「あらぁ、金出ちゃぁん?」
「oh…」
後方から聞こえてきた声に、ネイティブな溜息を一つ。
ねっとりとして脂っこく、悪寒を感じさせるこの声。
近所の未亡人(49)、権藤大子さんだ。
前にも話したと思うが、亡くなった旦那の若いころと俺が似ているとのことで、こうして会うたびに声を駆けられては…
「今、帰りなのぉ?」
「あ、あはは…そんなところですね…」
密着されるのだ。
俺だって健全な男子高校生なのだから、普通は女性に密着されたら嬉しさを感じる。
だが、大子さんはアウトだ。
脂ぎった肌と髪、恰幅が良いという言葉だけでは隠し切れないほどの贅肉…極めつけは驚くほどの厚化粧。
正直な話…あまり関わり合いになりたくないタイプの人だ。
いや、容姿で人を毛嫌いするのは良くない事なのだろうが…実際目にしてみると、「あぁ、人って見た目だなぁ」って思ってしまう。
【選べ ①素っ裸になって「抱いてください」 ②自販機を持ち上げて「筋トレ中ですので!」】
お前本当に大人しくならねぇな!
特殊ミッションを、わざわざ人前で…あんな嫌われるような事をしてまでクリアしたってのに、この結果がこれかよ!
俺何のために黒白院先輩の胸を揉んだんだよ!?
「……はぁ…」
「金出ちゅゎぁん?」
今のどうやって発音したんだ!?
…さて、自販機を持ち上げる…そんなことが可能かどうかか聞かれれば、俺は迷いなくノーと答える。
だってお前、自販機ってどれくらい重いかわかってんのか?
例えるなら…例えるなら、なんだ?具体的な数字がわからないな…
と、とにかく重いんだよ!!
…だが、持つことが不可能だからと言って、大子さん相手に全裸で「抱いてください」は自殺行為すぎる。
精神的にも、恐らく肉体的にも死ぬだろう。
もし通行人が居れば、社会的にも死んでしまうかもしれない。
そんなのは嫌だ。死因が大子さんに抱かれてなんて、絶対に嫌だ。
俺にだって、こんな俺にだって相手を選ぶ権利はあると思う。
…ってなわけで、自販機に挑んでみましょう!(自棄)
「ぬ、ぐ……おぉおおおおおああああああッ!!」
「か、金出ちゃん!?どうしていきなり自動販売機なんか…!」
「き……」
【あ、先こっちで ①「キツツキ」と言って、しりとりを開始 ②君が代を熱唱】
国家熱唱させんじゃねぇよ!余裕ねぇわ!
けどしりとりを開始の方は、意図を理解してもらえないと永遠に終わらないだろうし…大人しく歌うか。
【あ、国家なら ①Day●ream café ②ノー●イッ!】
難民かお前は!
…ってか、ソレ言うくらいなら天空カフェテ●アも入れろよ。
俺が一番好きなのアレなんだけど?
―――えっ、これで頭痛くるの!?痛い痛い、わかった、歌うから!
心を込めてD●ydream café歌うから!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…つ、疲れた…結局全部歌う事になるなんて思わなかった…」
何とか大子さんから解放され、ようやく家に到着。
…そういやショコラが調子悪いって言ってたし、荷物置いたらおかゆの材料でも買ってきてやるか。
具合が悪い時は茶漬けかおかゆが一番だからな。(一番なのに二つとか言わない)
因みに俺は茶漬け派。
「ただいまー」
「……あ、おかえりなさーい…」
…何だこのすっげぇ元気のない声。
普段から明らかに「ザ・元気」みたいなテンションのショコラがここまで落ち着いてしまっていると…なんか、いっそ怖いな。
風邪か?
【選べ ①ショコラは風邪に違い無い。焼肉に連れていこう ②ショコラは風邪に違いない。高級イタリア料理の店に連れて行こう】
おかゆにするって言ってんだろ!がっつり食わせようとすんな!
「…大丈夫か?」
「……」
返事がない。
…まさか、まさかとは思うが…倒れてるとか、そんな事は無いよな?
急いで靴を脱ぎ、先ほど声が聞こえた場所…リビングへ向かう。
ドアを開け、カバンを放り投げると同時にショコラを探して―――見つけた。
…テーブルに突っ伏してるのか。
「…お、おい。起きてるか?」
「金出さん…」
「ど、どうした?腹が痛いのか?頭か?それとも気だるいとか…」
「……ません」
「…すまん、なんだって?」
普段と打って変わってボソボソと話すものだから、何を言っているのかが聞き取りにくい。
ここまで衰弱するとは…まさか、インフルか?
でもまだそんな時期じゃねぇし…早くに感染したって事か?
「お腹が……空きません…」
「しょ、食欲不振…だと…!?」
食欲不振が症状に現れる病気…と言われてもすぐには出てこないが、この大食漢(漢?)ショコラが「お腹が空かない」と言うなんて、明らかに異常事態だ。
顔色も悪いし、どうすればいいか…と、取り合えず病院に…?
―――いや。ここはチャラ神に連絡しておくのが吉だろう。
ショコラは選択肢を選んだら空から降って来た、神から送られてきた存在。
なら、一般人の物差しで考えてしまうのはよろしくないのではなかろうか。
「……あ、もしもし!?」
『ヘイヘイ金出君、こんな時間にどーしたんだい?』
「い、いや。なんか今日、ショコラの調子が悪くって…」
『そりゃ誰だって不調になるときくらいあるさー!心配しすぎだって』
「で、でも…
『そんな強調しなくてもオーケーだって。―――ていうかそんな沢山食べる子だっけー?』
「目を離したら冷蔵庫の中身を空にしているような奴ですからね…一週間分の買いだめをダメにされた時は流石にキレましたよ」
あの時は酷かった。
まさかあの量を全部食うとは思っていなかった。
「…で、結局どうすればいいですかね?普通に病院に連れて行っていい物なのかどうか」
『うーん……取り合えずは経過観察かなー』
「け、経過観察て……こんな弱ってるんですよ?」
『んー…ま、一応こっちでも調べては見るけど…大丈夫だと思うよ?』
お、思うよってコイツ…
無責任な発言に、少しばかり怒りを覚える。
だがどれだけチャラかろうが神は神。
普遍的な男子高校生でしかない俺の考えを貫くよりは、大人しく従った方が良いだろう。
「…じゃあ、また何か事態が急変したら連絡します」
『オケオケー!んじゃ、バイビー』
通話が終了した事を確認し、いまだに机に突っ伏しているままのショコラに視線を戻す。
どうやら眠っているようだが…顔色は悪いままだ。
「…一応、おかゆは作っておいてやるか」
ショコラを二階の寝室まで運び、起こさないようにしてベッドに横たわらせた後、晩飯を作り始める。
…まぁ、このまま起きてこない可能性もあるが…その時は俺が食えばいい。
そうだ。もし俺が食う事になっても大丈夫なように、今から食う分は少なめに……ん?メール?
《特殊ミッション 同級生女子の濡れた姿を写真に収めよ(なおどこが何に濡れていても良い物とする)》
と、特殊ミッション…!?
あのクリアしても大していい事の無かった、特殊ミッション…!?
《クリア報酬 選択肢の内容緩和》
選択肢の内容緩和……言葉だけ聞けば魅力的なのだが、一度特殊ミッションをクリアし、そのクリア報酬を手に入れた身としては…
はっきり言おう。全然期待できない。
《ペナルティ 選択肢の内容激化&嫌われやすさ補正》
…だからと言ってクリアしなければ、このペナルティが俺を苛むのだろう。
そして、報酬はしょぼいくせにペナルティはやたら厳しいのだろう。
モチベーションは上がらないが…やるしかないんだろうなぁ…モチベーション上がらないけど。
《タイムボーナス》
あ、タイムボーナスを忘れてたな。
前回は終了間際にクリアしたから獲得できなかったけど…引き続き記憶の欠片なのか?
《やり直し権》
なんだそれ。
やり直すって一体何の話……うん?まだ説明がある?
《選択肢によって自分の望まない結果に陥った時、一度だけやり直すことができます》
―――や、やり直せる…だと…!?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時は流れ翌日。
結局昨日ショコラは起きてこず、朝になって俺の前に姿を見せた。
―――相変わらずの、疲れ切った様子で。
何も変化がない以上、心配にはなるが神に連絡するのも気が引ける(というか意味がなさそう)ので、今日はそのまま学校についてきてもらう事にした。
留守番させている間に悪い変化が起きたりしたら大変だからな。
【選べ】
……で、今朝は大人しいなって思ったらこれか。
ようやく特殊ミッションをクリアした恩恵がーって思った瞬間これですか。
【①ショコラに抱き着く】
お前…病人だぞ?
人前でってだけで大分アウトなのに、この状態のショコラって…流石に休ませてやれよ。
学校まで連れてきた俺が言えた事じゃねぇけど。
【②雪平ふらのに抱き着く】
えっ、雪平?
聞くまでもないだろそんなの。
ただでさえ「嫌い」って言われるくらい嫌われてんのに、今なんて羅刹のオーラを放ってるのよ?
昨日の気まずい雰囲気を一日経っても纏ったままなのよ?
―――けどそうか。ショコラか雪平のどちらかに抱き着かなきゃいけないってなら俺は―――
【③遊王子謳歌に抱き着く】
③!?
えっ、三択目!?
なのに抱き着くという事に変わりはないの!?
―――さて。
遊王子、遊王子か……アイツ、一日たったのにまだ顔赤くして「照れてる
普段からしているへそ出しについては何も感じていないらしいが…羞恥の基準がわからん。
ただまぁ、今の遊王子に抱き着くのはアウトだ、という事に変わりは無かろう。
普段のアイツなら、ギリギリ冗談で済ませてもらえたかもしれないが…この状態のアイツにそれを求めるのは酷だろう。
ならやっぱり、ショコラに尊い犠牲となってもらう他ないのか…?
【④逆立ちで教室を移動し、柔風小凪に抱き着く】
逆立ち好きかお前!
四択目ってのにツッコむ以前の問題だろその人選と移動方法はよぉ!
柔風なんて、俺が触れ合ってはいけない存在ベスト10の堂々一位だろうが!
なんか選択肢の数が増えたけど、結局ショコラが被害者となることに変わりはないじゃねぇか。
…何だろう、俺が悪いわけではないのに申し訳ない。
もう少し雪平とか遊王子とかと仲良くなっておいて、スキンシップくらいなら笑って流してもらえるようにした方が良かったな。
…抱き着くのって、異性の友人間でのスキンシップの枠組みに入れていいのか?
【⑤箱庭ゆらぎに抱き着く】
まだ選択肢があるのか―――ん?ゆらぎ?
ちょっと脳内シミュレーションさせてもらおうか。
『ゆらぎー!』
『わぶっ!?お、お兄ちゃん…?』
『いやぁ、愛する妹に抱き着きたくなってな、はははー!』
『お兄ちゃん…!私たち、最高の兄妹だね!』
『あははー!その通りさシスター!』
『うふふー!』
『あははー!』
―――いけるッ!
や、やったぞ!これなら俺以外は誰も傷つかずにすむ!
【ただし】
ん?
……あぁ、教室間の移動の話か。
逆立ちくらいやりますよいくらでも。
【教室間の移動は全裸で行うものとする】
と゛う゛し゛て゛た゛よ゛ぉ゛!!
なんでお前俺を虐めるのに余念がねぇんだよ!?
逆立ちなら許容してやるって姿勢を見せた瞬間にどうして全裸を提示してくるんだよ!?
……ちくしょう、これじゃショコラが犠牲なのに変わりないじゃねぇか…
【⑥麗華堂絢女に抱き着く】
麗華堂か。
まぁ無理だろうな。
表ランキングだって時点でアウトだし、そもそもアイツは俺を毛嫌いしてる節があるからな。
胸の大きさ以外は雪平そっくりだな、こうやって考えると。
【のではなく、そのおっぱいのシリコンに転生する】
いやなんつーもんに転生させようとしてんだお前!
抱き着くんじゃなくてシリコンに転生ってどういうことだよ!?
くそ、提示される数が増えてもコイツはコイツって事か…ふざけ始めてやがる。
…いや、ふざけてるのは最初からか?
【⑦爽星素直に抱き着く】
最初のノリに戻りやがった。
けど相手がなぁ……爽星ぃ…?
表ランキング二位なだけでなく、本性が中々アレな方に?
抱き着けと?
…この選択肢は見無かった事にしよう。
【⑧チチル・ニューミルクと乳る】
いやつまらねぇからな?
乳るってのがどういう意味なのかわからんけど、つまらない事に変わりはないからな?
…そしてそれをすることも無いだろう。
あの先輩は、柔風やショコラと同じ…純粋なオーラの持ち主なんだ。俺が関わっていいような人じゃない。
【
ド直球だなオイ。
でも⑨って出てくるとそう考えてしまうその気持ち…わからなくはない。
【黒白院清羅に抱きしめられる】
まさかの受動。
先程までの能動から一転、受けに回るのか。
まぁ選ばないけどね?対抗戦の時にあんなことがあったんだし、選ぶはずがないんだけどね?
【⑩道楽宴を絞める】
絞める側ですか。
結局俺も絞められると思うんですけど。
【⑪権藤大子さんに抱き着く】
【⑫権藤大子さんに抱き着く】
【⑬権藤大子さんに抱き着く】
【⑭権藤大子さんに抱き着く】
【⑮権藤大子さんに抱き着く】
【⑯権藤大子さんに抱き着く】
【⑰権藤大子さんに抱き着く】
【⑱権藤大子さんに抱き着く】
待て待て待て待て多すぎるって流石に!
なんで『さよなら●教えて』みたいになってるんだよ!?フェ●チオか!
選ばねぇからな。絶対にソレだけは選ばねぇからな?
ゲシュタルト崩壊するくらいに現在進行形でずっと出てきてるけど、絶対選ばないぞ俺は。
申し訳ないが今回はショコラに犠牲になってもらう。
権藤大子さんに抱き着くなんて選択肢が出た時にはもう決定したからな。
―――さて、全員の視線を逸らさせるような何かがあればいいんだが…
【選べ ①「う、産まれるっ!みんな見ないでっ!」 ②「う、産ませるっ!みんな見てっ!」】
…なんでここは二択なんだよ…
「う、産まれるっ!みんな見ないでっ!(渾身の棒読み)」
「「「ひゃぁあああ!!?」」」
「「「おえっ…!?」」」
「「流石に出産萌えは無いわ」」
なんか反応が不服(マジに受け取られている所や、数人の男子のズレた反応についてだ)だが、ここはもう気にしない。
さっさとショコラに抱き着いて、頭痛が消えたと同時に離れる。
今はそれだけだ。
「すまん、ショコラっ」
小声で謝罪し、机に突っ伏しているショコラに抱き着く。
あまり不快に感じられないように、軽く覆いかぶさる程度で抱き着いたのだが…それでもショコラの温もりやら柔らかさやらいい匂いやらが五感を刺激してくる。
―――こ、ここが学校じゃなかったら…もし、二人きりだったら…危なかったな。
しかし、そんな事を考えている余裕は一瞬でなくなった。
「……金出さん…あの、そのぉ…恥ずかしいです」
その言葉に、俺から目を背けていた全員がこちらに向き直った。
彼らの目に映るのは、顔を赤らめて恥ずかしがるショコラと、それに抱き着く俺の姿。
本当ならさっさと言い訳やらなにやらをしなければならないのだろうが、まだ催促の頭痛は続いている上に、ショコラのこの発言の方が問題だった。
…は、恥ずかしい?お前、前に俺に抱き着いてきた挙句匂いまで嗅いでたよな?
「み、皆さんも見ていますし…」
えっ…人目気にするような方でしたっけ?
いや、それが悪い事とは言わないし、寧ろその反応が正しいんだろうけど…どうして今になって?
後、催促まだ終わらないんですね。
「あっ、でも…金出さんにこういう事をされるのは嫌というわけではなく…む、寧ろ嬉しいといいますか…」
「えっ、あの、ショコラさん?」
流石に声を出す。
なんかちょっと暴走気味?な気もするし、この辺で一度止めた方が良い気が…
―――あ、催促止んだ。
「―――その、こういうのは…二人きりのときがいいです…」
「「ッ!!?」」
空間に罅が入った。
少なくともそう錯覚させられるくらいの圧を感じた。
頬を赤く染め、目を涙がこぼれない程度に潤わせ、俯き気味に発せられたその言葉が持った破壊力は、果たしていかほどの物であっただろうか。
「「「天久佐ェ…」」」
「「「屑…」」」
―――うん、この反応が普通だよね。
そりゃ体調不良気味の美少女に抱き着いてそんな事言わせたら、誤解のあるなしに関わらずこう言われますよね。
…はぁ、どう申し開きをすればいいんだろうか。
男子の殺気交じりの視線と、女子の文字通りのゴミを見る目に晒されながら、俺は心の中で涙を流した。
なんかもう、泣くしかできねぇよ…それも心の中で。
「皆さん、落ち着いてください」
だから、混沌とし始めた教室に突如として凛と響いたその声に、俺も間の抜けた声を出してしまったのだ。
声の主の方をぎこちない動作で見てみると、そこには先程までの体調不良ぶりはどこへやら、直立不動で全員を見据えるショコラが居た。
―――いや、なんか雰囲気が違う?
「先ほどは場所が場所だったので取り乱してしまいましたが、皆さんは誤解なさっています」
冷静に…どこか普段よりも知性的に話すショコラに、俺含め全員が何事かと目を見開く。
だがショコラはそれを意に介することなく話を続けた。
「私は金出さんをお慕いしていますし、金出さんにはいつも可愛がってもらっています。金出さんのソレは友愛やら家族愛やらに近しい物ですし、皆さんの考えるような不健全な事は存在しません」
―――えっと、誰?
いっつもひらがなで喋ってるみたいな雰囲気が出てるはずなのに…なんか、漢字を多用してるような印象を受ける。
まぁそれはあくまで感じ方の問題だから、気のせいの可能性だってある。
だがこの表情と語調はおかしい。
少なくともクラスメイト達が動揺しざわめきだすくらいにはおかしい。
声音は普段の五割増しくらいに静かで、持ち前の明るい雰囲気はどこからも感じられない。
その上目の輝きも通常の五割減だ。
キャラチェンにしたって変わり過ぎだろう。
それにコイツから「お慕いしています」なんて単語、普段なら出るわけがない。
コイツは大きく「好き」か「嫌い」でしか物事を判断しないような奴…だったはずだ。
俺がショコラを理解できていなかっただけかもしれないが。
「金出さん、どうかしましたか?」
ニッコリと俺に微笑んで見せるショコラだが、その笑顔もいつものソレとは大違いだ。
普段の能天気さはどこへやら、慎ましやかで穏やかな…大人びた笑顔をしている。
「いや、なんかお前…違くない?」
「違う?私は普通にしていますが…」
「…それが普通なのだとしたらあなたはどこのどなたなのでしょうか?」
「?私はショコラですよ?」
「いやいや。なんかオーラだとかそういったものが全然違うから。見た目そっくりの誰かって言われた方が全然納得できるから」
「…あぁ。なるほど。いきなりこの口調で話し始めたら、確かに混乱されてしまってもしかたありませんね…」
そう言うと、もう半歩踏み出せば密着してしまいそうな位置から、俺とショコラの周囲に群がっているクラスメイト達の方へと近づいた。
「どこから話せば良いでしょうか……私、ショコラは、今の今まで記憶喪失だったんです」
「……はい?」
「突然そう言われてもよくわからないでしょうが、つい先ほどまでは何も思い出せてはおらず、自分の名前すらわかっていない状態でした」
「えっ?でもショコラちゃんはショコラちゃんって…」
「名前は金出さんがつけてくれましたので」
…まぁ、チョコレートかチョコラータかのどちらかって言われて、マシなのはチョコレートだよなーって感じで選んだだけなんだけどさ。
「…とにかく、右も左もわからないまま、能天気に生活してきたのですが…昨日の朝、寝ぼけてベッドから転落してしまった時に、強く頭を打ったんです。正確には転落して無理やり起き上がろうとした時に寄り掛かった棚から落ちてきた本が激突した、ですが」
なるほど、あの大きな物音は本が落ちた音だったのか。
俺の部屋で物が落ちるなんて日常茶飯事だし気にも留めてなかったが…まさかショコラの頭にぶつかっていたなんてな。
「その時からずっと気分が悪く、一度学校をお休みしても一向に回復しなかったのです……今思えば、あれが記憶が戻る前兆だったんでしょうね」
「じゃあ、お腹が減りませんなんて言ってたのも?」
「はい。そのせいでした。――――で、ですが…金出さんに、その…抱きしめられた瞬間、一気に全身が熱くなって、頭の中に電流が…いや、いっそ雷が落ちたような衝撃を感じ、全てを思い出したのです」
雷が落ちたような衝撃を感じるくらい俺の抱擁はとんでもなかったのか。
そりゃ確かに結構な頻度で選択肢に馬鹿にされているこの容姿だ。
奇行は
【選べ ①信じられん。試しに自分の頭を叩いてみよう ②信じる他ない。自分の頭を叩いて反省しよう】
結局どっちも叩くのかよ!
ってか反省って何を反省すりゃいいんだよ!?
自分の容姿なんて、衣服と清潔感以外どうしようも無いだろうが!
…でも①選んだら、叩いた後に続けて何かをさせられるんだよなぁ…(経験則)
「急な事で皆さん驚かれたでしょうが、これが本来の私です。先日までの馴れ馴れしい言動をお許しください。そして、今前通り仲良くしてくださいね」
誰もひたすら一人で頭を叩き続ける俺を気に留めない。
これだよこれ!この無反応(というか無視)が一番助かるんだよ!
「金出さんも、今まで―――あ、あの。なぜご自身の頭を?」
「反省してるんだよ」
させられているんだよ。
ごめんなさいねついこの間まで自分の顔に自信持ってて。
だって昔はモテてたし?顔が良いんだろうなぁって自分でも思うじゃないっすか。
それが気に入らなかったんですよね、選択肢さん。
―――そして数名、今の説明と俺の行動で笑ったな?
何が面白かったのか言ってみろよオイ。
【選べ ①何が面白かったのか聞いてみる(ショコラ) ②何が言いたかったのか聞いてみる(ランダム)】
別にショコラは笑ってねぇだろ!
「…で、結局ショコラは何が言いたかったんだ?」
「あ、あの…私に言われてもわからないよ?」
「いや全くもってその通りですよね委員長」
ランダムで失敗するのは久しぶりだな、とどうでもいいことを考えつつ、ショコラ亜種に向き直る。
【選べ ①もう一回ランダム ②「うーん、マ●ダム」】
関係ねぇだろ②!
ってかそのネタは対抗戦の時に雪平が使って大部分の人から理解されてなかったじゃねぇか!
くそっ、もう一回ランダムなのか…!
「で、何が言いたかったんだ?」
「いやなんで俺に聞くんだよ」
「すまん赤川。俺もよくわからない」
外したな。
まぁ今回は比較的交流の多い奴…というか友人で良かった。
傍から見りゃ変な奴に変わりはないが、ここで(基本誰とでも話すが)滅多に話さない奴が選出されたら気まずくなっちまう所だった。
――さ、今度こそショコラに説明を求めよう。
「すまんかったなショコラ。結局お前は何を言おうとしてたんだ?」
「えっ…あ、今までご迷惑をおかけしました、と。それと…これからも、よろしくお願いします」
【選べ ①「いいよ」 ②「だめだよ」】
断る余地ないだろ。
確かにいまだに信じられんよ?タチの悪い冗談だって言われた方が全然納得できるし。
けど、もしコイツが本当に本来のショコラなのだとしたら…前と対応を変えるのは、よく無いだろう。
多少中身に変化があったくらいで、こっちが敬遠する理由だってないしな。
「いいよ」
「ありがとうございますっ!」
…一瞬かつてのショコラの片鱗が見えた気がする。
まぁ、こうして感情を強く前面に出すようなことは無くなりそうだなと思うと―――少し、物寂しい気もするな。
「天久佐君、これは一体どういう事なのかしら?」
「さぁ…?全然理解が追い付かねぇけど、自分で『これが本当の自分だ』って言ってるんだから…信じてやるしかねぇだろ」
「聞き方を訂正するわ。これはどういうシチュエーションプレイなのかしら」
「訂正前が正しいからな?別にそんないかがわしいものじゃ」
「確かにそうね。天久佐君ならもっとハードなプレイをさせているはずだもの」
「お前俺の事なんだと思ってんの!?」
「『性欲という言葉のゆるキャラ』でしょう?」
「『性欲の擬人化』よりも酷い!?」
「名前は『ハラ間瀬太郎』で、主に九州北部で愛されてるのよね」
「なんでジョン万次郎みたいに言うんだよ…ってかなんで九州北部!?ご当地ゆるキャラなの!?」
「口癖は『
「ま、まるかっこ…?いや顔文字じゃねぇか!どんな口癖だよ!?」
というかあの情報から顔文字だと判断できた俺って結構すごくねぇか?
…すごくはねぇか。
しっかし雪平…なんか様子がこう、変じゃね?
怒気をまとっているというかなんというか…いやそれは昨日からか。
【選べ ①聞いてみる ②触らぬ神に祟りなし ③君子危うきに近寄らず】
わ、わざわざ三択にして聞くなと念押ししてきてる…のか。
けどやっぱ気になる…というか聞かなきゃ多分しばらくこのままだろうし、さっさと原因解明させたい。
だって昨日含めて、俺雪平に胸の話してないのよ。
胸以外の下ネタならあったかもしれないけど、マジで胸の話は振らされてないんだよ。
だから理由がわからない。なんで怒っているのかわからない。
と言うわけで、
「なぁ雪平」
「なにかしら」
「なんでお前そんなに怒ってるんだ?」
「……怒ってなんて無いわ。そもそも私は普段から温厚。怒りなんて感情を持たずに生まれたと誰もが言っているわ」
「いや前に俺に
「あら、そんな事あったかしらね」
「あったわ!技名まで叫んでたろお前!」
「とにかく、『晴光の微笑みの爆弾』と呼ばれる私には関係ない話ね」
「なんで●☆遊☆白書なんだよ!?」
「朝の教室天久佐君が奇行に走って独りぼっち♪」
「歌うなや!それに歌詞無理やりすぎる癖に的確すぎるだろ!」
「的確?それは違うわ」
「えっ…それって…」
「あなたは四六時中ドン引きされて独りぼっちじゃない」
「うっせぇわ!」
「あら、私が思うより健康なのね」
なんでコイツさっきから歌系のネタ使ってんだよ。
まぁ健康なのは間違いないけども。
「でもそうやってすぐに声を荒げてると、すぐに不健康になるわよ」
「誰のせいだと」
「ヤギのパイオツでも
「いやなんでヤギなんだよ!?」
「あら、豚専?」
「ヤギじゃなかったら豚なのかよ!?――ってかその言葉前にも聞いたぞオイ!」
確か宴先生に言われたな。
あの時は…そうだ。雪平が女神に見えてたんだった。
今?悪魔じゃないかな。
「ってかヤギだろうが豚だろうが乳飲んだ所でその場の怒りは抑えられねぇだろ…」
「?あなたは動物の乳を舐める事に意味を見出すのでしょう?」
「なんでだよッ!?」
「あなたにとって豚のパイオツは怒りを抑えるだけでなく、貧血を直し解熱作用があって、咳止めになり筋肉痛を押さえ、胃腸を整え熱を下げ、消化を支えてくれるのよね」
「ほとんど七草がゆの効能じゃねぇか!」
「この場合は天久佐がゆね」
「『さ』しかあってねぇよ!…ってかお粥でもなんでもねぇだろソレ!」
「じゃあ天久佐パイオツ」
「それは俺のパイオツだろ!」
「…こんな時間からそんな卑猥な言葉、恥ずかしくないの?」
「お前が言うか!?」
なんだろう、埒が明かない気がする。
さりげなく催促の痛みも消えているし、もうコイツと漫才じみたやり取りをするのは終わりにしよう。
…とにかく今はショコラだショコラ。
記憶を取り戻したというのなら、今までは何も無かった選択肢関連の情報が手に入るかもしれないし…何より、コイツの本当の名前を知ることもできるだろう。
早速詳しい話を…あ、ダメか。これは家で聞いた方が良いな。
誰にも聞かれちゃいけない話だろうし。
―――っていうかショコラ、なんか言いたげな顔をしているが…どうしたんだ?
「お二人の関係は記憶に残ってはいましたが、こうして実際に見ると…」
「見るとなんだよ…もしかして」
【選べ ①「お似合いカップルか?」 ②「夏×金よりも良いカップリングか?」】
すまん雪平ッ!①一択だわこれ!
「お…お似合いカップルか…?」
「カップル!?」
「少し、違いますね…ただ、お二人の愛情表現がこのようなのを知っていましたが…こうも仲睦まじいと、嫉妬してしまうなぁと」
「愛情っ!?」
「……なぁ雪平。さっきからなんか言ってるか?」
「…別に、何も無いわ」
にしてはさっきから雪平の方から随分と可愛いらしい声が聞こえてきてたんだが…幻聴?
でも前に何度かこう言う事があった気がしなくもないぞ?
って事はやっぱりさっきの声は雪平が…?
いや、無いか。流石に無いな。
「…ってか、カップルとかふざけた事言った上で言うのはアレだけど…どこに仲睦まじさを感じたんだよ」
「?そういう所ですよ?」
「どういう所ですの?」
「?」
「??」
お互いに不思議そうにするだけで、言葉すらない。
いやいや、さっきの会話聞いてた?
下ネタか毒しか吐かれてなかったんですけど?
これがもしアイツのデレだったとしたら、『下デレ』&『毒デレ』とかいうわけのわからん新境地が生まれるんですけど?
「そもそも、愛情表現という所は否定していないじゃないですか」
「それは―――」
言い忘れただけなんだけど。
そう言おうとしたが、時すでに遅し。
大人しくなった(当社比)選択肢は、黙っていられなかったらしい。
【選べ ①鼻で嗤う ②微笑と共に誤魔化す】
もうこの叫びは何度目になるかわからないが、それでも言わねばなるまい。
―――説明させて!?
「…ふっ…さて、な」
「えっ…そ、それって…!」
…やっぱり可愛い声、聞こえてくるよなぁ?
何?俺幻聴やばいの?
本格的に病院行った方が良いの?
「……やっぱり」
「あん?」
色々な感情が混ざりに混ざってなんか虚無に至りそう(中二病並感)だったが、ショコラが何かを呟きだしたのでそちらへ意識を向ける。
「ちょっと――――いえ、かなり…妬いてしまいます」
唇を尖らせ、拗ねた様子でそう言ってのけたショコラに――――俺は、ただこの言葉を贈るしかできなかった。
「誰お前」
次回予告 【爽星素直、作者】
「晴光学園表ランキング女子の部第二位、爽星素直ですっ!」
「作者です。よろしくお願いします」
「…えーっと…次回は、ショコラ?ちゃんのお話らしいですね!」
「ええ。原作がそうなので、その予定です」
「予定?変わるかもって事ですか?」
「いやぁ、まだ一文字も書いていないどころかタイトルすら決まってないのでね。もしかしたら別の回になるかもしれません」
「…じゃあ、次回予告する意味あります?」
「いい質問ですね。―――ぶっちゃけありません」
「―――――じゃあ、一ついいですかー?」
「なんでしょう?」
「……なんでアタシだけ対抗戦後の話無いの?」
「えっ」
「え?」
「だ、だってまだ天久佐君の事完全に好きになった訳ではないじゃないっすか」
「そりゃお断り5最強の変人だし、好きになるわけないじゃん」
「えぇ~?でも反吐が出ると言いつつ超嬉しいなんて言って」
「ぎゃあああああ!!?なに言ってくれてんだテメェ!!」
「わっ、ちょっと爽星さん!?メッキ!メッキ剥がれてますよ!?」
「チッ、後で覚えとけよ―――――では、今回はここまで!次回もお楽しみにー!」
「後で!?あっ、お、お楽しみにー…」