俺の絶対(選びたくない)選択肢   作:イニシエヲタクモドキ

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のうコメをよく知らずにこの作品を見てみた人は、是非原作も見てみて欲しいです。
小説を購入して、円盤も購入して、この沼にハマっていただきたい。


①『ひぎぃ!』あり!ブタックジョークで笑わせろ! ②秘儀無し!ブラックな現実を直視しろ!

五月七日。

いつものように五時半に目を覚まし、スマートフォンの目覚まし機能によって鳴り響いているアニソンを止め、二階にある自室から一階のリビングに向かう。

 

まだ頭はボーっとしているが、行動に支障をきたす程ではない。

まずはいつも通り朝食と弁当の下拵えから…

 

【選べ ①顔を洗う ②着替える】

 

人のルーティンワーク乱さないでくれます?

 

「…ま、顔洗って着替えてからでもいいだろ」

 

その分今日の朝食と昼食は冷食多めになるが、どうせ食べるのは俺だけなので問題ない。

最悪朝昼共に唐揚げと米だけでも生きていけるしな。

 

諦めと共に洗面所へ向かい、顔を洗って着替える。

制服は基本洗濯機の隣の棚においてあるので、顔を洗うのと着替えるのとは同時に出来るようになっているのだ。

時短って大事だよね。

 

「さーってと、目も覚めた事だし朝飯でも……」

「ふみゅ……?あ、おはようございます!金出さん!」

「おう、おはよう。朝食のリクエストとか、あるか?」

「ハンバーグが食べたいです!」

「朝からボリューミーなの行くなー。ま、弁当のおかずにもなるし作ってもいいか」

 

しかし問題はミンチがしっかりあるかどうかである。

最悪の場合は野菜を多めに入れて誤魔化すか…と調理の準備をした直後に振り向く。

 

「なんでお前ここに居んの!?」

「?だって昨日金出さんがつれてきたじゃないですか。――あ!パンツの色もきかれました!」

「それはもういい!忘れろ!」

「えーっと、確か――」

「態々確認しなくてもいいわ!忘れろ!」

 

【選べ ①「パンツ見せんだよ俺によぉ!」 ②「この色が良いね」と俺が言ったから今日はパンツ記念日】

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?

 

「パンツ見せんだよ俺によぉ!」

「はい!」

「はいじゃねーよ!見せんなよそこは拒めよ恥じらえよ!!」

「…は、恥ずかしくないわけでは、ないですけど…」

「なら全力で拒否してくれませんかねぇ!?」

 

…なんで俺は朝からこんなに声を張り上げているんだろうか。

 

いや選択肢のせいと言えばそれまでなのだが……失礼だが、この少女のアホさも関係していると思う。

恥ずかしいなら拒否して欲しかった。

俺の視界に映るピンク色が、性的興奮と罪悪感を同時に呼び起こす。

 

いや他にも言いたいことは色々あるよ?

なんでソファで寝てたのかとかその周囲に散らかっている菓子の袋はなんなんだとかさ?

 

けどそれがどうでもよくなるくらいこのパンツ問題が俺の精神を疲弊させてきてるんだよなぁ…

何が悲しくて不審者(連れ込んだのは俺)に下着の色を聞いた上で見せるように要求しなきゃいけなかったんだろうか。

 

「…もうここに居る事に関しては何も言わないけど……まず、君誰?」

「はい!私の名前はですね……」

 

【選べ ①「なんでここに居んだよ」 ②「君の中に入れたい」】

 

朝から元気良いなお前!

おかげでこっちは疲れ果てそうだよ!!

 

「なんでここに居んだよ」

「え?ですから金出さんが…」

「もうここに居ることに関しては何も言わないけど……まず、君誰?」

 

殆ど同じセリフを言う事で、何とか誤魔化す。

家にいる変人(まだそうと決まったわけでは無いが、俺の中では既に変人扱いになっている)に変人扱いされるのは、流石に屈辱的だしな。

 

何も言わないって言った後にそのことについて触れるなんて、ちょっと馬鹿すぎると思う。

 

「私の名前はですね……」

 

突然部屋の中にぐぎゅううううう……と、謎の美少女Aのセリフを遮るように音が響き渡った。

 

……はぁ、落下系ヒロインは大食い属性持ちという法則を熱弁していた田中寿(16)の考えは、どうやら正しかったらしい。

腹がなっただけでそれを判断するのは早急だと思うが、この手の女が腹を鳴らした後は大食いの描写があるという事を、俺はアニメやらラノベやらで知っている。

 

「…お腹が鳴りました」

「わかった、まず先にハンバーグ食わしてやるから、その後ちゃんと話せ」

「はい!」

 

純度百パーセントの笑顔に背を向け、俺はハンバーグ作りを始めるのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おいしいです!金出さんは料理上手なんですね!」

「ふっ、まぁな。父さんも母さんもよく家を留守にするから、自然と自炊が得意になったって事さ」

 

純粋に褒めてくる謎の美少女Aに、どや顔と共に返事をする。

ついでに弁当用にと取っておいていたチーズハンバーグを一つ贈呈する。

これは別に褒められて嬉しかったとかではない。ちょっと手が滑っただけだ。

 

「…ってか、そんなに腹減ってたのか?随分食ってるが」

「はい!もうお腹と背中がうらがえりそうでした!」

「グロいグロい。俺も飯食ってんだからやめろそういうの」

 

別にグロいものは苦手ではないが、食事中は流石にやめてもらいたい。

まぁ、この話題を振ったのは俺なのだが。

 

「んで?結局お前は何処の誰で、なんで俺の事を知ってるんだ?」

「んぐんぐ……私の名前はですね……んぅ?えーっと…」

 

一気に不穏な空気が流れる。

 

天久佐金出(サブカルで義務教育を終えた俺)は知っている。

謎の美少女A(落下系ヒロイン)の記憶喪失率が高い事を。

 

…そして、自分の名前等は忘れているのに、何故か他人の名前(この場合は俺の名前)を知っていて、物語におけるもっとも重要な事に関わる情報を持っているという事を。

 

「……なんでしたっけ?忘れちゃいました!」

「おう屈託のない笑みで言うなや」

 

余りショックはない。

このパターンも予想していた。

 

…だがしかし。こういう時の記憶喪失系の子は、断片的にでも重要な単語を覚えている物なのだ。

 

ここまでテンプレートだったんだ。きっと聞いていれば大事な事を話してくれるだろう。

 

選択肢で落ちてきた子なんだ。絶対に俺関係…いや、選択肢関係の子だろうし。

 

「あ、おもいだしました。私かるい記憶喪失でした!」

「思い出すまでもねぇだろそれは」

「まぁいずれおもいだすでしょうし、平気の平左衛門です」

「自分で言うなよ……」

 

なんだろう、この全身から溢れ出るアホの子のオーラ。

遊王子とかそこら辺と似たものを感じる。

 

 

「あ、そうだ金出さん。おちかづきのしるしにこれをどうぞ」

「…それって」

「高級品なんですよ!」

「知ってるわ!俺が先週買ってきたやつだわ!」

 

懐から取り出されたソレを見て、結構本気で声を荒げる。

…五個しかチョコレートは入っていない上に一個のサイズも小さく、さらに値段は四桁という恐ろしい品だ。

選択肢に購入させられたのだが、余りに勿体なさ過ぎて未だに食べれていなかった。

 

しっかりと隠しておいたはずだが、何故この謎の美少女Aの服の中に入っていたんだ?

 

【選べ ①「ボディーチェックだ!」(ランダム) ②「揉ませろぉ!」(ランダム)】

 

両方ランダムかよ!?

ていうか謎の美少女A以外に誰が居るん………俺?

 

「ボディーチェックだ!」

「…?なんで急に自分のからだを触りはじめたんですか?」

「知るか!こっちが聞きたいわ!」

 

しかも自分の意思で動いているわけでは無い。

その上手つきがいやらしい。

……なんで朝っぱらから一人でアダルトビデオまがいの事をしてるんだ俺は。

 

「……それにしても、美味しそうですねぇ…はうぅ…」

「あ?……あぁ、食いたいのか?」

 

流石に渡す気はねぇけど。

だってお前…せっかく貯めてた小遣いを使って(使わされて)買ったチョコレートを全部渡すなんて、なぁ?

 

「はい!」

 

元気よく返事をしてきた謎の美少女Aに見せつけるように、チョコレートを左右に動かす。

すると、謎の美少女Aはチョコレートと同じように左右に動き、上下に動かしても同じように動いてきた。

 

…なんだろう。おばあちゃんの家にいる犬を思い出す。

 

【選べ ①随分チョコレートに執着しているし、チョコレートと名付けよう! ②随分チョコレートに執着しているし、チョコラータと名付けよう!】

 

燃えるごみは月・水・金じゃねぇんだよ!

なんでボスも忌むような邪悪の名前つけなきゃいけねぇんだよ!

 

「よし、じゃあお前は今日からチョコレートだ」

「んみゅ?…あぁ、名前ですか!チョコレート……ちょっと素敵にショコラにしましょう!決定です!」

「ショコラか……」

 

チョコレートにせよショコラにせよ犬の名前感は拭い去れてないんだが。

…でもチョコラータよりマシか。

 

「…で、結局お前はどうしてここに居るんだ?」

「私は金出さんの呪いを解除するお手伝いに来ました!」

「…呪いを、解除…?」

 

呪い、というのは十中八九この絶対選択肢の事だろう。

それを、解除?つまりそれは、俺がこの絶対選択肢(吐き気を催す邪悪)から解放される、という事だろうか?

 

「な、なぁ!お前は呪い…絶対選択肢について、知ってるのか!?」

「はい」

「じゃ、じゃあどうすればコイツを手放せるのかも知ってるのか!?」

「はい!」

 

アホ毛を揺らしながら(なんか犬の尻尾のようである)答えたショコラに、自然と笑みがこぼれる。

ニコニコ、というよりもフヒヒ、という笑いだが。

 

…解放、される?俺、自由?

この一年間、俺を毎日悩ませ続けた『コレ』からやっと解放される…!?

 

「頼む!教えてくれ!どうすれば俺はこの地獄と決別できる!?」

「あわわ…落ち着いてください金出さん」

「これが落ち着いていられるか!!」

「せ、正確には知ってるのは私じゃありませんので」

「じゃあ誰が知ってるんだ!?」

 

肩を掴んでショコラを前後に振りながら問い詰める。

多少扱いが雑かもしれないが、俺としては落ち着いて冷静に考える事なんてできない。

 

だってお前、俺に人前で奇行に走らせるコイツから、解放だぞ?

そんなの落ち着いていられるわけが無い。

 

「神様です」

 

だから、だろうか。

平然とそんな事を言い切ったショコラに、急激に呆れと怒りと落胆を感じたのは。

 

「…帰れ」

「はい?」

「なんで選択肢の事を知ってるのかはわかんねぇけど、今ので確信できた。お前は本当に何でもない奴だ。そうでなきゃ突然神様がどうとか言わねぇだろ」

「いえいえ、本当に神様が…」

「いたら鼻からスパゲッティ食ってやるわ!」

 

それくらい荒唐無稽だ。

絶対選択肢なんていうとんでもファンタジーな物が存在しているのはもう既に認めているが、流石に神様なんていう超常的存在がこう簡単に一介の男子高校生に関わっていいはずがない。

 

もし神様から電話がかかってくるなんて面白おかしい事があったとしたら、追加で目でピーナッツを噛んでやっても構わないくらいだ。

 

…っと、こんな時に電話?

父さんか母さん…いや、着信音が違う。

基本俺は誰であろうと着信アリのあの曲を着メロにしているが、何故か今かかってきている電話は荘厳な管楽器の曲だった。

 

その上画面には『神』と表示されている。

 

「あ、神様から電話ですね!」

「なわけねぇだろ…もし仮にマジだったとしたらシュールすぎる……はい、もしもし?」

 

口では否定しつつ、もしかしたら…という風に思いながら通話を開始する。

努めて普段通りに声を発した俺に対して、『神』なるものはこう答えた。

 

『どもどもー!神でーす☆』

 

―――よし、(俺の中で)神は死んだ!

 

「おかけになった電話番号は、現在使われておりま」

『ちょっとー!それじょーだんきつくなーい?本当に神なんだって、かーみ。あっ、なんならGODって呼んでもいいけど?』

 

こんなチャラいのが神でいいのだろうか。

……しかし実際着信画面には神と表示されてたし…認めたくないが、マジで神なのだろうか?

 

「…で、その神様が一体なんの用で?」

『え?いきなりそこいっちゃう?うっはマジ性急↑』

 

…少なくともコイツの喋り方は想像を絶するくらいにムカつくという事はわかった。

 

『ん~?もしかして、まだ信じてない系?』

「…いや、認めたくないですけど、一応信じはしますよ信じは…」

 

【ぷっ……選べ ①約束は約束。鼻からスパゲッティを食べる ②約束は約束。目でピーナッツを噛む】

 

くっそコイツやっぱり悪ノリしやがった!

あんなのその場のノリだろうが別によぉ!

 

そしてなんで最初笑った!?

 

「あででで…わかった、やる、やるから!」

『あー、もしかして選択肢出ちゃった系?なにするの~?』

「……ショコラとの約束通り、鼻からスパゲッティを…」

 

そう言った瞬間、目の前に山盛りのスパゲッティ………いや、正確にはスパゲッティ()()()が出現した。

 

…嘘だと言ってよ。

 

「おー、スパゲッティサラダですね」

「……おい、まて。まさかこの野菜まで鼻からいかなきゃ駄目なのか?―――痛ったぁ!?わかった、わかったから!!」

 

やたら大きくカットされた野菜とスパゲッティを鼻まで運び、一息に啜る。

 

「ぎゃぁぁあああああああああ!!」

 

朝の住宅街に、俺の断末魔が響き渡ったのは、言うまでもあるまい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「はぁ……朝からなんであんな目に遭わなきゃいけなかったんだ…って俺のせいか、あれは」

 

ブツブツと呟きながら学校へ向かう。

あの後無理矢理スパゲッティサラダを鼻で完食した後、虫の息の状態でチャラ神から聞き出せる情報を全て絞り出した…の、だが。

 

その内容はあまりに穴だらけで、俺の事情を知っているであろう神が使い物にならないという事が分かっただけだった。

 

強いて言うなら、前任の神とやらが浮気の末に妊娠して一万年の間産休を取ることになったとか、その前任の情報管理が杜撰だったせいで碌な情報が残っていないという事と、単純に神の力を使った所で呪いは解除できないという事――――そして、呪いを解除するにはミッションをクリアするしかない、という事が分かった。

 

なんで神がそんな昼ドラじみた事やってんだろうか。

 

「あ、雪平」

 

校舎に向かう途中、見慣れた後姿を発見したので声をかけようとする。

しかし、そこで突然ポケットの中の携帯電話が大きく振動した。

 

「メール?神からって…」

 

神、と書いてあるが、今朝のチャラ神とは別の神である。

何故なら、あの神の登録名は『チャラ神』に変更してあるからである。

 

…はぁ、なんでこんな一回の男子高校生に神なるものが二人(正確な数え方は知らない)も関わってくるんだろうか。

 

んで?そのミッションってのは一体なんなんだ?

 

《呪い解除ミッション 雪平ふらのを心の底から笑わせろ 期限五月八日》

 

は?(一度見)

雪平を?(二度見)

心の底から?(三度見)

――笑わせる?(四度見)

 

「あら、おはよう。ブタ野郎」

 

微笑みながら、挨拶と共に俺を罵倒してのけた彼女に、俺は笑顔で返事をしつつ、こう思うのだった。

 

…無理ゲーだろ。

 

 

【選べ ①「おはよう雪平、今日も可愛らしい胸だね」 ②「おはよう雪平、今日もいい尻だね」】

 

そして朝一発目の発言に下ネタをぶっこむのをやめてほしいんですけど。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あれ?天っちどうしたの?頬っぺたに紅葉出来てるよ?」

「あはは…大いなる怒りに触れただけだ……」

 

どちらにせよこうなったのだろうが、結局俺は①を選んだ。

 

何故か?それは絶対選択肢の法則性にある。

絶対選択肢は基本的に、①で悪い物を、②でそれ以上の邪悪を持ってくる。

 

似たような選択肢だったとしても、それから派生して起こる事は②の方が悪い事が圧倒的に多いのだ。

 

だから、諦めて①にしたのだが…

いつもみたいにぶっ飛んだ反応を見せるかと思ったら、顔を赤く染めて涙目な状態で俺の頬を叩いてきた。

 

なんというか、そのせいで罪悪感がヤバイ。

それはもう、語彙力が崩壊するくらいに。

 

「それよか遊王子、一つ聞きたいことがあるんだが」

「んー?」

「人を…それも普通の人とは若干感性の違う人を心の底から笑わせるには、どうすればいいと思う?」

「えー?普通にお笑い番組でも見せたらいいんじゃないのー?」

 

む、やはりその手のプロに任せるべき、という事か。

確かになぁ…無理に俺がふざける必要は無いのかもしれないな…

 

遊王子から雪平へと視線を向ける。

何も言わずに本をひたすら読んでいるが、その目元は少し赤く腫れている。

 

…まじで泣かせちゃったんじゃん俺。

選択肢のせいと言えばそうなんだけど、なんか罪悪感が……

 

【選べ】

 

―――この流れで来るか?

少しは反省したらどうだ?

 

【①「なぁ遊王子、下着の匂い嗅がせてくれよ」 ②「なぁ遊王子、上着の匂いクンカクンカさせてくれよ」】

 

更なる邪悪()のほうで上着を要求している所にかなり変態性を感じた。

そして逃げ道がクンカクンカのせいで完全に断たれている所に悪意を感じた。

 

「なぁ遊王子、上着の匂いクンカクンカさせてくれよ」

 

教室内の和やかで明るい雰囲気が死滅した。

おうおう、もう皆無反応でいてくれよ。

『俺だけが居ない教室』とかさ、それでいいだろ?

 

…さて、肝心な遊王子の反応は…

 

「いいよー!」

「いや拒否して!?変態的な発言を受け入れないで!?」

 

なんだろう、こんな叫びを今朝別の奴にした気がする。

 

立ち上がって叫ぶ俺に、遊王子はなははーと笑う。

…うーむ、雪平と違って真っ向からの否定ではない分心に傷は負わんが……なんだろう、退路が余計に断たれた。

 

既に手渡されてしまっているが、ここは素直に返そう。

これでガチで匂い嗅いだらマジもんの変態―――

 

【選べ ①顔に押し付けて思いっきり息を吸う。感想は「オウカニウムが補給されたぜ!」 ②食べる。感想は「デュフフ、謳歌たその味がしたんだな」】

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!

 

「スゥウウウウウ!!!――――お、オウカニウムが補給されたぜ!」

「うわ普通にキモイ…」

「やべぇぞアイツ…」

「オウカニウムってなんだよ…」

「すっごいいい笑顔…」

 

教室内の空気は既に氷点下。

俺に向けられる視線は絶対零度のソレである。

 

特に俺の背後…雪平から一番冷たい視線を感じる。

いや、もはや死線と言っていいだろう。

 

そんな中、俺は…

 

「あ、あは、ははは……」

 

笑う事しか、出来なかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ぶひぃいいいいい!!ぶひぃいいん!!ふごっふごっ…ぶひぃいいいいいいん!!!」

 

俺、天久佐金出。高校二年生!

今は『リンチされている最中の豚』の真似を、(迫真)ってついてそうなくらい本気でやってるぜ!

 

「びぃいいい!ぶひっ、ぶひぃいいいい!ふぎゅっ!?ぶひぃいいいん!!」

 

俺のこの『リンチされている最中の豚』が如き声は、言うまでもなく教室内…そして、学校内に響き渡っている。

あまりに『リンチされている最中の豚』過ぎるその声に、教室の外には沢山の人が!

教卓の上で仰向けになっている俺への視線は、この羞恥心やらなにやらで熱く火照った体を凍てつかせんとばかりに絶対零度だ!

 

……え?感嘆符が多い?

ははは!自棄なのさ!

 

「ふごっふぎゅっ!ぶひっ、ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいんンん!!!」

 

一際大きく『リンチされている最中の豚』のような叫びをあげ、俺は教卓から降りる。

 

あー、やっと解放された……

 

上着を着ながら、そそくさと自分の席に避難する。

しかし、それだけでは『目撃者』たちは許してくれない。

 

「……やべぇよアイツ。流石にこれはやべぇよ」

「まじで豚って感じだったな…」

「生粋のマゾなのね…天久佐くんって…」

 

クラスメイトからの冷たい言葉に、涙を禁じ得ない。

別に俺はマゾではない。

そして豚の真似をしたからと言ってマゾ扱いは良くないと思う。

 

……そもそも、昼食中に【①教卓の上で仰向けになりリンチされている最中の豚の鳴き真似を、上半身裸か下半身裸のどちらかで行う ②全裸で荒縄に縛られている権藤大子さんが出現。自分も同じ格好をし仲良く公開ボンレスハムプレイ】なんていう選択肢が出てきて、もうこの世界の全てを諦めて自殺しようと屋上まで向かったら【①死なない ②死ねない】という選択肢が出てきたのが悪いのだ。

 

この丁寧な自殺阻止を止めていただきたい。

リタイアも立派な権利だと思うんだけど。

 

――結局、衆人環視のなか見事に迫真の『リンチされている最中の豚の鳴き真似(迫真)』を敢行し、こうして冷たい反応をされる事になったのだ。

 

まじでどうしてこうなったんだ俺。

 

「天久佐君。憧れる気持ちはわかるけど、今のはちょっとどうかと思うわ」

「……なんの話だ?」

「残念ながら、さっきのあれはブタックジョークとは認められないわ」

「なんだそれ!?」

 

というか雪平、ようやく今日まともに話しかけてきてくれたな。

ちょっと嬉しいぞ俺。

…会話をするに至ったのが『リンチされている最中の豚の鳴き真似』のおかげというのが少し…いや、凄く遺憾だが。

 

「因みにあなたは色白だから、ブラックブタックジョークではなくホワイトブタックジョーク…つまり白豚ね」

「いや言いにくいなオイ…」

 

そもそもブタックジョークはブラックジョークからきてるんだろうし、その時点でもうブラックブタックジョークはおかしい……あー!ややこしいな!

 

「…もしブタックジョークじゃないなら、さっきの奇行は一体なにかしら?」

「えっ…あっ、あー……そ、そうだな!うん!お前が朝『ブタ野郎』って言ってきたのに触発されたっていうかー!?」

 

……ま、まさかとは思うが…雪平のやつ、庇ってくれたのか!?

なんて優しい奴だ…変な奴だけど、今は女神にしか見えん。

 

朝あんなセクハラ発言をしたってのに、こうして俺が奇行に走ったのを謎の発言で正当化(?)しようとしてくれるとは……先程までとは違った意味で涙が出そうだぜ…

 

お前にセクハラ行為か発言させるような選択肢があった時は、絶対にお前を傷つけない方を選ぶからな!

 

【選べ】

 

おっと、俺が硬く決意をした瞬間に来るか?

やってみろよ。今だったら隣に何出されても雪平に被害ださねぇようにしてやるからよぉ!!

 

【①「多分きっとそうだよ。メイビー」 ②「違うブヒ!おいらはマジもんJKたちの前でぶひぶひ言いたかっただけブヒ!ほら、罵ってェ!!」】

 

②ィ!!

おまっ、ふざけてんのか②ィ!!

 

…だが①、お前はまだ許容範囲だ。

珍しく選択肢が出て安堵したぜ。

 

「多分きっとそうだよ。メイビー」

「結局なんなのよ」

「いや、ブタックジョークって事でいいんですけど」

「やっぱりパクったのね」

「そうパク……え?なんて?」

 

なんか会話の流れが変な方向に向かっているような気がする。

 

一気に纏う雰囲気を変えた雪平に、素で聞き返す。

しかし、期待通りの返答が来ることはなく。

 

「訴えてやる!」

 

あ、流れ変わったな。

 

普段なら出さないだろう大きな声を出した雪平に、一周回って冷静になる。

しかし俺が冷静になった所で何かが変わるという事ではなく。

 

「裁判長!裁判長を呼んで頂戴!」

「そんなシェフ感覚で呼ぶなよ」

「いやぁ~、食べた食べたー!」

 

混沌とし始めた(俺がブタの真似をした時から既に混沌としていたが)この場に、さらに火に油を注ぐような奴がやってきた。

 

余りに油が多すぎて、そのままとんかつができそうなくらいだ。

ブタックジョークだけに。

 

―――うん、わかりにくい上につまんねぇなコレ。

やっぱジョークは向いてないな俺。

 

…学食から帰ってきた遊王子に、雪平が裁判長と声をかけてハイタッチを求めた。

しかも遊王子は、何も状況を理解していないだろうに特に何も考えずにそれに応じた。

 

駄目だ。こうなったら俺に出来ることは何もない。

後はツッコミに徹する他ないだろう。

 

「お前いつから裁判長になったんだよ…」

「裁判長。この輩は人様の知的財産権をかすめ取ろうとした不届きものよ。厳正なる裁きを」

「じゃあ死刑!」

 

いや雑ゥ!!

厳正なる裁きの要求を完ッ全に無視してんなコイツ!

 

【選べ ①「ンギモヂィイイイイ!!」 ②「はぁっ…はぁっ…お、謳歌たそからの死刑宣告…濡れてしまうのだな…!」】

 

おっと、ツッコミは心の中で思っただけでは届かないぞ?

そしてここでさらにボケを入れるのは不味いのでは?

 

―――①でも②でも、結局死刑宣告で気持ちよくなってる変態なのに代わりないんだよなぁ…

ていうか①、お前味方じゃなかったのか。

なんで急に理性蒸発した?

 

「ンギモヂィイイイイ!!」

「うわっ…ないわー…」

「やっぱりマゾじゃないの!」

「気持ち悪っ…天久佐のファンになります」

 

まて、最後の奴なんつった!?

俺のファンってなんだファンって!?他にも居んのか!?

 

…いい意味だったら結構嬉しいけど、どうせ悪い意味なんだろうなぁ…

 

「……それはブタックジョークでは無いわね」

「当たり前だろうが!」

 

【選べ ①「ただ叫んだだけだ!」 ②「ただ人前で遊王子に死刑と言われて絶頂しただけだ!」】

 

「ただ叫んだだけだ!」

 

今回もギリギリ①が理性を保ってくれていたな、うん。

②は無かった。いいね?

 

「わざわざ二度も説明しなくてもいいと思うけど」

「ほんとだよ……」

「取り敢えず丸焼きでどう?」

「マイペースだなお前!ってか俺は豚じゃねぇよ!?」

「えー?でも天っちの豚の鳴き真似すっごく上手だったよー?なんていうか、『リンチされている最中の豚』って感じだった!」

「へへっ、そりゃ俺の演技力はハリウッドにも通じると言っても過言ではないからなー!………って違ーう!!」

 

褒められるとすぐに鼻の下を伸ばして調子に乗る。

これは俺の悪い癖だ。いずれ直さねば。

 

ていうかアレは褒められたと言っていいのか…?

 

「ええ、裁判長。今大事なのは…そして、今回の議論の争点は被告は『有罪』か『無罪』か…そして、『人間寄りの豚』か『豚』かという事よ」

「純然たる人間だわ!!どうして最後ふざけた!?」

「まとめるなら、被告人は『有罪』か『豚』か、ね」

「ついにとうとう人間寄りでもなくなったな!……っていうか無罪は無しなのかよ!?」

 

【選べ ①「どうせ調理するなら一思いに生ハムにしてくれ」 ②「私は屈しない!」】

 

②はもう豚関係ないだろ!?

…でも実際、そういう状況じゃない今使った所で別に問題ないのでは…?

 

だって①だと、自分も豚方向でボケる事になって収拾がつかなくなるしな…

 

「私は屈しない!」

「……人ってね、生まれた時から罪を背負っている物なのよ」

「そんな可哀そうな物を見る目をやめてくれませんかね」

 

俺がふざけた(ふざけさせられた)瞬間に深い事言わないでほしかった。

俺だけが愚かみたいじゃん。

 

「豚に関わる話でもそう。どれだけ愛情を込めて育てたなんて言っていても、結局は殺して調理しているじゃない。――それを、本当に正しい事だと、罪なんて無いと言える?」

「いやこの流れでする話じゃないだろ…」

 

【選べ ①「くっ…殺せ!」 ②「ひぎぃ!」】

 

この流れで言うセリフじゃないだろ…

 

「――だから天久佐君。貴方は有罪よ」

「ん?じゃあ死刑?それとも豚?」

「くっ…殺せ!」

 

なんかいい感じになってんじゃねぇよ!

俺のツッコミが的外れみたいじゃねぇか!!

 

…いや、なんで俺ツッコミに自分の価値を見出してるんだ?

 

「すげぇなあの三人…こんな人だかりの前でもこのノリだぜ?」

「流石お断り5ね…」

「特にあの天久佐だよな…」

「二つ名とか噂を書き連ねるだけで広辞苑五冊分の分厚さになるっていう…」

「イケメンなのにね…」

「でもコアなファンが最近増えてきたらしいよね」

 

はは、お断り5…ね。

 

前回(前回ってなんだ)説明した通り、俺と雪平、そして遊王子は『お断り5』なる存在として扱われている。

他にもキャラが濃いらしい人が名を連ねているが、俺は実際に会ったことがないので何とも言えない。

 

そしてさっきから俺のファンってなんだ。しかもコアなファンらしいな。

カルト映画みたいな扱いなのか俺は。

 

「クォルルァ!!天久佐テメェ、教室に豚連れ込んでひたすら舐めまわそうじゃねぇか!」

「連れ込んでねぇし舐めてねぇよ!?どんだけ話に尾ひれついてんだ!?」

 

こんだけ見物人が居ると、どうしても話が変な方向に盛られてしまうらしい。

先生相手にタメ口を使うという自殺行為をしながらも、この混沌空間がなんとかなるのではと淡い期待を持ちつつ先生を見る。

 

しかし、現実はやはり非情であった。

 

ハンドサインでしゃがめと指示されたので大人しく従うと、そのまま首を絞められたのだ。

…うん、流石縊り殺し。しっかり殺意のある絞め方だ。

 

「ブタ専?」

「んなデブ専みたいな言い方…ってかあの、先生。結構本気で苦しいんですけど」

「馬鹿、こんな面倒起こして無罪放免って訳にはいかねぇだろ」

「いや、わかってますよそれは…けどだったらフリでよくな」

「ぁああああ!懐かしーなーこの感覚!やべぇ滾ってきちまった!」

 

あ、駄目だこの人聞いてない。

 

【選べ ①「どうせ貧乳に絞められるなら、雪平が良かったなぁ」 ②「アッ!もっとぉ!もっときつくゥ!!し・め・つ・け・てェ!!!」】

 

――――覚悟は既に、出来ているはずだぜ天久佐金出。

 

「アッ!もっとぉ!もっときつくゥ!!し・め・つ・け・てェ!!!」

「ひっ…目がマジだ!」

「ドMかよ天久佐ァ!そこ変われ!」

「イケメンなのに…」

「すっごく残念ね…」

 

酷い言われようだな、うん。

 

けど気にしない。今回ばかりは気にしない。

だって決心通り、雪平に被害ださずに済んだし!

 

「よっしゃー!お望み通りキツく行くぞー!」

 

俺の一言でテンションが完全に上がった宴先生は、容赦なく力を強めた。

…言うまでもなく、俺はそのまま意識を失った。

 

―――やたら満足気な表情だったぞと、後に男友達の佐伯から言われたのも、いい思い出と言う事にしておこう。




IFルート 【①「どうせ調理するなら一思いに生ハムにしてくれ」】

…どうしてこうなった。

「よぉ新入り。まーだ落ち込んでんのかい?」
「…えぇ、まぁ…」
「ま、『元人間』だってなら仕方ねぇ話だわな…こういう時は、泣きたいだけ泣いとけ!」
「あ、ありがとうございます…」

真空のパッケージに包まれながら、やけに先輩風を吹かせている『生ハム』と会話する。

そんな俺は『元』天久佐金出こと『生ハム』。
あの日、雪平にそう言ったと同時に視界が暗転して、気が付けば生ハムになっていたのだ。

おかしい。ほんの軽い気持ちで、もう俺もボケていいかーと①を選んだだけなのに…どうして…?

疑問がひたすら脳内(といっても何処に脳があるのか分からないのだが)を駆け巡る。
そもそもなぜ生ハムが物を考えて会話しているのかすら不明だが、先輩からすればそれは気にしてはいけないらしいので敢えて考えるような真似はしない。

「…そういえば、どうして俺が人間『だった』って言ったらすぐに信じてくれたんですか?」
「それはな………俺も、昔人間だったからだよ」
「えっ…?」
「俺は生まれつき呪われててな。豚肉を食ったら生ハムになるって呪いだった」
「えっ…?」
「――それでよぉ。ずーっと耐えてたってのに、ある日無性に豚肉が食いたくなっちまってよぉ……つい、ソーセージを食っちまったんだ……」

物凄くシリアスな雰囲気で話された内容に、頭が追い付かない。

呪い?絶対選択肢以外にも、存在したのか?

というかなんだそのかなり限定的な呪い。
食べられることを嫌がった豚たちの怨念か何かなの?

「そしたら急に目の前が真っ暗になって、次に意識が戻ったら…」
「生ハムに、なってた…って、事ですか」
「あぁ……俺にこうやって状況を教えてくれたいい人…いや、良い生ハムが居たんだが、その生ハムはもう購入されちまってよ…今頃消費者の腹の中だ」
「ヒェッ……じゃ、じゃあ俺達も、いつか…!?」
「そんな落ち込むなよ。だってどうしようも無いんだぜ?」

今までの豪放磊落なイメージとはうって変わって、暗く陰鬱な雰囲気を醸し出す先輩生ハムに、俺の中にある感情が沸々と沸き上がり始める。

…怒りだ。
この不条理に対する、この現実に対する、怒りだ。

「このままで、良いんですか」
「あ…?何言ってんだよ、お前」
「逃げ出しましょうよ、俺達で!」
「けど、どうやって…」
「ほら、もう袋詰めされちゃってますけど、一応ちょびっとずつなら動けます!この調子で上手くこの場から離れれば、せめて食われる事なく人並み…いえ、生ハム並みの寿命を迎える事が出来るはずです!」
「新、入り―――あぁ、やってやろうぜ!俺達生ハムは食われるだけじゃ終わらねぇ…天寿くらいは全うできるって事を、このクソッたれな世界に見せてやるんだ!!」

冷たい部屋(多分冷蔵庫)の奥。
客には見えないような場所にて、俺達は熱く、運命と世界への叛逆を決意するのだった。

~転生したら生ハムだった件、第一巻一章より~
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