俺の絶対(選びたくない)選択肢   作:イニシエヲタクモドキ

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名前は大事、というお話。


①神の僕 ②女王様の雄豚

誠遺憾ながら、黒白院先輩と例の人気のない場所まで来た。

俺が表ランキングの面々(一部除く)をフッた場所である。

 

ここからなら宴先生以外の誰にも見られないし、少しばかり踏み込んだ話をしても問題ないだろう。

 

「……で、結局何がしたいんですか?あなたは」

「何、とは~?」

「…ですから。あなたがこの絶対選択肢を送ってきている()かその関係者だってのはもう確定してるんですから、誤魔化さずに全部吐いてくださいって言ってるんですよ」

 

敢えて強気に言ってみる。

まだ先輩からは剣呑な雰囲気は出ていないし、最初っから弱気では話し合いも交渉も何もないからな。

 

そして、その判断は正しかった。

先輩は機嫌を損ねた様子もなく、そうですねぇ、と顎に人差し指を当てる素振りを見せながら一度考え、こう聞き返してきた。

 

「天久佐さん。あなたは、人を好きになった事がありますか~?」

 

【選べ ①「質問を質問で返すなあーっ!」 ②「おっと会話が成り立たないアホがひとり登場~~。質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか?マヌケ」】

 

お前ジ●ジョ好きかよぉ!

別にいいじゃねぇか聞き返してくるくらいよぉ!

 

…けどまぁ、マヌケとか言ってない分①の方がマシだよな。

それに選択肢について知ってるだろうし、多少変な事言っても流してくれるだろ。

 

「質問を質問で返すなあーっ!」

「…ですが、私の今出せる答えはこれが一番なんです~」

 

なら仕方ないな。

まぁ元々気にしてないんだけども。

 

【選べ ①「で、結局何がしたいんですかあなたは」 ②対抗戦の時に言い忘れていたので、「祝え!新たなるハーレム王誕生の瞬間を!」と言う】

 

俺②を言おうと思った事一度もないからな!?

対抗戦の時は勿論、今までに一度もないんだからな!?

 

…けど①は①で馬鹿だ。話が無駄に長くなる。

なんだってこう脱線させたがるんだよ、コイツ。

 

「…で、結局何がしたいんですかあなたは」

「ですから~、その答えが『人を好きになった事はありますか』って質問になってるんです~」

「いや、わかってるんですよ。俺は」

 

言外に選択肢のせいだ、と告げてみる。

 

因みに直接的に選択肢のせいだと言及しようとすれば、例の頭痛で妨害してくるので何も言えなくなる。

 

さっき遊王子に『くもだんなとかえる』で説明できたのは、実は奇跡だったのかもしれない。

例えにしてはダイレクトすぎるからな。

 

「で、人を好きになったことがある、ですか」

「勿論、恋愛的な意味で、ですよ~?」

 

む、両親はダメなのか。

俺は基本家族愛が行動原理なんだが。

 

バイトだって、昔母さんが仕事辞めさせられた時に、家計の手助けになればと始めたわけだし。

…まぁ最近はバイトよりも周りからの評価上げに奔走してるんだけど。

 

――で、恋愛的意味で誰かを好きになったか、ですか。

正直…無いな。

 

そりゃこの学園に来てからも来る前からも、可愛いなって思う子とかはいっぱい居たぞ?

けど恋愛的感情を抱いたかと聞かれればすぐにノーと答えるだろう。

悩む余地なんか無い。

 

「まぁ、ないですけど」

 

―――直後。

 

ズキ、と、頭が痛んだ。

選択肢関係の痛みとは違う、奥から響くような鈍い痛み。

 

痛み自体は一瞬で失せたというのに、薄気味悪さと言うか、気持ち悪さというか…そういった感情は、粘っこく残っている。

 

黒白院先輩の方も、何やら意味深げな笑みを浮かべている。

普段ならどんな笑みなのかもわからないはずなのだが…敢えてわかりやすくしているのだろうか?

それとも、繕う事もできないくらいに、感情があふれているのか?

…何にせよ、俺にとっていい事ではない気がするが。

 

「…で、それが絶対選択肢とどう関係するって言うんですか」

「ソレは、()()()()()()()()()に出現する、と言う事です~」

「…俺のようなって…」

 

俺の、普通の人と違う点…そして、黒白院先輩の質問……ダメだ、まったくわからん。

 

【選べ ①逆立ちすればわかるかもしれない。やってみよう ②ブレイクダンスをしてみたらわかるかもしれない。やってみよう】

 

やってみよう、じゃねぇんだよ。

 

なんで逆立ちするかブレイクダンスするかで理解できるんだよ。

体動かした所で、わからないのはわからない―――痛てて、やるやる、やりますから!

 

「…はぁ…移動中も逆立ちだったのに…」

「傍から見たら、まさしくお断り5ですね~」

「何ですかそのまさしくお断り5って…」

 

【なのにお前は… ①して欲しい奇行のリクエストを要求してみる ②自ら考案した奇行に走る】

 

俺はなんだよ。お断り5なのに、なんだよ?

ファンが居るってか?

けど連中は隠れキリシタン的存在らしいぞ。

 

大っぴらにできないって事は、やっぱり日陰者って事じゃねぇか。

 

――で、奇行のリクエストか、自分で考案……②の方が安全に見えるだろうが、もし選択肢の要求してくるライン通りの奇行ができなかったら、無限ループさせられてしまう可能性だってある。

 

…先輩のリクエストが酷な物じゃない事に賭けることにしよう。

 

「…せ、先輩は何かして欲しい奇行とかありますか?」

「して欲しい、ですか~…今は無いので、ストックさせてもらっていいですか~?」

「え、ストック!?」

 

それはつまり、別のタイミングで要求してくるって事ですか。

 

要求されれば、選択肢がその奇行に走るように強制するようなモノを提示してくるだろうし…

こ、こんな事になるくらいなら、何度かやり直しを要求される事覚悟で自らの奇行に走るべきだったか。

黒白院先輩なら事情も知ってるし、恥ずかしさは半減だっただろうし。

 

「…じゃ最後に一ついいですか?」

「はい~。なんなりと~」

「……どうして、先輩が俺に気があるように振舞う必要があるんですか?」

「じれったかったからです~」

 

―――は?

 

じれったかったって、何が?

 

「本来なら、この役目は()()()の物なんですが…中々動かなかったので、つい~」

「あの子…もしかして、ショコラの事ですか?」

「ふふ、どうでしょう~?」

 

確定だな。

隠そうともしていない。

 

…あまり大事な事でもない、のだろうか?

 

…それに、今回ばかりはイレギュラーが多すぎましたし

「い、イレギュラー?なんすか急に…世界観間違ってません?」

「さぁ~?どうでしょうね~?」

「ど、どうでしょうって…」

 

水曜ですか?―――通じねぇか。

 

っと、そんなふざけた事言ってるような雰囲気でもないな。

 

随分と神妙な面持ちで発せられた言葉に、若干気が抜ける。

だって、明らかにジャンルが違うし。

 

この絶対選択肢だって、出てくる内容は本気で自殺を考えるレベルだが…それこそ傍から見ればギャグチックな存在だろう。

それに、神とかその僕とかの話は出ているが、異能バトル的な話にはなっていない。

 

なのに、そんなドシリアスな顔と共に「イレギュラーが多すぎた」って強キャラ感を出されても…なんか違うものの話してません?ってなるだけだ。

 

「―――あ。最後に一つ、聞いてもいいですか~?」

「は、はぁ。構いませんが」

「……あなたの名前は、なんですか?」

「えっ、名前?」

 

何言ってんだこの人。

俺の名前は後にも先にも―――

 

天久佐金出(てんきゅうさかなずる)ですよ、()()()()

「―――金出(かなずる)さん、ですか~…」

 

悪かったですねキラキラネームで。

名前だけじゃなくって苗字までキラキラって、日本狭しと言えど俺くらいだろう。

 

因みに父さんは『天久佐誇二郎(てんきゅうさこじろう)』で、母さんは『天久佐白辺(てんきゅうさしらべ)』だ。

…若干キラキラかな?

 

「……いやなんですかその意味深な表情!?不穏すぎるんですけど!?」

「別に、普段通りですけど~?」

「絶対違いますよね!?明らかに何かを隠してますよね隠す気少なめで!」

 

声を荒げる俺に、途端に表情を普段の飄々としたものに変え、いそいそと立ち去っていく。

答える気はない、と言う事らしい。

 

―――いや、そんなバレバレな隠し方するくらいなら、さっさと言えばいいでしょうに。

普段のその感情の読めなさは何だって言うんですか。

 

【選べ ①壁に股間を押し当てて発狂。満足するまでやる ②この場から急いで移動。代わりに誰かに遭遇する】

 

誰かの正体を言ってくれよ誰かの!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「じょ、女王様ぁ…!」

「の、のの、罵ってぇ…見くだしてぇ…!」

「―――はぁ」

 

足元に転がる豚を意識の外へと追いやり、ここ最近の悩みの種に向き合ってみる。

 

事は、いつぞやの『何故か天久佐金出に告白してしまった』一件から始まった。

どうしてそんな真似をしたのかも思い出せないし、そもそも天久佐金出について知ったのはその時なのだが…問題は告白した後の彼だ。

 

元々、私…麗華堂絢女は、他の生徒たちの語る評価でしか彼を知らなかった。

 

曰く、変人。

曰く、お断り5最強の男。

曰く、奇行種。

曰く、曰く―――

 

とにかく、周りからの評価に、彼を誉めるようなものはさして無かった。

そりゃ成績は常に学年トップだと言う事は知っているし(彼が一位の座から離れたという話を、終ぞ聞いたことがない)運動だって人並み以上にできるという事も知っている。

座右の銘は『やらない善よりやる偽善』だそうで、手助けを必要としている人が居れば基本は無償で助けるとも。

 

…意外といい評価の方も耳に入ってたわね。

でも問題はここからよ。

 

彼に告白した私は、ある違和感に気づいた。

他の男子からは感じない、ある大きな違和感。

 

―――そう、私の胸に視線を向けてなかったのよ。

 

「ぶ、ぶひぃ…はぁっ、はぁっ…」

「あ、絢女様ぁ!お慈悲をぉ!」

「…すげぇなアイツ…」

「でもあのおっぱいだぜ?あれくらい女王様でも…」

「お前ドMかよ」

「なっ、バカお前…俺はただ、なぁ?」

「…すごくわかる」

 

クラスの下賤な男子共は、今だって私の胸ばかり注視している。

そう。これが普通。

 

―――実際、隣に住んでる幼馴染が『おっぱいってのは大きければ大きいほどいいんだ!』って言ってたし。

それに、兄がわざと私の部屋に置いておくエッチな本にだって、大きい胸の子は男子からの視線が集中してしまうものだって書いていた。

 

だというのにあの男は、微塵も興味を示さないで…あ、挙句は私に『胸以外も素敵だぞ?』とか、『女の魅力は胸だけじゃない』とか―――

 

「麗華堂ォ!!」

「ッ!?」

 

突然の大声に、私含め全教室内の生徒が飛び跳ねた。

物理的に。

 

声の主の正体は、言うまでもなく。

休み時間に自分の教室から少し離れたこの場所まで来て、訳の分からない事をしている男なんてのは、一人しかいない。

 

――――件の、天久佐金出だ。

 

「…な、何の用よ」

「えっ、なんの用ってそりゃお前……アレだよ、アレ。●ーニ君、わかるかな?」

「わからないわよ……それに、ナー●君って誰よ?」

「えっ、ナー●君知らねぇの!?おか●さんといっしょ見てねぇの!?」

「見てないわよ子供向けでしょ!?」

「いやいや、ぐ~チョコ●ンタンとかポコ●ッテイトとか、結構大人も楽しめる作品もあってだな」

「知らないわよ!」

 

や、やっぱりおかしいわこの男。

 

「なんでわかんねぇのかなぁ?」とか呟いてるのが余計に理解できない。

別に、子持ちの母親とか父親とかがその手の番組を子供と一緒に見るのはおかしくないわ。そのための番組でしょうし。

けど高校生よ?この歳じゃ、まだそういう番組は見ないでしょ普通。

 

「でも●HKでやってる番組で一番好きなのは●撃の巨人かファイ・ブ●インだな。―――あ、フ●イ・ブレインの方は大分前に終わってたか」

「だから知らないわよ…」

 

でも進撃の●人なら、兄がリビングで見てたわね。

「見ろよ、この街破壊して人食ってるのが主人公だぜ」とか言ってたのも、なんとなくだけど覚えてるわ。

 

―――って!今はそんな事どうでもいいでしょ!?

 

「結局、なんで私の名前を叫んだりしたのよ!」

「えっ、あー……それはアレだよ、アレ。●ーニく」

「ナー●君に逃げたら何とかなるって思ってるんじゃないわよ!」

「に、逃げてねぇし!これは…戦略的撤退だしっ!」

 

なるほど、だったら逃げてるわけじゃないわね。

戦略的撤退と逃げは違う…蓮太郎…幼馴染もそう言ってたわ。

 

―――同じにしか思えないのは、私の国語力が低いからかしら?

 

「…説明する気はない、って事?」

「え?―――いや、お…」

「お?」

「お、お前に会いたくってな…」

「…はぁ?」

 

な、何言ってるのこの男!?

こんだけ話を脱線させておいて、理由は『私に会いたかった』ってだけ!?

 

…で、でもおかしい話では無かったりするわよね。

だってこの男…私に『魅力がたくさん』だのなんだのと……明らかに私の事、好きだもの。

なら、こうして突発的に会いたくなってここまで来てしまってもおかしくはない…?

 

『思ったことは、悪い事じゃなかったら全部正直に言う』とも言っていたし…

 

じゃあこの男は本当に、私目当てで…?

 

「……大丈夫か麗華堂、顔赤いぞ?」

「は、はぁっ!?そ、そんな訳ないでしょう!?」

 

やたらと棒読み気味に言われた言葉に、自分でも驚くくらいに過剰に反応してしまう。

 

―――こ、これじゃ私がチョロいみたいじゃないっ!

そりゃ兄にはよく『お前ってマジでチョロそうだよな』って言われてるけど、たかだかこれぐらいで…!

 

それに私は蓮太郎が好きなの!恥ずかしいから絶対誰にも言わないけど!

 

…蓮太郎は気弱だった私に明るく話しかけてくれて、いつも私を楽しませてくれた。

だから私も、蓮太郎が言う『おっぱいのバカでかい子』になるためにシリコンを入れたし、性格はキツイ方が萌えるだのと言っていたから自然とそういう風に変えた。

 

根本から自分を変えるくらいに好きな相手がいるというのに、他の男に靡いたりなんてするわけないでしょう。

 

そりゃあ、実のところコンプレックスになりつつあったこの胸の事を『関係ない、どうでもいい』って言ってのけられた事とか、『他にも魅力がある』とか言ってもらった事とか、挙句はシリコンが入ってるって事がバレそうになった時に、自分に視線を集中させる事で庇おうとしてくれた事とかは嬉しいって思ってるし…

最後のは結局、ただ彼への周りの目が冷たくなっただけだったけど、庇ってくれようとしたのには、不覚にもときめいた。

 

…で、そんな事を『奇行さえなければ男の表ランキングが不要になるくらいの超ハイスペックイケメン』にされた……ちょ、チョロいとかチョロくないとか関係なしに乙女心刺激されるわよこれ!?

 

私は蓮太郎の方がもっと好きだけど、もし好きな人が居なかったら、明らかに陥落してたわよ私!?

こんな少女漫画でもやらなさそうな王道展開されて惚れないなんて、他に好きな人がいるか異性に興味がないかのどっちかじゃない!

 

「…んじゃあ、俺もう帰るから」

「えっ、ええ。早く戻らないと、もうすぐで休み時間も終わるわよ…?」

「…本当、すまなかったな」

「べ、別に気にしてないけど…」

「それでも迷惑をかけたことに変わりはない。だから―――」

 

そう言って頭を下げようとした彼は、突然動きを止めた。

 

…よくよく考えてみれば、天久佐金出は奇行に走る前、必ず停止してるわよね。

彼をちゃんと見るようになったのはつい最近だけど、それでもわかるくらいには露骨に。

 

「―――だから俺の…渾身のDaisuke…最後まで、見てくれ…」

「…だ、Daisuke?」

 

鋭い眼光と、やたら弱々し気な声。

そのミスマッチさと、発言の中にあった知らない単語に困惑しているのにも関わらず、彼は気にせずに踊り始めた。

 

―――なぜかサングラスを着用して。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

人前でDaisukeを全部踊りきるという苦行を終えて教室に戻り、授業を受けた後に昼休み。

ショコラは今日は『調子がわるいのでおやすみします…』と言っていた学校にいないため、珍しく手持ち無沙汰である。

 

…ここ最近、アイツが何かやらかさないか(どちらかと言えばやらかしているのは俺である)と面倒を見てばっかりだったからな。

突然やることがなくなると、前まで何をしていたっけかとなってしまう。

 

―――ま、ジュースでも買いに行くか。

 

少し喉が渇いたし、あまり教室にいて奇行に走らせられても困るからな。

 

そんな事を考えながら移動していたその時、これまた珍しい人と遭遇。

 

「…あ、どうも」

「ッ、て、テンキューサ…」

 

チチル・ニューミルク先輩。

欧米系の見た目と、それとはまったく関係のなさそうな語尾の『アル』に、男女分け隔てなく接する人懐っこさ…そして麗華堂に負けず劣らずの爆乳から、女子の表ランキングメンバーに名を連ねている人だ。

 

初対面の人だろうと下の名前で呼ぶらしいし、誰とでも友達になろうと(この学園の全員と友達になると豪語しているのだとか)するらしいのだが…悲しいかな、俺は現在苗字呼びだし、あの時友達になることすら拒まれた。

 

―――挨拶はしたし…気まずいし、さっさと離れるか。

俺は空気の読める…というか、身の程を知っている賢い子なのだ。

 

【選べ ①出会いがしらのパイオツ改め ②出会いがしらの手品】

 

俺の手品はパイオツ改めよりも良くないものだってのかコラ!

何年も練習したんだぞこのヤロー!

 

…まぁ①みたいな名称から怪しい物を選ぶわけにもいかんし②にするんだけどさ。

 

見せてやるぜ、俺の軽い手品…!

 

「先輩、お手を拝借」

「こっ…はぇ?」

 

別に一本締めをするわけではなく、ただ先輩の手を俺の両手で握らせてもらっただけだ。

 

驚いた様子を見せられるし、心なしか先輩の顔も赤くなっているような気がするが、気にしたら心が痛むだけなので無視。

嫌がられてるとか、微塵も考えるんじゃないぞ、俺。

 

すっげぇどうでもいい話だけど、よくあるハーレム物アニメでヒロインが顔を赤くして照れてるのを見て「何怒ってるんだよ」とか的外れたこと言う奴いるだろ。

アイツ、案外間違ってないと思う。

俺からすりゃ先輩が照れてるようにも、怒っているようにも見えるわけだもん。

 

そりゃ好きでもなく苗字で呼ぶような友達にすらなりたくないような男に、突然手を掴まれたりなんかしたら不快にもなるよな。

 

そして「こっ…はぇ?」ってのが何を言いたかったのか。

コハ●ース?

 

…さて、先輩の右手をある程度にぎにぎした所で準備が完全に完了した。

さっさと披露してしまいましょうか。

 

「3、2、1…はいっ、花が咲きました!」

「えっ?―――わぁ…!」

 

手を放し、両手を開いて何も持っていなかった事を見せる。

…まぁ、もう手品をし終えた後だし、見せた所で…なのだが。

 

うんうん、先輩は純粋に驚いているようだし、ここで畳み掛けるとするか。

 

【選べ ①十八番ではだめだ。十七番で行こう ②ド派手に爆発させてみる】

 

十八番って、おはこって意味じゃねぇの!?

純粋に十八番目って事なの!?

 

…②は絶対にアウトだし(ニューミルク先輩の手を爆発四散させるわけにもいかない)①にするしかないが…十七番って、なんの話なんだ…!?

 

「…さて、その花びらを毟ってみてください」

「毟るアルか?」

「はい。まぁ…花占いみたいな感じで」

「花占い…」

 

なんでそこで顔を赤くされるのかはわからないが、まぁ俺の言っている事(言わされている事)の趣旨は伝わったみたいだし、いいか。

 

現在発言すら選択肢に支配されているが、させられようとしている手品の内容はわかった。

それでも、十七番って言うのは良くわからないが。

 

マジでどういう意味なんだろうな…

 

「あ、あれっ?花が…ライターになったアル?」

 

【選べ ①「ジ●ルノ」とドヤ顔 ②「●ルポ」とアへ顔】

 

うん、そうだよな。

お前ジョジ●大好きだもんな。

 

俺もあのシーンを再現してみてぇなぁってなって、その手品をやるようになったもん。

 

けど、挨拶程度の軽い手品(自分で言っているのに意味が分からない)でやるやつじゃねぇだろ。

そりゃこの距離ならできる手品だけど、もう少し離れてたらタネと仕掛けバレちゃってたからな?

 

―――あ、選ぶのは①です。

 

「●ョルノ」

「へ?」

「…なんでもないです」

 

【選べ ①ここで押し負けるわけにはいかない。何か叫ぼう ②半狂乱になりながら腹筋】

 

結局叫ぶのかよ!?

 

「…こ…このジョ●ノ・ジョバァーナには『夢』がある!」

「ジ●ルノ…ジョバーナ?」

「忘れてください。これはただの―――」

 

【選べ ①「中二病です」 ②「厨二病です」】

 

どっちも大差ないだろ!

何を変えればいいんだよ!若干発音変えろってのか!?

 

「…中二病です…」

「チューニビョー……聞いた事、あるアル!」

 

あるアルってなんだ。

それがあるなら、『ないアル』ってのもあるのか。

 

…気になるが、今はそこまで掘り下げないでおこう。

 

「確か、中学二年生くらいになるとかかる病気で…右手を押さえたり、眼帯をつけたり…中には突然叫んだりする人もいるって……あっ!テンキューサもそんな感じアルね!」

「誰が中二病ですか誰が!」

 

【選べ ①右手を押さえ、「抑えきれない…ッ!」と苦悶の表情 ②股間を押さえ、「抑えきれ――る」と涙】

 

②テメェ喧嘩売ってんのか!

そりゃ自分のにそこまで自信があるわけじゃないが、そこまで馬鹿にされて黙ってない俺じゃないぞ!

 

―――痛ぁっ!?おまっ、頭痛で攻めてくるのは無しだろあああああ痛い痛い!?

 

「…お、抑えきれない…ッ!」

「おぉ~…これが、チューニビョー…!」

 

感動されちゃってるよ俺。

あらぬ誤解と共に感動されちゃってるよ俺。

 

【選べ ①「俺と一緒にお茶しません?」とホテルに連れ込む ②「一緒に食べましょうよ」と校舎裏に連れ込む】

 

昼飯もう食い終わってるんだけど。

①は論外だから何も言わないとして、②の方も②の方でおかしいんだけど。

 

最近ショコラのペースに合わせて飯食ってるせいで太って来たしなぁ…ダイエットとは言わんが、食う量押さえて運動量を増やすようにしてるんだが…

 

ま、一日くらい大丈夫だろ。

―――この発言が命取りなんだがな。

 

「い、一緒に食べましょうよ」

「食べるって…あぁ、ランチの事アルね?オッケーアルよ!」

 

遭遇した当初の赤面ぶりはどこへやら。

明るい笑みとサムズアップと共に、俺と昼食をとることを肯定してきた。

 

うっ、眩しい…なんて純粋な笑みを浮かべる人なんだ…!

 

この純粋さは、俺が常日頃癒しの波動を感じているショコラや柔風のソレと比べても遜色ないな。

ニューミルク先輩も、国宝級の存在だったのか。

 

【選べ ①「あ、弁当無いんで、分けてもらえませんか?」 ②「ちょっとそこでジャンプしてみろよ。ヤングジャンプな?」】

 

①が図々しいし、②が何を言いたいのか全然わかんねぇんだけど!?

 

 

あ、ニューミルク先輩と一緒に食べる飯は美味かったですよ。

空気以外は。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『天久佐金出さんを、好ましく思っていま~す』

 

セーラの言葉を思い出すと、なぜか胸がチクチクする。

 

『ショコラ!お前は、俺の事好きか!?』

『はいっ!大好きですっ!』

 

ショコラ(前にお菓子をあげた事がある)がカナヅルに抱き着いていたのを思い出すと、やぱり胸がチクチクする。

 

勿論、カナヅルがセーラの胸を揉んでいた事を思い出しても同じだ。

 

…今まで、他の男子が同じような事を違う人とやっていたり言われたりしていてもなにも感じ無かったのに、なぜかカナヅルがやっていたり言われていたりするのを見るとこんな感じになってしまう。

 

『天久佐君に惚の字?』

 

うぅ…ミユキのあの言葉、本当に本当だったのかもしれないアル…

 

け、けどそんなすぐに惚の字になるのもおかしいと思うアル。

だって、カナヅルと話したのはあの時が一回目。そこまで『チョロい』女なわけがないアル。

 

―――けど、「まずはお友達から」って言葉とあの笑顔を思い出すと…なんか、キュンってなるアル。

 

い、いやキュンって感じじゃなくって!これは…そう、胸が締め付けられる?みたいなやつアル!

…あれっ?それってやっぱり恋なんじゃ…

いやいやそこまでチョロいわけが―――

 

「あ、どうも」

「ッ!?」

 

今日はミユキも休みだし、久しぶりに学食にでも行ってみようかなぁと教室を出ていたのが運の尽き…いや、幸運?

とにかく、そんな偶然がなければ、こうしてカナヅルに会うことも無かったはずアル。

 

―――こ、ここは自然に。そう、自然に挨拶をするアル。

もし変な態度をとって、ついさっきまで歩きながらカナヅルの事考えてたーなんて知られたら…恥ずかしいアル…

 

「て、テンキューサ…」

 

ち、違うアル!なんでカナヅルじゃなくてテンキューサって呼んでるアル!?

 

か、カナヅルだって訝しんで…無い?

これは…ただ『面識ある人とすれ違ったから取り合えず挨拶だけでもしておこう』って思ったから挨拶しただけで、別に返事とかはあまり気にしていないって事…アルか?

 

見る分には…駄目アル。全然何考えてるか読めないアル…

 

け、けどっ!苗字で呼んじゃったのに拘泥してる様子はなさそうだし、許容範囲内アルよ!

 

「先輩」

 

か、カナヅル?なんで手をワタシの方に…?

 

『こ、これがおっぱい!なんて柔らかさ!』

 

あの光景と発言がフラッシュバック。

 

恐る恐る、といった感じで伸ばされているこの手は、奇しくもセーラの胸を揉みしだいた時のソレに似ていた。

 

そして、ワタシの胸は…自慢ではないが、この学園の中でも一、二を争うくらいには大きい。

アヤメのには流石に敵わないと思うけど、それなり以上にはあるはずアル。

 

さらに、カナヅルは自分の意志でセーラの胸を触ったと言っていた…

なら、人並みよりは大きいワタシの胸を触ってきてもおかしくはない!?

 

「3、2、1…はいっ、花が咲きました!」

「えっ?」

 

勝手に熱くなっていたワタシの妄想に反して、カナヅルはただ両手でワタシの手を握っただけだった。

 

―――けど、カナヅルの手って…こんなに硬くって、ゴツゴツしてて…なんというか、力強いって感じの―――いやいやいやっ!それは後で考えるとしてっ!

 

…花が咲いたって…一体なんの事アル?

確かに手の中には何かがあるような感覚があるアルけど…

 

「――――わぁ…!」

 

カナヅルから視線を外して、手の中を見てみる。

するとそこには、一輪の花があった。

あまり花に詳しくないから名前はわからないが、綺麗な花だという事くらいはわかる。

 

カナヅルは、何もない所からこれを出して見せたアルか……ん?おかしくないアルか?

 

この花には、見てわかる通り皺一つない。

茎の部分も折れていないし、まるで生えていたものを今さっき切って来たかのよう。

 

多分、前にカナヅルが特技の所で話していた手品なんだろうけど…た、確かにすごいアル…タネも仕掛けも何もわからなかったアル…

茎まであるのに、こんな綺麗な状態でパッと出せるなんて…皆目見当もつかないアル…(手品のタネや仕掛けを当てるのが好き)

 

「さて、この花びらを毟ってみてください」

「毟るアルか?」

 

なんかちょっと勿体ない気もするアル……けど、手品がまだ続いてるって言うなら、マジシャン(カナヅル)の言葉には従った方が良いアルね。

 

「はい。まぁ…花占いみたいな感じで」

「花占い…」

 

 

花占い………そう聞くと、思い出すのはつい先日くらいの事。

ミユキに勧められて、カナヅルがワタシの事を好きかどうかを―――い、いやっ、ワタシが気になったからとかじゃなくって!

 

…けど、ミユキも最初の頃と大分違ってきたアルね。

ワタシがカナヅルに惚の字だって誤解(本当に誤解なのかどうか怪しくなってきた)した最初の頃なんて、「ちょっと天久佐君抹殺してくるねっ!」とか「私のスウィートエンジェルチチルちゃんを穢さんとする輩は、私が直々に裁く他ないんだよっ!」とか言っていたのに…

 

前に私が「別に好きとかそういうのは無い」って説明した時以来、妙にワタシとカナヅルをくっつけたがるようになって…

ついこの間なんて、カナヅルが一人でいるのを見かけた瞬間に、ワタシと一緒に声をかけようとしたりしてて…

 

まぁ、その時はカナヅルが突然服を脱いで「ロマンティックサブマリン!」って叫んだから、結局何も起こらなかったけど。

ロマンティックサブマリンって何だったアルか…いまだに皆目見当もつかないアル。

 

―――そういえば、ワタシは全然カナヅルについてわかってないアルね。

そりゃ知り合ったのがつい最近だから仕方ないだろうけど…にしても、名前と周りからどう思われているかって事しか知らないアル。

 

…逆に、そこまで何も知らないような人にここまでドキドキさせられているワタシって一体…

 

 

 

―――結局、カナヅルの手品(花を毟ったらライターが出てきた)のタネも仕掛けも暴けず、一緒に昼食をとって終わった。

 

あ…あーんまで要求されちゃったけど……これって、ミユキ風に言うなら…脈ありって、やつアルかね…?




昼食中のお話 【天久佐金出 チチル・ニューミルク】

「ん、美味しいですねこれ」
「テンキューサは学食は初めてアル?」
「基本自炊なんで。安く済みますしね」

…選択肢は俺に先輩の料理を食べさせたがっていたが…今日は先輩も弁当を持っていなかったらしく、内容通りの行動をしなかったのにも関わらず頭痛は去っていった。

これ、優しくなったって事でいいのか?

「…そういえば先輩。気になっていたんですが」
「ん?何アル?」
「ちょっと俺の名前、ここに書いてみてくれませんか?」

手帳とボールペンを手渡し、ちょっと書いてみてもらう。

前に名前で呼ばれていた時から…ちょっと気になってたって言うかね。

「えーっと…テンキューサ、カナヅル…これでいいアル?」
「やっぱり……あの、俺の名前って『てんきゅうさ かなずる』であって、『てんきゅーさ かなづる』じゃないんですよ」
「何か違うアル?」
「その…漢字で書くとわかりやすいんですが…俺の『ずる』は『いずる』からきてるんで、『つ』に濁点じゃなくて『す』に濁点が正しいんです。―――天久佐とテンキューサの違いはまぁ…説明しなくてもいいですよね」

イントネーションというかなんというか、その辺からなんとなく察していたんだが…うん、やっぱりそこ間違えられてたか。

というか日本人でも結構みんな間違えるからな。
俺の名前は『天久佐金出(てんきゅうさかなずる)』であって『かなづる』ではないのだ。

【選べ ①自分の上の口に「あーん」してもらう ②先輩の下の口に「あーん」する】

……特殊ミッション、成功させた意味あった?
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