天久佐君の自己紹介、というお話でもある。
「では、まずは雪平さんからお願いしま~す」
「二年一組、雪平ふらの。趣味はボランティア活動、好きな言葉は人類みな兄妹。尊敬する人物はマザーテレサ。チャームポイントはぬいぐるみと会話しちゃうようなお茶目さと、笑い上戸な所です」
「よくもまぁそんな嘘くさい内容がポンポンと出てくんなお前…」
少なくとも俺は、ボランティア中に雪平の姿を見た事が無い。
…いや、実際に見てないだけでその場にいたという可能性だってあるにはあるんだけどさ。
でも笑い上戸はその通りだな。
実際最初のミッションで笑わせた時は、ずっと腹抱えて笑ってたし。
「後、特技は亀甲縛りです」
「なんつー特技だオイ!?」
「勘違いしてもらっちゃ困るわ。私が得意なのは亀を縛るという意味での亀甲縛りよ。勿論動物のね」
「そっちのがやべー奴だろ!」
「蝋燭を垂らすと喜ぶタイプの亀を選出しているから、動物虐待ではないわね」
「どういうタイプの亀だよ!?」
「ふっ…ほんの亀ジョークよ」
「いやわかんねぇよ!?」
「因みに、何故タートルジョークと言わないのかというと、一度タートルネックと間違われた事があるからよ」
「どんな聞き間違いだよ!」
平常運転なのは良いが、全校放送になっている事を忘れないで欲しい。
少なくとも、黒白院先輩と吉原以外の表ランキング勢は若干引き気味になってるぞ。
「…では、次は遊王子さん。お願いしま~す」
「はいはーい!二年一組、遊王子謳歌!好きな食べ物はカレーとハンバーグ、好きなテレビはアニメと特撮、嫌いな宿題は読書感想文ですっ!」
「小学生か!」
「え~?でも天っちってアニメとか特撮とか、好きでしょ?だってよくそのネタ使ってるし」
「まぁな。伊達にサブカルで義務教育を終えたと豪語してないぜ?―――ってそうじゃなく。俺はどっちかって言ったらその言い方の雰囲気と後半の内容について小学生かと言ったんだが」
「後半?でもカレーもハンバーグもおいしいじゃん?」
「そりゃ確かにな?それに対しては全面的に賛成するが…その嫌いな宿題は読書感想文というのが一番なんというかこう…」
「だって嫌いだしー」
「『だって』てお前……まぁいいけどさぁ…」
なんというか、真っすぐすぎてなんとも言えねぇ。
ここまで純粋すぎるとこう、困る。
「次は箱庭さん、お願いしま~す」
「はいっ!一年八組、箱庭ゆらぎ。金出お兄ちゃんの妹ですっ!」
堂々と、それが当然であるかのように、ゆらぎはそう言ってのけた。
俺の胃も、当然のようにキュッとなった。
「あの、ゆらぎさん。言葉が幾つか足りないと思うんですがそれは」
「足りない?―――あ、実の妹でもあり、義理の妹でもありますっ!」
「どっちでもねぇよ!!」
しかし義理の妹という言葉には少しだけときめいたぞ。少しだけな。
だが全校放送で言ってしまっていい内容ではないんだなこれが。
そもそも妹云々はゆらぎが自称しているだけで、事実関係は何一つとして無いんだよなぁ。
「…なぁ天久佐。マジでお前の妹なのか?」
「違うんですよそれが…コイツはどんな奴だろうと自分が『妹』になろうとする狂気じみた癖の持主で、自ら『全人類の妹』なんて言ってるんですよ」
「つまり、想牙お兄ちゃんもお兄ちゃんって事だよ!」
「なん…だと…?」
ゆらぎにお兄ちゃんと呼ばれた瞬間、獅子守先輩が物凄く愕然とした表情を見せた。
まるで、そう呼ばれるのが耐えがたい苦痛だとでもいうような……
「実は~、獅子守さんには妹さんが五人いて、小学生から高校生まで全員揃っている年子なんですよ~」
「…だから、もう妹にはウンザリだ。と?」
「あぁ、どうもお兄ちゃんという言葉を聞いただけでアイツらがダブって見えるんだ……」
「そ、そんなに酷いんですか…?」
「あぁ…アイツら、風呂上りにバスタオル一枚で抱き着いて来るわ一緒に下着買いに行こうとか言ってくるわ夏場になったら必ず家の中で水着を着て見せに来るわ…挙句の果てには夜勝手に布団の中に潜り込んだりしてくるんだぞ?心の休まる時がねぇ…」
爆発してくださいお願いします。
俺からはそれしか言えないな。
【選べ ①「えっ何それ羨ましっ!ちょっとそこ代わって?」 ②「その気持ち、わかります。俺もそんなスキンシップの激しい妹やら姉やらが―――あっ、ゲームの話でした」】
選択肢も一緒に爆ぜてくれないだろうか。
俺は切に願うしかできないな。
うーん…①の方だと、本気で悩んでいる様子の(不幸話の皮をかぶった自慢にしか聞こえないが)獅子守先輩からしたら馬鹿にされているとしか思えないだろうし…
かといって全校放送されてるなか、エロゲとかギャルゲとかの話をするわけにも……あ、ソシャゲにもそれ系のキャラいるな。
だったら②はソシャゲの話でもある訳だ―――痛い痛い。わかった、言うから。
「その気持ち、わかります」
「…天久佐…?お前、まさか」
「俺もそんなスキンシップの激しい妹やら姉やらが―――」
「えっ、お兄ちゃんって一人っ子じゃ…」
「――――あっ、ゲームの話でした」
「ゲームかよ!?」
ごめんなさいね、先輩。
俺だって本当はこんなこと言いたくなかったんっすよ。
できれば本当は『その気持ち、わかります』の部分だけ言えるような人生を送って居たかった。
「なーんだ。お兄ちゃんにマジ妹が居るのかって思っちゃったじゃん!」
「お前言ったな?ついに自分がマジじゃないと認めたな?」
「それとこれとは別物だもーん!」
「わかった、わかったから抱き着くなゆらぎ、これ全校放送。わかる?」
「なら全校に私たちのいちゃつきっぷりが放送されているってことだね!」
「違うわ!お前は勝手に俺を兄って呼んでるだけだし、俺がお前を好きとかそういうのもねぇのにいちゃつきも何もねぇわ!」
「え…お兄ちゃん、私の事嫌いなの?」
「だから美少女でも平然と他の男に尻尾振るような奴に好意を抱くことは微塵もないって言ったろ!」
別に俺を兄と呼ぶのはこの際どうでも良い。
いや人前で呼ぶのは止めてもらいたいけどさ?
でも、他の男だって普通にお兄ちゃんとか言うじゃん。で、同じくらいスキンシップするじゃん?
それはちょっとね~。好きにはなれんよ、そんな尻の軽い…
「む~!お兄ちゃんの唐変木!」
「なんでだよ!?少なくともそんな鈍感ハーレム野郎みたいな称号を与えられるような真似した覚えねぇよ!?」
「それに関しては同意するぞ箱庭。天久佐は確かに唐変木だ」
「なんで獅子守先輩まで!?」
アンタには言われたくねぇよ!?
少なくとも五人の妹から好意を寄せられていて気づかない時点でアンタはもう駄目だぞ!?
「だってお前そこの雪平とか遊王子とか―――」
「はいは~い。そこまでで~す」
獅子守先輩の発言を遮るように、黒白院先輩が大きく手を叩いた。
時間が押しているのだろうか?
しかし気になるな。雪平と遊王子が、なんだって?
まさか二人が俺の事を好きとか……なワケないんだけどさ。
実際雪平にはしっかりと「嫌い」って言われたわけですし。
遊王子はまぁ…どーせ「見てて面白い」的な感情での「好き」だっただろうし、恋愛的なサムシングは無いだろう。
「そろそろ時間も時間なので~。本日のメインディッシュ、天久佐さん、おねがいしま~す」
時計の方をチラリと見て、俺に自己紹介するように促してくる。
いやメインディッシュってなんすか。
「…えーっと…天久佐金出です。特技はグラスハープ、手品…後は」
【選べ】
だよね。
この絶対選択肢がこういう状況で黙っている訳ないよね。
【①「利き乳輪とサクランボの茎を口の中で三つ編みにする事ですかね」 ②「黒魔術と、フリースタイルを少々」】
どんな特技だよ!?
黒魔術とか利き乳輪とかわけわかんねぇんだけど!?
…でもサクランボの茎を口の中で結ぶやつはできるし、フリースタイルも一応できるんだよな…
まぁさすがに全校生徒相手に乳輪とかいう訳にもいかないし②を選ぶんだけどさ。
「後は黒魔術と、フリースタイルを少々。趣味はグラスハープとアニメ鑑賞…ゲームと読書も好きです」
「黒魔術…?」
「まぁ、そんな凄いものはやってないですけど。ちょっとディープなおまじないみたいなものですよ」
一応概要くらいは知ってる。
やったことはないが、ちょっと面白そうだなぁとは思ってたし。
でもまぁ、おまじないすらやってないんだけどね?
【選べ ①「後、野鳥観察とかもやってますね」 ②「後、女子観察とかもやってますね」】
女子観察!?何それ!?
…まぁ野鳥観察…というか撮影ならやったことあるし、こっち一択だな。
「後、野鳥観察とかもやってますね」
「野鳥観察?」
【選べ】
これの返答くらい普通で良くないっすかね?
…で、何を言わせようと?聞き返してきたのが遊王子だからって、変にふざけた事言う必要はないからな?
【①「所謂バードウォッチングだな。俺は基本的に可愛い小鳥を撮ってる」 ②「所謂ストーキングだな。俺は基本的に可愛い子のパンツを盗ってる」】
……これ、②いる?
「所謂バードウォッチングだな。俺は基本的に可愛い小鳥を撮ってる」
「ちょ、ちょっと見てみたいかも……天久佐君、いいかな?」
「おう、いいぞ。―――そうだな、俺のお気に入りは…」
皆も見たそうにしているし(吉原はちょっと引き気味だが。そんなにさっきの説教(笑)が効いたのか)俺のお気に入りのシマエナガでも見せてやるとするか。
北海道旅行の時に偶々撮れたんだよなー。
【選べ ①「シマエナガだな。可愛いだろ?」 ②「【ここに任意の女子の名前を入力】だな。可愛いパンツ穿いてるだろ?」】
何それ!?初めての表示なんだけど!?
【ここに任意の女子の名前を入力】ってどういう事だよ!?
…まぁ普通にシマエナガ見せるけどさ。
「シマエナガだな。可愛いだろ?」
「わぁ…!可愛いー!」
「可愛い…!」
「おー!天っちいい写真撮るねっ!」
「ゆきとあわさって、すごくいいかんじですっ!」
「だろー?俺、結構写真撮るのはセンスあるって言われてるんだぜー?」
うんうん。こうして素直な賞賛を受けられるのはすごく嬉しいぞ。
また北海道に行ったら、もっといいシマエナガを撮影するっきゃないなー!
「すげぇな天久佐…他にはなんか撮ってたりしないのか?」
「他ですか…そうですね…」
【選べ ①「これとかどうですか?」とオオルリを見せる ②「これとかどうですか?」と水色と白のストライプのパンツ(女物)を見せる】
持ってねぇから!
なんで俺が持ってる前提なんだよ②!!
「これとかどうですか?オオルリって言うんですけど」
「おー…綺麗だな」
「でしょう?これは丁度飛び立つ瞬間が撮れましてね…」
昔軽く趣味でやっていた程度(一眼レフとか色々買ったが)だが、ここまで賞賛されるとは。
うーん、もっといい機材買って、極めてみるかな。
「…とまぁ、野鳥観察とか他にも色々趣味がありますね」
色々話す内容は他にもあって良い気がするが、まぁこれくらいにしておいていいだろう。
これより前に色々と時間使っちまったからなぁ……いや、これでもまだ二十分たってないのが驚きだが。
【選べ ①「現在、彼女募集中です」 ②「現在、セフレ募集中です。男でも可」】
俺が今モノローグで言った事、聞いてた?聞いてないねコレ。
…で②ィ!!男でも可ってなんだ男でも可って!
「…げ、現在、彼女募集中です……よろしくお願いします」
―――いや誰でも良いからなんか反応くれよ!
頼むからもう笑ってくれるだけでいいからさぁ……なんか、無いの?
「お兄ちゃん……私が居るのに」
「喜べゆらぎ、お前は論外オブ論外だからな」
「なんで!?」
「だからずっと言ってるだろその理由!俺は!一途な子が好きなの!」
「私が一途じゃないみたいじゃん!」
「どんな男でもお兄ちゃんって呼ぶ時点でもう一途も何も無いわ!」
「だからお兄ちゃんは唯一にして無二の生お兄ちゃんなんだって!」
「生って何だよ!?」
悲しい。
何が悲しいって、ゆらぎくらいしかこうして平常時の反応を返してくれないのが悲しい。
しかもその様子が全校に―――ん?あれ?俺が今『彼女募集中』って言ったのも全校に…?
オイオイオイ!死んだわ俺!
【選べ】
「…天久佐君、あなたはまず生まれ直せば良いと思うわ」
「いや酷くないっすか…事実だとは思うけど…」
「事実だと思ってるんだ…」
「いや遊王子、考えてもみろ。なんで俺…こんな…こんな……」
「普段から奇行三昧ですからね~」
「言わないでくれません!?第三者から言われたら余計に心に来るんですけど!?」
「ま、まぁ…天久佐君、普段はいい人だから…」
「や、柔風…!」
「けど奇行のせいで台無しなんでしょう?なら駄目じゃない」
「ごふぁっ…!?」
【①「お前ら全員、俺の事を好きだと言わせてやる」と宣言】
「…けど天久佐先輩、案外モテるんじゃないですか?」
「吉原クン、君は何をどう見たらそう思うんだい?教えたろうか?俺がついさっき雪平から「嫌い」って言われた話。滅茶苦茶溜めてから言ってきたんだぜコイツ」
「っ、それは…好き、なんて…恥ずかしくて言えないし」
「ん?なんか言ったか?」
「……別に、何でもないわ」
「そういう所ですよ先輩」
「そういう所だぞ天久佐」
「そういう所、ですね~」
「なんなの!?」
【②再びハーレムタイム突入。今度は男子にのみモテ、記憶は消去されない】
…でお前もさっきからなんなの!?
①はもう全校放送で言うような事じゃ無いしそれにさっき吉原に『複数人からの好意云々』みたいな説教をした後なんだぞ!?
でも記憶が消去されずにしかも男子ハーレムって…すごく、嫌です。
「……?どうかしましたか?金出さん」
「ぐっ…いや、別に何でもないんだ…なんでも。―――さ、そろそろ終わりに…いてて」
「ふーん…でも天久佐さん、最後に何か
「いや全然そんな事な―――っ、痛ッ!」
放送を終わりにしてもらった後で宣言しようかと思っていたが、黒白院先輩がそれを許してくれない。
…いや待て。なんで俺が頭押さえて苦しんでるのを見て何か言いたがってるって思うんだ?
まさかこの人、選択肢について何か知ってるんじゃ…?
流石に邪推しすぎか…?
「ほら、早く言ってくださ~い」
「………お、お前ら全員、俺の事を好きだと言わせてやる!」
駄目だった。
頭痛も限界だったし、黒白院先輩も俺を急かすしで、結局言うしかなかった。
―――さて、全員の反応は…?
「お~。六人どうじだなんて、金出さんはさすがです!」
…なんてふざけた事を言いながら目を輝かせるショコラ。
「ふ、ふぇええっ!?す、好きって…!?」
顔を赤くして、それはもう目に見えてうろたえている柔風。
「さ、最低の屑ね!」
オークやらゴブリンやらに捕らえられた姫騎士のような雰囲気を醸し出す麗華堂。
「私にだけ愛情を向けてこないお兄ちゃんも有り」
サムズアップしながらよくわからん事を言うゆらぎ。
「おおー!言うね天っち。―――あれ?」
ショコラと同じく賞賛するような事を言った後、突然胸を押さえて不思議そうにする遊王子。
「……」
無言&無表情の…いやこれデフォだわ。普段通りの雪平。
「あらあら~」
これまたデフォ(普段のこの人を知っているという訳でもない)な表情の読めない黒白院先輩。
「…なんかお前、すげぇよ」
多分見当違いの賞賛(?)をしている獅子守先輩。
「……それ態々宣言しなくてもいいのでは…?」
なんか変な勘違いをしている様子の吉原。
うーん。反応はまぁ、全員普段通り(普段をあまり知らない)って感じだし、この場はオッケーか。
まぁ教室に戻ったら『何抜かしてんだお前お断り5のくせによぉ!』ってなるのは目に見えてるんだけどさ。
…あれ?俺ってこの学校のスクールカースト最下層に君臨している癖に(性格などを度外視にすれば)美少女な全員に好きって言われようとしてるって事だよな。
これもう無謀通り越して勇敢なんじゃねぇの?
「でも金出さんならそれでもいいんじゃないですかね。だって肌色の本のなかに男の人がたくさんの女の人にかこまれる―――」
「ぎゃああああ!?それを言うなし!ていうか何で知ってるんだよお前!?」
あぁ、ショコラさん。
なんで俺のその手の本について、あろうことか全校放送で言ってしまったのでしょうか。
―――今日のショコラの晩飯から、おかずが一品無くなるのが決定した瞬間であった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日。
昨日は何故か、あの後男子全員が俺を胴上げしてきた後でボコボコにしてきたのだが、その傷が未だに癒えぬ内に朝が来てしまった。
なんというか、まだ痣が残っているような気がする。
俺が何をしたと…うん、やらかしてますね色々と。
「おはよ」
「おはよう。六股金出君」
そして雪平さん。なんでそんな朝から絶好調なんですかね。
確かに、昨日の最後のあの発言はそう思われても仕方ないが、俺にそんなつもりはないという事をわかって欲しい。
【選べ ①「俺はお前に一途なんだが…駄目か?」と口説く ②ここは敢えて何も言わず、男らしく背中で語る】
弁解させて?
このままじゃ俺、雪平と普通に会話する事すらままならないのよ。
いや仕方ないから背中で語るけどさ。
『やぁ雪平。おはよう!』
「腹話術じゃねぇか!!」
背中で語るってそう言う意味じゃねぇよ!
しかも何でちょっと渋めの声……男らしくって事なの?
「およよ?天っち朝から飛ばしてるねー!」
『よっ、おはよう遊王子!いぇーい!ハイタッチハイタッチ!』
「まだ喋んの!?」
俺の背中が元気すぎるんだが…なまじ渋い声で言っているせいで、ミスマッチ感がヤバイ。
あ、ハイタッチ待ちされちゃってる。
…まぁ実質俺が言ったようなもんだし、ここは素直に応じようか。
「イェーイ!」
『イェエエエエエエッイッ!!』
「テンション高すぎるんだよお前さっきからよぉ!!」
なんで叫ぶときだけ若●規夫なんだよ!
というか、周りからしたら腹話術にしか見えないから、俺が一人でわけのわからんことをしているとしか思えないわけか。
なーんか変なものを見る目をしてるなーって思ったらそういうことか。
「…にしても、昨日はすごかったね天っち。まさかあんな事言うなんて思わなかったよー!」
「そりゃそうでしょうね…寧ろそれを予測されてたら怖いんだけど」
「ちょーっとモヤモヤしたけど…ま、なんでもないか!」
「―――なぁ遊王子。最近よくモヤモヤするとか言ってるが、何かあったのか?」
「えっ?そ、そうかなー?」
「そうだろ。まぁよく小声で言ってるし、無意識で出てるんだろうけど…」
いや無意識に口から出てくるくらいモヤモヤするとか、割と何かがやばいのかもしれないけどな。
もしそうなら、一度病院に行ってみるのをお勧めする。
俺も過去に『選択肢が見えるんです。その声に従わないと、頭が痛むんです』って相談した時、『お薬出しておきますね』って言われたからな。
―――まぁ実際はお薬云々でどうにかなる問題では無かったのだが。
あれ?じゃあ医者はあまりお勧めできなくね?
精神的な問題はやっぱり、専門家よりも自分自身を信じたほうがいいと思うよ僕は。
「…それで結局、あの発言は本気だったの?」
うぐ、痛いところを突かれたな…
別に本意ではない。だが、言われなければ選択肢が不滅となってしまうのもまた事実。
まぁこれをクリアしたところで『胸を揉む』とかいう鬼畜ミッションも残っているんだが、今はそいつからは目を逸らしている。
直視したら絶望で死んじまうよ!
「…まぁ、本気半分事故半分…かな。好きって言わせるつもりなのに代わりはないし」
「ねぇねぇ、どうして好きって言わせたいの?なんかあった?」
「うーん…」
遊王子まで痛いところを突いてくるな。
どうしようか。別にミッションが云々と言ってしまってもいいが、どうせ謎の抑止力で話せないし、何より信じてもらえないだろう。
かと言って口八丁手八丁で何とかしようとしても、遊王子の謎の勘の鋭さのせいで『嘘だッ!』となることはほぼ確定…
嘘と真実を織り交ぜて話すしかないのだが、果たしてうまくいくだろうか。
【選べ ①確実に成功する。その代わりグラウンドで何かを叫ぶ ②大体成功する。その代わり昼飯が異常に質素になる】
これはまぁ…………②一択……だよな…
いや滅茶苦茶三点リーダー使うくらいには悩んでるんだけどさ。
だって、確実に成功するというお墨付きが、ただグラウンドで何か(ここが俺が素直に①を選ぼうとしない最大の理由)を叫ぶだけでつくんだぜ?
まぁ本当に何を叫ばせられるのかわからないから選びたくないんだけどさ。
②の方は、昼飯くらい質素になっても気にはしないが、大体という言葉がなんとも不安を煽ってきている。
―――どーしようか。別の問題の火種か、ここでの問題の火種か……
あっ、でもグラウンドで叫んだらその奇行を目にする人は結構な量いることになっちまう。
もしかしたら全校生徒の可能性もあるしな…だったら、ここは②しかねぇや。
「…男って、すっげぇ単純なんだよ。好きって言われただけでやる気というか、活力とかそういったものが湧き出してくるんだ。それが対抗戦に参加する…お前らとか表ランキングの女子から言われたら、その時不思議なことが起こってもおかしくはないな。―――まぁ長々と語ったが、要は生きる活力が欲しいから、なんなら美人揃いのあのメンツの前で言ったってだけだ」
「ふ、ふーん……なるほど、ねぇー…」
「なんだよその反応…気に食わないか?」
返事はない。
―――はぁ、前途多難だ…って言っても、お断り5の方は雪平とゆらぎから好きと言われれば勝ちなんだよな。
雪平はともかくゆらぎは簡単に好きと言ってくるだろうし、あまり心配しなくていいか。
「…気が変ったわ。条件次第なら言ってあげてもいいわよ」
「本当か!?」
【選べ ①「靴でも舐めればいいのか!?」 ②「脇でも舐めればいいのか!?」】
②じゃご褒美じゃねぇか!
―――あっ、違うんです。別に僕が脇フェチとかそういうわけじゃ……はい、結構脇は好きです。
でもふとももはもっと好き―――痛い痛い。ごめんて。俺の性癖を語り始めそうになったのは悪かったって。
「靴でも舐めればいいのか!?」
「それじゃあなたにはご褒美でしょう?」
「なわけねぇだろドMか俺は!?」
「ドMじゃないなら、超ドMね」
「そもそも被虐趣味じゃねぇ―――いやもう被虐趣味でも何でもいいから、どんな条件なのか教えてくれ!どうすりゃお前に好きって言ってもらえる!?」
「っ――――諭吉さんよ」
「今は五人しかいないんだが、これでいいか!?」
「えっ、うそ…五万円も払っちゃうの!?―――んんっ…残念ながら、誠意が足りないようね」
「くそっ…!!せっかく好きって言ってもらえると思ったのに…!!」
「あう…」
目じりに涙をためながら、力強く床を叩きつける。
畜生…!もう少しで、第一の難関をクリアできたかもしれないっていうのに、どうしてこういう時に限って金がねぇんだよ…!?
【選べ ①手持ちの金額が十万円追加される代わり、誰かが物凄く不幸になる ②しばらくの間手持ちの金額が変動しない代わり、誰も不幸にならない】
あ?聞くまでもないだろそんなの。
たかだか十万円のために、誰かを不幸にするわけねぇだろ。
十万追加されたからって、雪平が好きと言ってくれるかどうかなんて確証もないしな。
流石にそこまで外道に堕ちるつもりはない。
「むー……やーっぱりなんかなー…」
「…どうした遊王子。まだモヤモヤか?」
「…なんでもないっ」
「いやなんで急にそこで見え透いた嘘を…」
まぁ、他の奴じゃわからんかもしれんがな。
やっぱ俺、鋭すぎ?ここまで来たら心を読む能力を持ってるんじゃないかって思うくらいだぞ?
なのになぜか俺のこと鈍いだの唐変木だの鈍感難聴系ハーレム野郎とかいうやつ(最後のはつい先日田中に言われた)がいるんだよなぁ…まったく、俺はその気になればメンタリストだってなれるぞ?
いやメンタリストは心を読んでるわけじゃないのか?
「むーん…金出さんって、ときどきわざとなんじゃないかっておもうときがありますね!」
「何がだよ…」
平素と変わらぬ明るい笑みとともに、ショコラがそんな失礼なことを言ってくる。
何がわざとだって言うんだよ。奇行の話か?
それの文句は俺じゃなくて選択肢に言ってくれよ…
【選べ ①こんな女どもに興味はねぇ。さっさと愛しのゆらぎの元へ行こう ②こんなガキに使う時間はねぇ。さっさとマイエンジェル、柔風小凪の元へ行こう】
…あのさ。そんなにこの三人に辛辣になる必要ないと思うんだけど。
それとね、ゆらぎか柔風のどちらかの方まで行くのは全面的に同意するけど、その前に書いてある愛しのとかマイエンジェルとかにはかなり異論意義があるんだよ。
大事なことだから二回言うけど、別に恋愛感情とかないからね?
そして柔風は天使ではなく女神。あの全身からあふれ出る癒しの波動は、もはや芸術品の域だと思う。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「というわけでゆらぎ。俺のことを好きだと言ってくれまいか」
「嫌」
「おう、そうかそうかありがとう―――うん?」
柔風よりも先にゆらぎの方をすました方が早いと思ってこちらに来てみたが、何やら雲行きが怪しくなってきた。
い、嫌?あのゆらぎが、俺に「好き」だと言うことを、拒んだと?
何があったんだ?皆目見当も―――あっ、まさか。
「いやってお前…ついにとうとう本気で好きな人が」
「…は?馬鹿なの?」
「いや冷たいの普通に傷つく…」
俺のハートはガラスなのだ。
いや、雪平とかみたいに、明らかに俺のことを嫌ってるやつと話すときはどれだけ罵倒されても心構えができてるからそんな露骨にはならないんだけどさ?
こう、普段は俺を嫌ってる様子がない奴相手だとそういう心構えができてないから……普通に傷つく。
というか、なんでツン妹路線?
「兄貴さぁ、勘違いしてない?」
「はい。勘違い野郎ですみませんでした。―――帰りますね、ほんと…失礼しました」
「は、はぁっ!?何帰ろうとしてんだよバカ!」
意気消沈しつつ踵を返した俺だが、ゆらぎによってその足を止められる。
―――驚いたな。キャラチェン中なら普段は抱き着くところも、腕を掴む程度に落ち着くのか。
まぁ本当の恋を知った(のだろう)ゆらぎに、今までのようなスキンシップをされることはもうないのだろうが。
そう思うと一抹の寂しさが―――ねぇな。あんまり悲しくはねぇや。
でも、俺にはそんな春の予感のはの字もないのに、こいつがしっかり学園ラブコメしちゃってる(ただの純愛の可能性あり)のは何というか…ムカつくな。
お断り適正持ちなのに、まさか…ねぇ?
「…あの、ゆらぎさん」
「な、名前で呼ぶなっ!」
「…箱庭さん」
「みょ、苗字で呼ぶな!」
「……箱庭ゆらぎさん。離してください。大丈夫ですって。俺全然平気ですし。別に俺と同じお断り枠だろうと思って軽く見ていた幼馴染が俺よりも早くリア充ルートへたどり着いていたことに怒りだの妬みだのひがみだのを感じているとかは断じてないので」
「っ~~~~!わかった、わかったからもう元に戻ってよ
あ、声音がいつものに戻った。
…なんだ、もう終わったのか。
まぁデレのないツンデレとかツンツンされる側としてはただただ嫌な奴だからな。
さっきのはツンデレとは言えなかったぞゆら―――箱庭ゆらぎ。
「…で、どうしたんだよさっきは?」
「それはまぁ―――押してダメなら引いてみろってやつ?」
「そりゃドアの開け方の話だろうが」
一般的には恋愛的な話で使われることが主だが、ゆらぎが俺に対してそのような感情を抱く可能性はゼロなので、この言葉ができた由来ともいえる事象についてで返答することにした。
押戸かと思ったら引き戸だったって、よくあるよね?って話なんだよな。確か。
「はぁ……お兄ちゃんさぁ、本当に大丈夫?」
「知らんのか?大丈夫な奴ならお断り5なんていう不名誉な称号を頂戴してたりしない」
「その大丈夫じゃなくって…」
珍しいな。ゆらぎがここまで煮え切らないだなんて。
いつも基本的にどんなことでもまっすぐ隠さずに言うこいつが、なぁ…?
「…とにかく!お兄ちゃんはいい加減にその鈍感さを何とかした方がいいってこと!」
「だから俺は鋭い方なんだって。断言していい。俺ほど敏感な奴はいない」
「お兄ちゃんで敏感なら、他の人たちは全員超敏感だよ」
「なにおう!?」
なんで俺が鈍感という風潮が広まりつつあるのだろうか。
恋愛的な意味での鈍感…と言われても、そもそも俺みたいな変人(不本意)を好きになるような奇特な人がいるわけねぇし…
というか恋愛的な意味でも敏感だぞ俺。昔は恋のギュービッドと呼ばれていてな。
俺が教室間を移動するたびに「黒魔女さんが通る」とか言われて―――はい、嘘です。ギュービッドとは呼ばれてないし、黒魔女さんが通るとも言われてません。
「……とにかく、もう戻るからな」
「あっ、待ってお兄ちゃん。――――もちろん私は、お兄ちゃんの事……大好きだからっ!!」
「――おう、ありがとな!」
兄弟愛(偽)だとしても、好きと言われるのはやはり嬉しい物だ。
これでミッションクリアにまた一歩近づいたし、よかったよかった。
【選べ ①なぜ急に押したり引いたりの話になったのかを問いただした後、答えられる前に移動する ②こんな場所にもう要はない。さっさと柔風の元へ向かおう】
―――お前、柔風が好きなのか?(青春感)
IFルート【①確実に成功する。その代わりグラウンドで何かを叫ぶ】
……なんとか誤魔化すのは成功した。
が、そのせいで俺の足は自分の意志とは無関係にグラウンドへ向かってしまっている。
恐らく、何かを叫ばせるつもりなのだろう。
一体それがどんな言葉なのか、皆目見当もつかない。
単語なのか、文章なのか。
そもそも日本語なのか、言語として成り立っているものなのか。
ヌベスコ系統だったら、マジで困るんだが…いや下ネタ叫ぶ方が精神的にも周りの目的にもキツイんだが。
「―――あぁ、なんかみんなの視線が集まってきてる気がする…」
うちの学校は、グラウンドが見れるような位置に鏡があるため、俺が本来誰も来ることのないような時間帯にグラウンドに一人佇んでいるのは、全教室から見ることができるのだ。
まぁ、一部見ることのできない教室もあるが。
あ、なんか叫びそう。
「スゥー……磯野ォおおおお!野球しようぜぇえええ!!!」
しようぜぇ…ようぜぇ…ぜぇ…ぇ……
さながら山彦のように響く俺の声を聴きながら、俺はただ一つだけ、こう思うのだった。
―――この学校に、磯野って生徒いんの?