先週は用事がありまして投稿できませんでしたが、今週は間に合いました。今後も投稿が危うくなってくる可能性もありますので、もしまたなにかありましたら、活動報告を書かせていただきます。
それでは、長い話はここまでに。
キーイベである、『Color of Myself!』始まります!
理想と現実のギャップ
固定化されたイメージ、というものがある。
簡単には変えられず、それが本当の自分ではない場合、擦り切れたり乖離していくことに恐怖を覚える、厄介なもの。
多くの人間は、固定化されたイメージに注目する。そして、それ以外を受け入れるのは難しい。何故なら、それはもう彼ら彼女らの中では統一されたものだからだ。
新しく違う一面を教えられたところで、困惑し、そんなのは違うと否定してしまう。しょうがないことだと割り切れるなら、それでいい。だが、悲しいかな、アイドルという職業はそうもいかない。
酷い言い方をすれば、イメージは自分という商品を売るのに大切だ。
それが崩れただけでも、人は離れたりする。積み上げて信頼が呆気なく崩れるのと同じで、イメージも些細なことで簡単には変わってしまう。
変化を恐れる雫が、舞台の上の自分と普段の自分を分けて使ってるのも、イメージの問題だ。彼女は、よく言えばおっとりしていて朗らかだが、どこか抜けていて危なっかしい。綺麗で、なんでも完璧にこなしてしまえそうな外見からは、あまり想像がつかない中身なのだ。
だからこそ、『Cheerful*Days』は外見に沿った中身になるようフォローし理想のアイドル像である、『センターの日野森雫』を作り上げた。完璧に踊り、歌い、儚さとミステリアスな雰囲気を漂わせた、高嶺の花のような美少女。
けれど、それは時間が経つにつれ、雫にとっての重石になった。
現実と乖離していく理想。
完璧を求められ、答え続けなければいけない不安。
楽しくて、愛おしい時間が続き過ぎで少しだけ忘れかけていた心配事が、『MORE MORE JUMP!』の初配信が迫ったことで、思い出される。
「……はぁ……はぁ……」
少し汗ばむ程度の軽い運動。気分を変えるためのストレッチ。どれもイマイチ効果を感じられなくて、悩む。
相談すれば楽になることなんてわかってるはずなのに、支え合って行こうと決めたはずなのに、負担を増やしたくないと大切な人を避けてしまう。
夢を先延ばしにさせて、あとに送って、今を一緒に居られるようにした。湊は後悔なんてこれっぽっちもしてないが、雫は彼の全てなんてわからない。
温かい想いも、優しい気持ちも、心に深く溶けて残っている。それでも、持たせ過ぎてると雫はわかっている。走り始めようとする自分たちの負担の多くを、湊は背負っている。
レッスンメニューの作成やスケジュールの調整、配信のための学校との話し合いに台本やカンペの作成、衣装やメイクのチェック。
できる範囲でみんなカバーに回っているが、彼は雫たちをアイドル活動に集中させるために、大部分を自分一人で片付けている。経験の浅い部分は遥や愛莉が補っている状態。
「私は……なにもできてない……」
そんなことはない。彼女の私生活での献身的なサポートや、癒しがなければ、湊は激務に倒れている。それがないのは、紛れもなく雫のお陰だ。
良くも悪くも、日野森雫は自分を過小評価し謙遜していた。
もしかしたら、それは──ずっと隣に居たなんでも器用にこなしてしまう、幼馴染みの影響だったのかもしれない。
◇
「……く……ずく……雫!」
「っ……なぁに、みぃちゃん?」
「本番もうすぐだけど、平気か?」
「えぇ、大丈夫。みぃちゃんにはみぃちゃんの仕事があるんだから、そっちに集中してちょうだい」
「……あぁ」
上の空、とはいかないが、四人の中で明らかに纏う空気が違う雫を見て、湊が違和感を覚えないのは無理な話だった。
もっとも、みのりや遥、愛莉も普段とは違う雰囲気ではあるが、雫は頭一つ抜けて真剣だった。心配しないなんて、彼にはできない。
その後、配信が始まったあとも、湊は四人全員やコメントを見ながらも、雫を注視していた。
初配信の荒れ具合は、想定の範囲内。話し合いを重ねた結果の生配信。編集したものでもいいが、生でやってこそ自分たちの想いを届けられると、全員で答えを出した。その結果は、悪くはないものだ。
勿論、全部が全部いいわけじゃない。
新参者のみのりにあまりいい目は向かないし、「誰この子?」と言われる始末。なんとかフォローを入れるも、アイドルを辞めた理由の憶測は飛び交う。それでも、それでも遥に雫、愛莉は今度こそこの四人で走り切ると言い切った。
初の生配信。スタートダッシュとして悪くないものだった。ファンからの生の言葉は、ある意味刺激になったし、『MORE MORE JUMP!』にそのやり方が合ってることもわかった。
「……配信、お疲れ様。少し危なかったけど、悪くない出だしだったんじゃないか?」
「そうですね。あとは、この後の出方次第ってことになりますし……」
「なら、放課後は、セカイで今後の配信内容とか動きについて話し合いましょう? 湊も、そっちの方が移動も少なくて楽でしょうし」
「あぁ、助かるよ。……みのりは大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい! 大丈夫でしゅ!」
「ふふっ、落ち着いて、みのりちゃん。これから慣れていけばいいんだから、ね?」
「う、うん……ありがとう、雫ちゃん」
「どういたしまして♪」
さっきまであった違和感はどこかに消えて、今、湊の目の前にいるのはいつも通りの雫。変わらない、変化などどこにもない。それが少し、彼は怖かった。
◇
放課後。一足先にステージのセカイにやってきていた湊が目にしたのは、ピンクの照明が照らすステージで、ライブか何かのリハーサルをするミクとリンたちだった。何をしてるのか、それを聞こうと歩いて向かっていると、後ろから誰かに視界を塞がれた。
ほんのり温かくて、柔らかい感触。甘い匂いは、どこか彼女に似ていて、咄嗟に名前が口から出ていく。
「雫……?」
「ふふっ、残念。私よ、湊くん?」
「っ!」
どこか聞き覚えのある声。
人間のように自然だけど、作られた音の声。すぐさま振り返り、正面に向けば、彼女が誰かすぐにわかった。枝毛一つない桜色の長い髪を下ろし、大人のような妖艶さと、未だに子供のような小悪魔っぽい笑顔を浮かべていたのは、四人目のバーチャルシンガー・巡音ルカ。ミクやリン、KAITOのようなアイドル衣装を身に纏った彼女が、そこにいた。
驚く湊を他所に、ルカはクスクスと笑って、彼を見定める。セカイの想いの持ち主である湊がどんな人物なのか、人伝の話ではなく自分の瞳で確かめる。
「ルカ……?」
「強そうに見えて弱い、弱そうに見えて強い。面白いのね、湊くんは」
「ど、どうも?」
「ごめんなさいね。あなたのことは、自分で直接確かめたかったの。根っからの善人ね、あなた」
ミステリアスで、全てを見透かしたような言い草で、ルカはスタスタとミクたちの方に去っていく。吹き通る風のようでも、辺りを散らす嵐のようでもある彼女が現れた理由を、湊はまだ知らない。
顔がいい四コマ「マーキング」
月野海湊は知っている。偶に、自分の首筋あたりに痕が付けられてマーキングされてることを。しかし、それに対しての彼の反応──もとい、感情は複雑だ。
独占欲を持たれるくらいには好かれてると浮かれればいいのか。はたまた、自分の愛情表現の幅が少ないと嘆けばいいのか。
悩むことも多く、それ故に夜も中々寝付けなかったりする始末。
どこかで区切りをつけるべきだと考えては放り捨てて、眠る彼女の横顔を見つめる日も少なくない。無防備に寝ている彼女に少しだけ痕を付けてみたいと欲が出るのは、健全な男子高校生なら不思議ではなかった。
ちょっとだけ、一回だけ。
吸い込まれるように体が動き、彼女がよくやるように、歯を立てた。
血が出ない程度に力を抑えて、それでも痕が残るように吸ってみる。
鼻から通っていく甘い匂いが、我を忘れさせて、雫の声が漏れるまでその行為は続いた。
「んっ……」
「……!」
パッと離れて、マーキングした場所を確認すると、そこにはくっきりと痕が残っていて、知らない感情が胸に溢れていく。アイドルである彼女を傷付けたことへの背徳感、自分のものだと主張する痕に対しての充足感。そして、留まりを知らない幸福感。
熱にでも魘されてるんじゃないかと思うほど、自分が自分ではなくなっていって、酔いに流されるまま、雫の耳元で囁いた。
「お前のこと、絶対、離さないから」
「っ〜〜〜!!」
暗いから見えない、そう言わんばかりに、赤く染る彼女の頬や耳を知らんぷりして、湊は布団を被る。
次の日の夜は二個も痕を付けられた湊だった。
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