え?こういう事が日常的に起こっているのか?ですか。――そう、ですね。人前でもそうでなくてもお構いなしで……『ふとももフェチで何が悪いんだよ!!』…あ、はい。これも『変な物』…『選択肢』のせいですね。因みにもう一つの方はもっと酷い事書いてました。だからこれは仕方なく、でして。あ、『選択肢』って言うのが僕の見えている『変な物』なんです。……『いいふとももしてますねぇ!』――あの、そんなゴミを見る目をしないでもらっていいですかね?後なんで僕から足を隠すんですか?まるで僕が本気で言っていると勘違いしているようじゃないですか。違うんですって。本当に『選択肢』に言わされているだけで――――『では、歌います。聞いてくださ』」
~教員小川麗香と生徒天久佐金出のやり取りより抜粋~
突然だが、道端に『そういう本』が落ちていた時、どうするだろうか?
普通、男性ならチラ見するだろう。俺だってそうする。
その上内容が若干でもマニアックなものなら、テンションが上昇してもおかしくない。
今回はマニアックな物であったから、そりゃあもう俺のテンションは急増。
この幸福感のまま学校に向かおう(現在は月曜の朝。通学途中である)と思ったその時、
【選べ ①顔に押し付けて匂いを嗅ぐ ②食べる】
―――これだ。
どう説明すればいいかよくわからないが…そうだな。
ギャルゲーとかでよく見られる『選択肢』が、俺の頭の中やら周囲の看板やらに現れているのだ。
見ればほら、公園の看板の文字が犬の糞の扱いについてからこの二択に書き換わっている。
実際は俺にだけそう見えているだけらしいが。
ついでにこの選択肢を何者かが読み上げるのだが…なんというか、ムカつく程に良い声なのだ。
しかも偶に鼻で笑ったり爆笑したりしながら読む。そういう時が一番俺にとって辛い選択を迫ってくるのだが…まぁ、例は言わないでおこう。
「ふざけんな!何が悲しくてエロ本の匂い嗅がなきゃなんね―――痛ッ!?」
出て来るだけなら『なんだこれ』で済む。
だがこれが出てきたら、絶対に選ばなければならないのだ。
選ばずに放置していたら、頭痛がする。
それはもう言葉にできないような。
拒んだ時は放置している時以上の痛みが来る。
これを俺は『催促』と呼んでいる。
因みに選択肢の方は『絶対選択肢』と呼んでいる。
…なんか、どっかでそんな単語が出てくるラノベを読んだことがある気がする。
「……はぁ…じゃあ、①」
溜息と共にエロ本へ歩み寄り、鷲掴む。
それを躊躇うことなく顔に押し当て、思いっきり息を吸う。
――紙の匂い、だな。後はほんのり土埃の匂いもする。
何やってんだろ俺、という自己嫌悪の感情に苛まれつつエロ本から顔を離し、その場を去ろうとしたその時。
突然背後から声が聞こえてきた。
「はぁ…これで終わりで良いだろ」
「うわっ、見ろよアイツ。エロ本に顔押し付けて匂い嗅いでたぜ!?」
「どーてーだ!きもっちわりー!」
「あっ、エロスメルがこっち見てるぞ!」
……どうやら、俺が嗅いでいる途中に、小学生が通りがかってしまったらしい。
気まずい。このままどこかに行ってくれやしないか。
そしてエロスメルってなんだエロスメルって。
匂いフェチを極めた男じゃねぇんだぞ俺は。
【選べ ①んほぉおおお!!女体の匂いがしゅりゅぅうううう!! ②ぐへへ、今度は君たちをクンカクンカしよっかなぁ…】
匂いフェチを極めた男じゃねぇんだぞ俺はァ!!
「んほぉおおお!!女体の匂いがしゅりゅぅうううう!!」
「ひっ!?…逃げろー!!」
「へんたいだー!どーてーでへんたいだー!!」
先程までのムカつく笑顔を恐怖により涙目に変え、叫びながら逃げ去っていった小学生男子二人。
その背を見つつ、再び溜息。
「……どーして俺がこんな目に」
後には、エロ本を手にして意気消沈する俺、『
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おーっす」
軽く挨拶しながら教室に入る。
そのまま窓際にある自分の席まで向かい、ついでに俺の後ろの席に着席している女子、雪平ふらのにも挨拶をする。
「おはよ、雪平」
「おはよう、ウジ虫野郎」
カバンを置いて、数瞬視線をあちらこちらへと移動させた後に、気を取り直してもう一度声をかける。
「お、おはよう雪平」
「あら、挨拶はもうしたわよ。ウジ虫野郎」
「…そ、そうだったな。あはは…」
「もしかして、まだ寝ぼけているのかしら?ウジ虫野郎」
「あー、そうかもなー…うん。なんか変なのも聞こえるし」
「変なの?幻聴じゃないかしら?一度病院に行った方がいいわよ。ウジ虫野郎」
「―――いや幻聴でもなんでもねぇだろこれは!!」
「あら、いきなり声を荒げてどうしたのかしら、ウジ虫野郎」
「それに対してだわ!さっきからなんだよウジ虫野郎って!?いつから人からウジ虫にクラスチェンジしたよ!?」
「クラスチェンジじゃなくてランクアップじゃないかしら?『天久佐金出』から『ウジ虫』に」
「俺のヒエラルキー低すぎるだろ!!」
可愛らしく小首をかしげ、こちらを無表情のまま見て来る。
いや、そこに疑問を持たないでもらえませんかね。
「…冗談よ。これはただの『虫ジョーク』。気を悪くしたらごめんなさい」
「…『虫ジョーク』?」
「えぇ。―――今日の運勢、虫に関係した災難があるってあったから。だったらジョークで笑い飛ばしてやろうって」
「逆転の発想すぎないかそれ」
因みに今日の俺は『空から女の子が降ってくるかも!?』という謎の結果が出ていた。
ラッキーアイテムはチョコレートで、ラッキーカラーは金だそうだ。
ふざけているのだろうか?
「因みに、どうしてもと言うなら他の虫ジョークも披露するけど」
「い、いや良い…なんかもう疲れた」
「……因みに、どうしてもと言うなら他の虫ジョークも」
「わかった聞こうじゃないか」
強制イベントらしい。
諦めて聞くことにした…のだが。
「ん?雪平?」
何故か本人は突然黙り込んだ。
しかし俺から視線を外しているわけでもなければその場から移動しているわけでもない。
…もしや、虫と無視をかけているとかじゃないだろうな。
「あのー、雪平さーん?」
「……ヘイ、ムッシュ!今日間抜けなクラスメイトを無視してやったぜ!」
「…虫と無視だけじゃなくて
「あら、よくわかったわね」
しかし面白いかどうかで言えば微妙なラインだろう。
俺みたいな駄洒落好きじゃなければまず笑わない。
だがまぁ、感想くらいは言ってやってもいいだろ……あ。
【選べ ①「ねぇ、君のおっぱい触らせてよおっぱい」 ②「ねぇ、俺のおっぱい触ってよおっぱい」】
男の胸をおっぱいと呼ぶな。そしてそのどちらを選んでも地獄な選択肢を止めろ。
「……ねぇ、俺のおっぱい触ってよ。おっぱい」
かなり小さな声で言ったつもりだったが、教室内が一瞬で静まり返った事から察するに、全員に聞こえたのだろう。
全員の視線が集中しているのを感じる。
何が嫌かって、その視線が『あぁ、またか』みたいな感じなのが嫌なのだ。
俺がこうやってわけわからん事言ったりやったりするのは高校に入学してからずっとであり、今年入学してきた上で俺との接点がまるでない他の生徒たち以外にとっては俺のこの奇行はあくまで『日常的』なものである。
本当は常識人なんだがな、俺…と涙を流しそうになるが、雪平の返答を聞いて硬直する。
「天久佐君、あなた今……私にあなたのパイオツを触れ、と言ったのかしら」
「……いや、似たニュアンスの事は言ったが、パイオツとは言ってないぞ」
「言ってない…!?パイオツって、言ってない…!?」
「そこそんなにショック受ける所じゃねぇだろ」
…あぁ、そうだ。雪平ふらのはこういう奴だった。
平然と毒は吐くし下ネタを吐くし、基本的にいかなる状況でも表情を変える事が無い。
所謂、変人だ。
しかしまぁ、今回の選択肢の相手が雪平で助かった。
これがもし他の女子とかだったら今頃俺は……想像もしたくない。
「だって、パイオツなんて単語、絶対に聞き間違えないと思うし…あぁ、パイオツなんて言ったのが恥ずかしくて隠しているのかしら。パイオツはそんなに卑猥な言葉じゃないと思うけど。そもそもパイオ――」
【選べ】
今来んのかい!?話ぶった切ってまでか!?
【①「おっぱいって言ったんだよ!!」と逆ギレする ②「うるせぇ、勝手に言ってろ!」と言って関係の無い女子の胸を揉みしだく】
ふざけてんのか!?
「……おっぱいって言ったんだよ!!」
「………そう」
うわ、余計に場の空気が凍り付いた。
唯一通常通りだった雪平すら何も言わなくなったし、女子たちは完全に俺から胸元隠してるし。
いや、それはまだわかる。その反応が普通なんだろう。
だが男子数人……何故お前らまで胸を隠す!?何故頬を染める!?
…俺だからなのか、それともガチなのか。
どちらにせよ、俺にとっていい事では無いという事は確かだが。
「……すまん雪平。忘れてくれ」
「ごめんなさい。朝からおっぱいと叫ぶ変態と話すつもりはないの」
「俺を差し置いて急に常識人ぶるのやめてもらえませんかね!?」
「あら、それだとあなたが常識人みたいね」
「俺は常識人だ!」
辟易しつつ言うが、にべもなく会話を拒否される。
…まぁ、普通そうだよな……もう胸に関する話題だったのは諦めるから、せめてパイオツで会話を続けてほしかった。
【選べ ①「ねぇ、君のパイオツ触らせてよパイオツ」 ②「ねぇ、俺のパイオツ触ってよパイオツ」】
今パイオツで続けたいだなんて言ってない。
「……ねぇ、俺のパイオツ触ってよパイオツ」
常識人だと叫んだ直後にこれは、流石に駄目だろ。
あ、雪平が完全に俺から視線外した。
本読み始めたぞコイツ。もはや話す事は無いってか。
…いや、雪平の厚意(あのパイオツのくだりは厚意と受け取ることにした)を無下にするような真似をした(させられた)上で、さらに厚意を求めるだなんて恥知らずな真似、流石にできないか。
諦めと共に席に着き、俺も持ってきたラノベを読もうとした所で、俺の側頭部に何かが激突した。
「痛!?……痛ッ!?」
側頭部に激突しただけでも痛かったのだが、そのまま倒れてしまったせいで隣の机にもう一方の側頭部が激突。
ボキャブラリーの少なさから同じ反応しか出来なかったが、明らかに後者の方が痛かった。
頭を抱え、涙目になる俺の目の前に、勢いよく足が振り下ろされる。
「よっ………およ?
「やっぱりお前の仕業か!」
「あれ?カバン当たっちゃった?ごめんごめーん」
笑いながら謝る、先程窓からカバンを投げ入れた挙句飛び込んできた少女――遊王子謳歌に、怒りと呆れの入り混じった視線を向ける。
あまり深く反省していなさそうな彼女にもう一言二言言ってやりたくなったが、それよりも聞かなくてはならない事があるのでそちらを優先。
「…お前、なんで窓から入ってきた?」
「いやぁ…昇降口に生活指導の先生が張り付いてたんで、壁、よじ登ってみました!」
「いやここ二階なんだけど!?その軽いノリで来られる場所じゃないんだけど!?」
「おんや?天っちなんか疲れた顔してるけどどしたの?」
「…色々、あったんだ……ってそれはどーでも良いけど」
【選べ ①「どーでも良くねぇわ!」 ②「デュフフ、謳歌たそまじカワユス」】
…自分で言うのか(②は意識の外)
「どーでも良くねぇわ!!」
「うぉう、自分で言うんだそれ」
「…いや、やっぱどーでも良いわ……それよりなんなんだよそのリュック」
【選べ ①「その俺の側頭部に…俺の!側頭部に!ぶつかった!リュック」 ②「リュックの起源について時々猥談を挟みつつ話す」】
うぜぇ言い方だなオイ。……あ、②は無しで。
「その俺の側頭部に…俺の!側頭部に!ぶつかった!リュック」
「いやごめんって―――さて、よくぞ聞いてくれました!これを密輸したかったから昇降口通れなかったんだよねー」
そう言って遊王子はリュックをひっくり返し、自分の席…先程俺が激突した席の上に中身を広げた。
…いや待て。そのリュックのサイズと入ってる量が明らかに一致してないんだが。
しかし下手な事を言うとまた選択肢が出しゃばってくるだろうし、ここは黙っておこう。
「これ全部企画段階で没になっちゃった奴でさー。販売はしないけど、若い子の意見も聞きたいって事で持ってきたんだー」
「へー…」
「ねぇ謳歌ちゃん、これ何?」
「それはねー…」
女子たちが遊王子の机の周囲に集まる。
そして、気になった商品を手に取り遊王子に説明を求める。
それに対し遊王子は、いつも通りの明るい笑顔のまま具体的な使用例と共に解説を行う。
その商品のどれもに、『UOG』のロゴが刻まれている。
これは誰もが知っている大企業UOGのロゴマークであり、遊王子はそのUOG社の社長、遊王子謳真の娘なのだ。
企画段階で没になった商品とやらを持ってこれているのも、社長令嬢だからなのだろう。
……俺もなんか聞いてみるか。
「なぁ遊王子、これはなんだ?」
「ん?おー!それは『アバズレンZ』だよー!」
「アバズレンってお前…ネーミング酷いなオイ」
特に何も考えずに手に取ったが、とんでも無い商品だったようだ。
商品名の所を見てみると、確かに『アバズレンZ』と書いてあった。
開発者がどのような精神状態だったのかが凄く気になる。
俺からボトルを取り、他の生徒にも見せるようにして説明を始める遊王子。
「倦怠期を迎えた奥さんのための、女性版精力剤らしくってねー?」
「んなもんに若者の意見求めんなよ…」
「ちなみにお母さんの食事にこっそり混ぜてみたら、『はぁ…はぁ…謳歌、妹…欲しくない?』って!」
「へぇー!」
「そうなんだー!」
笑顔で説明する遊王子に対し、女子たちはきゃいきゃいと反応する。
そんな反応になるのか。
…って実の母になんてもん盛ってんだコイツ!?
「お前元アイドルになんつーもん使ってんだ!?」
「まぁ元アイドルでも今は知的で聡明なニュースのコメンテーターだけどねー」
「余計に駄目だろ!?イメージとか!」
遊王子の母…遊王子響歌は元アイドルであり、現在はニュースのコメンテーター。
何処かしこも似たような萌え萌えなアイドルだらけだったその業界に、突如クール系として現れた彼女は、瞬く間に人気を博した。
そんなアイドルと、大企業の社長の娘が『これ』なのだ。
なんというか、一周回って凄いな。
…って、ん?これは…
「…本物の、お札?」
「あっはは!それ、お金を作って遊ぶ『札るんです』っておもちゃ!本物そっくりでしょ?」
「普通に犯罪だこれ!?」
よくこれを一度作ってみようという事になったなUOG。
全体を見回してみても、本物と言っても差し支えないほど精巧に作られていた。
これさっさと破壊したほうが…
【選べ ①こっそり財布にしまう ②これを使って何かを購入する】
一応言っておこう。俺はそんなつもりは微塵も無かった。
「天久佐君…!この玩具、悪用されたらきっと世界は大変な事態になるわ…!これは良識ある人間が管理すべきじゃないかしら…?」
「いやさっさと破壊したほうがいいと思うんだけど」
まぁ財布にしまった俺にいう義理は無いんだけどさ。
極めて冷静に一番の解決策を提示した俺だが、雪平は愕然とした表情を変えることなくそのまま話続けた。
「えぇっ!?私…!?そんなの無理よ…!」
「えっ?」
「えぇっ!?君しか、いない…?じゃ、じゃあしょうがないわね。そこまで言うなら私が」
「なんなんだよその小芝居は!?それやってる時点で既に良識ないだろ!?」
あっ、舌打ちされた。
しかしまぁ、流石に雪平も本気で言っていたわけでは無いのだろう。きっと。
俺だっていくら本物そっくりの金があるからって自分の物にしたいだなんて思わないからな。
実際財布の中にはこの偽の一万円が入っているわけだけど。
…どうやって処分しようか。
「ねぇねぇ!ふらのっちも感想聞かせて?」
「………おはよう、ウジ虫娘」
「まだそのノリ続いてたのかよ」
【選べ ①ウジ虫を食べる ②「ウジ虫と呼んでください」と土下座で懇願する(ランダム)】
ランダムって何だよ!?
そして流石にウジ虫は食いたくねぇよ!?
痛ッ!?…くっ、ランダムは選びたくないが…ウジ虫を食うのはもっとやだな……
頭痛と理性とがせめぎ合っている最中、遊王子に動きがあった。
「あっ、ウジ虫……そうだ!ウジ虫と言えば!」
「いやなんだよその返し……痛ッ…」
多分普通の人間が死ぬまでに聞くことの無いだろう返答についツッコむ。
しかし『催促』による痛みは未だに続いている為、脂汗が止まらない。
…あ、諦めてウジ虫を食すしか無い…のか…?
「はい、これ!」
「……ん?アニマルキャンディウジ虫味…?なんだその菓子と虫と気色悪さのキメラ…」
「…なるほど、これが虫に関する災難……開発者死ねばいいのに」
物凄く不吉な名前のキャンディが入った袋を、凄く嫌そうな顔をして雪平が受け取る。
…あぁ、虫に関係する災難が如何こうって話だったなコイツ。
差し出された袋を恨みがましそうに握り、大きく落胆して見せてからキャンディを一つ手に取り、口に含んだ。
その見た目はまさしくウジ虫であったが…果たして味は?
「…まじでウジって感じ」
「どんな感想だ!?…いや、これなら…!なぁ遊王子、俺も一個貰って痛てててて…」
「いいけど、大丈夫?頭痛?」
「あ、あぁ問題ない…ウジ虫食えば治るから…」
「そーお?なら、はい!」
訳の分からん説明だったが、遊王子はそれで納得したのか、ウジ虫(キャンディ)を手渡してきた。
それを一瞬躊躇してから口に放り込んだ。
しばらく味わっていると次第に頭痛が消え、俺の視界を埋め尽くしていた選択肢が消失した。
ふぅ。どうやらこれがウジ虫という事でよかったようだ。
しかし変わった味だな。不味くはないのだが、今まで味わった事の無いような味だ。
…いやまて。この慈悲と言う言葉を完全に欠落させた存在である絶対選択肢が、ウジ虫の見た目なだけで、味がウジ虫味というだけのキャンディで許してくれるのか?
「な、なぁ遊王子」
「ん?なぁに?」
「…原材料って、なんなんだ?」
「んー?…あ、ウジ虫エキスだって!」
「おぼるるろろろろろおぇぇぇ!」
吐いた。
ついでに朝食まで出てきた。
いや、多分そうなんだろうなぁとは薄々勘付いていたが、実際に言われたら駄目だった。
息を荒くして口元を拭うと、視界の隅にマジックハンドにつままれたウジ虫キャンディが。
どうやら、遊王子がまだ俺に食わせようとしているらしい。
見ると、いい笑顔とサムズアップを俺に向けている。
「天っち、三秒ルールだよ!まだ行けるよ!」
「鬼!悪魔!人でなし!」
「いやぁ、冗談だよ!流石にウジ虫の汁は入ってないって!」
「あら、それは素敵な虫ジョークね」
「まだ続いてたのかソレ!?」
安心したようにキャンディを味わい始めた雪平に、本当は何で出来ているのかを教えてやろうと思いキャンディの袋を見てみる。
「……原材料は諸事情により記載できません、だそうだ」
見て後悔した。なんで見てしまったんだろうか。
もう口の中に残っていないが、それでももう一度吐いておきたくなった。
雪平の方も、俺達から全身を背けてびちゃびちゃと何かを吐き出している。
…わかる。わかるぞその気持ち。
「あら天久佐君。そんな事で
「ゲロ吐きながらしゃべるなよ…」
「あら、私は吐いたりなんてしてないわ。人からもらったものを吐き出すなんて、失礼だもの」
笑顔でそんな事を宣っているが、その口元にはしっかりとティッシュが当てられていた。
「じゃあその口に当ててるティッシュはなんだ」
「…つわりよ」
「もうちょっとマシな嘘つけや!」
再び俺から全身を背けた雪平にツッコむが、他の人の反応は違った。
全員が自分の身を守るようにして後退し、俺のいる窓際とは反対側の廊下側へ集中した。
…いや待て。なんでそうなる。
仮につわりの部分が本当だったとしても俺を警戒する必要は無いだろう。
なんで俺が第一容疑者にならなきゃなんねぇんだ。
――ていうかなんで男子まで俺を警戒してるんですかねぇ!?
数人程体を手で隠してる奴が居るってどういう事!?本当は男子じゃなくて男装の麗人なの!?それとも―――
【選べ】
おうお前大人しいなと思ったらここぞとばかりに来たな!
…なんだよ?雪平孕ませたのは俺だァ!って叫ばせんのか?
この場面で頭おかしい事させるとか、もうちょっと空気読んで欲しいんだけど。
【①上半身裸になって日本男児風に叫ぶ ②下半身裸でアマゾンの戦士風に叫ぶ】
アマゾンに対する偏見を感じた。
…しかし困った。また脱ぐ系の選択肢か。
この絶対選択肢、何故か知らんが俺に人前で脱がせるのが好きなのだ。
だから基本休日とかは家に引きこもるようにしているんだが…うん。学校の中で来たらどうしようもねぇな。
そして俺の予想に反して全ッ然関係ない奴来たな。
まぁ予想よりはマシ、か。
「えっ…嘘…」
「うわ、また脱いでるぜアイツ」
「今度は何するんだろ…」
「やっぱいい体してんなぁ…!」
おい最後の奴誰だ!?
あんまりと言えばあんまりの反応に、ついシャツのボタンを外す手が止まる。
…しかし選択肢に俺の都合等は関係なかった。
しっかりと『催促』され、痛みに頭を抑える羽目に。
くっ…脱ぐ脱ぐ、脱ぎますよって!
「やっぱあの三人揃うとやべぇな」
「流石お断り5ね…」
「顔と体は良いのに…」
「ウホッ!いい男…」
さっきから最後の奴だけ不穏過ぎねぇかなぁ!?
まぁそれはさておき…
先程俺を指して使われた言葉、お断り5…それは、この学園に在籍するとある男女各五名ずつの
見た目は良いのだが性格やら行動やらに難があり、恋愛対象としては見れないという意味を込めてそう呼んでいるのだ。
俺は(誠に遺憾だが)勿論、雪平や遊王子もお断り5のメンバーである。
確かに雪平も遊王子も見た目は良いからな見た目は。
雪平なんて最初見た時ときめいちゃったもん。好みだったし。
えっ、今?
…現実って、厳しいよね。
流石に中身が『毒舌+下ネタ』は無いわ。確かに漫才じみたやり取りに少しくらいは楽しさを感じてはいるが、恋愛対象にはならんでしょ。
因みに遊王子の『お子ちゃま』も無いな。
なんというか、小学校低学年以下レベルの言動は流石についていけない。
あ、俺がどうしてお断り5にって?
そんなの、ねぇ?
…入学式の時から【①上半身裸で好きなアニソンをアカペラで歌いきる ②下半身裸で好きな演歌をアカペラで歌いきる】なんて選択肢が来たからな。
そりゃ変人扱いされますわ。
入学初日に学校長から退学チラつかされるとか笑い話にもなんねぇだろ。
…さて、そんな事はどうでも良くて。
今問題なのは俺がその『お断り5』なんていう不名誉な名称で呼ばれ、そんな生粋の変人たちと同じ扱いを受けているという事だ。
認めない。悪いのは絶対選択肢であって俺じゃない。
確かに行動に移してはいるが、俺は無実だ。
しかしそんな事を理解してくれる人なんてのはいないもので。
その上選択肢は早く脱いで叫べと追い立ててきて。
「―――ぬはははは!!これが益荒男の心意気じゃあああああい!!」
取り敢えずそれっぽい事を叫ぶ。
頭痛が引いていった所から察するに、それでよかったのだろう。
…うん。クラスメイトのほぼ全員がドン引きしているが、この場はなんとかなったという事にしておこう。
【選べ ①このまま走り回る ②このまま誰かに勢いよく抱き着く(ランダム)】
なんともなっていなかった。この世界は極めて俺に冷徹だった。
「……ぬ、はは…ぬははははははーー!!」
「「「「きゃぁああああ!?」」」」
主に女子の絶叫を聞きながら、選択肢の支持する方向(時折選択肢が俺の行動を完全に支配する時があるのだ。ゲームでのムービー中をイメージして貰えばいいだろうか?)に走る。走る。ひたすら走り続ける。
もういっそ泣きながら走り回っていたその時、突然教室の扉が開かれた。
「うぃーっす……んぁ?」
「ぬははははー!…ぬ?」
俺の腹の所までしかない身長の女性……俺達の担任教師、道楽宴先生だ。
彼女が教室に入ってきたおかげで、俺のこの奇行もストップした…の、だが。
…なんで先生の目の前で停止したんだ!?縊り殺しなんていう二つ名の持主の前だぞ!?
んな人の目の前に半裸で停止とか、自殺行為過ぎだろ!
「お前、何してんだ?」
「…これには深い、それはもう深い訳がございまして」
「ふーん…なんだ、言ってみろ」
うっ、すっげぇ冷たい目……
まぁ、こんな事をしておいて言い訳しようとしたら、そりゃそんな反応にもなるか。
その上こんな事を俺は結構な頻度で
…普通は。
「……やれって」
「誰が?」
「頭の中の愉悦部員」
「ぷっ…」
おい誰だ今笑った奴。言っとくが本当なんだからな!
「ちょっとこっちこい」
気が付いたら宴先生に首を絞められていた。
おかしい。先ほどまで直立していたから、首を掴まれるなんて事はあり得ないはずなのに。
「いでで…あ、あの先生…せめて服着させてくれませんかねぇ!?」
「黙れ特別指導だ!」
「いだぁっ!?なんかゴリッって鳴ったぁ!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…で?」
「で?じゃなくてですね……つーか先生知ってるでしょ?この選択肢の事」
そう。この先生は、絶対選択肢について知っている数少ない人なのだ。
かつて俺と同じ境遇にあり、色々あって解放されたらしいが…詳しくは教えてもらっていない。
入学初日に上半身裸でアニソン熱唱し始めた俺を見て、もしや、と思ったらしい。
…本当、この人にあの時あの場で気づいてもらえなかったら、どうなっていたことか。
「はぁ……流石にあんな真似してなんのお咎め無しってわけにはいかねぇだろ」
「それはまぁ…そう、ですけども」
せめて服を着させてほしかった。
それだけを切に願っているのだが。
しかし俺の願いは通じていないらしい。
先生はまるでどうでもいいと言うように飴玉を舐めながら、気だるげに聞いてきた。
「で?今回はどんな選択肢が出たんだ?」
「上半身裸で日本男児風に叫ぶか、下半身裸でアマゾンの戦士風に叫ぶかって出て、その後走り回るか教室内の誰かに上半身裸のままランダムで抱き着くかって…」
「つまんねぇなぁ…なんで下半身ださなかったんだよ。もしくは抱き着けよ」
「流石に犯罪でしょうが!退学+αでなんかもっと悪いもんついてくんでしょうが!」
「対岸の火事って諺知らねぇの?」
「…もし選択肢のせいで退学+αな処分が下されることになったら全力で先生も巻き込んでやる…」
「はぁ…冗談だっての……しかしまぁ、えげつねぇこったなぁ…」
俺の恨み言を聞いて面倒くさそうに冗談だと言ったが、恐らく先程のは冗談ではないだろう。
目がマジだったし。
…しかし選択肢がえげつないという事に関しては全面的に同意する。
寧ろこれで生温いとか言う奴が居たら顔面を殴ってやる。
ついでにその時に目の中に親指突っ込んでやる。
「……もう戻っていいぞ。ま、これからも出来る限りのフォローはしてやっから、頑張りな」
「は、はぁ……しかし何故このタイミングでメールを?」
「あぁ、雪平に後一分でお前が戻らなかったら上着燃やして良いって」
「何してくれてんの!?」
凄く自然な感じで言われたが、凄く恐ろしい内容だった。
これはもうさっさと戻ろう。この先生相手に何言っても無駄だろうし。
どうせまた『冗談だっての』とか『つまんねぇなぁ』とかで済まされるのが目に見える。
【選べ(笑) ①「この合法ロリ!わからせてやるー!」と叫びながら教室まで走る ②「この行き遅れちっぱい!わからせてやるー!」と叫びながらあの夕日まで走る】
それは冗談で済ませてもらえないだろ!?
ってか笑ってんじゃねぇ!!なんだ(笑)って!
「……はぁ…」
「なんだ?そんなアホな上官の命令で地雷原に突っ込む二等兵みたいな顔して」
「その例え三回くらい聞きましたよ俺……痛ッつ!やる、やるっての!」
あー、選択肢か。みたいな目を向けているし、多分わかってくれるだろう。
…最悪、上着回収したら今日はもう学校サボって逃避行と洒落込もう。
「…この合法ロリ!わからせてやるー!」
「……は?」
逃げた。
因みに、上着は無事だった。
しかし、俺は無事じゃ済まなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時は流れ放課後。
朝の件で先生からの制裁を受けていた俺は、最終下校時間間近になってようやく解放された。
可笑しいと思う。別に俺はあんな事微塵も思ってなかったし、言わせてきたのは選択肢だった。
なのになぜ俺がこんな時間までボコボコにされなければならなかったのだろうか。
あぁ、夕焼けが目に染みる。
「あら、金出ちゃぁん?」
「うっぷ……」
背後から声をかけられる。
凄く脂っこいねっとりとした声に、今日一日の不幸も相まって吐きそうになるが、何とか堪える。
…権藤大子。
俺の家の隣に住んでいる女性であり、俺がもっとも苦手とする人である。
未亡人で、俺が死んだ旦那の若い頃に似ているという事でこうしてしょっちゅう絡まれているのだが…
「今帰り?」
「え、えぇ…じゃ、じゃあ俺はこれで…さっさと晩飯作らないといけな――」
【選べ】
本気で謝るから、マジで今はやめてほしい。
【①「抱いてください」 ②「本能のおもむくままに抱いてください」】
ふざけんなバカ!やめろバカ!
つか①と②の違いねぇだろ!
―――痛ッ!?
……はぁ…マジでか。
「…抱いてください」
「ッ!?金出ちゅゎぁん!」
大子さんに抱きしめられ、全身から聞こえてはいけない音が聞こえてきた。
いや力強ッ!?万力!?
かなり小声で、それも離れてくださいと勘違いされるように言ったのだが、大子さんは偉く耳が良いようだった。
結果、俺は大子さんからの熱烈な抱擁を受ける羽目になった。
…本当、今日はつくづくついていない。
結局解放されたのは数分後で、大子さんは満足したように曲がり角へ向かって俺の視界から姿を消した。
「…うへぇ、おぞましかった…」
俺を主人公にした作品を作ったら、余りの悲劇っぷりに全米も涙するだろう。
実際俺が泣きそうなわけだし。
…今日はもう、何も考えずに寝よう。
選択肢ももうしばらく出てこないだろうし。
【選べ ①美少女が空から落ちてくる ②権藤大子さんが空から落ちてくる】
絶対選択肢からの悪意をひしひしと感じる。
…さて、ここでもう一つ説明しなければならない事がある。
それは、絶対選択肢に『一般常識は通用しない』という事だ。
物理法則は勿論、内容が内容なら人の記憶だって操作してのける。
この場合なら、①を選べば本当に空から美少女が、②なら先程あの角を曲がっていった大子さんが落ちてくるわけだ。
…んだよその地獄絵図。絶対②は選ばねぇわ。
「…やってみろよ……美少女でも何でも、落ちてきやがれェええええ!!」
自棄になって叫ぶ。
…しかし、数十秒経ってもなんの反応もない。
………何も、来ないのだ。
おかしい。選択肢で選んだものが実現しないというのは、絶対にありえない。
しかし、今俺の頭上を見たところで美少女どころか落下物すら見当たらない。
不発、なのか?
だとしたら凄くいい事を知れた。
不発があるという事は、選択肢によって引き起こされる行動が絶対ではないという事になるのだ。
『絶対に選んだらこうなる』と思って考えるのと『もしかしたら起こらないかも知れない』と思って考えるのとでは、精神的余裕が全然違う。
これは、久しぶりに良い選択肢だったのでは!?
ガッツポーズをとり、気を取り直して歩き出したその時、背後に何かが落下した。
しっかりと大きな音もたっていたし、衝撃波のような物を背後に感じたから間違いではないだろう。
……わかってた。わかってたとも。
結局、選択肢は絶対だったのだ。
「はぁ、せめてどんな奴なのか見て……は?」
一度顔を手で覆って大仰に落胆し、落下地点へと視線を向ける。
するとそこには金髪ロングの、変わった服装の女の子が居た。
……何故か、ブリッジで。
「んみゅ?……あなたは、天久佐金出さんですね?」
「―――君は、一体?」
何故俺の名前を知っている、という疑問はあったし、まず聞かれた事に返事をしていないのだが、とにかくこの謎の美少女の正体を知っておかなくては、と質問する。
しかし、返事は期待したソレとは違って。
「あなたを助けにきました!」
どこかアホな子のオーラを醸し出しつつ、地面に座り込んだその少女は、純度百パーセントの笑顔で、俺にそう言ってきた。
…なら、俺の返事は一つ。たった一つだけだろう。
「人違いです。どこか遠い所へ」
【選べ ①パンツの色を聞きつつ連れ帰る(タメ口) ②スリーサイズを聞きつつ連れ帰る(チャラ男風)】
「取り敢えず家来いよ。それと今穿いてるパンツって何色?」
IFルート『②食べる』
幽霊、妖怪、怪異、呪物…人間は、そのようなオカルト的な話を好む。
ここ、天神小学校(仮名)に通う四人の男女も、そう言った話が大好きだった。
「ねぇ、知ってる?あのうわさ」
「うわさって?」
「もしかして、妖怪エロ本食べ?」
「そうそれ!私のお兄ちゃんが昨日見たんだって!」
妖怪エロ本食べ。
それは彼らが住む町で有名な、都市伝説上の存在だ。
なんでも、その町に落ちているエロ本を見つけては食べ、食事を見られると襲われるのだとか。
「だ、大丈夫だったのかよ?」
「『おまじない』覚えてたから大丈夫だったんだって!」
「『おまじない』?なぁにそれ?」
「あれだろ?『んほぉおおお!!女体の匂いがしゅりゅぅうううう!!』って叫んだら、エロ本食べが逃げてくってやつ」
「そうそれ!お兄ちゃん家に入るまでずっとそれ叫んでたんだよー!」
「でもおかげで助かったんだろー?俺もちゃんと覚えとかないとなー!」
あぁ、なんであの日、俺はこちらを選んでしまったのだろう。
こうして『食事』をするたびに、そんな後悔が押し寄せてくる。
あの日、素直に匂いを嗅いでおけば、こんな日陰者になる必要は無かっただろうに。
何故俺は、『食べる』と決断してしまったのだろうか。
「もう、どうでもいいか…」
涙ながらに『食事』を続けながら、ふと空を仰ぐ。
ああ、気づかなかった。
こんやはこんなにも つきが、きれい――だ―――
『妖怪エロ本食べ』の正体が『天久佐金出(49)』である事を、この町の人間は、誰一人として知らない。