ピースギア ―観測者綾音の記録―   作:最上 イズモ

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EP04亡命

山岳地帯の隠れ家。

岩盤を貫く地下施設の作戦室で、簡易照明が白く揺れていた。

壁際には分解途中の武器と弾薬箱が並び、逃亡準備が最終段階に入っていることを物語っている。

 

ミハエル「今回の騒動……ここが亡命するタイミングだと思う」

 

その言葉に、空気が一段重くなった。

誰もが同じ結論に辿り着いていたが、口に出す覚悟が必要だった。

 

マリエ「……そうね。これ以上、ここに留まる理由はないわ」

 

モーリス「どのみち、この拠点も長くはもたない。世界周回鉄道に乗るしかないな」

 

ベラ「でも、この兵器の量よ。全部持って行くには多すぎない?」

 

アリサ「私が装甲車を出す。積めるだけ積めばいい」

 

綾音「じゃあ私とタンクのパワードスーツで先行護衛。駅に着いたら乗り捨てる形で」

 

エミリ「……タウロスが仕掛けてこなきゃいいけど」

 

ミハエル「駅に入れば、周回鉄道の管轄だ。原則、攻撃はできない。だが警戒は最大でいこう」

 

その瞬間だった。

外壁を震わせる衝撃音。

エネルギー兵器特有の焼けるような振動が施設を貫いた。

 

ミハエル「……やっぱり来たか」

 

タウロス合衆国。

ギルティ暗殺部隊。

狙撃担当、シーギャング。

 

二発目の光弾が外壁を抉る。

 

シーギャング「お前たちは、ここで消える運命だ。さっさと死ね」

 

ミハエル「久しぶりだな、シーギャング」

 

シーギャング「お前を捕らえた時以来だな。まだ生きていたとはな」

 

ミハエル「まあな。だが今回は付き合ってられん。俺たちは逃げる」

 

言葉と同時に行動が始まった。

綾音とミハエルはパワードスーツへ。

残りのメンバーは装甲車へ乗り込む。

 

AI兵器の牽制射撃が飛び交う中、装甲車は蛇行しながら山道を下る。

だが、シーギャングのポジトロンライフルが容赦なく追い縋った。

 

ミハエル「綾音、シーギャングを落とせ」

 

綾音「了解」

 

ロックオン。

誘導弾を放つ。

だが、シーギャングはそれを察知し、紙一重で回避した。

 

その直後、敵の攻撃が止んだ。

 

不気味な静寂。

 

やがて、世界周回鉄道の駅が視界に入る。

しかし、安堵する暇はなかった。

 

AI兵器「ソコノ、ギルティ。トマレ」

 

無機質な声。

四方から現れるAI兵器。

 

綾音「……囲まれた。どうする?」

 

カエデ「悟られる可能性は高いですが……やるしかありません」

 

瞬間、カエデのATFが展開される。

透明な防護フィールドが弾丸を弾き、同時に装甲車の内部から武器が射出される。

精密射撃。

無駄のない破壊。

 

AI兵器が次々と沈黙していく。

 

その光景に、綾音以外の全員が言葉を失った。

 

ミハエル「……なあ。変なこと聞いていいか?」

 

綾音「なに?」

 

ミハエル「お前たち、転生者だろ」

 

綾音「ええ。捕まってた時に話は合わせたけど」

 

ミハエル「やっぱりな。ピースギア製とはいえ、性能が異常すぎる」

 

綾音「第2波が来る前に乗りましょう」

 

ミハエル「ああ」

 

搭乗手続きを終え、ホームに立つ。

巨大な列車が、静かに滑り込んできた。

 

駅構内アナウンス「まもなく10時ちょうど発、南回りピースギア・ホライズン行きが発車致します。危険ですので駆け込み乗車はおやめください」

 

ドアが閉まり、空気が抜ける音が響く。

 

車内アナウンス「発車致します。この区間は超真空走行となります。危険ですのでお立ちにならないでください」

 

綾音「……この世界の地下鉄、すごいね」

 

ミハエル「ああ。世界中の都市を繋いでいるからな」

 

綾音「飛行機みたい」

 

ミハエル「航空機は軍事用途だけだ」

 

次の瞬間、激しい衝撃。

非常停止。

身体が宙に浮く感覚。

 

綾音「っ……なに!?」

 

車内アナウンス「超真空レールが破壊されました。乗客の皆様は床の案内に従い、非常避難用トンネルへ避難してください」

 

ミハエル「……犯人は、あいつらだろうな」

 

トンネルの闇から銃声が響く。

 

ミハエル「オクトパス……お前もか」

 

オクトパス「ピースギアには行かせん。死ねぇ!」

 

弾幕が迫る。

カエデのATFがそれを防ぐが、一発がベラの肩を掠めた。

 

綾音「ベラ!」

 

ベラ「大丈夫……問題ない」

 

エミリ「キャット、動かないで。今、処置する」

 

エミリは障害物を盾にしながら、固定砲と銃で反撃する。

カエデの放った一弾が、オクトパスの頭部を撃ち抜いた。

 

カエデ「今のうちに、逃げてください」

 

綾音「……わかった」

 

地下通路を抜けると、ピースギアの軍事施設が見えた。

数名の兵士が銃を構える。

 

ジュナス「止まれ。名前と目的を言え」

 

ミハエル「話は通してあったはずだが」

 

そこへ、上官らしき人物が現れる。

 

カゲミ「アンドレイ、下がれ。こいつらは味方だ」

 

ジュナス「えっ……失礼しました。昨日付けで配属されたもので」

 

カゲミ「ギルティの皆さん。ハル三佐がお呼びです。来ていただけますか?」

 

ミハエル「ああ。世話になる」

 

タウロス合衆国北部山岳圏。

標高三千を超える稜線の陰で、シーギャングは狙撃用観測端末を覗き込んでいた。

冷たい風が装甲外套を叩くが、呼吸も脈拍も乱れない。

長距離狙撃と暗殺に特化した彼の身体は、すでに環境の一部と化していた。

 

シーギャング「……見つけた」

 

岩盤内部に走る微弱な熱反応。

擬装フィールド越しでも、逃走準備に伴う電力変動は誤魔化しきれない。

ギルティ暗殺部隊にとって、これは決定的な兆候だった。

 

シーギャング「対象はミハエル。他、複数名。亡命準備中と判断する」

 

通信回線の向こうで、オペレーターが短く応答する。

 

オペレーター「排除許可。ただし、世界周回鉄道への接近は阻止せよ」

 

シーギャングはポジトロンライフルを肩に当てた。

引き金にかけた指に、ためらいはない。

彼にとって人を撃つことは、呼吸と同じだった。

 

シーギャング「……始める」

 

一発目。

警告を兼ねた外壁破壊。

二発目で、逃走を確信させる。

 

地下施設がざわつく様子が、振動として伝わってくる。

案の定、連中は散開し始めた。

 

シーギャング「動いたな」

 

装甲車。

パワードスーツ二機。

AI兵器による牽制。

 

だが、問題はそこではなかった。

照準を合わせた瞬間、異様な違和感が走る。

 

シーギャング「……速い」

 

綾音の機体。

回避運動が、戦場の常識を逸脱している。

誘導弾を放たれた瞬間、彼は反射的に跳んだ。

 

シーギャング「ちっ……感づかれたか」

 

弾道予測。

反応速度。

どれも、人間の域を超えている。

 

シーギャング「転生者……か」

 

かつて、タウロス情報部で噂として聞いた存在。

理不尽な性能を持ち、戦局を歪める異物。

 

シーギャング「だが、逃がすわけにはいかん」

 

追撃態勢に入ろうとした瞬間、上位指令が割り込んだ。

 

管制AI「これ以上の追撃は不要。駅周辺は別部隊が封鎖する」

 

シーギャングは舌打ちし、狙撃位置を放棄した。

逃走を許した事実が、胸の奥に小さな苛立ちとして残る。

 

シーギャング「……次はない」

 

一方、世界周回鉄道の地下区画。

オクトパスは、超真空レール制御室の影に身を潜めていた。

サブマシンガンを抱え、荒い呼吸を抑えきれずにいる。

 

オクトパス「クソ……。なんで俺がこんな役回りなんだ」

 

彼は暗殺者ではない。

近接戦闘と破壊工作を任される、強襲要員だ。

だが今回の任務は、彼にとって明確な私怨を含んでいた。

 

オクトパス「ピースギアに行かせるな。それだけだ……それだけでいい」

 

レール破壊。

緊急停止。

混乱。

 

計画通りだった。

 

オクトパス「来たな……」

 

避難トンネルに現れる人影。

その中心に、見覚えのある顔。

 

オクトパス「ミハエル……!」

 

怒りが、引き金を引かせた。

 

オクトパス「ピースギアには行かせん。死ねぇ!」

 

弾幕。

だが、透明な防護フィールドが展開される。

 

オクトパス「なに……っ!?」

 

ATF。

噂には聞いていたが、実物は初めてだ。

弾が、弾かれている。

 

オクトパス「ふざけるな……!」

 

さらに撃つ。

その瞬間、肩をかすめる反撃弾。

続けて、頭部に走る衝撃。

 

視界が反転する。

 

オクトパス「……クソ……」

 

床に倒れ込みながら、彼は理解した。

自分は、もう時代遅れなのだと。

 

遠くで、撤退を告げる信号が鳴る。

 

管制AI「作戦失敗。対象はピースギア管轄へ移動」

 

その報告は、タウロス中枢にも届いていた。

 

司令官「……また、ピースギアか」

 

シーギャングは報告書を閉じ、静かに立ち上がる。

 

シーギャング「次は、俺が仕留める」

 

敵は、確実に境界線を越えた。

そしてタウロスは、それを許さない。

 

 

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