俺の絶対(選びたくない)選択肢   作:イニシエヲタクモドキ

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口説く、口説くぞ天久佐。すごいぞすごいぞ天久佐。まさしくこれは―――『天 久 佐 無 双 !』というお話。



もしくは風呂のお話。


①普段は宴先生、二人きりの時は宴 ②男ならシンジ、女ならレイ

俺のスベリ芸は無かった事にして、今回の対抗戦のルールについて話そう。

 

ここに、二十五分割されたパネルがある。

ソレの裏側にはそれぞれ違った対戦方法が記されており、俺たちは解説の教師―――この場合は宴先生の選んだパネルの対戦方法で対決することになっている。

 

…しかしまぁ、一昔前のバラエティ番組がごとき内容ばかりだし、あんまり気を張って挑むものではない。

が、俺の場合はこれに勝利せねば、選択肢が永久に不滅となってしまう。

そのせいか、誰よりもマジな雰囲気を醸し出してしまっている。

―――そういうのって自分で言っていいのかね?

 

『では早速、先鋒同士の対決です!宴先生、お好きな数字を――』

『なら縊り殺しの9』

 

宴先生、全然やる気ないんですね。

 

『縊り殺しって……は、はい!9番のパネルは―――演技力対決です!』

 

なるほど、演技力対決か。

これはゆらぎの勝ちはほぼ確定だろう。

獅子守先輩の演技力は知らないが、ゆらぎの妹を演じる実力は本物。

 

姉を演じろ、とかさえ言われなければ確実にゆらぎに軍配が上がるはずだ。

 

『では先生、何か良い役を――』

『んじゃ最近帰りが遅くなってきたヤンキー気味の兄貴とそれを心配する妹』

『なんか随分的確ですね』

『どーでもいいだろそんなの』

 

先生、マジでどうでも良さそうですね。

 

しかしこれで決定した。

ゆらぎの勝ちだ。

ヤンキー気味の兄貴に対して、心配する妹?そんなのゆらぎからすりゃ朝飯前だろ。

 

…というか、先輩ってこういう勝負はあんまり好まないだろうなーって思ってたけど、案外やる気みたいだな。

あの人にとっては、勝ち負けが一番大事なのかね。

 

『もう、こんな遅くまでどこに行ってたの?』

 

お、早速始まったな。

 

ゆらぎはまぁ、ここまでは普段通りのゆらぎだ。

確かに指示された役の範疇だろうけど…これだけじゃ終わらないだろうな、こいつの事だし。

 

『っせーな。んなのお前にゃ関係ないだろ』

『あー、その言い方可愛くない!』

『ウぜェな…いいからどけよ』

 

先輩もすごいな。

ヤンキー気味の兄、という役がハマっているのか、それともこういうのが得意なのか。

 

どちらにせよ、どちらかが攻めなければ勝負は決まらなそうだ。

 

『むー…でも、お兄ちゃん口ではそう言ってても、本当は私が心配してたって聞いて喜んで――――の、――がする』

『あ?』

『知らない女の匂いがする』

 

流れが変わったな。

なるほど、ツンデレで攻めずにシンプルに行くのかと思ったら、これの布石だったのか。

 

ヤンデレ妹…ゆらぎの十八番だ。

まぁ俺が昔よく要求してたのが原因なんだろうけど―――あれ?そんなの要求してたっけ?

 

『な、なんだよそれ』

『お兄ちゃん、どこ行ってたの?』

『はぁ?そんなの関係な』

『ある』

『……お、おい』

『あるに決まってるじゃん。だって私、お兄ちゃんの妹だよ?』

 

ズイ、と体を寄せ、瞳孔の開いた目を向けるゆらぎに、先輩は素が出始める。

 

それでもゆらぎの演技(追及)は終わらない。

 

『最近さぁ、家でも女の話ばっかりだよね。どうして?私と一緒にいるのに、どうして他の女の名前が出てくるの?どうして他の女の事考えるの?ねぇ、どうして?』

『え、いや、あの』

『今度は誰?随分密着してたみたいだけど。あー、誤魔化そうとしても無理だよ?だってそんなに強い匂いが染みつくのって、こうやってくっつかなきゃだもん。―――だから、いっつもこうやって()()()()()してたのに……どうして他の女の匂いなんてつけてきたの?なんで密着なんてさせたの?』

『えっ、これ…演技…だよな?』

『演技?演技って何?私本気だよ?なんでそんな事言うの?あっ、そっかぁ。あの女のせいかぁ……』

『あの女って…』

『ねぇ、お兄ちゃん。私以外の女のモノになるんだったらさ………』

 

そういって、ゆらぎは俯き、動かなくなった。

 

先輩は先輩で、どうすればいいのかと困惑気味だ。

 

だが、ゆらぎがこの後どうするのかを俺は知っている。

なぜなら一度このような事をされたことがあったからだ。

 

『――――一緒に、死んじゃお?』

『何言って―――』

 

光の無い瞳と歪な笑みを見せたゆらぎに、先輩が言葉通りの表情を見せる。

しかしその疑問は言葉になりきる前に遮られる。

 

ゆらぎが、先輩の首を絞めたのだ。

 

『ちょっ!?ストップストーップ!』

 

おいおい、なんで止めるんだよ実況。

今いいところじゃねぇか。

 

あ、別に獅子守先輩が死んでもいいと思っているわけではないぞ?

実際絞めてるように見えるだけで、殺意のある絞め方じゃないしな。

 

なんでわかるのかって?

……宴先生。これで理解してもらえるだろうか?

 

『あれ?なんで止めるの?』

『いやなんでって…明らかに今のアウトでしょ!?』

『だいじょーぶだよっ、全然絞めてないから!』

『は、はぁ!?お前十分絞まってた―――って、全然痣がねぇ』

『だって、絞められてるように錯覚するくらいの演技をしたからね!昔金出お兄ちゃんによくやってあげてたから、得意なんだー!』

『て、天久佐に…?』

 

マジですよ。

…いや、マジなの?我がことながら曖昧なんだが…

 

というか先輩、手鏡持ち歩いてるんですね。

そのライオンの(たてがみ)みたいな髪、案外真面目にセットしてたり?

 

『ったく。本当に絞めてるかどーかなんて、見てりゃわかんだろ?』

『で、ですが先生』

『つまんねーなー…ま、これで終わりってわけじゃねぇんだろ?』

 

先生がいつも通り過ぎる。

ていうか何でPSPやってるんですかねあの人。絶対見てなかったよねあの人。

 

そしてそれを咎める教師が一人もいないところに力の差を感じる。

体育教師の竹山先生なんて、注意したそうな顔してるくせに、青い顔してその場から動けてないからな。

…あの筋肉ダルマをどうやって黙らせたんだ…?

 

『まぁ…そう、ですけど……え?終了?―――なんか、実行委員会の方が『これ以上は絵面的にアウト』と言われましたので、これで終了に――』

 

…まぁ、そうなるよな。

俺からすりゃあれくらいでも全然いいとは思うが、他の生徒はドン引きだろう。

 

終了しても続行しても、どちらにせよ先輩の勝利に―――

 

『ちょっといいか』

『は、はい?』

 

なる、はずだったが。

 

何故か先輩は終了のコールを阻止し、実況の持つマイク(というか実況してなかったのでは)を奪い取った。

 

…このままでも勝てただろうに、まだ追い打ちする気なのか?

確かに勝利主義の人だけどさ。

 

『…今終わっても、俺の勝ちは確定だろ。全員コイツの演技にドン引きしてるしな。―――けどそれじゃ全員物足りねぇだろ?』

「物足りない…」「確かに、もうちょっと欲しいよねー」「でもあれ以上やっても…」

 

先輩の言葉に、生徒たちは口々に物足りないと答える。

数名程別にもう終わりでもいいという意見を言う人はいたが、大多数はまだ続けて欲しいようだった。

 

けど、妹を苦手とする先輩が、なんで自ら妹に言い寄られる演技を続けるように?

 

『だからよ。―――天久佐!ちょっとこっち来い!』

『……えっ、俺!?』

 

んん?なんで俺が呼び出されるんですの?

まぁ別に出ない理由もないし大人しく出てくけどさ。

 

【選べ ①動かざること山のごとし ②ぬるぬる動くぞ!?】

 

大人しく出てくって言ったじゃん!?

なんで動かないかぬるぬるの二択なの!?

 

―――なんか後が怖いし、①にしよう。

 

『だからこっち来いって』

『アッ、ハイ』

 

微塵も動かずにいたら、若干呆れ気味に同じことを言われた。

…いやいや、俺の意志じゃないんですって。

 

『……それで、なんでしょう?』

『今から、俺とコイツと演技力対決をしてもらう』

『はい?』

『俺、獅子守想牙と、箱庭ゆらぎ。両方を相手にしてもらう』

『いや聞き取れてますけど―――なんでですかね?俺が先輩の相手するのはまぁ、わかりますけど…ゆらぎと俺、同チームですよ?』

『純粋に気になんだよ。あの状態のコイツにどうやって対応したのか』

『はぁ…』

 

その好奇心で俺は前に出させられたんですかそうですか。

 

…まぁ別にいいんだけどさ?こうやって人前で何かするってなったらコイツが黙ってないと思うんだけど…

 

【選べ ①「あんなのパンツ剥ぎ取ってクンカクンカしてやりゃなんとでもなりますよ!」 ②「あんなの俺のパンツの匂い嗅がせてやりゃなんとでもなりますよ!」】

 

やっぱり黙らないじゃないか!

 

『あ―――あんなのパンツ剥ぎ取ってクンカクンカしてやりゃなんとでもなりますよ!』

「ひっ」「変態…」「剥ぎ取るなんて…」「く、クンカクンカ!?」

 

マイクに拾われないようにしたってのにしっかり会場内に響き渡っちゃってんじゃねぇか。

ごめんなさいね、こんな変態発言して。

 

【選べ】

 

『て、天久佐お前』

『じょ、冗談ですよ冗談!ほら、あのヤンデレのせいで固まっちゃってた空気を和らげようというちょっとした――』

 

【①チ●コが金色に光る ②金色に光る竹にアナ●を貫かれる】

 

『……冗談なんですって!』

『うぉっ、眩しッ!?』

『すっごーい!お兄ちゃんのお兄ちゃんが輝いてる!』

 

これも冗談なんですよ、多分。

もろちん会場の全員はドン引きしてますね。

 

あっ、宴先生だけがなんかちょっと同情的な目で見て――違うわ。これ終わった後で首絞めてくるやつだわ。

『覚悟しとけよ?』って目で言ってきてるもんあれ。

 

『―――わ、わかりました。やります、やればいいんでしょやれば……でも俺と先輩の演技力対決って、何すりゃいいんですか?俺に妹枠をやれと?』

『いや。それはまた姉御……いや、先生に決めてもらう』

『―――あ?テメェまた姉御って言いやがったな?天久佐共々覚えとけよ?』

 

いや堂々と脅すなよ……そしてしっかり俺もカウント入ってるんですね。

 

しかしまぁ、獅子守先輩と俺の対決か。

でも俺が戦ったところで、投票先はあの二人なんだから―――あぁ、個人の演技を見極めるためのマネキンって事ね?俺の役割。

 

まずは先輩とやるらしいし…まぁ、選択肢に邪魔されない限りはやれるだけの事やっとくかな。

 

『あ、あのー先生。決めてもらいたいんですけど』

『実況もそれでいーのかよ……面倒くせー……もう女子に媚び媚びな俺様系(笑)でもしてみりゃいいんじゃねぇの?』

『お、俺様系ですか…なんでちょっと笑い気味なのかは気になりますが、取り合えずどうぞ!』

 

お、俺様系…?そんなのを、お断り5最強の俺にやらせるのか?

表ランキング一位の獅子守先輩に?

俺様系という言葉の擬人化みたいな、あの獅子守先輩相手に?

 

『まずは俺からだな……よし、箱庭。ちょっとそこに立っててくれ』

『はーいっ……わっ』

 

一度考えるような素振りを見せた後、獅子守先輩はゆらぎの顎をクイっとし、低い声で囁いた。

 

『俺のモノになれよ』

 

―――す、すげぇ。

まさしく獅子守先輩だからこそ許される発言…少なくとも女性陣はキャーキャー叫んで止まらない。

男子たちの方からも、「まぁ獅子守先輩だしな」とか「様になってんなぁ」等と好評だった。

 

…え、この状況の中でやるのか?

全体の雰囲気が「獅子守想牙マジパネェ」ってなってるのに?

明らかに俺アウェイじゃない?

 

【選べ ①やるからには全力。宴先生相手にやってみる ②やるからには全力。権藤大子さんにやってみる】

 

どちらにせよ死!?

 

①は肉体的、②は精神的な意味で死ぬぞ俺!

どうせ死にきれないんだろうけどさぁ!

 

……けど大子さんは嫌だ!先生には申し訳ないが……俺の俺様系(笑)の犠牲になってもらおう!

 

『…宴先生、ちょっと来てもらっていいですか?』

『なんであたしなんだよ』

 

選択肢がそうしろって言ったからですけど。

でもそんな説明をするわけにもいかないからな……どうすべきか。

 

【選べ ①「幼児体形だからですよ。それ以外に何があるんです?」と真実を告げる ②「そこにロリがあるから」と登山家風に告げる】

 

まったく真実じゃねぇんだよ①。

 

えー…これどっち選んでも先生の事見た目ネタで馬鹿にする事になるだろ…嫌だぞ俺、絞められると痛いんだから。

 

『そこにロリがあるから』

『悪かったな幼児体形でッ!』

『ぎゃぶぁっ!?力強!?』

 

絞め技かと思ったら、純粋な握り拳だった。

それでもしっかり痛いんだけどね。

 

『じょ、冗談です冗談。やだなー本気にしちゃって』

『とか言ってほんとはマジなんだろ』

『違いますって!(大子さんと比べたら)絶対に宴先生がよかったんですって!』

『(この学校にいる女全員と比べて)絶対にあたしが良い…!?ばっ、調子乗ってんじゃねぇぞこらぁ!』

『痛い痛い、先生痛いです』

 

先程の力任せな一撃とは打って変わって加減気味の攻撃だが、それでも地味に痛い。

なんでそんな幼子が親や祖父母に肩たたきするかのような殴り方なんですかね。

いや言ったらまた強く殴られるから口には出さないけどさ。

 

『……ま、まぁ?そんなに言うなら相手してやってもいいぞ?』

『はぁ…そりゃどうも』

 

なんかちょっと上機嫌気味なのが逆に不穏だが、まぁいいだろう。

俺は俺のやれる事をやるだけだ。

 

『宴先生』

「ひゃっ!?」

 

宴先生らしからぬ可愛らしい声に若干驚くが、それが聞こえたのは俺だけだろう。

マイクが音を拾わなかったようだ―――まぁ、どうでもいいか。

 

今の俺は先生と視線が合うように屈んでいる状態で、その上先生の耳元で囁くようにしている。(しっかりマイクに音が入るようにしている)

実は俺様というのをよくわかっていないが、取り合えずこうして相手を翻弄するような事(笑)をしていればいいだろう。

 

『…綺麗な髪、ですね』

『ちょ、まて』

『瞳も綺麗で、肌も透き通ってる。瑞々しい、っていうんですかね』

『ちかい、ちかいぞてんきゅうさ』

『随分緊張してるみたいじゃないですか、先生?―――いや、違うな』

『…ち、ちがうって』

『宴』

 

ただ名前を呟くと、先生は何も言えなくなった。

口をパクパクとさせるだけで、声にならないようだ。

 

…失礼だけど、やっぱこの人ってこういうやつの経験ないよな。

俺もないんだけどさ。―――なんか手馴れてる気がするけど。

 

『宴、宴…いい名前ですね。これからは、先生、なんて堅苦しく呼ばないで、こう呼んでいいですか?』

『け、けどおまえ…あたしとおまえは…』

『じゃあ―――二人きりの時なら、いいよな?』

 

敢えて敬語をやめ、雰囲気を変える。

俺が大子さんの熱烈な抱擁からさっさと抜け出したいときに使う最終手段だ。

 

―――あれ?ならこれ大子さん選んだほうが―――やっぱ無理だ、自分からあの悪夢に飛び込んでいく気にはならねぇ。

牛でたとえるなら牛脂みたいなあの厚化粧のオバサン相手にあんな真似、自らするなんて考えられん。

 

…っと、それは今は関係ないな。

 

さて、なんかもう俺がやってるってだけでおぞましいだろうが、それっぽくなったんじゃなかろうか。

会場の全員は黙り込んじゃってるが、せめて先生くらいはいい反応を―――うん?

 

「あ、う」

『えーっと…あの、先生?大丈夫ですか?先生?』

 

ダメだこの人、完全にショートしちゃってるよ。

なんというか…俺ごときにやられてそうなるって、他の奴に同じことされたらマジでどうなってしまうんだこの人。

色々と心配になる人だな……

 

『あの、なんかダメみたいなんですけど』

『……はっ!?す、すごかったです天久佐パイセン!』

『いや俺の方が年下なんですけど』

『いやいや、マジパネェっす!感服しましたっす!あとサインボールください!』

『え、あ、うん?なんでサインボール?いいけどさ?』

 

実況の人までおかしくなっちまった。

 

獅子守先輩もゆらぎも硬直しっぱなしだし、会場の方に助け舟を求めるなんて真似もできねぇ。

…うーん、やっぱり俺がやったのがよくなかったのかね?これがもし獅子守先輩だったらもっとキャーキャー言われてただろうし。

 

『―――っと、危ない危ない。暴走するところでしたね』

『十分暴走してましたけど?』

『ンンっ!聞こえませんね!―――さぁ、宴先生は実行委員の人たちに回収してもらうとして、次は箱庭選手と天久佐選手の演技勝負となります!みなさーん!戻ってきてくださーい!』

 

戻るってどこからどこにだよ。

なに?そんなにおぞましかったの?

 

「あの…天久佐先輩…だっけ?」

「うん」

「…やばくない?」

「…うん」

「あれでお断り5?」

「最強ってそういう意味なの…?」

「すげぇやアイツ…」

「なんかもう、なぁ…?」

「普段の奇行はどうしたんだよ…」

 

うーん、聞こえる声だけ聞いてみても、そんな酷評されてるわけじゃなさそうだけど…なんだかなー。

獅子守先輩程とは言わないけど、一部のマニアックな子が「きゃー!」って言ってくれるかなーとか思ってたんだけど、そんなことは無かったし…

 

『なぁ天久佐』

『……なんでしょう』

『お前、すげぇな』

『先輩程じゃないですよ』

 

獅子守先輩の場合→女子たち「きゃー!素敵!」 男子たち「すげぇ…!」

俺の場合→女子たち「」(ドン引き) 男子たち「」(ドン引き)

 

見てください、これが現実なんです。

アフリカでは今、一分間に六十秒が過ぎています。

そして私は今、こうして変人奇人のレッテルを貼られています。

 

『…ま、さっさと終わらせよーぜゆらぎ』

『ねぇお兄ちゃん』

『んー?』

『さっきの、どういうこと?』

『んん?……あー、もう始まってんのか。うーん…どういうことも何も、なぁ?指示された通りの内容をやっただけなんだが』

『絶対違うよね。明らかに私的な感情が入ってたよね』

『あれを見てどうしてその考えに至るんだよ…』

 

すごいなゆらぎ。もうヤンデレの用意ができているとは(ヤンデレの用意ってなんだ)こちらも負けてられんな。

いつも通りの宥め方で、いい感じに―――あれ?おかしくないか?

 

いつも通りの宥め方つったけど、それだとラスト…キスしてね?気のせい?

それとも、子供の時だったから全然互いに気にしてなかったとか?

 

いやいや、そんなキスするのを気にしないような年齢の時からヤンデレの御し方心得ているとかおかしいだろ俺。

 

『お兄ちゃんさぁ、ずっとそうだよね。鈍感で、難聴で、その癖女の子からはモテモテでさ』

『過去の栄光にだけ目を向けるのやめてもらっていいですかね。今の俺を見ろよ今の俺を。この会場内の冷たい視線は誰に向かってるよ?』

『お断り5とか言われてるけどさ、なんだかんだモテモテじゃん』

『お前目とか耳とか腐ってんの?』

 

おっといかんいかん。素で言ってしまった。

 

所詮演技で言っているだけの言葉。真に受けてどうする。

アイツもアイツで、それっぽい内容にするためにある事ない事言ってるだけに違いない。

 

『私が抱き着くのは嫌がるのに、他の女は結構許してるよね』

『そもそもお前以外に抱き着いてくる奴いねぇだろ』

『私がお兄ちゃんって呼んでも、全然嬉しそうにしないよね』

『男はすべからくお兄ちゃんと呼ばれたいというわけではないからな』

『…私以外の女と話す時の方が、ずっと生き生きしてるよね』

『誰にでも平等に関わってるつもりなんですがそれは』

 

平行線だな、これ。

でもまぁ、記憶の通りだと、こうやってヤンデレっ子の相手を―――あんれぇ?でもやっぱりなんか変だよなぁ?

 

そもそも俺が相手にしてたヤンデレっ子って、ゆらぎ()()()()()()気がするんだが…気のせいか?

 

『しばらく会ってなかっただけで、なんで一緒に暮らしてる女がいるの?』

『それは俺が聞きたい』

 

ショコラについては選択肢かそれを出してきている神本人に聞いてください。

俺のクソザコ理解力ではだめでした。

 

そもそも神とかそこら辺の存在の話を、人間スケールで理解しようとする方が間違ってると思うの。

 

『……ねぇお兄ちゃん』

『どうした』

『昔はさ、そんなに適当にあしらったりしなかったよね』

『んー?そうだったか?全然そんな気がしないんだが』

 

昔からこんな感じだったと思うぞ?

そりゃ最初の頃はお兄ちゃんと呼ばれたりしても全然だったが、途中から「なんかおかしくね?」と気づいて―――そんで、なんだっけ?

 

まぁ昔からこんな感じだってのに違いはねぇだろうし、あまり気にしなくていいか。

 

『もういい……私の事しか、見れないように――』

 

【“待”ってたぜェ!!この“瞬間(とき)”をよォ!!】

 

一条●丸じゃねぇか!

まぁこのタイミングで来るんだろうなぁとは思ってたけどさぁ…なんか、暑苦しいぞお前。

 

【①赤ちゃんプレイを要求する ②イケメン(笑)の実力を見せつける】

 

①どうしたお前!?発作か!?

 

だが②、もうお前でも全然文句はない。

俺の今からやることは、確かにイケメンでなければただただ気色悪いからな。

イケメンを自称する俺の実力、見せつけてやる―――って言っても、もう自分の事イケメンとは思ってないんだけどね。

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簡単に状況を説明しよう。

『天久佐がやりやがった』…状況説明終了。

 

まぁ真面目に話すなら、まずは獅子守先輩との演技力対決まで戻る必要がある。

 

宴先生がすっごく面倒くさそうに『俺様系(笑)』をするように言ったのが原因で、まぁ天久佐がやりやがった。

いきなり先生を指名したかと思えば、目線合わせて髪とか褒め始めて、「あれ?全然俺様じゃなくね?」って思わせて―――最後の最後で、質問の皮を被った命令をした。

『二人きりの時は名前を呼び捨てにする』って…それ、この大勢の前で言ってどうすんだよ。

ん?演技だからそんなことはないのか?

いや、あれ?

 

…と、そんなこんなで女子も男子もノックアウトされてたわけで。

 

実況の人のおかげで復帰したかと思えば、今度は箱庭とかいう一年生の演技ヤンデレ(言ってること全部のリアリティがすごい…というかお断り5のくせにモテるというのはあながち間違っていない気がする)相手に、とんでもない返しをしやがった。

 

『私の事しか、見れないように――』

『ゆらぎ』

『…なに?言っておくけど、止めようとしても』

『別に止めはしねぇよ。拒む理由もねぇし』

『…え?』

 

まさしく「え?」だった。

何言ってるんだこいつ、という目を向けたのは、少なくとも俺や佐藤だけじゃないと思う。

 

それでも、天久佐は止まらなかった。

 

『見れないように、なんだ?何をするんだ?』

『お兄ちゃん…?』

『ま、何もしないってんなら…ほら』

『え…?きゃっ!?』

 

いつの間にか箱庭を壁際まで追いつめていた天久佐は、迷いなく壁ドンをやってのけた。

―――アイツ、あんな事は俺にできるわけがねぇって言ってたのに…

 

『これで逃げれねぇな』

『な…なに、するの…?』

 

天久佐は答えない。

 

代わりに口を耳元に近づけ、どこか甘えたくなるような(恐ろしい事に、男の俺でもだ)声音で、一言。

 

『…俺は、お前しか見てないから』

 

―――一瞬、意識がトんだ。

 

本当にお断り5の方なんですか天久佐さん。

そう思ってしまうくらいには、様になっていた。

 

というか、これを昔よくやっていたって…アイツら二人やばくないか!?

ませ過ぎだろ子供の頃にやっていたのだとしたら!

 

『―――って感じでやってた…と、思うんですけど』

『どんな子供だよ!?』

『え、えぇ…なぜそこで怒られるので…?』

『いや怒ってるわけじゃねぇが……お前、なんなんだ?』

『その聞き方は明らかに怒っている人のソレじゃないですか…』

 

獅子守先輩すら、俺と同じような感想を持ったようだ。

というか、この場においてこれ以外の感想を持った奴は多分アイツ本人以外にいないと思う。

 

…とにかく、今までの事を総合して俺から言えることは―――コイツ、わざとやってね?ってだけだな。

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選択肢に途中やることを変えさせられたとは言え、大体うまくいったと思う。

確か、昔もこうやってヤンヤンされた時はこう、受け入れる姿勢を見せつつーって感じだった気がする。

 

セリフそのものは選択肢が決めたが、まぁ似たニュアンスの事を言う気だったし問題はない。

周りの反応はこれまたイメージと違ったものだったが…まぁ、俺がやったとしてもキャーキャー言われなくて当然だろうし、いいか。

 

『……あ、今から投票になるんで、皆さんどちらかに』

「あのー!」

『はい、なんでしょう?』

「天久佐君に投票したいんですけどー」

「あ、俺も」

「私もー」

『そりゃ私もですけど……それじゃお断り5二名対表ランキング一名だったことになってフェアじゃないんで、ここはこの二人から選んでください』

 

む?俺意外と大人気?

それとも無謀にも「ただしイケメンに限る」みたいな行動を大勢の前で披露して見せた俺への同情票だろうか?

 

…まぁ現実を見るとするなら、同情票だろうな。

 

しかし、ルールはルール。

今投票することができるのは獅子守先輩とゆらぎだけなのだ。

 

 

 

思いの外早く終わった集計の後、巨大スクリーンに結果が映し出された。

どうせ獅子守先輩が一位…と、思っていたが。

 

『勝者!箱庭ゆらぎ選手!』

 

まさかのゆらぎが勝利だった。

…うーん、ヤンデレはあんまり大衆ウケ良くなかった気がするんだが…心変わりしたのだろうか?

 

『…これ、明らかにお兄ちゃん票入ってるよね』

『だろうな……本当、天久佐には敵わねぇな。―――ま、次に戦う機会があったらそりゃ負ける気はねぇけどな』

『なんだよお兄ちゃん票って…』

 

二人とも、この結果を予想していたらしい。

お兄ちゃん票というのがよくわからないが。

 

…しかし、やっぱり俺はわからなかったな。

獅子守先輩はゆらぎの時も俺の時もちゃんと演技してたし…

 

まぁ、俺の演技力はハリウッドでも狙えるレベルだからな。

今回は自分の残念さを演技力でカバーした結果、同じチームであるゆらぎに票がたまった…という事にしておこう。

 

いつまでも二人と一緒に立っているわけにもいかないので、さっさと自分の席に戻る。

…なんかもう、どっと疲れた。

 

「…ぬぉ!?」

 

自分の席に戻る道中、なぜか雪平に足を引っかけられ…いやそんなんじゃねぇわ。普通に蹴りだったわ。

 

「え、何すんの?」

「天誅よ」

「て、天誅ってお前」

「ロリコン&シスコン…救いようがないわね」

「誤解オブ誤解なんですけど!?いやまぁ確かに自称ロリコンではあるけども、シスコンは違」

「ならなんで箱庭さんという実妹にあそこまで卑猥な事をしたのかしら?」

「微塵も卑猥じゃなかっただろ!?つーか実妹でもなんでもねぇし!」

「黙りなさい。チン●スに発言権はないわ」

「●ンカス!?」

 

いや、あの…辛辣すぎません?

宴先生とゆらぎ相手にまぁやりすぎたかもしれないけど、だからってそんな強く蹴らなくても…

 

【選べ ①蹴られたところを押さえながらはぁはぁする ②股間を押さえながらハァハァする】

 

①と②じゃ「はぁはぁ」の意味合いが違うだろ!?

…まぁ①にするんだけどさ、なんか…確かに痛いけど、そんな息切れするほどじゃ…

 

「…はぁ、はぁ…」

「蹴られて興奮するなんて、業が深いのね」

「違うわ!ダメージが大きかったことを示してるだけだわ!」

「蹴られて興奮するタイプのチンカ●…ニュータイプ?」

「どんなタイプだよそれ!?ってかチ●カスじゃねぇから!」

「じゃあマ●カスかしら」

「悪化してんじゃねぇか!」

「どこが悪化しているのかしら。私はただマラカスと言っただけよ」

「じゃあややこしい所に伏字を置くなよ…」

「まぁマラカスは魔羅のカス…結局チン●スだという事に変わりはないわ」

「ダメじゃねぇか!」

 

まずなぜ俺の事を男性器のカス呼ばわりし始めたのかについて聞きたい。

 

【選べ ①●ンカスの名に相応しい奇行に走る ②いっそのこと実際にチ●カスになる】

 

相応しい奇行ってなんだよ!?

具体例をくれよ具体例を!!

 

言っておくが②はやらねぇからな!?

 

【なら ①ネックウォーマーを顔半分隠すように被り、「これが俺だぁ!!」と叫ぶ ②チン●の被り物をし、「俺がチン●だぁ!!」と叫ぶ】

 

嫌だどっちもやりたくねぇ!

①の方がまだマシに見えるが…くそ、実際にはちゃんと剥けてるんだぞ俺は。

なのに全校生徒に「包●です」と宣言するのは嫌だ……が。

 

②、こっちを選ぶわけにもいかないだろう。

こんな大勢の前で猥褻物の被り物とか…うん、アウトだ。

それっぽくデフォルトしてるのならまだいいが、この絶対選択肢によって出てくるのだ。確実にリアルなものだろう。

 

―――①を選んで、誰もその意図に気づかないという奇跡を祈ろう。

 

『これが俺だぁ!!』

『…あなた●茎だったのね』

 

ダメでした。

ほんの一瞬で意味を言い当てられました。

 

『ち、違ぇし!本当は全然そんなことねぇし!』

『恥ずかしがることは無いわ天久佐君。日本の男性の大部分は仮性包●だって話だから』

『だから違うんだって!』

 

でも自分から言ったようなもんだし、信じてもらえなくても仕方ねぇか。

 

…そして前列にいるそこの男子。俺が「これが俺だ」と叫んだときに鼻で笑った、そこの男子。

お前の顔、覚えたからな?

 

【選べ ①誤解を解くため、実際に見せつける ②誰かが誤解を解いてくれる】

 

あの…俺、誰にも自分の息子を見せたことないんだけど?

なんで誰かが誤解を解いてくれるの?

 

それ、違う誤解が生まれるんじゃないの!?




【②誰かが誤解を解いてくれる】

『えー?違くない?』
『違う?何が違うのかしら』
『だって、昔一緒にお風呂に入った時からお兄ちゃんちゃんと剥け――』
『だあああああ何トンデモカミングアウトしてくれてんだお前は!?』
「えっ、一緒にお風呂…?」
「変態…」
「絶対いかがわしい事してますよね…」
「そこ代われ!」

―――因みに、最後にゆらぎと一緒に風呂に入ったのはなんと『中三』の時である。

俺が風呂に入っているときに、なぜかゆらぎが乱入してきたのだ。
今になって思うけど、俺って結構ラノベの主人公みたいな経験をしてきたんだなぁって。

あ、ナニもしてないからな?
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