俺の絶対(選びたくない)選択肢   作:イニシエヲタクモドキ

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ロリコンだけでなくふとももフェチまで完備の変態、というお話。





変態。そこ代われ、というお話?


①濡れるッ! ②オイルッ!

『い、色々ハプニングはありましたが、とにかく次の対決に移りましょう!』

 

混沌とし始めた空気の仲、実況の人が無理やり進行する。

まぁ、大部分は俺のせいなんだけどさ。

 

あの●茎の話がそんなに長引くとは思わなかったんだよなー…

 

『ふっふっふ……コナギ・ヤワ・カゼよ。決着をつけるとしよう!』

『え、えぇ…』

 

困惑する柔風と、スーパーヒーロー側を自称しているくせに悪役チックな遊王子。

どちらも、なぜかブルマを着用していた。

 

傷もくすみもなく、ムダ毛も生えていないその足は、なんだろう…言葉にするのだとするのなら…

 

【選べ ①「あのふとももに挟まれてみたいな」 ②ブルマに転生してみる】

 

別に①程の事は思ってないからな!?

確かに引き締まっていていい太ももだとは思ったが…挟まりたいとか、そんなことは微塵も―――嘘です。実はほんのちょっとくらいは思いました。

でもそれは男なら当然な考えだと思う。

 

……そこ、ちょっとアブノーマルなのでは?とか言わない。

 

『あのふとももに挟まれてみたいな』

『『ふぇっ!?』』

『あ、あのー、天久佐選手。マイク…』

『あっ』

 

どうせマイクの電源は切ってあるし(節約とのことで、切るように言われていたのだ)言っても問題ないだろうと思ったのだが…うん、なんで切ってないんだ俺。

 

つーかなんで遊王子まで柔風みたいな声出してんだよ。

普段なら笑って流してるだろお前。

そのせいで、とは言わんが……ほら、観客席の女子たち、全員足を隠して俺から体を離してるじゃねぇか。

 

まぁ十割方俺が悪いんだけどさ。

 

『さ、さて。天久佐選手の爆弾発言はありましたが、ここでもう一度二人の対戦方法についてご説明いたしましょう!タイトルは『オイルレスリング』、その名の通りオイルでヌルッヌルになりながらレスリングをするというシンプルな対決です!』

『あ、あのぅ……これ、なんでブルマなんですか…?』

『ルールだからです』

『で、でも…普段の体操服でも…』

『ルールだからです』

『えぇ……じゃ、ジャージを着たりとか』

『ルールだからですッ!!』

 

こ、この実況……できるっ!

 

顔を赤くし、今からでもブルマから衣装替えできないのかと訴える柔風を、ひたすら同じことを言って拒み続けた。

真顔のまま、まるで「何も邪なことは考えていませんよ」と言っているかのように。

 

男子生徒たちは男子生徒たちで「やめろぉ!(建前)ナイスゥ!(本音)」だの「何が日本一やお前…世界一や!」だのと実況の人を称賛する声を飛ばしている。

…まぁ、ブルマ状態の柔風なんてこんな機会じゃなきゃ見れないだろうしな。

 

【選べ ①ここで自分も実況を褒めるような発言をする ②もういっそふとももに挟まれる(柔風小凪か遊王子謳歌、もしくは権藤大子)】

 

……②、お前―――今回ばかりはありがとな。

もしここで権藤大子さんの名前がなかったら、「もうどうせ変態扱いに変わりはないし、いっちゃえ~」となっていたに違いない。

 

ありがとう…どうせ②を選んだら、どこからともなく現れた大子さんのふとももに挟まれ―――苦痛と絶望の中息絶えることになっていただろうからな。

 

今は実況の人に、惜しみない称賛を。

 

「いよっ、名実況!」

『ありがとうございます!ありがとうございます!』

 

恐らく、今の礼は俺に対してだけではなく、先ほどから彼を称賛している男子生徒全員に対してだろう。

 

まぁ女子陣の視線はまさしく絶対零度―――普段から俺が向けられているようなものなのだが。

 

『―――おぉっと!そうこうしている間に、早速遊王子選手が仕掛けた!』

 

この対決のために用意された専用リングに、早速遊王子が柔風を放り投げた。

 

いや力強くねぇかアイツ。なんでそんな軽々と同年代の女子を投げ飛ばしてんの?

どこからその力が湧いてんの?

 

『くらえっ!ドロップキーック!』

『きゃあっ!?』

 

リングの支柱から飛び降り、その勢いのまま蹴りつける。

油まみれなせいで、うまく回避のできない柔風は、まともにガードすることも無くドロップキックを喰らう。

 

『まだまだぁ!投げっぱなしジャーマン!』

『ひゃああああ!?』

 

…あれ?それって会話だとかを完結させないまま投げっぱなしにすることって意味じゃなかったか?

 

ジャーマンは多分ジャーマンスープレックスのジャーマンだろうけどさ。

 

『攻める攻める攻める!遊王子選手の猛攻が、柔風選手を追い込み続ける!これはもう、遊王子選手の圧勝かー!?』

『ちっ、なんだよ今のコブラツイスト。絞めが甘すぎるんじゃねぇか?』

 

…あの、先生。これ、別に殺意を持って戦ってるわけじゃないですからね?

 

にしてもすごい光景だな。

美少女二人が、ブルマ姿でヌルッヌルになりながら絡み合っている……正直に言うならば素晴らしい。

歴史上に名を遺した芸術家たちの絵画なんかよりも、よっぽど美しい物だといえよう。

 

見ればほら、男子たちはほぼ全員が口を半開きにしてこの光景を目に焼き付けているではないか。

誰か今「…すげぇ」と呟いていたしな。

 

『フィニッシュは必殺技で決まりだね!』

 

おっ、エグゼイドか?

 

『ひ、必殺技!?ね、ねぇ。もうやめに――』

『敗者に相応しいエンディングを見せてあげるよ、小凪たん!』

 

ハイパー無慈悲だったか。

というか、もうコナギ・ヤワ・カゼの設定は無い物になったのか。

 

その場で跳躍し(なんで平面からそんな跳躍が可能なのかが非常に気になる)そのままドロップキックの構えをした遊王子と、その場から微塵も動かない柔風。

 

序盤で察していたことだが、勝者はもう決まったようだ――と、誰もが思ったその時。事態が急変する。

 

なんと、遊王子の攻撃があともう少しで当たるというところで、柔風が自分の身を守るように体を縮こめたのだ。

たったそれだけで遊王子の攻撃が空振りし、そのままオイルで滑って、俺のいるお断り5の待機席に……うん?

 

【選べ ①ラッキースケベを期待してその場に留まる ②そんなものはあり得ない。渾身の蹴りでリングまで返してやろう】

 

①だな。

…あっ、違うぞ?俺はただ遊王子を蹴るなんて真似をしないためにこっちを選んだんだからな?

決してやましい気持ちなどはなく。

 

そもそもラッキースケベが遊王子相手に起こるって決まったわけでも無いだろ。

コイツの事だ。どうせ男子生徒か大子さんの…うっ、想像しただけでキツイな…

 

「ぶごぅっ!」

 

嫌なものが脳内に映っていたが、全身に来た衝撃によって全てなくなる。

ある意味助かったな。まぁ考えたのは俺のせいなんだけど。

 

「…いやぁ、ごめんね天っち」

「ん?そこまで痛くなかったし、気にしなくていいぞ?」

「それでもさ、ほら…あたしの不注意っていうか?」

「あれは柔風が避けただけだろ。お前が誤ること……な、い…」

「ん?どしたの天っち」

 

遊王子にのしかかられつつ、自分は無事だという事を伝えた…のだが。

先程の衝突の時に、俺の手か何かが遊王子の油まみれのブルマに引っかかってしまったのだろう。

 

つまり何が言いたいのかというと―――パンツが、見えていた。

 

「く、黒…!?」

「えっ……き、きゃああああああああああああ!?」

 

ついうっかりパンツの色を言ってしまった俺に、遊王子が素早く自分の下半身を確認。

しっかりブルマが剥ぎ取られている事を認識してしまった遊王子は、一瞬の硬直の後に絶叫。

 

マイクの電源は切られているのに、しっかり会場全体に響いた。

 

『い、一体何が起こっているのでしょうか!?ライト、ライトとカメラを早く!』

 

幸いこちらの方はスポットライトがなかったおかげで、俺以外の誰にも遊王子のパンツは見られなかったらしい。

 

急いでブルマを履かせ、遊王子から離れる。

…よし、大丈夫そう…だな?

 

『遊王子選手と、天久佐選手が衝突した…の、でしょうか?両者とも怪我はないようですが…』

「よ、よかったな遊王子。見られてなかっ」

「ま、まま…また…また見られたぁああああああああああ!!」

 

こっちは大丈夫じゃ無かった。

 

余程恥ずかしかったのだろう。

遊王子は目尻に涙をためながら、叫んで走り去っていってしまった。

 

『…えーっと…状況がよくわかりませんが、取り合えず追いかけてくださーい!』

 

実行委員らしき人達が遅れて追いかけるが、どうせ遊王子には追い付けまい。

アイツは本当に訳の分からん身体能力を持ってるからな。

 

『…あの、天久佐選手。何が起こったんでしょうか?』

『何がって…』

 

どう誤魔化そうか。

遊王子の名誉を守りつつ、俺が変態の誹りを受けないように…尚且つ叫んで走り去っていってしまうような『何か』…

 

【選べ ①「パンツ!パンツですよ!被りたいですね!」とニッコリする ②「…ぐへへ、何も起こってませんよ」とニヤニヤする】

 

変な勘違いされるだろ②!

でも①は俺はもちろん遊王子も被害を被るからNG!

 

『ぐ…ぐへへ、何も起こってませんよ』

『……そ、そうですか』

 

そんな引かないでくださいよ実況の人。

…けど話を広げられたりしたら、もしかしたら選択肢がもっとやばい事言わせたりさせたりしてきたかもしれないし……うん、ここはその反応に感謝。

 

観客席の方は…うん。明らかに全員引いてますね。

そりゃまぁ「ぐへへ」なんて言って邪推されないわけないんだけどね?

 

「…ねぇお兄ちゃん。結局何があったの?」

「…アイツのためにも、俺からは何も言えないな」

「まぁ多分パンツを見たとこかそこら辺でしょ?お兄ちゃんがブルマ脱がせたとか」

「脱がせてねぇし!あれは不可抗力だし!―――あっ」

「ふーん、なるほど。パンツを見たんだね?しかも不可抗力でブルマを脱がせたと」

 

うぐ、やられた。

まさかこんな簡単に話してしまうだなんて…にしてもゆらぎの勘鋭くないか?

パンツを見た、なんてすぐに思いつくもんか?

 

「ま、謳歌お姉ちゃんが自分で『また見られたー』とか言ってたし。大方そんな感じだろうなーとは思ってたんだけどね?」

「……まいりました」

 

無理だ。

いつまで経ってもコイツに勝てる気がしない。

 

この少ない情報だけでそこまで察するとは…恐ろしい。

 

「……そういえばさ、お兄ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんはさ。今気になってる人とかいる?」

「気になってる人って…その、恋愛的な意味でか?」

「それ以外に何があるのさー」

 

そう言って笑ったゆらぎに、どう答えるべきかと悩む。

正直なところ、居ない。いや居るわけがない。

 

だって、それどころじゃねぇし。

 

なんつーのかな。

彼女欲しいーとかを佐藤とか田中とかと言ってるけど、最近は女を見ても自分がいかに嫌われているかとかそういうのばっかり気にしちまうからなぁ…

 

だからまぁ、普通に居ないと答えてもいいのだが…もし理由とかを聞かれた時はどう返せばいいのやら…

ま、聞かれない可能性だってあるわけだし、普通に答えるか。

最悪馬鹿正直に話して、あまりの荒唐無稽さに馬鹿にされればいい。

 

「ま、居ねぇな」

「ふーん……あれ?でもふらのお姉ちゃんを狙ってるって」

「色々あるんだよ俺にも」

 

実際はただただ選択肢に言わされただけなんだけどさ。

 

「じゃあ、謳歌お姉ちゃんは?」

「ねぇな。俺なんかじゃアイツに釣り合わねぇし……あ、雪平も同じ理由な?俺なんかよりもよっぽどいい奴がいるさ」

「……はぁ~…お兄ちゃんがお兄ちゃんすぎてお兄ちゃんなんだけど…」

「壊れる壊れる。ゲシュタルト壊れちゃうって」

 

お兄ちゃんがお兄ちゃんすぎてお兄ちゃんってなんだ。それは本当にお兄ちゃんなのか。

そもそも俺はお前の兄ではないぞ。

 

付け足すように雪平についても言ったが…うん、誤魔化せたか?

 

「じゃあ小凪お姉ちゃんは?」

「なんで柔風が出てくるよ……もっとねぇわ。表ランキングの『嫁にしたいランキング』一位だぞ?天と地をはるかに上回る差があるっての」

「じゃあ宴先生お姉ちゃん」

「先生お姉ちゃんってなんだよ…ま、ねーな。―――ってか、なんでさっきから俺じゃ明らかに隣に立つに相応しくないような相手ばっかり引き合いに出すんだよ」

 

雪平も遊王子も、お断り5だなんだと言われていても、そう扱われている理由である『下ネタ+毒舌』も『お子様』も…言ってしまえば個性だ。

俺みたいに実害があるわけでは(あんまり)ない。

 

前に『恋愛的にはねぇな』とか言ったが、それは違う。

単なる負け惜しみというかなんというか―――実際は、『俺には勿体ねぇな』だ。

ちょっと癖の強い個性があるだけで、どっちも絶世の、とつけていいくらいの美少女となりゃ、普通は俺なんかじゃ相手にすらさせてもらえないだろう。

 

だって俺、実害のある変態だぞ?

…それさえなくなりゃこんな低く自分を評価しなくてもいいんだろうけどさ。

 

柔風は…まぁ言わなくてもわかるだろう。

 

宴先生だって…ほら、多少血の気が多いところさえ許容できりゃいい人じゃねぇか。

 

「……お兄ちゃんさー」

「なんだその呆れてものも言えないみたいな目」

「みたいな、じゃなくて呆れてものが言えてないんだよお兄ちゃん……はぁ、時間がたってもう少し恋愛に前向きな考えを持ったりしてるのかなーって思ったら…悪化してる…」

「なんでお前が嘆くんだよ…」

 

嘆きたいのはこっちの方だ。

絶対選択肢なんて訳の分からんもののせいで奇行に走らないといけないわ変態扱いされるわ、下落するだけの好感度を何とかするために、毎日必死に努力に努力を重ねて(運動の方だって、前までは真面目に特訓していたのだ)そこまでしてようやく『恋愛的には無いけどそれ以外ならまぁ許容範囲』という位置にさせてもらえてるわ……俺が何をしたって言うんだ。

 

「お兄ちゃんってさ、キスでもされなきゃその人から好かれてるって思えないくらいなんじゃないの?」

「そこまで鈍くねぇし!ってかそもそも鈍くねぇし!」

『あ、ただいま情報が入りました!えー…遊王子選手はいくら探しても見つからないため、棄権したものとし、今回の勝者は柔風選手ということにするそうです!』

「…アイツ、マジでどこまで逃げたんだ」

 

【選べ ①今までの奇行の中でも三本指に入るものを披露 ②いっそ新ネタを披露】

 

いや奇行はお前のせいでやってるだけだからな!?

それに、新ネタなんてねぇからな!!

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「うぅ、うぅぅう~…」

 

場所は変わって校舎の中。

教師含めほぼ全員がイベントステージの方にいるため、今この場には彼女一人だけだ。

 

そんな彼女…名を、遊王子謳歌。

先程天久佐金出にブルマを下ろされた挙句、パンツを見られた少女である。

 

「うあ~…あうぅう~…」

 

廊下のど真ん中であるにも関わらず、顔を真っ赤にして悶え続ける。

床を寝転がり続けるなど、普段の彼女ですら多少は忌避するのだが、今回ばかりはそんな余裕がないようだ。

 

実際、彼女の頭の中を埋め尽くしているのは『パンツを見られた』という事と『見たのが天久佐金出』だという事だけだ。

 

「……これもう、責任…とってもらうしか…」

 

呻き声から一転、何やら思いつめた様子で言葉を発する遊王子。

 

『責任をとってもらう』…つまり、男女の仲になってもらう、という意味である。

 

たった二回パンツを見られただけで…と思う人もいるだろうが、遊王子にとって二回見られたことはそれくらいに大きな出来事だった。

…何よりパンツを見られるよりも前に、他にも色々されたのだ。

 

―――それは、高校一年の冬と、高校二年生の春の事である。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さぁああああんッ!!誰でもいいのでッ、『卑しい豚め』って罵りながら踏みつけてくださぁあああいッ!!」

 

…そんなふざけたことを宣いながら教室間を移動しているのは、天久佐金出だ。

 

勿論選択肢によってさせられているだけで自分の意志での行動ではないのだが、そんな事を知っているのも理解してくれるのも道楽宴ただ一人であり、他の生徒たちには『気味の悪い事を自ら叫びながら走っているキ●ガイ』にしか見えない。

 

それを他の人を見るのとは違う目で見ている女子が数人いるが、それを知っているのもまた、本人だけである。

―――まぁ、ぶっちゃけてしまうなら柔風小凪と雪平ふらの、遊王子謳歌の三人なのだが…今回大事なのは遊王子謳歌についてなので、前二人については割愛させてもらう。

 

高校一年の冬の時点で大分異性として意識しているあの二人に対し、彼女はまだ『何故か自分で望んでいない奇行に走っている面白い男子』とみているだけだった。

 

生まれつき人の考えを察する事に長けていた彼女には、天久佐が行っている奇行の()()()()は自分で望んでやっているものではない事を読み取れていた。

じゃあなぜそれをやっているのか、というところまではわかっていなかったが。

 

「へいそこのガール!俺と熱い夜を過ごさない?」

「えっ普通に無理」

「そうですよね。ごめんなさいマジで」

 

やたら高いテンションでナンパのような真似をし、拒否されて直ぐにテンションが急降下した彼を、周囲の生徒たちが鼻で嗤いながら見つめる。

天久佐は天久佐で、視線を真下に落として足早にその場を去ろうとしていた―――の、だが。

 

「おーいっ!ちょっと待ってー!」

「えっ、どちら様?」

 

溢れ出るネガティブなオーラをものともせず、遊王子が天久佐に声をかけたのだ。

無論、二人が会話するのはこれが初めてである。

 

「あたし?あたしは」

「―――そんなのはどうでもいい。わかったらさっさと俺を踏みつけてくれ」

「…おぉ」

 

もう一度言おう。

二人は、これが初めての会話である。

 

天久佐は、初めての会話で「さっさと踏みつけてくれ」と言った(言わされた)のだ。

因みに、こんな事は彼史上初である。

 

……そして、ここからの反応は選択肢が出るようになって以降初の事である。

 

「…すまん、忘れてくれ」

「いや、踏むくらいいいけど?」

「……いいけど、じゃなくてですね…そもそも本意じゃ無かったし……それで、どちら様?」

「あたしは遊王子謳歌っ!以後よろしくっ!」

 

『以後よろしく』…そんな事、選択肢が出てから一度も言われたことがなかった。

 

考えてみて欲しい。初対面でいきなり変態的な事を言ってきたり、訳の分からない行動をしたりする奴と、誰が以降も仲よくしようと思うだろうか。

天久佐は、この時点で大分遊王子謳歌と名乗る少女に絆されていた。

なんともチョロい男である。

 

「……俺は天久佐金出。よろしくな」

「知ってるよ、有名人だもん!」

「…そりゃ悪い意味でしょーよ……つかそんな有名なのか俺…」

 

まだ一年も経ってないんだぞ、と、事態の大きさを嘆く。

だが遊王子はそんな状態の天久佐を気にすることなく、彼の呼び方を決めた。

 

「天久佐…金出…うんっ、天っちにしよう!」

「…天っち?」

「あだ名だよ、あだ名。いい感じでしょー!」

「……あぁ、すっごく良い」

 

他に人が居なかったら泣いていた、と後に天久佐は語る。

 

あんな気持ち悪い要求をしてもなお、笑顔であだ名を呼んでくれる…当時の彼には、遊王子が女神に見えた。

その後は雪平を天使やら女神やらと呼んだりしているのだが、これは別に天久佐の女神判定が甘いというわけではなく、他の人が彼に厳しい(事情を知らない者だとするなら、真っ当な対応だが)だけである。

 

―――さて、ここまでならただのいい話。

だがそんなことを選択肢もどっかの神様も許さない。

 

【①全裸になり「これでも仲良くしてくれるのか」と問う ②なんか嫌われそうな事が起こる】

 

「は?」

「んん?どしたの天っち。なんか親の仇を睨んでるみたいだけど」

「えっ?あぁ、いや…なんでもない」

 

なんでもなくはない。

だがそれを話してしまうには、些か人が多すぎた。

 

もしこれが二人きりだったのなら、もしかしたら信じてもらえるかもと選択肢について話そうとしていただろう。

…まぁ、絆されてすぐだったからこう考えただけで、もうそんなことはしないが。

何より選択肢について話そうとすれば、何らかの力によって妨害されるのである。

 

……そんなこんなで、頭痛に頭を押さえながらも、天久佐は②を選んだ。

流石に全裸になるわけにはいかなかったのだ。

 

もしかしたら嫌われないかもしれない。

そんな奇跡を期待して。

 

「…てか嫌われるそうな事ってなんだよ

「ん?なんか言った?」

「いや、別になんでも―――うぉあっ!?」

 

呟かれた言葉が何だったのかを聞こうと身を乗り出したとき、遊王子が()()()()足を滑らせ、天久佐を巻き込んで倒れてしまった。

 

不自然に、という時点で選択肢関係なのだが、天久佐には転んでしまう事のどこに嫌われる要素があるのかがまるで分らなかった。

 

彼はこの時までわかっていなかったのだ。

自分の右手に感じる、この暖かくて柔らかい不思議な感触の正体を。

 

「…大丈…夫、か?」

「うんへーきへーき……えっ?」

 

視線を遊王子へと落とし、無事を確認した天久佐だったが、その途中で自分が何を掴んでいるのかを理解し、言葉が止まってしまう。

 

遊王子も遊王子で何をされているのかを理解していなかったようで、最初こそ何の問題も無いように振舞っていた……が。

 

「……えーっと…これは…」

 

遠回しな言い方はやめて、率直に、事実だけを伝えよう。

 

―――天久佐が、遊王子のおっぱいを右手で鷲掴みにしていた。

 

おっぱい。

そう、おっぱいである。

雪平がパイオツと呼び、天久佐が『小さい方がいい』と豪語する、おっぱいである。

 

それが、天久佐の右手に、しっかりと収まっていた。

 

「き……きゃぁあああ!?」

「ごはぁっ!?」

 

状況を理解した瞬間、遊王子は絶叫し、全力で天久佐の鳩尾を殴りつけた。

 

因みに高校一年生の時から遊王子の身体能力は人並み外れていたため、威力だけで言えばプロボクサー並みのパンチが天久佐の鳩尾に繰り出されたことになる。

 

それでも「ごはぁっ!?」だけで済んだのは、常から鍛えていたおかげだろうか。

 

顔を真っ赤にし、逃げるようにその場を去っていった遊王子に、追いかけるわけにもいかず手を伸ばす。

 

(あぁ、嫌われたな)

 

一部始終を見ていた女子たちからの侮蔑の視線に苛まれつつ、天久佐は悟りにも似た感情を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

……とまぁ、彼女はすでに、天久佐の被害に遭っていたのだ。

あの後雪平も使った『取り合えず都合の悪い記憶を消し飛ばす方法』によってその事は忘れさせられているが、天久佐が遊王子の胸を揉んだという事に変わりはなく。

 

彼女自身何事もなかったように振舞っているが、実はふとした時に思い出しては悶えていたのだ。

 

「…天っち、結局どう思ったんだろ」

 

少し落ち着いて、考えるのは天久佐の反応。

見られたり触られたりした後は羞恥心のせいで逃げてしまうのだが、それでも反応が気になってしまうのが乙女心だった。

 

天久佐が好きと言っていた黒の下着を着用していたわけだし、少なくとも悪い評価なわけではないと思うが…

 

「って違う違う!別に天っちが『黒いのが良い』って言ってたから最近黒い勝負下着をつけて学校に来てるとかじゃ――」

 

自ら全てを話しているという事に、なぜ気づかないのか。

この場に誰もいない事が救いだろうが、もし仮に天久佐に意識して欲しいのなら、直接言わない限りはそもそもスタートラインにすら立てないのだから失敗だ。

 

今回は、ただただ誰もいない空間に自分の恥ずかしい秘密を大声で明かしてしまっただけである。

 

「……天っち…お断り5なのに、モテモテだしなぁ…実はパンツとか見慣れてたり…」

 

思い出されるのは獅子守と箱庭の対決に割って入(らされ)た時の天久佐。

随分と手馴れた様子で道楽を口説き、箱庭を宥めていた。

 

…まぁ実際はあの権藤大子(おぞましい未亡人)から逃げる時によく使っていたから慣れていたのと、本人も覚えていないが何故か慣れていたという理由なのだが、それを知らない人間からすれば天久佐がかなりのプレイボーイに見えたことだろう。

 

実際、遊王子は天久佐が女の扱いに慣れているのではと勘違い始めていた。

…人の内面を読み取ることに長けているはずが、最近は天久佐関係となると非常に精度が落ちているようだ。

 

「はぁ…」

 

静まり返った廊下に、遊王子の溜息だけが響く。

 

…因みに、まだ彼女は天久佐への想いに気づいていない。

 

気づくのはもう少し先―――いつになるかは、今回は伏せておこう。




余談 【高校二年の春】

「…よっ、遊王子」
「あ、天っちおっはよ~!」

【選べ】

「―――はぁ…『う、疼くっ!俺の股間がぁ!』」
「お~。朝から元気だねぇ」
「その誤解を招く言い方やめてくれませんかね!?―――あぁ、違うんですよ皆さん、俺は別にスタンドアップしてるとかそんな事はなくって――」

【選べ】

「―――ぬぁっ!?」
「んおっ!?」

(こ、この両手に感じる柔らかさは……選択肢の言っていた、『運が良ければラッキースケベ』といのは…!)

「す、すまん遊王子!まさか転んだだけでお前の尻を揉みしだく事になってしまうなんて予期できなかっただけで」
「きゃああああああ!!」
「どぐぼぁ!?」
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