という訳で、今回でオリイベも最終話となりますので、どうかごゆっくりお楽しみください!
調子を取り戻した湊がまた練習に参加するようになって、三日もの時が過ぎた。
屋上の変わらぬ風景に一種の落ち着きさえ感じるようになった頃、今後の『MORE MORE JUMP!』のアイドル活動のために、ミーティングが行われることになったのだ。
もっとも、ミーティングと呼べるほどしっかりとした話し合いの場ではなく、交流を深める雑談会のようなものだったが、彼はそれに向けて一仕事こなしている。
一仕事の内容は勿論、服のデザイン。
グッズとしての販売も見越した、練習着のシャツを考え、描いていた。お世辞にもセンスがいいとは言い難いみのりの練習着を見てから、いつかはやらなくちゃいけない事だと悩んでいた湊からしたら、タイミングが良かったと言える。
今後の道筋は決まり、隣には雫がいるが、最初の一歩は必ず自分の足で踏み出さなければいけない。そういう意味でも、報告を兼ねた仕事。
デザインはシンプルかつ、アイドルらしい可愛さがあり、『MORE MORE JUMP!』のものだと一目でわかるものに仕上げなければいけない。荷が重い初仕事だが、彼からしたらこれくらいが丁度いい。
未来の仕事ではいつだって真剣勝負。失敗は信頼の喪失。
夢だと、目標だと、叶えてみせると啖呵を切ったなら、やってみせなければ意味がない。
「……もうひと頑張り、するか」
始まりの一歩は踏み出したばかり。
足を止めるのは、もう少し先のお話だ。
◇
少し早めに練習を切り上げた夕暮れの屋上で、五人は座って休憩を取りながら、他愛ない話に花を咲かせつつ、次回が初めてになる生配信の準備を進めていた。紹介でもあり若干の炎上も危惧される初配信。
芸能界から突如姿を消したアイドルが二人、時間が経ったとはいえ色々な問題を抱えて業界を去ったアイドルが一人、そして研修生ですらない新人が一人の体制はSNSが全盛期を迎えているこの時代において、火種になりやすい。
だからこそ、できるだけスムーズに、配信が終わらせ次回への繋ぎを作れるよう努めるのがサポーターの位置に経つ湊の役目。
色々な対策を取り、事故が起こらないように細心の注意を払う旨を伝えつつ、彼は睡眠時間を削って仕上げた練習着のデザインを四人に向けて発表した。
「グッズ販売も考慮して、派手さは考えずシンプルさを意識して作ったんだけど……どう思う? 率直な感想が欲しい」
「か、かわいい! 文字の感じも、三つ葉のクローバーもすっごぐいい!」
「みのりの言う通りだね。シンプルに纏まってるし……悪くないと思いますよ?」
「えぇ、これなら練習着としても着れるし、グッズとしての需要もあるんじゃないかしら?」
「ふふっ、流石はみぃちゃんね♪」
「……そっか、ならよかったよ」
どんな回答が返ってくるかわからなかった分、安堵した湊は、微笑みを浮かべつつも息を吐いた。自信のなさは健在で、きっと消えていくのには時間がかかるだろう。
けれど、心配するほどの危うさはもう彼にはなく。
一人で立ち上がるのが困難と言える弱さは、鳴りを潜めた。
これからはずっと、過去の自分と現在の自分の狭間で葛藤しながらも、月野海湊は歩んでいくことになる。何度も転んで、その度に立ち上がって、進んでいくことになるだろう。
残った弱さと取り戻した強さを糧に、隣で支え合う彼女の存在に励まされながら、後悔しないよう自分の描く未来をなぞる毎日。
不安定で不確定、そんな先の先を見通せない中で、たった一つわかることがあるとすれば──湊はもう二度と諦めないということだけだ。
◇
文化祭のあの日のあと、直接言えなかったお礼を言おうとステージのセカイを訪れると、いつかと同じくKAITOは来てくれた観客に向けて歌と希望を届けていた。
憧れがなくなったと言えば嘘になる。
表現者ではなく、想像者としての答えを出した彼からしたら、見てるだけでも目に毒な輝かしい舞台。
近付くのを躊躇って、観客席でその輝きに酔っていると、一瞬目が合った。舞台の上のKAITOと湊の視線が、ほんの一瞬重なった。何度もステージで歌い、踊る彼らアイドルを見てる湊からしたら、目が合うのなんて偶然だ。
なんら意味があるわけではない。
熱烈なファンならファンサと思うだろうが、湊はそうは思わなかった。冷めてるからか、はたまた雫で慣れてしまったからか。
ライブが終わるその時を彼が待っていると、眩しい目の前の輝きが、明らかに自分に向かって手を伸ばしてきた。
「KAITO……?」
「歌おう、湊くん!」
自然と足が動いた。
想いのままに歌っていたKAITOに手を引かれ、眺めていただけの輝ける場所に連れていかれる。
ステージから見下ろす景色は、紅葉化粧をした一面赤茶のペンライトで埋まり、いつの間にか服装さえも変わっていた。みんなの想いから生まれた歌、『アイドル親鋭隊』を歌った時とは違う衣装。
過去も現在も未来もごちゃ混ぜにしたような、中途半端な灰色のスーツ。大人と子供の狭間である彼が着るにはどこか不格好で、それでも不思議としっくりくる。湊がそんな自分の姿に驚いていると、隣のステージで見学をしていた雫たちがやってくる。
そして、彼女たちも二人が並ぶステージに立つと、灰色のスーツへとその衣装を変える。しかし、四人のスーツは灰色ながらも自分たちのイメージカラーが足され、柔らかい印象を与えるものになっていた。
「あ、あれ? す、スーツになってる!?」
「セカイってなんでもありなのかしら……」
「けど、案外着心地が良いかも。ピシッと背筋が伸びる感じがするし」
「ふふっ♪ みんなとっても似合ってるわ!」
「……KAITOが呼んだのか?」
「さぁ、どうだろうね? そもそも、最初に僕を呼んだのは君じゃないかい?」
求めたから現れた、そういうようにKAITOは不敵に笑い、次の瞬間にはスピーカーから音楽流れ始めた。聞いたことのないイントロ、けれど自然と歌詞が頭に浮かび、口ずさんでいく。
繋がりの歌、繋がろうとした歌。
軌跡の先にある、見知らぬ誰かの幸せを歌い、教えてくれたことに感謝する。
本当に、本当に遠回しなありがとう。
恥ずかしくて、完璧に言葉にはできない想いを歌が代弁する。
決別ではなく、繋がった。繋がったからこそ向かい合い、前へと行ける。
夢を夢で終わらせないための幕切り。
目標を達成するための新たな幕開け。
つまらない人生にさよならをして、港から船を出す。
終着点は、まだまだ遠い。
顔がいい四コマ「眠る君を見つめて」
なんとなく、その日の湊は目覚めがよかった。朝日がカーテンから零れる前に、ふっと体が起きて意識が覚醒する。
いつもならもう隣に居ないか、自分の寝顔を見つめている雫はまだ隣で可愛らしい寝息を立てていて、夢の中で遊んでいる。
珍しい、と自分でも思えるほど寝起きの機嫌がよく、なにかしようかとベッドから体を出そうとすると弱々しい力でキュッと寝間着の袖を掴まれた。まるで、行かないでと言うよなことをするのは、言わずもがな雫である。
幸せそうな寝顔は、改めて見ても本当に綺麗で。腕に自信のある絵描きに任せても再現できないだろうと思えるほど、ただただ美しい。
そんな彼女が、キュッと袖を掴む光景は湊の意識や視線を釘付けにして、ベッドの中に引きずり込む。少しずつ、少しずつ、瞼が落ちていき、最後まで大好きな人の顔をよく見たいが為に、湊は抱き寄せた。
ふわりと香るシャンプーの甘い匂いと、腹の辺りに当たる柔らかい感触もなんのその。変わらぬ寝顔を焼き付けて、瞼を閉じる。
その後、朝起きた雫が顔を真っ赤にして、声にならない悲鳴を上げるのは仕方のないことだった。
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使われた楽曲『Connecting』
お気に入り200人突破記念短編(現在のシチュエーション)変わる可能性あり
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悲恋if(ヒロインは雫)
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嫉妬if(ヒロインは雫)
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温泉回(個別orモモジャン)
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水着回(個別orモモジャン)