俺の絶対(選びたくない)選択肢   作:イニシエヲタクモドキ

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雪平かわいいよ雪平、というお話。


①縊り殺しの道楽宴 ②自分(の魅力)殺しの天久佐金出

「…で?」

「……?」

「で?」

 

目が覚めると、知らない天井が――なんてことはなく。

そこは(誠に遺憾だが)見慣れた場所……生徒指導室、だった。

 

視界の端には、キャンディを舐めながら俺に何かを要求しているロリ教師が…って、ここで来るのか。

 

【選べ ①「むむっ、今日の先生のパンツは水色ですね?」 ②「先生のロリポップで間接キッスしていいっすか?いいっすね?」】

 

これはモノローグでとは言え宴先生をロリ教師と呼んだ事に対する罰なのだろうか?

 

「……むむっ、今日の先生のパンツは水色ですね?」

「なぁっ…!?」

 

死んだ目と棒読みを駆使して、何とかして自分の意思で言っているわけでは無い事を表現したのだが、どうやら先生には通じなかったらしい。

気づいた時には俺の鳩尾には先生の鋭い拳が打ち込まれていて、もだえ苦しむ羽目になった。

 

「…ゲホッ、ゲホッ……いや、察してくださいよ先生…明らかに不本意そうに言ってたじゃないですか…」

「……でも見えてたんだろ?」

「見えてねぇよ!……って、こう聞くって事はマジか?先生今日はみずい―――」

 

再び鳩尾を鋭い拳が以下略。

流石に今のは俺が墓穴を掘ったな。うん。

 

けど、見えていなかったのは本当だ。

丁度先生が座っていた椅子のせいでギリギリ見えなかったし。

…まぁ、この選択肢と反応のおかげで、水色は確定になったが。

 

【選べ ①「みっ、見てない!見てないですって!見た目ロリの癖に大人びたレース付きとか一周回ってエロいなとか思ってないですから!」 ②「俺の母になってもらえませんか?」】

 

お前今日キレッキレだな先生に対して!

おかげで俺の胃はキリッキリだわ!

 

ていうか先生、レース付きの水色パンツなんですね…選択肢に『ロリの癖に』とか言われてますけど。

先生の歳なら全然おかしくないはずなんだけどな…

 

 

「……俺の母になってもらえませんか?」

「…お前、やっぱりおかしいぞ」

「いや選択肢に言わされただけなんですけど!?その『選択肢云々関係なく俺が悪い』見たいな目をやめてくださいませんかねぇ!?さっきのパンツのくだりだって、全部選択肢が―――」

 

【選べ ①「悪いのは、俺です!」 ②「パンツは見ました!でも……パンツじゃないから恥ずかしくないですよね!」】

 

責任を押し付けようとしたのは謝るから!

一割くらいは俺も悪かったから!

だからその言い逃れできなくなるのをやめてくれませんかね!?

 

【①「宴ちゃんはぁはぁ…」と言ってスカートを破く ②「俺のエクスカリパー見せますから」と言って等価交換風に許しを請う】

 

全部俺が悪ぅございましたぁ!

十割、十割は俺が悪かったって!

 

謝るが、結局選択肢はこれで固定されてしまった。

…むぅ、コイツが途中で内容を変えるなんて何気に初めての事なのだが…新たな発見に対して何も喜ぶことができない。

 

だって、内容が良くなったわけじゃないし。

さっきまでのも含めるんだったら、悪いのは、俺です!って言った方が全然マシだったと思うし。

 

―――何より『エクスカリパー』ってのがムカつく。

最強の剣じゃないのか。

……いや自分のアレにそこまで自信があるわけじゃないけどさ。

 

「お、俺のエクスカリパー見せますから」

「……あまり自己評価が低いのもよくないぞ?……後、見ないからな」

「見せねぇよ!!これだってせんた―――い、いや何でもないです…」

 

多分ここで選択肢のせいだ、と言っていたらまた自殺行為をさせられていただろう。

言い切る前に気づけて偉いぞ、俺。

 

「……というより、お前に言った「おかしい」は別にお前に対してじゃねぇ。その『絶対選択肢』に対してだな」

 

【選べ ①「はぁ!?俺のどこがおかしいってんだよ存在自体が希少価値なくせしてよぉ!」と私の気持ちを代弁する ②直近五分間の記憶を喪失するツボを自ら刺激する】

 

何だよその不穏なツボ。絶対押したくないんだけど。

 

ていうか絶対選択肢(お前)の一人称って私だったんだな。

 

「……はぁ!?俺のどこがおかしいってんだよ存在自体が希少価値なくせしてよぉ!」

「あ?」

「いえ決して俺がそう思ったという訳ではなくコレはあのその……」

「―――それだよ、そういう所だよお前の選択肢とあたしの選択肢の違い」

「…え?俺のやつと先生のやつって、違うんですか?」

 

絶対選択肢に違いなんて無いと思うけどな。

少なくとも碌でもない言動を強制してくるだけで、百害あって一利なしの具現化みたいとしか現状評価できないぞ?

 

【選べ ①そこそこ良い事が起こる ②滅茶苦茶良い事が起こる代わりにちょっと嫌な事が何度か起こる】

 

おっと、評価を上げてほしいんだなコイツ。

しかし、実際にどんないい事が起こるのかわからない以上、甘い考えを持って①を選ぶわけには行かない。

 

――でもなぁ…コイツの『ちょっと嫌な事』って、絶対常軌を逸した悪い事なんだよなぁ…

 

それなら①一択…なのか?

 

「痛ッ…って、あれ?いつもより痛くない」

 

本当にサービス改善したなコイツ。

いきなり媚び売り過ぎだろ。

 

……そうだな。急に心変わりされても困るし、①でも選んでおくか。

 

「…今度はどんな選択肢が出たんだ?」

「えっ?なんか『そこそこ良い事が起こる』か『滅茶苦茶良い事が起こる代わりにちょっと嫌な事が何度か起こる』って出てきたんで、取り敢えずそこそこ良い事の方にしておきましたけど…」

「今回はまともだったか。―――けど、それにしてもやっぱり変だな。お前の方は」

「変って…一体、先生の知ってる選択肢とどう違うんですか?」

 

そう、そこだ。

すっげぇ俺を可哀そうな物を見るような目で見てきてる宴先生だが、当の俺がどう可哀そうに思われているのかよくわかっていない。

 

だって、先生だって同じくらいにこの奇行ラッシュをさせられてたわけだろ?

なら先生が同情するのはまだわかるけど、俺が特別可哀そうな物みたいに見るのは…なんか、変じゃないか?

 

「まず頻度がおかしい。普通連続で来るのは十回に一回あるかないかだぞ?」

「…ま、まっさかー…いや確かにスパンかなり短いなとは思ってますけど」

「それに内容が濃すぎる。男だからかも知れねぇが、流石にねぇだろアレは。―――前なんて、お前そこら辺の小学生のケツ、人前で掘らさせられそうになってたろ」

「え、ええ。本当にあれは酷い事件で―――って見てたんですか!?なら止めてくださいよ!」

「止めたぞ。警察はな」

「け、警察って…いや、そっか。小学生男子の尻を狙う男子高校生なんて性犯罪者以外の何物でもないし…」

 

あの日警察のお世話にならなかったのは、先生が水面下で防いでくれたからなのか。

―――おいおい、雪平に続いて先生にまで頭が上がらなくなっちまったじゃねぇか。

 

…ただどうやって警察を止めてたのは気になるな。

聞かないけど。

 

「…普通、連続で来るときは二回目か一回目のどっちかは軽い。実際あたしん時はそうだった。――が、お前は違う」

「…確かに、俺の奴って両方ヘビーですね…自分で言うのもあれですけど」

 

何が恐ろしいって、絶対選択肢とはこういう物だと受け入れてしまっていたのが恐ろしい。

こんな奇行に走らさせれるのを、受け入れそうになってたのか俺…

 

「…はぁ…凄い奴だよ、お前。―――あたしだって、昔はこんな性格じゃなかった。けどあんなもんが四六時中頭ん中駆け巡るせいで、物の見事にひん曲がってこんな風になっちまった……あんな大人しくて、大和撫子で、純情で華憐だったあたしが、こんな風にだ。そんなのをあたしよりも高頻度でくらってるのに、よくもまぁここまで『普通』でいられるよな、お前」

「なんか逆に自分が本当は変人なんじゃないかって思い始めてきましたよ、まったく…」

 

一周回って普通なんじゃなかろうか、今の俺は。

―――無自覚で、素で頭のおかしい輩だったのだとしたら恐ろしい。

それこそ選択肢が無くなってもお断り5に残留だったら……

 

「しかし先生、さっきのは言い過ぎじゃないっすか?本当に大人しくて大和撫子で純情で華憐だったなら、それこそ引く手数多じゃないですか。可愛いし。―――けど先生って未婚」

「な、なぁッ!?おまっ、可愛いって!?」

「なんでそんなスキンシップ激しい女子にテンパる童貞みたいな反応なんですか…」

 

多分言われ慣れてると思うんですけど。

だって人生経験長いらしいし(何回か前の説教で言われた)

 

……あれ?俺今さらっと先生の事未婚って言ったけど大丈夫か?

気づかれてないみたいだけど……さっさと話変えるか。

 

「そう言えば、昨日空から女の子が降ってきたんですよ」

「…お前二次元と三次元の区別も出来なくなったのか」

「義務教育をサブカルで終えたと自称する俺でも、流石にそこまでじゃないですよ…」

「はぁ…で?そのモー・ソー子ちゃんがなんだって?」

「いや、絶対選択肢で選んだらやってきて、しかも…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…今、なんて?」

「ですから、私は金出さんの呪いの解除をお手伝いしに来ましたが、指令書には特に何もしなくていいって」

「いやいや無いから!絶対そんな簡単なもんじゃないから!少なくとも当事者としてはそんな軽いもんだと楽観視できないから!」

 

スパゲッティサラダを鼻で完食し、チャラ神から情報を頂戴したは良いが、結局『神もまだ何もわかってない』という事しかわからず、終いには『なんかそっちに送られたサポート役がかなり優秀な子らしいし、その子に聞いたら?』と言われてそのまま電話を切られてしまった。

 

しかしまぁ、チャラいとは言え仮にも神が言うのだから、このアホの子オーラ溢れるコイツがさぞいい情報を持っているのだろうなと(記憶喪失設定を普通に忘れて)質問してみたところ、このような返事が来たのだ。

因みにこの返答の前に「何も思い出していないという事を思い出した」とも言われた。

ふざけているのだろうか。

 

「なんなんだよお前…有益な情報どころか自分に関する記憶すら無くて、その上情報が無けりゃ何ともできねぇ事を何とかしないとお前は帰れず俺はこのままって……壊滅的すぎねぇかこの状況」

「そーですね!」

「バナナ食いながらいい笑顔で言うなや!」

「あ、私のばんごはんは七時ですのでよろしくおねがいします」

 

こ、この女ぁ…!

 

こんななんの役にも立たんコイツ(しかも食事をもう一人分用意する手間までついてくる)を我が家に置いておく理由はない。

どこか遠い所で幸せになってもらおう。

 

「―――おいショコラ。お前はもうこの家から――」

 

【選べ ①もう諦めてショコラを定住させる ②ショコラに仕事(意味深)を与える事で居候させる理由を作る】

 

「―――出てく必要は無いぞ。お前も家族の一員だ!」

「はい!」

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「という事がありまして。結局解決に一歩も近づかないまま奴を定住させる羽目になった挙句ミッションはミッションでバカみたいでかつ限りなく不可能な物を提示させられて…」

「ミッションだと!?」

「…え、なんすかその反応。そんな反応されたらちょっと笑い話にできないんですけど」

 

そこは『何言ってんだお前』みたいな反応でよかったんですけど。

 

…え?マジなの?あの『雪平を笑わせる(心の底から)』なんていうミッションをこなさないと不味いの?

 

「神といい下僕といいミッションといい適当でふざけたもんだが―――全部ガチだ。本気でやらねぇとマジに終る」

「…ミスったら解除不能、ってのも?」

「勿論マジだ。―――いいか。どんだけ不可能に見えても絶対にクリアしろ。じゃねぇとお前は一生そのまんまだ。それだけは肝に命じときな」

 

いつになく真剣な表情でそう言った宴先生に、俺は無意識に生唾を呑み込んだ。

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「…アイツ、黙ってたらそれはもう綺麗だし可愛いんだがなぁ…って、俺の周囲の女って基本そんな感じか」

 

ソファに寝転がりながら、誰に言うわけでもなく呟く。

宴先生のあのマジ顔を見る限り、どうやらミッションは絶対にこなさないといけないようだ。

 

…だが、()()雪平ふらのを()()()()()笑わせる、というのは中々酷な話では無かろうか。

鉄面皮、と言うわけではない。

確かに無表情の時の方が多いが、結構表情豊かなのだ。

 

しかし大爆笑しているところなんてのは見たことがない。

基本微笑だからな、アイツ。

 

「…ショコラ、飯の時間少し遅れるけど大丈夫か?」

「ど、どれくらい遅れるんですか…?」

「いやそんな戦々恐々としなくても…三十分くらいかな」

「ならだいじょうぶです!…けど、何かあったんですか?」

「…女の子笑わせる方法でも探そうかと思ってな」

 

ネットは便利である。

どんな情報でも、基本的に調べれば出てくるのだ。

人を笑わせる方法くらいは見つかるだろう。

 

ノートパソコンをテーブルに置き、早速検索してみる。

すると、上位の方に2つほど気になるものが出てきた。

 

「『女の子を笑わせる十の方法』…UOG出版か。買ってみるかな」

「あ、それでしたらもう買ってありますよ?」

「……その金は何処から?」

「あやしいお金じゃないですよ?神様も保証しています!」

「…だから信じられねぇんだよなぁ…」

 

俺の前に置かれた本に目を向ける。

…偽札で購入した、訳じゃねぇよな?

 

―――不安だしこれを読むのは最終手段にしよう。

 

「まずはこのサイトの情報からにするかな」

「あ、この本の筆者さんが書いたページみたいですね!l

「え?…あ、本当だ。検索上位に来るほどだし、結構参考になるようなことが書いているんだろうな」

『初めに。 女の子の笑顔は尊い物です。可愛い子の笑顔は、もはや国宝と言って差し支えないでしょう。―――しかし、そんな笑顔を自分に向けてくれる子が居ない…そんなあなたにこの記事を作成しました。是非役立ててください』

 

語り口はまともそうだな。

これはかなりいい内容が書いていると期待しても良さそうだ。

 

『その1。くすぐる』

「いや身も蓋もねぇな!」

『解説。私の著書『女の子を笑わせる十の方法』に、くすぐり四十八手を記載してます。是非参考にしてみて下さい!』

「販促してんじゃねぇ!……そしてくすぐり四十八手ってなんだよ!?」

『その2。自分含め、周囲の人間と一緒に爆笑する』

「ん?…あぁ、つられて笑うのを狙うってことか。確かにみんなが笑ってたら自然と笑っちまうのもわかるが…」

『解説。実際にやってみましたが、笑っている内に本来の目的を忘れて腹筋崩壊してしまったので、あまりおすすめしません』

「じゃあ書くなよ!」

『その3。自分の思い出話をする』

「思い出…あれか、自分が面白いと思った出来事を実際に話してみるってことか」

『解説。あなたの思い出話なら、どの話をしても爆笑間違いなしでしょう』

「うるせぇよ!バカにしてんのか!」

『補足。私は女の子の涙が見たくて自分の体験した感動できるような思い出話をしてみましたが、滅茶苦茶爆笑されました。結果的に涙は見れましたが、釈然としません』

「知らねぇよ!ってか涙が見たかったってなんだよ!?」

『あ、是非『女の子を泣かせる十の方法』も買ってくださいね!』

「なんだそのゲスの読むような本!?絶対買わねぇからな!?」

 

適当に読み進めていくが、結局まともなアドバイスは何処にも書いていなかった。

まともそうに書いていても、解説の所でふざけたりされるだけで、実際にやってみようと思うものは何一つなかった。

 

―――本当は本の方も見てみようかと思ったが、コイツが書いた本に読む価値はないだろうという事で封印しておくことにした。

 

もし明後日が来るまでに笑わせられそうに無かったら、最終手段をこの中から選出することにしよう。

 

大きくため息をついてから、優しく微笑んでショコラを見る。

すると、よくわからない、という風に首を傾げ、笑みを返してきた。

 

…あぁ、癒された。

 

「………ご飯に、しようか」

「はい!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ウィイイイイイイッス!!」

「…お前、朝から元気だなぁ…おはよ」

「あはは…天久佐君今日も平常運転だね…おはよう」

 

違う。これは選択肢のせいだ。

因みにもう一方の方だったらドギツイ下ネタだった。

ふり幅でかくない?

 

―――って、アレ?

 

「五百円玉…?こんなところに普通あるか?」

 

何故か廊下に、五百円玉が落ちていた。

しかも、先程まで視界に無かったはずが、突然現れたのだ。

 

恐らく選択肢関係なのだろうが…なんか、あったっけか?

 

「――あ。そこそこ良い事が起こるってやつか?」

 

思い当たる節があった。

確か昨日、先生と話している最中に突然媚びを売るように現れて、そのまま何もなく終わっていた。

それが今になって出て来るとは…しかも五百円玉として。

 

まぁ、金はいくらあってもいいので、ありがたく頂戴させてもらうが。

 

「おはよ……は?」

 

教室の扉を開け、入ろうとした時に、再び脳内に選択肢が現れた。

その内容もまた、中々にふざけたものだった。

 

「はぁ……パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・チプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・ピカソォ!!」

「きゃぁあああ!?」

「ま、また天久佐が変な事始めたぞ!?」

「ブリッジでなんか言いながら徘徊してる!?」

「め、目がマジだ…!」

 

選択肢の内容は極めて単純。

『パブロ・ピカソの本名を叫びながら教室内をブリッジで徘徊』という物だった。

 

因みにもう一つの方は『好きな偉人ランキングを解説込みで百位から発表しつつ教卓の上でドラミング』だった。

俺に、ブタの次はゴリラになって欲しかったようだが…生憎、ピカソの本名はしっかり覚えてたんだよなぁ…

 

これで覚えてなかったら百位から解説込みで発表かつドラミングだったと思うと、ゾッとするどころでは済まない。

 

「……おはよう、天久佐君」

「おはよ、雪平…今日はブタ野郎でもウジ虫野郎でもないんだな」

「あら、そう呼ばれる方がお好み?なら親しみを込めてマゾブタウジ虫野郎と」

「すまん俺が悪かった普通に天久佐君でいいからマジで心抉りに来るのやめて最近追い込まれ気味なんだから」

「……大丈夫なの?」

 

早口でまくし立てるようにしながら頭を下げた俺に、雪平から若干引いた様子の声が聞こえてくる。

…追い込まれ気味って言ったから、心配してくれてるのか?

事情を知らないコイツからしてみれば、奇行は自ら行ってるように見えるだろうに?

 

それでも心配してくれるってお前…やはり雪平女神説は正しかったのでは?

 

「大丈夫だ…いや、冗談相手にマジになってる時点で駄目だよな…」

「…その、本当に体調が悪いなら保健室とか…」

 

結構本気で心配してくる雪平に、涙が出そうなくらい感動する。

普段は俺に平然と毒吐いて来るし下ネタしかけてくるけど、こういう時はちゃんといい奴なんだよなぁ…

 

【選べ】

 

…あのさ、流石に空気読もうよ。

 

【①「大丈夫だから心配しなくていいぞ」と雪平の頭を撫でながら答える。確率で謎の感染症にかかる ②「だいじょばねぇよ!!」と自分の頭を叩いてキレる。確率で教室内の誰かが奇病にかかる】

 

②最近ふざけすぎじゃね?

なんかもう、選ばれないの前提って感じしてない?

 

――つーか謎の感染症って何だよ。

現代医学で何とかなるやつ…なんだよな?

 

「大丈夫だから心配しなくていいぞ」

ひゃ、ひゃっ!あたまぁ…!?

「…すまん。んな声出してまで嫌がるとは思ってなかった」

 

一度心の中で謝罪の礼をしてから雪平の頭を撫でたが、普段のコイツからは考えられないような声を出して(その上物凄く顔を赤くして目を見開いて)驚かれた…いや、嫌がられた為、普通に声に出して謝る。

 

しかし、選択肢の傀儡となった俺に身体の自由などはなく。

先程雪平の頭部へと伸ばされた右手は、依然として撫でまわし続けていた。

 

い、いやとかそういうのじゃなくて…

 

なにこのかわいい生き物。

 

普段の珍発言のせいで忘却の彼方へと去っていたが、雪平の容姿は人並み以上に端麗だった。

それも可愛らしい系の方向で。

 

そこにこの反応ときたらもう、破壊力は計り知れないものになった。

少なくとも俺の中の何かが数百回は壊れた。

 

――あ、もう自由に動く。

もう少し反応を見たい気もするが、流石にこれ以上は色々と駄目だろう。

 

「…あー、その。なんだ?いきなり頭撫でたのはすまんかった。つい、な」

「…う、うぅ……」

 

返事はない。

ただ、か細いうめき声が聞こえてくるだけだ。

 

どうやら、それほどまでに嫌だったらしい……本人は俺を気にしてか嫌とかそういうのではない、と言っていたが。

 

…やべぇ、まじで申し訳ねぇ。

これはもう諦めて教室内の誰かに奇病になってもらった方が良かったのでは…?

 

【選べ ①今がチャンス。いっそ告白してみる。 ②鳴いている途中で地理に目覚めたオットセイのモノマネを披露し、笑いを誘う】

 

うわっ、どっちもどっちだなぁオイ。

 

①の方はもはや論外である。

どこをどうとらえれば脈ありと判断できるんだこの反応。

そして好きでもない子相手に告白するような気は毛頭ないぞ俺。

 

そして②。

恐らくミッション関係で笑いを取ろうと提案してくれているのだろうが、全然ネタから面白い気配がしない。

なんだ、『オウッオウッ、奥羽山脈!』とかやればいいのか?

駄洒落好きの俺で無けりゃ笑わんぞこんなの。

 

…しかし、痛い。さっさと決めろという事らしい。

えぇ…まだ雪平は平常時に戻ってないし、その上この普段とはあり得ない表情を見せる雪平に教室中の生徒の視線が集まっているっていうのに、その中でスベリ芸を披露するってのか?

 

「ゆ、雪平って…」

「お断り5、だけど…中々…」

「ま、まぁ見た目は元々…ねぇ…?」

「い、いま天久佐が撫でてああなったって事はつまり…」

「そういう事、なの?」

 

段々静まり返っていた教室内が騒がしくなり始める。

そのどれもが雪平についての話だった。

 

そりゃ普段から真顔で毒か下ネタ吐いてるような女が急に可愛らしくなったらこうなって当然だろうな。

俺だって選択肢云々が無かったら叫んでるだろうし。

 

っていうかその『そういう事』ってなんですかね。

俺の掌で女性を豹変させる謎の液体でも分泌されてるって事なの?

もしそう言ってるなら、俺は一般的な人間と変わらないと声を大にして説明したいんだけど。

 

「雪平ァ!!」

「ぴゃっ!?」

 

―――諦めよう。

どうせスベるなら派手に行ってやる。

 

…つーかさっきから可愛い声だすなぁコイツ。

 

「俺の『鳴いている途中で地理に目覚めたオットセイのモノマネ』を見ろ…!」

えっ、え?天久佐君?

「なんだなんだ?また奇行か?」

「この状況でやるのか…」

「すげぇよアイツ。俺だったら無理だもん」

「これはコアなファンができますわ」

 

どんなファンなんだよ俺のファンって。

真面目に気になるから後で教えてくれない?

 

そんなセリフを心の中に押しとどめ、地面にうつぶせで這いつくばる。

…だって、オットセイは『こう』だからな。

 

「オウッ!オウッオウッ、奥羽山脈!!」

 

掌を叩き合わせつつオットセイの如き鳴き声をあげたのち、手で足を掴み体をのけぞらせ、山の形を作る。

 

それはもはや、奥羽山脈と言っても差し支えなかった。

…いや一つだけで山脈はおかしいんだけどさ。

 

――だが、どうだ?選択肢に指示された内容とは言え、演技力でカバーしたギャグだ。せめて軽く笑うくらいは……

 

「…なにそれ」

 

全然ダメだった。

まぁ、当たり前なんだけどね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その後も、俺の意思とは関係無しにつまらないギャグを連発させられた。

…因みに、雪平はあのギャグの後で平常運転に戻った。

 

「雪平ァ!!」

「…何かしら、妖怪ギャグスベリー」

「ぐっ…『ふ、ふふ。あの朝のギャグは四天王の中でも最弱。この地震と共に生まれたゴリラのギャグで捧腹絶倒するがよい!』(『』内は選択肢によるセリフです)」

「…」

「ゴゴゴゴゴゴゴリラ!」

 

 

 

「雪平ァ!!」

「はぁ…何かしら、妖怪スゴクツマラナイギャグ・デ・スベルノスキー」

「悪化しておられる!?―――『ムヘヘ、俺のギャグがあの程度で終わりだと侮るなよ?この迫真のレジ●ガスにはお前の腹筋も表情筋も崩壊するに違いない!』」

「…」

「レレジジ、ガガガガガガ!」

「…」

「ンガンガフン↑フン↓ガガガガガガ!」

「…」

「ギー↑ガー↓ヴィンヴィンヴィンヴィン!ーーーヴィーン!エェン!イェエン!!」

 

 

「雪平ァ!!」

「…何かしら、レジスベリ」

「レジ系じゃねぇし!!―――『あれはただスロースタートだっただけだ。まだ奥の手は残っている…見せてやろう、渾身の…』ってちょっと!?雪平さーん!?」

 

 

俺のギャグを待つことなく、雪平は教室を出ていった。

すでに放課後。この機を逃せば俺の呪いは不滅となってしまう。

 

でもさっき披露させられそうになっていたネタは明かにつまらない物だったし、キャンセルされたのは純粋に助かった。

 

取り敢えず雪平を追いかけようと、屋上の方へ向かう。

―――屋上?なんで屋上に向かってるんだアイツ?

もう放課後なんだし、逃げるなら自宅方向では…?まぁ、おかげで雪平の家までストーキングせずにすんだんだけどさ。

 

「……あ?鍵?」

 

屋上に出るための扉を開けようとするが、鍵がかかっていた。

…あれ?でもさっき雪平が扉を開けた音が聞こえたよな…?

 

まぁ、あまり気にするほどの事でもないか。

今の問題はどうやってこの先に向かうかである。

職員室に行けば鍵があるのだろうが、生憎屋上に行くのはよほどの理由がない限り禁止されている。

宴先生に頼もうにも、今日は(選択肢のせいで)物凄く不機嫌にしてしまったので頼める雰囲気ではない。

 

【選べ】

 

…お?もしかして鍵が開く系の選択肢が来るのか?

 

【①なんか痛い発言をする ②超能力に目覚め、鍵を開けられる様になる。その代わり選択肢は永久不滅の物となる】

 

「昏く鎖されし天と地とを繋ぐ()よ、今こそ目覚めの刻!運命(さだめ)のままに、盟約に従いて、その封印(くさり)を解き放ち、現世(うつしよ)に再び永久の輝き(ひかり)を与えよ!!」

 

……しかし、何も起こらない。

 

「いやなんでこんな恥ずかしい事言わせたんだよ!?」

 

しかしそれらしいポーズをしたのは自分の意思だ。

…この歳になっても、まだ卒業できてなかったのだろうか?

 

「くそっ…誰にも聞かれてないよな…?」

 

【選べ ①想像を絶する物が見える代わりに扉が開く ②想像を絶する事が起きる代わりに鍵が現れる】

 

「どっちも嫌なんだけど!?―――ッ、いてて…」

 

催促されつつ、一度選択肢を確認する。

想像を絶するという所は変わりないが、物か事かは違う。

自分に対して起こるのか、はたまた自分以外の誰かが…という風に悩ませるような書き方に若干苛立つも、催促の痛みにすぐに怒りを忘れさせられる。

 

…仕方ない。何を見ることになっても、何かが起こるよりはマシだろう。

それに②だとなんの鍵が出て来るかもわからんしな。

これでこの扉と関係のない鍵が出てきたら大損だし。

 

「…お、開いた。――けどまだ何も見えて…ん?」

 

手が微塵も触れていないのにも関わらず、扉が勝手に勢いよく開いた。

 

選択肢の中に書いてあった『想像を絶する物』が未だに見えていない事に不安を覚えるが、すぐにその不安はある物によって無くなった。

 

「…雪、平?」

 

そう、雪平。

俺が先程からずっと追いかけていた少女で、ミッションにより心の底から笑わせねばならない相手である。

 

普段からあまり笑わない(笑ったとしてもにやけるか鼻で笑うかのどちらか)彼女は、毒舌も下ネタも真顔で吐くような、そんな奴…なの、だが。

 

「なんで四つん這いに…?」

 

四つん這い。

両手両足(足と言うよりは膝か)を地につけ、這いつくばる事を差す。

 

そんなポーズを……少なくとも雪平は絶対にしないであろうポーズを、何故かしていた。

 

なるほど、確かに想像を絶する物だ――と、自分の中の冷静な部分がそう呟く。

あの雪平が、まさか屋上で四つん這いになるなんて。

そんなの、天地が何度ひっくり返ってもあり得ないし想像できない物だった。

 

呆然と立ち尽くしていると、雪平が言葉を発した。

…俺に気づいている様子では無いし、恐らく独り言なのだろうが…一体、何を?

 

「はぁ…どうして、こうなっちゃうんだろう…」

 

―――一体、何を?

 

今朝聞いたようなあの可愛らしい声で、雪平は呟いた。

か細いながらも、俺と雪平以外誰も居ないこの場では、そんな声がかなり響いて聞こえた。

 

「絶対変な子だと思われてるよぉ…」

 

今にも泣き出しそうな声音に、自然と息がつまる。

 

いや、泣き出しそう、ではない。

 

その頬を伝い、床に涙が落ちていた。

既に何度か流された後なのか、その場所だけ若干湿っているように見える。

 

「で、でもでも、天久佐君だって悪いよね。普段は優しいしかっこいいしまともっぽいのに、突然脱ぎだすしふざけだすし…え、えっちな事だって言ってくるし…」

「ごはっ…!?」

 

意図せぬダメージに喀血。

でも否定できないのが悲しいところ。

 

お、俺だってまともでありたいわ!なんか脱がされるしふざけさせられるしセクハラさせられるけど、根はまともだわ!

 

「今日だって、なんかつまらない、全然面白くないギャグばかり言ってくるし…」

「ごぶっ…!?」

 

再び喀血し膝をつく。

さながらモーニングスターをボディでかつノーガードで受けたかのようなダメージだった。

 

…べ、別に俺が自分で考えたわけじゃねーし!選択肢の中でまともそうなの選んだだけだし!?――レジギガス以外は。

 

あの時だけ【なんか面白いと思う事を取り敢えずやってみる】って選択肢だったからな。

あれは自分で考えたやつだ。――面白いと思うんだけどなぁ…

 

「本当はもっと、天久佐君と普通に………で、でも…頭撫でてくれたのはちょっと、う、嬉しかったり…」

「あ、あのー。雪平ー?」

「今だって天久佐君の声が…幻聴まで聞こえるなんて、私…」

「いや居るんですけど?ほら、さっき受けた精神ダメージのせいで吐き出した血だってこの辺に残ってるし」

「…私、相当参ってるみたい…」

 

いや居るんですけど?

さっきまでは確かに気配消してたからまぁわかってなくてもおかしくないけど、今はもう普通に声かけてるし…気づかない方がおかしいのでは?

 

【選べ ①雪平の鼓膜を破壊するつもりで叫ぶ。叫ぶ内容は卑猥な物。 ②雪平か自分に、抱き着くか頭を撫でるかがランダムで発生。自分の場合は全裸の権藤大子さんが行ってくれるものとする】

 

すまん雪平。

どっちにしろお前も俺もダメージ受ける事になりそうだ。

 

「ひゃっ!?あ、頭…!?」

「あー…良かった。雪平かつ頭だった…」

 

諦めて②を選んだが、どうやら今回はツイていたらしい。

自然と伸ばされた手が雪平の頭部を優しく撫でているのを、安堵しながら眺める。

 

自分の手、なんだけどな。

 

「えっ…て、天久佐君!!?」

「よぉ雪平。――あー、これはだな。なんか落ち込んでる風に見えたからついやってしまっただけであって別にやましい気持ちとかは微塵もなく…あっ、何も聞こえてないから安心しろよ?ほんと、何も聞いてな」

「きゃああああああああああ!!!」

 

絶叫と共に、俺の頭部が鷲掴みにされ、そのまま地面にたたきつけられた。

 

意識が途切れる直前、雪平の手によって一部遮られている視界には、顔を真っ赤にし、涙を流している雪平が―――




IFルート 【②ショコラに仕事(意味深)を与える事で居候させる理由を作る】

「じゃ、そろそろ『いつもの』お願いするかな」
「はい!」

笑顔で返事をし、ショコラは『いつも使っているオイル』を胸元から取り出す。
そして、服を脱いで寝転がっている俺の上にまたがり、オイルに濡れた手を俺の体に触れさせた。

「では、さっそくはじめますね!」



あの時選択肢に出てきた『仕事(意味深)』。
その快楽に負け、俺は毎日のようにショコラに『ソレ』をさせていた。

最初の方こそ慣れていなかったためぎこちない所はあったが、今では乗り気でしてくれている。

「あ~…上手になったなぁ、ショコラ~」
「えへへー!こことかどうですかー?」
「おぉぉお~!」

本当、こっち選んで正解だったな。
『オイルマッサージ』って、一日の疲れ全部取ってくれるし…最高だな!




あ、別にやらしい事はしてないので悪しからず。
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