…龍騎要素ほぼゼロです。
時は流れ午後七時、場所は変わり自宅。
記憶を取り戻したとか言っていたショコラは、特にその状態から変わることなく大人しい雰囲気のまま一日を過ごした。
前までは授業中に眠っていたのに、今日はしっかりと姿勢を正して聞いていたし、教室を移動して菓子をもらいに行くような事も、クラスメイト達から菓子をもらう事も無かった。
それが何ともまぁ品行方正過ぎて、かつてのショコラとの温度差に若干引いてしまう。
いや、いい事なんだろうけどね?
でも俺にとっての『ショコラ』は前のショコラなわけで…
「…神に連絡しておいてはいるけど、大して何も情報は無かったしなぁ…」
やたら説明口調で話したが、実際大した情報は無く終わった。
ショコラが記憶を取り戻したとか言ってます、と話したら「ならその子から詳しく聞いた方がいいんじゃない?バイビー」と言って電話を切られたのだ。
…本当にやる気あるんだろうか、あの神は。
「金出さん」
「ん?どうしたショコラ」
「ご飯ができたので…」
「えっ、ご飯って…その、お前が作ったのか?」
「は、はいっ」
考え込んでいると、ショコラから声をかけられる。
ご飯ができた、と言っているが…まさかコイツが作ったと?
料理のさしすせそを知らず、手伝いを頼んでも皿を出すくらいしかできなかったコイツが?
いくら記憶が戻ったとは言え、流石に信じられない。
確かに台所の方から物音は聞こえていたが…まさか料理を作っている音だったなんて、微塵も考えていなかった。
間の抜けた顔をして質問する俺に、若干照れくさそうにしながらもうなずいてくるショコラ。
うーん…そうか。
手料理か。女の子の。
【選べ ①クールにいただく ②己の心のままに叫ぶ ③一口も食べずに全て捨てる】
「イェエエエエエエエエッイ!!」
「わっ!?ど、どうかしましたか!?」
「FOOOOO!!」
突然叫びだした俺にショコラが驚くが、それを無視してさらに狂喜乱舞。
昔はモテた、等と語っている俺だが、その実女の子の手料理をもらったことは数度しかない。
しかもその全ては同一人物…だった気がする。
これもまーたあんまり覚えてないんだよなぁ…すっげぇ大事な事だと思うんだけども。
…と、いう事でだ。
俺は現在、記憶に真っ当に残るという意味では初めて美少女からの手料理をいただけると言う事になる。
これを喜ばずして、何を喜べばいいだろうか。
―――まぁ、③があまりにもゴミ選択肢だったのもあるんだけどな。
「……ふぅ。じゃ、早速食べようかな」
「え、えーっと…?」
「今の叫びは心の声だから気にしなくていいぞ」
「は、はぁ…」
呆れ気味な目を向けてきておられる。
少しテンションを上げ過ぎたか。
…っていうか、今になってようやくテーブルの上を見てみたけど…多くね?
ハンバーグ、カルボナーラ、チャーハン、ミックスサラダ、ラザニア、きつねうどん等々――――この短時間で、一体どうやって作ったというのだろうか。
参考までに言っておくが、我が家の台所は一般的な家庭のソレと同程度のサイズしかない。
つまり、台所が広かったなどと言う理由では決してないのだ。
さらに言うなら、なぜか主食枠が多い。
でも、ショコラだからな…元々大食いで、それを基準に作ってしまったのだろう。
それにこの量だ。二人で食べるつもりなのだろう。
まぁおかしいよな。
俺の分をショコラが作って、ショコラの分を俺が作るって…時間とか色々無駄じゃね?
【選べ ①全て一人で食べる ②一口食べ、酷評し、全て捨てる】
お前には人の心ってのが無いのか!?
―――そういえば無かったな!
「…な、なぁショコラ。これ…全部俺が食っていいか?」
「えっ?」
「あぁ、いや。その…ほら、すっごい美味しそうだし?ついついそう言っちゃっただけで…なんならショコラの分は俺があとで作るし―――」
「い、いえ。そういう意味で驚いていたのではなく。――――その、そこまで喜んでもらえるなんて思っていなかったので…嬉しくって」
照れた様子を見せるショコラに、「変わったなぁ」なんて思いつつも、なぜ俺が「一人で食べる」なんて馬鹿な事を言った事に対してツッコまないのかを問うてみる。
すると、中々に予想外な返事が返って来た。
「あ、私に食事は不要ですので、元々全て金出さんに食べてもらおうと…」
「えっ?」
「はい?」
「…食事、不要?」
「あ―――はい。記憶を失っていた頃の私は、それはもう四六時中何かを口にしていましたが…本来なら、神の僕たる私には食事はおろか睡眠すら最悪必要ありません。何日かに一度だけ、どちらもほんの少し摂取すればそれだけで十分なので」
何それ初耳なんですけど。
じゃあ俺が今まで出していた多額の食費は…全て、無駄だったと?
―――いやでもショコラが飯食って目を輝かせて破顔させてるのを見るのは嫌いではなかったというか好きだったし、不要だからってそんな『人外』みたいな扱いをするのは俺的にどうなのかって話だし…うん。今までのは無駄じゃない。
自分の満足のためにやってたんだ。
課金と同じだな。うんうん。
「あれ?でもお前、クラスの連中と昼飯食ってたろ?」
「皆さんと食事をとるという行為自体は楽しいですし…不要だとは言え、摂ったから何か悪いことがあるというわけでもありませんから」
微笑んで見せるショコラに、何度目かの「変わったなぁ」という感想を抱く。
そりゃ記憶が戻ったとなりゃ幾分か変わってても仕方ないだろうけど…ここまで大きな変化があるなんて、予想だにしなかった。
「…まぁ、冷めちゃ悪いしさっさと食うか…本当にいいのか?全部俺が食っちゃって」
「はい。それに…金出さんは、沢山食べる人だと記憶していますから」
「―――本当はそこまでフードファイターじゃないからな俺」
ショコラが食っている所を見ると、つられて俺もついつい食べちゃうだけだ。
本来の俺はもっと小食……少なくとも、家族や田中達からはそういわれている。
「そ、そうだったんですか?それはその…ごめんなさい」
「いや、謝られるような事じゃねぇさ。それに―――」
「それに?」
「ショコラレベルの美少女が、俺にって作った料理だ。残すわけないだろ」
可愛いは正義。
キュート、イズ、ジャスティスである。
絶対選択肢のせいで恋愛…いや、女性と無縁の人生を送る事になる前からモットーにしている事だ。
他のモットーには「やらない善よりやる偽善」等があるが、それはどうでもいい話で。
とにかく、可愛い子が俺のためにと頑張ってくれたのだ。
そしてその結果として手料理がここにある。
いくら山のようにあるからと言って、食べない理由があるだろうか?いや無い。
では早速、いただきましょう!
いやぁ、美少女の手料理ですよ、手料理!
見た目と匂いはいい感じだが、味はわからない…けどま、不味くても完食するんですけどね?
んじゃあ取り合えずこのカルボナーラを一口……ッ!?
【選べ ①心の底から(感想を)出す ②腹の底から(中身を)出す】
「うまい…!うまいぞこれ!」
「ほ、本当ですか!―――よ、良かった…」
俺に聞こえないように声を出したショコラだが、その手が小さくガッツポーズしている事は視界の隅に映った程度でも簡単に分かった。
というか俺、鈍感難聴の対極な存在だし。
どんだけ小さく言ってても聞こえるぞ?
「うまい、うますぎる…!控えめな味付けかと思ったら、しっかり口の中に風味が残って…ほんのりかけられたブラックペッパーが良い味出してるのもいい。パスタとソースもうまく絡まってて…最高だ」
「そ、そうでしたか!ぜひ、他のもどうぞ!」
「おう!」
「いやぁ~!食った食った!ご馳走様!」
「お粗末様でした」
さて、完食した感想ですが(ギャグなし)すっごく美味しかったです。
まぁ見た通り量が多すぎるなぁとは思ったけど、それがどうでもよくなるくらい美味でした。
一つ一つ語っていきたい所だが、そんな事をしていれば文字通り日が暮れるので割愛。
―――さて、皿洗いでも…うん?
【選べ ①ショコラに全てやらせて自分はテレビを見る ②ショコラに家事をさせるのは申し訳ない。皿を舐めて綺麗にしよう ③ショコラは本来何のためにいるのか。オ●ペットの意味を思い出せ】
…えぇ……取り合えず③は考えるまでもなく除外ね。
ショコラに全ての家事を押し付けて、自分だけが楽な思いをする…なんてのは、俺のポリシーだとかなんだとかに反するのでやりたくない。
やりたくないが……流石に皿を舐めまわして綺麗にするなんて、衛生面的にも絵面的にもアウトだ。できるわけがない。
すまないが…①を選ばせてもらおう。
「な、なぁショコラ」
「はい?」
「皿洗い、任せていいか?」
「任せるも何も、元々私がやるつもりでしたので!金出さんはお疲れでしょうし、休んでいてください!」
嬉しそうにそう言うと、俺の返事も待たずに食器を台所へと持っていき始めたショコラ。
…家事をすることの、何がそんなに楽しいんだろうか。
働くことに生きがいを感じるんです、なんて馬鹿な事を言い出したらどうしよう。
労働はあくまで金をもらうための過程であって、そこに快楽も何もないはずなんだがな。
―――っと、勝手な憶測で物を語るのは良くない。
父さんも前にそんな事を言っていた気がする。
今の俺にできるのはテレビを見て無駄に時間を使う事だけだ。
選択肢がそう言っているのだし仕方ないだろう。
…でもこの時間の番組って、何があったっけか。
最近はバラエティすら見てないからなー…深夜アニメならタイトルも時間も暗唱できるんだが。
【選べ ①ドラマを見る ②パシ●ミナエースの好きな作品を一つ】
②は何なの?発表しろって事なの?
それともこの場で見ろって事なの?
―――現在時刻、八時三分。
深夜と言うには早く、その手のアニメを見るには早すぎるだろう時間帯。
…いや見る時間は人それぞれだから何とも言えないが。
時間だけが問題というわけではなく、テレビがある場所とショコラが居る場所…つまりリビングと台所が近いという事も問題だ。
この真っ当な状態のショコラの前で、堂々と『美少女吸血鬼に「体液なら何でもいい」と言われて精液を飲ませる男子高校生の話』を見る訳にはいかないだろう。
前までのショコラでも同じだ。
―――ま、ここまで長く悪い点を話す必要は無かったか。
とにかく①だ、①。
この時間にやってるドラマがあるのかどうかはわからないが、やっていたとしてもそんな不健全な物はやっていないだろう。
「…っと、まさか本当にやっているとは」
これは…恋愛ドラマか。
―――あ、響歌さん(遊王子の母さん)出てんじゃん。
あの人ってまだドラマに出演してたりするんだな。
もうニュースのコメンテーターしかやってないと思ってたわ。
「…金出さんがドラマを見ているのって、新鮮ですね」
「確かになぁー…全然こういうの見ねぇし……ってかもう終わってたのか。ま、隣座れよ」
「あ、どうもです」
ショコラが着席したのを見て、再びテレビに視線を向ける。
この俳優…最近ネットニュースで見たな。
なんかのランキングで一位取ってたような…あんま覚えてねぇな。
『―――んっ』
「…」
「……」
演技力高ぇな、なんてことを考えながら楽しんでいたその時、まさかのキスシーンが流れた。
まぁ恋愛ドラマだ。こういう事があっても仕方ないだろう。
…だがなぜこんな時間から結構ハードなディープキスなんだ。洋画か。
こんなのこの時間から流してちゃ…気まずくなるだろ。
今の俺とショコラみたいに。
チラリとショコラを横目で見てみると、頬を染めて俺とテレビとを交互に見てきていた。
…うん、そりゃ異性で二人きりの状態でこんなの見たら…まぁ意識しちゃうよな。
前までのショコラならわからなかったが、今は記憶を取り戻し、清楚系と成ったショコラ。
ディープキスという行為自体は知っていても、それを見るのは中々に衝撃的だったのではなかろうか。
「…チャンネル、変えようか?」
「あっ、い、いえ!全然、構いませんよっ!?」
「…気持ちはまぁ、わからなくはねぇよ?」
「えっ!?」
「え?」
なんでそこで驚くんだよ。
そりゃ気まずいってのくらいわかるぞ?
実際俺だって気まずく思ってるわけだし。
まさかこいつ、俺はこの程度じゃ何も感じないくらい精神が屈強だと思っていないか?
そりゃ選択肢の奇行を毎日人前でやらされて、その上で動じずにいるんだからなぁ…精神的に強い人だと勘違いされても仕方ないか。
「―――じゃ、じゃあ!」
「んぉっ、どうした?」
「…その……か、金出さんは…」
指をせわしなく動かし、次の言葉が言えずにいるショコラ。
これは俺が察するべきなのだろうが、どうしても続きがわからない。
だからと言って「あっ、そうだ(唐突)俺風呂入れてこなくちゃ」なんてこのタイミングで言うのは流石に空気が読めてなさすぎる。
そんな真似できない。できるはずがない。
できるとすればそれは強く毛の生えた心臓を持った奴か、超弩級がつくくらいの朴念仁―――
【選べ ①その場のノリで、ショコラにディープキス ②「あっ、そうだ(唐突)俺風呂入れてこなくちゃ」と立ち上がる】
または
②の空気を読めていない発言が、つい先ほど俺が考えた文章なのが余計に腹立たしい。
しかし①がダメな事は一目瞭然…これでイケると判断する奴が居れば、それはただただ自意識が過剰な奴かマジモンのイケメンだけだろう。
それもとびっきりバカの。
「わ、私とキ―――」
「あっ、そうだ(唐突)俺風呂入れてこなくちゃ」
「……へ?」
「……すまんショコラ、後で聞くわ」
返事を待たずに部屋の外へ出る。
だってそれしか俺にはできないのだから。
―――いや気まずッ!めっちゃ気まずいんですけどッ!?
なんか言いかけてたじゃん、ちゃんと話そうとしてたじゃん決心できてた様子だったじゃん!
それを
…愚かー!一から十まで愚かー!
でも全部選択肢が提示したモノだから俺にはどうしようも無い。
言ってしまえば不可抗力。
他の人…何よりショコラからしたら俺が悪いんだろうが、今回ばかりは運がなかったと諦めて欲しい。
俺もいつもそうやって精神的ダメージを軽減してる。
仕方なかったってやつだ。
【選べ】
そして、俺が選択肢に責任を押し付けるか悪口を言うかすれば、こうして必ず顔を出してくるのも仕方がない事なのだ。
この出しゃばり屋め。これ以上俺をどう苦しめるというのだ。
【①壁を舐める ②便器を舐める ③ショコラにディープキス】
なぜそこまでしてショコラとディープキスさせたがるんだコイツ。
俺が選ぶわけないだろ。
普段ならプライドやらなにやらでやらないだろうが…この場合の最適解は①。
諦めて舐めさせていただきましょう。
後でしっかり掃除するので、父さんも母さんも許してください。
「…レロ、レロォ…ど、どうしてこんな真似を…」
催促の痛みがなくなるまで舐め続けた後、嘆く。
…さっさとアルコール除菌シートで拭くべきなのだが、そんなのはどうでもいいと言わんばかりに嘆く。
何が悲しくて気まずい空気を作らされたり壁を舐めさせられたりしているんだろうか、俺は。
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「はぁ~…生き返るなぁ~…」
風呂はいい。
この文化を作った人間に、俺は生涯敬意を表し続けるだろう。
因みに風呂の文化を作った人間と、サウナという文化を作った人物は同じくらい尊敬している。
どちらも心を洗い流し、調えてくれる素晴らしい物だからな。
ロウリュをしてくれる店員さんにも同じくらい敬意を表するし、心を癒してくれる的意味では小動物やら柔風やらニューミルク先輩やらかつてのショコラやらにもそのような念を抱いている。
まぁ一番尊敬しているのはエロ漫画を描いてる人なんだけどな。
こればっかりは譲れない。
だって、男の子だもン。
―――なんてどうでもいい、とりとめのない事が頭の中で出たり消えたりを繰り返していたのだが、突然その平穏な時間をぶち壊すような事が起こった。
「…し、失礼します」
「んー…?なんだ、ショコラか――――ぇえええええええええええええッ!!?」
俺のゆるゆるふわふわしていた心象風景が、まるで鏡が割れるようにして砕け、そのまま朝焼けに包まれて…いやいや、龍騎のオープニングじゃ無く。
とにかく心の中の平穏が音を立ててくだけ散ったのだ。
戦わなければ生き残れない世界の戦士が頭の中を駆け巡るくらいには驚愕したし、衝撃的だった。
えっ、なんで?なんでショコラが浴室、入って?
一糸まとわぬ姿が視界に映っているという現実と、俺が入っているのに風呂に入ってくるはずがないという固定観念がせめぎ合い、更なる混乱を呼ぶ。
―――ってか改めて思うが、体つきエロいな。
出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでる…ハリのある体っていうか…いやいや!何冷静に思春期男子みたいな事考えてるんだよ俺!?
…いや思春期男子だからまともなのか?
「よ、浴槽…失礼しますね」
「えっ、あ、あぁ…」
随分と長い事考え込んでいたらしい。
体を洗い終えたショコラが、恐る恐る湯舟に入って来た。
―――うん?
俺の家の浴槽は、一般的な家庭のソレと変わりないサイズしかない。
今よりももっと体の小さかった子供の頃にお父さんと一緒に入ったが…その時でも、かなり密着しなければいけないくらい狭かったはずだ。
その中に、体格的には子供と言えないような肌の男女が入る…?
ちょ、やばくないっすかねぇ!?
「ごめんショコラ!なし、今の無し!見て、この浴槽かなり狭いから今の状態で入ってこられると…!」
「ん…しょ。な、何とか入れました…ね?」
当たっている。
何が?
胸が。
…お前向き合う形で入ってくるか普通!?
【選べ ①もう我慢できん。いただきます ②待て待て、しっかり理由を聞こう。なぜこんな真似をしているのかと】
―――そうだよ、理由だよ理由!
なんでコイツいきなり一緒に風呂に入りだしたのさ!?
前のアホの子だった時でもそこまではやってなかったってのに、なんだって清楚系になって混浴なんて真似を…?
「な、なぁ!?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
声が裏返ってしまった。
ダメじゃないか。
俺が緊張してどうする。
―――いや無理ィ!思春期男子が、目の前に全裸の美少女が居て平常心保って冷静に思考&行動できるなんてソレ幻想だから!
理性を縛り付けてるだけでも十分頑張ってると言えます。
さっきの選択肢だって、一歩間違えれば①を選んでいた可能性だってあった。
それでもこうして②を選んだって…俺すごくない?
「……なんで急に、風呂に…?」
「ま、まだお風呂に入ってませんでしたし…」
「な、なるほど…」
確かにショコラはまだ風呂に入っていなかったな。
…って「なるほど」とはならんでしょ!
俺と一緒に入ってることの説明にはなってないからな!?
「…じゃ、じゃあどうして俺が入ってるってわかってて入って来たんだ…?」
「……」
「あ、あの。ショコラさん?」
返事が返ってこない。
な、なんなの?俺なんか触れちゃいけない話題に触れたの?
「…金出さん」
「なんでしょう…?」
「好きです」
―――なんて?
今コイツ、なんて?
好き?好きって、何が?
なぜ今そんな事を?
「好きです。金出さん」
「…た、食べることが?」
「違います」
「アッ、ハイ」
あまりに真剣な目をして言うもんだから、こっちもふざけるにふざけられない。
でも、なに?
それと俺が居るにも関わらず風呂に入って来た事がどう関係してるの?
「―――ダメ、でしょうか?」
「いやわかんねぇんだって。なんでいきなりそんな事言いだしたのかもわかんねぇし、混浴状態になったのかも分からないし…何より近い近い!さっきより密着してきてるの何なの!?俺の事ヘタレだから手を出すはずがないって見くびってんだったらお前マジで一生心に残る傷ができることに―――」
「金出さんなら、良いですよ…?」
ショコラサン、それ殺し文句過ぎませんかね。
潤んだ瞳で俺を見てくるだけでなく、話している最中にも近寄ってきている。
コイツ、マジで一回男の恐ろしさを教えてやった方が良いんじゃなかろうか。
「……その、好きってのは…likeの方の?」
「loveの方です」
だ、断言されちった。
もはや密着度合いは抱き着いている、ってレベルだし、なんか雰囲気までもエロくなってきてるし、理性とか何やらがもう限界気味なんだが…
そもそも、なんでいきなり俺の事を好きだなんて言ってきたんだ?
はっきり言って、コイツに好かれるような事をした覚えが無いんだが…
「その…どうして俺なんだ?別に俺、お前に好かれるような事してないよな…?」
「わかりません。―――ですが、恋することに、理由は不要だと思います」
一理ある。
誰かを好きになることに、理由なんてのは不要だろう。
相手に好意を持っていれば、そこに至るまでの過程やらなにやらはどうでもよい…そんな気もする。
「……ですので、その…さっき、金出さんは「気持ちはわからなくない」と言いましたよね?」
「まぁ、そうだな」
「それは私と同じで―――キスしたい、と思っていたと言う事ですよね?」
「なんで!?」
えっ、気まずいって思ってたんじゃないの!?
そりゃ確かに濃厚なキスシーンだったけども…だからって「じゃあ実際にキスしたいなぁ」ってなるか普通!?
「……やっぱり、金出さんは違いましたか…で、ですが!私は…金出さんと、キス、したいです!」
ぐい、と顔を寄せてくる。
互いの目には、互いの顔しか映っていないような距離だ。
自然と息が荒くなるのを感じる。
―――緊張して当然か。
全裸の美少女に、もう数センチでキスができる距離に接近されて…ドキドキしない男がいるわけがない。
「…金出さんは、私の事…嫌い、でしょうか…?」
「そ、そんな事は、無い…けど」
俺だってショコラは好きだ。
だがその好きはラブじゃない。ライクだ。
恋愛感情的なモノは微塵もない。
…が、そんな事は今の暴走気味のショコラには通じないらしい。
「な、なら……」
さらにゆっくりと近づいてくる。
次第に、唇と唇が触れ合いそうになる。
これではダメだ。ダメだろう。
その場の雰囲気に流されてキスだなんて、絶対に良くない。
だが拒みたくないという思いがあるのも事実だ。
あぁ、もう触れてしまう―――と、次の瞬間。
【選べ ①このまま唇を奪い、舌をねじ込む。確実に嫌われる ②逃げる。全力で逃げる。なんやかんやショコラが前に戻る】
「すまんショコラ!ヘタレな俺を許してくれッ!」
「きゃ…っ!?」
ショコラを押しのけ、浴槽から無理やり出る。
しかし立ち上がる時の力が強かったのか、ショコラが倒れ、浴槽の角に頭をぶつけてしまった。
それに気づいた瞬間、下半身を隠すなんていう必要最低限の事すら忘れて、真っ先にショコラの身を案じた。
「お、オイ!?ショコラ!?」
「ん…う、うむぅ…」
ダメだ、目を覚まさない。
そんな強くぶつかったようには見えなかったが、当たり所が悪かったのだろうか。
確かに音は酷かったような気もするけども…
「……ん、あ、あれ?金出さん…?」
「ショコラ!?―――あ、あぁ…良かった。ごめんな?俺が無理やり押しのけたりしたから…」
「えーっと……ごめんなさい。なんの話だか、さっぱりです」
「―――ショコラ?」
「はい?」
「…お前、ショコラだよな」
「はい」
返事を返してくる。
だが、先ほどまでのショコラと何かが違う。
そう、まるで―――かつての、記憶を失っていた時のショコラと同じような雰囲気を……
「まさかッ!?」
「んみゅ?」
未だに状況を飲み込めていない様子のショコラの肩を掴み、目を合わせる。
俺の考えが正しければ、今のショコラは―――
「…お前、記憶は?」
「きおく?まだ何も思いだせていませんよ?」
…やっぱりか。
どうやら先程頭をぶつけたせいで、また記憶喪失状態になったようだ。
「それより、どうして私はここに…?金出さんと、おふろ?」
「そこも覚えてないのか?」
「…?はい」
本気で分かっていない様子だ。
…そこの記憶まで無くなるとは、な。
「―――取り合えず、一旦出ようか」
「はい!」
…そういやコイツこの状態だと…羞恥心、そんなにないんだな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……って感じだな」
「なるほど…記憶のもどった私はそんなふうだったと…」
風呂も上がり、テーブルに腰かけながら先程までの…記憶が戻った時のショコラについて話した。
本人は意外そうにしているが…それが普通だよな。
記憶が戻った時の自分はこんな感じだろうと予想できている奴なんていないだろうからな。
「…金出さん」
「ん?」
少々真剣な表情をして、俺の名前を呼んでくる。
何か聞きたい事でもあるのだろうか?
随分と大事な話のようだが…まぁ、軽く説明した程度だし、記憶が戻っている間に何をしたのかーとかでちゃんと聞いておきたい部分があるんだろ。
「私、お腹がすきました」
「いや真っ先に出てくるのがそれかいっ!?」
呆れた。
けどそれがショコラらしさなのかもしれないなぁ…とも思う。
確かにコイツ晩御飯食べてないし、腹減ってても仕方ないのかもな。
「―――はぁ…わかった。リクエストは?」
「ピッツァが食べたいです!」
「よしっ、任せとけ!」
前までのショコラに戻った―――それはつまり、アイツにとってはあるべき記憶が消えたという事だし、俺にとっては呪いに関する情報がわかるチャンスを失ったって事で、正直めでたい事でも何でもないが…
はっきり言ってしまえば、俺はこっちのショコラに戻ってくれて嬉しかった。
だからまぁ…これは、お祝いみたいな感じかな。
この時間から一からピッツァを作るってのはアレかもだけど。
「マルゲリータできたぞー」
「わぁ…!おいしそうですねぇ…!」
「ははは、おかわりもいいぞ」
その日のショコラが食べたピッツァの枚数は、まさかの三十二枚だった。
けどもし材料があったら、多分まだまだ食ったんだろうな…