは変わり、歩く道は別れても」

 長かった文化祭期間も終わり、元の生活に戻り始めた、週末の一日。

 当たり前になった湊と雫の半同居空間で、司は自己主張強めな声を張り上げて笑っていた。ささやか……とは言い難いお疲れ様会のようなものだ。

 

 

「──というわけで! オレたちの文化祭は後夜祭も含めて大成功を収めたのだ!」

 

「あらあら、そうだったのね♪ 司くんがそこまで言うなら、実際に見られなかったのが残念だわ……」

 

「ふーはっはっは! そんなこともあろうかと!! 類に頼んでドローンで映像を撮ってもらってあるぞ! 後で送ろうじゃないか!!」

 

「本当!? ありがとう、凄く嬉しいわ! ね? みぃちゃん!」

 

「……静かに本を読ませてくれ」

 

 

 心身を削った練習の所為もあってか、テンションの高い二人とは対照的に、落ち着いた表情で本に視線を落とす湊。時折、今のように相槌をしてはいるが、殆どは雫と司の会話で、時間が流れている。

 普通なら、温度差のあるテンションに会話のテンポも崩れるものだが、三人にとっては昔から変わらない、和やかな空間だ。

 

 

 誰かの言葉に、違う誰かが笑って、また違う誰かが苦い顔をする。

 全員が笑顔だったり、全員が笑顔じゃなかったり。

 話題毎に表情を変えて、お喋りは続く。

 

 

「ふむ。それにしても、不思議な気分だな」

 

「不思議な気分って?」

 

「付き合っているとは聞いていたが、並んで見ても、昔から変わったようには思えん」

 

「そう、かもね。十年も一緒に居るんだもの、関係が変わったからって、何か他に変化があるかなんて限らないわ」

 

「まぁ、強いて言うなら。秘め事がない分、楽になったよ。想いを知ってて押し殺すのは、息が苦しかったから」

 

 

 ポロッと漏れた言葉は、湊にとって本心だった。

 本を読みながら、視線を合わせず零した言葉は紛れもない本音だった。

 まるで、ロミオとジュリエットのような身分違いになってしまった二人の環境、すれ違いながらも通じ合っていた想い。知っていながらも何もできない歯痒さは、知らないが故に苦しむ哀しみは、簡単には拭い切れないもの。

 

 

 近過ぎた距離だから、知れないこともわからないこともあって、聞けないこともあって、悩んで迷った。

 決断に悔いはある。

 結果にも後悔がある

 しかし、隣で笑う彼女が──大切な幼馴染みが幸せなら、それていいかと、湊は思えてしまう。

 

 

「……そうだ、司。前言ってた、お前たちの劇団の衣装を作るってやつ、やるよ」

 

「なっ! いいのか!?」

 

「いいのかって、お前が頼んで来たんだろ? 別にいいよ。俺自身の経験値にもなるし。なにより──そうすれば、お前のショーをまた見れるからな」

 

「そうか……。なら、楽しみにするといい!! 次の大きな公演はクリスマスだからな! 是非来るといい! オレたちの最高のショーをみせてやるっ!」

 

「ん。程々に楽しみにしてるよ」

 

 

 冗談交じりにそう言った湊は、少しの間上げていた視線をまた落とし、読書の体勢に戻る。司はそんな彼を見て微笑み、雫は寂しさを誤魔化すように、コップに入れたココアを一口飲んだ。

 

 

 マシュマロ入りだったはずのそれは、どうしてか、ほんのり苦味が残っていた。

 

 ◇

 

 お疲れ様会も終わり、司が帰ったあと。湊は独りセカイに訪れて、KAITOのライブを見ていた。

 見る人に温かい希望を与える、寄り添うような声を綺麗に使い分け、力強く、時に柔らかく歌う彼を、湊はテキトーな観客席に座り眺めていた。

 応援することはなく、かと言って聞きいらないこともなく、アイドルとして輝くKAITOにピントを合わせる。

 

 

「やっぱり、こっちの方がいいや」

 

 

 本気で演劇に向き合って、歌って、わかったのは自分の心。湊は、自身をステージに立ちたいと側の人間ではないことを理解した。

 輝く自分に憧れはある。

 けれど、その舞台はステージの上ではない。それだけ。

 居る場所がそもそも違ったのだ。

 

 

「ああ、でも、悪くなかった」

 

 

 昔から隣で輝いていた二人に、少しだけ追い付けた気がした。

 表現者ではない創造者。顔のないままの裏方で終わるはずだった湊が、たった一つの切欠で短い時間だったが変わることができた。

 眩しかっただけの光。目を逸らしていた輝きを、羨ましいだけではなく、憧れとして直視できるようになったから。

 

 

 向き合うことで、また一歩、変わることができた。

 

 

「直接のお礼は……また今度でいいか」

 

 

 背伸びをしても届かない輝きの邪魔なんて、できはしない。それを知っていても、手を伸ばしてしまいそうになるから。湊はそっと席を立ち、ステージ袖の機械がある場所に向かい、そこに一本のスポーツドリンクと小さな手紙を置いて、セカイを出た。

 

 

 小さな手紙には一言、「ありがとう」の文字が書かれていた。

 




 顔がいい四コマ「猫に好かれて」

 学校帰りの夕方頃。
 普段とは違い、特に予定のないその日。湊は久しぶりに遠回りをして、家へと帰っていた。理由なんてものはなく、散歩の感覚でテキトーな道を歩いていると、一匹の野良猫を見つけた。可愛らしい三毛猫。


 人間になれているのか、湊にも臆することなく近付き。彼が片手に持っていたビニール袋にじゃれてくる。中に入っているのは、夕飯用に買ったサバの刺身だ。


「悪いな。こいつはお前のご飯じゃないんだ」


 申し訳なさそうな声音でそう言った湊は、優しく猫を撫でると、足早にその場を去ってしまう。撫でられて気分がよくなっていた猫も、負けじと彼を追いかけ、そこから鬼ごっこが始まった。


 十分ほど走り回り、気付けば家の前。
 ぜぇはぁと息を切らす湊に対して、猫は刺身を寄こせと言わんばかりに足元でじゃれてくる。ここでようやく彼は観念し、ビニール袋から刺身を取り出して、猫に差し出した。


「はぁ。お前には負けたよ。ほら、傷まないうちに食えよ」

「にゃ〜! にゃにゃぁ!」


 褒めて遣わすと言わんばかりに鳴く猫に、湊は苦笑を零し、家へと帰っていく。
 おかずがなくなって寂しいが、少しホッコリした湊だった。

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