幼馴染みは顔がいい   作:しぃ君

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 お待たせしました、またまた一週間ぶりな私です、しぃです。
 コロナが酷くなっていますが、みなさん変わらずお元気でしょうか?
 手洗いうがいなどの感染予防を忘れず、お体にお気を付けて毎日をお過ごしください!

 そして、土曜日は私の小説を覗きに来てください!

 まぁ、前置きはさておいて、本日は雫イベント三話目、楽しんで見ていってください!


わからない、けどわかりたい心

 夕暮れの屋上。なんとかその後の舵取りをしたものの、二度目の配信は、最悪な結果となった。

 

 

『雫ちゃんじゃない』

 

 

 たった一言が全てを狂わせて、彼女の瞳から涙が零れ落ちた。

 予測できた事態。予想しなければいけなかった、対策すべきだった事案。見落とした。湊は気付ける可能性を持っていながら、わかってあげられなかった。とてもではないが、五人の雰囲気は暗い。

 

 

 体育座りになって謝り続ける雫の背中を、愛莉が撫で、みのりが声をかける。そして、少し離れた場所で湊と遥が話していた。

 

 

「……前のグループの印象を引きずってる可能性は考えてましたけど、雫のがそこまで固まってたなんて、想定外でした」

 

「悪い。もっと早く気付いて、対処できてればよかったんだけどな……」

 

「いえ、湊先輩の所為だけじゃないです。いずれぶつかる壁が今になっただけで、まだ巻き返しのチャンスはあります。取り敢えずは、これからのことを考えましょう」

 

「そう、だな」

 

 

 録画したものを編集して配信するか、はたまた完璧に台本を作ってそれ通りに進めてアドリブは極力控えるか。やりようは幾らでもある。ただ、それはどんなにがんばっても、活動の幅を狭めてしまう。

 できるなら、生の声を聞きながら動ける配信を続けていきたいが、それは雫次第だ。精神状態もあって決めるのは難しいだろうが、早くハンドルを切らなければ、事故ではすまなくなる。

 

 

 確かに、巻き返しのチャンスはあるが、それは雫の決断によって左右されるあやふやなもの。

 ファンのために今までの作られた偶像を選ぶか。

 これからの活動のためにありのままの自分を選ぶか。

 きっぱりと分かれる道だ。二つしかないようで、その先の道は幾つにも枝分かれできる余地を持っている。

 

 

 現状維持か、現状打破か。二つに一つの選択を、彼女に問わなければいけない。

 

 

「遥は、落ち着いてるな」

 

「まぁ、アイドルをやってれば、嫌でもこういう炎上には一度は絶対関わりますから、その時の経験ですかね。……冷たいって、思います?」

 

「ううん。優しいって思うよ。緊急事態の時こそ、そうやって冷静な奴が一人いると、周りも頭を冷やせる。気を遣ってくれてるんだろ?」

 

「仲間で、友達ですから。当たり前ですよ」

 

 

 そうか、と一言頷き、湊は雫に近付いていく。察した愛莉がみのりと一緒に彼女から離れ、二人だけになる。

 震える体、か細い声。今にも砕けそうな心で、必死にごめんなさいと繰り返す彼女を優しく抱き締めて、彼は言う。

 

 

「雫は、どうしたい?」

 

「私は……わた、しは……わからない。ごめんなさい、ごめん、なさい。少しだけ、考えさせて」

 

「……そっか。じゃあ、そうしよう。今は、時間が必要だ」

 

 

 傷つけないように、壊れないように。湊は雫の背中をポンポンと叩いて、泣くための手伝いをする。辛いものをそのままにしないように、苦しいものを吐き出せるように、手伝いをする。

 一人だけ、一人だけ。雫にも、後ろにいる愛莉たちにもバレないよう、湊は涙を流した。一番近くにいるのにわかってあげられなかった故の、悔し涙だった。

 

 ◇

 

 泣き疲れて眠ってしまった雫をおぶって帰ったあと、湊はそっと自分の部屋のベッドに彼女を寝かせて、ただただそれを眺めていた。泣き腫らした目は赤いものの、それ以外はいつも通りの彼女のそのもので、眠り姫と言われても疑わない穏やかな寝顔だった。

 

 

 遥はフォローしてくれたが、湊は自分のミスだと嫌な信じ方をしていた。悪く言えば、幼馴染みとしての、彼氏としての自分を過信していた。それからくる傲慢。しかし、それが悪い事だとなんとなくわかっていて、自己嫌悪してしまう。

 グチャグチャと混ざり合う感情が苦しくて、胸がズキズキと痛む。それなのに、雫の寝顔を見ていれば、癒されていく。

 

 

 相当惚れ込んでいるんだな、と。湊は苦笑した。

 人間はどれほど親しくても、他人の心をわかれない。愛莉も雫の異変に気付いてはいたが、その根底にある変化への恐怖にはきっと気付けていない。湊も異変に気付き、根底の恐怖も知っていたはずだが、最後までわかってあげられなかった。

 そういうものなのだ。口では幾らでも言えるが、本当のことなんてわかりはしない。当たっていたとしてもそれは偶然で、二度はない。

 

 

 他人の心をわかるのに、三度目の正直は存在しない。

 今回の件で、湊はそれを嫌というほど痛感させられた。わかっていたつもりで、なにもわかっていなかった。支えようと思っていたのに、気を遣われて避けられた。

 お互いに空回って、擦れ違った結果が、現在の状況。

 

 

 次の配信をどうするべきか。

 雫が何をしたいと言ってもいいように、企画や策を考えようと、湊が下ろしていた腰を上げると、眠っていたはずの雫の手が服袖を掴んだ。

 

 

「行かないで、みぃちゃん……」

 

「雫……わかった。ここに居るよ」

 

 

 寂しそうな表情でそう言う雫の手を振り払えるわけもなく、湊はまた腰を下ろして、出された手を握りながら、続く言葉を待った。

 何か言いたいんだろう。それくらいはわかって、それ以上はわからない。

 時間が過ぎる中、ずっとずっと、彼は待ち続ける。ギュッと、少しだけ手を握る力が強くなった時、彼女は口を開いた。

 

 

「みぃちゃんは、どっちの私が好き? どっちの私で居て欲しい?」

 

「…………雫」

 

「答えて。お願いだから、聞かせて? みぃちゃんは、どっちがいいの?」

 

 

 努めてこちらを見ないように、雫はそう言った。怖いんだろう。どんな答えが返ってくるか怖くて、向き合えないんだろう。

 それはわかるから、それくらいはわかってあげられるから、湊は答える。

 求めてる答えは、二つに一つじゃない。雫は三つ目を望んでる。そうでなければ、この先がないとわかっているから。

 

 

「俺が、本当に決めてもいいのか? 俺がアイドルとしての雫を求めたら、お前はずっとそれを続けるのか? 嘘を重ねて、嘘の色で」

 

「違っ……それは、それは──」

 

「わからない。俺は雫の全部をわかってあげられない、わかってあげられなかった。でも、でもさぁ、それを俺が決めちゃいけないことくらいわかる。雫が今どうして欲しいのか、少しならわかる。背中を押して欲しいんだろ? ありのままの自分でも良いんだって、言って欲しいんだろ? なら、俺が言うよ。俺が傍で言い続けるよ。だから……これは、自分で決めなくちゃいけないんだ」

 

 

 今後を地獄にするか、天国にするか。決めるのはいつだって自分だ。

 後悔する権利も、幸せになる権利も、他の誰でもない自分のものだ。けれど、自分で決めなかったら、後悔も幸せも素直には受け取れない。

 まだ間に合う。

 後から悔やむと書いて、後悔。

 

 

 あとにならなきゃ、全部わからない。

 

 

「みぃちゃん……」

 

「決めるのが難しいなら、一緒に考える。決めるのが難しいなら、一緒に悩む。俺は雫の隣にいるんだから、頼ってくれていいんだよ。寄りかかっていいんだ、全部受け止めるから。想いはぶつけなきゃ、伝わらない、だろ?」

 

「…………えぇ、そうかも」

 

「がんばろう。二人三脚──ううん、五人六脚で」

 

 

 忘れてはいけない。

 なくしてはならない。

 仲間がいるという事実を、絶対に。




 顔がいい四コマ「夢うつつ」

 冬にしては暖かく、秋にしては寒い日。
 暖房をつけて温かい空気が循環する部屋は、眠りを誘い。昼食後ということで、余計に睡眠欲がそそられる。少しだけ、少しだけ、と言い訳を重ねて湊が目を閉じると、そこは自室だった。


 明晰夢なのか五感も機能しており、唯一現実だと違う所があることに気付いた。匂いだ。爽やかなのに甘ったるい、そんな相反する表現が生まれる匂い。
 知っていた。湊はその匂いを、確かに知っていた。それは、お風呂上がりの雫の匂い。雫が寝る一時間から二時間前にお風呂に入るから、本来なら寝室でもあるこの部屋で嗅がない匂い。


 出口のドアを向いていた湊が、そっと後ろに振り返ると、そこには寝巻きである薄水色のツルツルとしたネグリジェを着た雫がいた。蕩けた瞳、物欲しそうな表情に、湿った唇。支えであるはずの肩紐は片方が下着のものと一緒に落ちており、健康的な鎖骨が見えてしまっている。
 色っぽい。いつもと雰囲気の違う雫は無言で湊に近付いてきて、距離を詰めていく。


 歩く度に、重力に従い少しずつ落ちていくネグリジェと下着。見てはいけないとわかっていても、湊だって健全な男子高校生。彼女のそういう部分に目が行かないと言えば嘘になる。
 逸らせない、逸らさなきゃ。揺れる心に戸惑っている間に、雫と湊の唇の距離は限りなく零に近付き、なくなる──ギリギリでハッと彼の目は覚めた。


「夢……か」

「ふふっ、なにかいい夢でも見たの、みぃちゃん?」

「っ……いや、なんでもないよ」


 眠っている内にされていた膝枕から、湊はそそくさと脱出する。
 彼は気付かなかったが、雫の表情は普段より艶っぽく、唇が少しだけ湿っていた。リップクリームは、近くに見当たらなかった。

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