幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 お久しぶりです、しぃです。
 締切の迫った課題が終わり、ようやく一息つけるようになってきましたが、まだまだ残りはあるのでゆっくりな進みになりそうです……ははは……
 記念短編は来週の水曜か木曜辺りに登校予定です。お待たせして申し訳ない……

 それでは、顔がいいオリジナルイベント開始となるプロローグ、是非お楽しみください!


Remember the origin
憧れで、目標


 並んで歩き慣れた、学校からの帰り道。夕暮れの下校路で、雫と湊は他愛のない会話に花を咲かせていた。今日のレッスン、昨日のドラマ、明日の小テスト。いつものように、彼女が話題を振って彼が応える。

 何気ない日常、ささやかな幸せ。

 積み重ねの末に辿り着いた優しい空間に、二人は浸かっていた。

 

 

 しかし、何事にも終わりはやってくるもので、湊のスマホからメールの着信音が流れてくる。

 

 

「誰からだ……」

 

「愛莉ちゃんたちからかしら?」

 

「さぁな。一応確認して、急用ならさっさと返信を──ん?」

 

 

 メールの宛先に書かれている名前は見慣れた文字列。『月野海友香(ゆうか)』。紛れもない湊の母親である。

 書かれている内容は短く、一言に纏まっていた。

 それは、

 

 

『今日は鍋パやりまーす♡』

 

 

 ノリの軽い。あまりにもノリの軽い、短いメール。電話で来なかっただけマシだが、その一言から察することのできる内容に、湊は困惑した。

 簡潔に言えば、今、彼の両親は家にいる。珍しく、家族団欒の時を過ごそうと誘っているのだ。いつもなら仕事の納期の関係上、深夜に帰ってきて早朝には居ないので、会うことも話すことも多くない。

 

 

 それなのに、今日に限っては夕方なのに家にいて、尚且つ食卓を囲もうとしている。若干の違和感と、それを上回る温かさ。

 勿論、気恥しさもある。今更になって家族で食事をするなんて遅過ぎる。だが、それでも求めてしまう。血の繋がった、確かな縁のある温もりを。

 

 

「……今日は、私が居ない方がいいかしら?」

 

「いや、居て欲しい。雫のこと、きちんと紹介できてなかったし、それに……」

 

「それに?」

 

「最近は雫がいるのが当たり前だったから、離れるのは嫌だ」

 

「ふふっ。可愛いわね、みぃちゃんは♪」

 

「からかうなよ……たくっ」

 

 

 口ではそう言いつつも、湊の表情は柔らかく、薄らと笑顔が見える。雫もそれを見て、微笑みを零した。

 

 

 この日、この時。

 新たな運命が生まれ、彼の夢はまた、揺らぎ始めた。きっとこれは、原点を思い出すお話。憧れと絶望に埋もれた、最初の理由を探すお話。

 一歩前進した湊が、振り返る物語。

 

 ◇

 

 家に帰ると、まず先に湊の目に入ったのは、普段使われることのない御役目知らずのスリッパがないことだった。それを見て、彼は本当に居るんだと再確認する。

 浮き足立つ気持ちを抑えつつ、ただいまの挨拶をして、二人はリビングに向かう。中に入れば、液晶越しではなく、数ヶ月ぶりにリアルで顔を合わせる両親が昔と同じように出迎えてくれた。

 

 

「おかえり〜! あらあら! 雫ちゃんも来てくれたのね。嬉しいわ!」

 

「お久しぶりですおば様! 送ったみぃちゃんの文化祭の動画、見ていただけました?」

 

「見た見た! 流石、あたしと(まこと)さんの子! って感じだったわ! ね、誠さん!」

 

「そうだな」

 

「……送ってたのかよ」

 

 

 苦笑いを零す湊に対し、雫と友香は絵になるような微笑みを見せる。

 湊は髪の毛や瞳の色は母親である友香似で、それ以外は全部父親である誠似だ。彼女のハネのない腰まで伸びた長い髪は癖のない赤茶色で、瞳は真紅。十人に聞いたら、十人中十人が顔がいいと答える顔立ちは、雫に近いものを感じる。

 対して誠の外見は黒髪黒目で、顔立ちも顔がいいと言わしめるものだが、やや表情筋が固い。けれど、その真面目な表情は湊に似たものがある。

 

 

 新聞を読み、短く返事をする誠と、キッチンに立って料理をする友香の相性は悪いように見えるが、それは表面的なものでしかない。

 安心して任せられることを、信じて待つ。ただそれをしているだけなのだ。

 

 

「そうだ、雫ちゃん。あとで、新しい服着てみない? 丁度、志歩ちゃんとお揃いで着れる、カッコ可愛い服ができたの!」

 

「おば様の服なら是非! しぃちゃんもきっと喜びますから!」

 

「じゃあ、またあとで。料理もまだ少しかかりそうだし」

 

「私、お手伝いしますよ?」

 

「そう? なら、お願いしようかしら?」

 

 

 和やかな、優しい雰囲気で料理の手伝いに入る雫を、湊が眺めていると、そっと誠に肩を叩かれる。言葉にせずとも、なんとなくで察しがついた彼は、誠についていき、荷物を置いてリビングから出ていく。

 いたたまれなくなった、なんて、そんな理由じゃない。

 最初から、目的があったから誠たちは帰ってきた。その目的は──

 

 ◇

 

「……資料使ったのか?」

 

「あ、あぁ。少し、必要だったから。……もしかして、ダメだった?」

 

「別に構わない。元々、最近は使ってなかった資料だしな」

 

「そっか」

 

 

 二階にある、寝室とは違う、本棚と作業道具に囲まれた部屋。誠の書斎で、湊たちは話していた。と言っても、二人とも口数が多いほうではないので、会話は途切れ途切れもいい所で、とても親子には見えない。

 強いて言えば、不器用さは似ているが、そんなところだ。

 

 

 息子である湊にとって、誠は憧れた背中であり、今でも目指す目標。

 父親である誠にとって、湊は自分を追う弟子であり、可愛い息子。

 認識の差はあれど、そこには互いに対する深い信頼があった。雫から送られてきた動画を見て、衣装を作った──デザインしたのが湊だと聞いて、誠は少しだけホッとした。

 

 

 まだ、諦めずに進み続けているんだと、安堵した。

 だからこそ、今日の彼は大切な息子にチャンスを持ってきた。家族だから与えられる、数少ない挑戦権を持ってきた。

 

 

「文化祭の動画、見たよ。演技に関しては素人だから何も言えないが、衣装は悪くなかった。お前らしい、作品に合う衣装だった」

 

「あり、がとう?」

 

「特にあの、ワンポイント。ワッペンか。あれがあるだけで、衣装のまとまりは格段に良くなっていた」

 

「……友達がアドバイスしてくれたんだ。俺だけで作った衣装じゃない」

 

 

 褒められた嬉しさを噛み締めながらも、湊は現実を見つめる。あれはまぐれだ。きっと、自分独りじゃ二度と同じ物は作れない。

 仲間が居たから、親友のお陰だ。

 そうやって自分に言い聞かせるように、口に出して誤魔化す。

 誠はその言葉を聞いても、特に表情を変えることはなく、少し間を開けてから口をもう一度開いた。

 

 

「夢は、まだ追っているか?」

 

「一応、やってるよ」

 

「なら、いい」

 

「……?」

 

「今日、帰ってきた理由は、顔を見たかったからだけじゃない。それは、お前も何となくわかっているだろう?」

 

「まぁ、家族だからね」

 

 

 離れた時間も長いが、接した時間も長い。

 切っても切れない縁で繋がってるからこそ、違和感にはすぐに気付ける。しかし、違和感に気付けても、その中身まではわからない。

 次の瞬間、誠から放たれた言葉に、湊は驚きを隠せなかった。

 

 

「お前さえよければ、私や母さんの仕事を手伝ってみないか?」

 

「えっ……?」

 

 

 夢への片道切符が、目の前に差し出された。

 




 顔がいい四コマ「未来」

 お昼に流れるゴシップまみれのワイドショーを、ぼーっと湊が眺めていると、幼馴染みだった芸能人同士が結婚したという、なんともなニュースが流れてくる。
 芸能活動の裏で細々と付き合っており、元から噂は立っていたが中々結婚せず、周りが焦れったく感じ始めていたところを見ると相当だが、どちらもファンを大切にしていたらしく切り出せなかったらしい。


 番組の中では、そんな二人の馴れ初めやらが語られており、ワイドショーらしからぬ平和で温かい雰囲気を感じられる。


「……三十手前で結婚、か」


 テレビ画面越しに映る二人は幸せそうで、ウエディングドレスを纏う女性は左手の薬指を自慢げに見せていた。
 かけがえのない大切な日々より、当たり前の変わらない日常を幸せだと感じられるように頑張ります、という男性は微笑んでいて。きっと、本当に幸せなんだろうと、理解することができる。


「いつか、ああなるのかな」


 自分たちの未来を、テレビの映像に重ねて、ありえるかもわからない先を幻視する。自分のデザインしたウエディングドレスを着て、輝く指輪とそれに負けないくらい綺麗な笑顔を見せる雫の隣で、微笑む自分を想像する。
 幸せだな、と思った。
 そうなれたらいいな、と思った。


「……悪くないな」

「どうしたの、みぃちゃん?」

「いや、なんでもないよ」


 コーヒーを運んできた雫に、湊は変わらない声音で返事をして、緩んだ表情を戻す。それを見た雫は首を傾げながらも、彼の隣に腰を下ろし、肩を寄せる。
 ああなりたいなと、少しだけ欲張るように、湊はそっと彼女の腰を抱いた。

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 次回もお楽しみに!

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