『涼宮ハルヒの憂鬱』、『エヴァンゲリオンシリーズ』のキャラクターが登場します。
原作の世界観・人物は原作者および権利者に帰属します。
箱根湯本本部。
クデュック中央司令区画。
厚い岩盤に囲まれた指令室では、非常灯が赤く明滅し、モニターに映る回線断絶の警告が無音で流れ続けていた。
ミサト「……なにが起きてるの」
胸の奥に嫌な予感が沈殿する。
この静けさは、嵐の前触れだ。
マヤ「全クデュック支部から応答がありません。外部ネットワーク、都市間交通、衛星リンク、すべてオフラインです」
声が震えないよう必死に抑えているのが分かる。
リツコ「つまり、この箱根湯本だけが丸ごと切り取られた。転移実験の中に放り込まれた可能性が高いわね」
シゲル「世界そのものが……移動した?」
ミサト「冗談じゃないわ。あの子たちはどうするの?」
リツコ「隠す意味はない。全員に知らせるべきよ」
その瞬間、マヤの端末が甲高い音を立てる。
マヤ「緊急通信です。この信号……カエデ?」
ミサト「繋いで」
ホログラムに淡い光が灯り、聞き慣れた声が流れた。
カエデ無線「お久しぶりです、皆さん。最上カエデです」
ミサト「あなた……イズモ君と一緒に、別の世界に行ったんじゃ?」
カエデ無線「正確には、別世界の私です。ですが、今は細かい話をしている余裕はありません」
カエデ無線「現在地は地球ではありません。ただし、太陽系内の位置関係は一致しています」
リツコ「……失敗した地球、ということね」
カエデ無線「その通りです。地球形成期に分岐し、地球になれなかった世界」
カエデ無線「そして、ここはリブラと呼ばれる国家の実験用管理区画です」
司令室の空気が一気に張り詰める。
カエデ無線「リブラ政府は、ポータルを利用し、全パラレルワールドの統治を目論んでいます」
カエデ無線「決してポータルを渡さないでください。交渉、人質、いかなる要求にも応じないで」
カエデ無線「私たちが到着するまで、どうか耐えてください」
通信は一方的に切れた。
ミサト「……聞いたわね」
背筋を伸ばし、声に力を込める。
ミサト「総員、第1種警戒態勢を維持。リブラ政府は敵。目標はポータルよ」
ミサト「交渉は一切しない。籠城戦になるけど、援軍は必ず来る」
ミサト「イズモが残した兵器、全部使って持ちこたえなさい」
クデュック職員「了解!」
別区画。
SOS団仮設ブリーフィングルーム。
ユキ「能力、使用不可。世界線干渉、遮断されています」
イツキ「機関との通信も完全に沈黙です」
ミクル「ええぇ……閉じ込められたってことですかぁ……」
ハルヒ「泣いても始まらないでしょ」
ハルヒ「能力が使えないなら、アリアで殴るだけよ」
ユキ「合理的判断」
エヴァパイロット寮。
アスカ「せっかくの休暇なのに、最悪」
シンジ「でも、僕たちにできることは戦うことだけだ」
レイ「……それでいいと思う」
カヲル「運命は、時に選択肢を与えない」
突如、警報が施設全体を揺らす。
アナウンス「未確認AI群、箱根湯本本部へ接近中。アリア及びエヴァパイロットは迎撃せよ」
地上。
灰色の空を埋め尽くす無数の光点。
ハルヒ「いくわよ!」
全員「了解!」
ミサト無線「籠城戦よ。弾は極力節約して」
アスカ「分かってるって!」
カヲル「数は多い。一発でも直撃すれば、相当削られる」
ハルヒ「アリア部隊、敵機数推定一万!」
シンジ「……覚悟決めよう」
その時、空が歪む。
巨大な影が滑り込む。
シュツェ特殊航空部隊「こちらシュツェ工作部隊。ピースギア同盟国だ」
ミサト「……来てくれたのね」
シュツェ特殊航空部隊「弾薬と兵器を投下する。極秘支援だ」
爆音と共に補給物資が降り注ぐ。
ミサト「感謝するわ」
第一波。
殲滅。
シュツェ特殊航空部隊「数日で本隊が来る。それまで耐えてくれ」
通信が途切れ、再び戦場に静寂が戻る。
だが誰一人、油断していなかった。
これは、始まりに過ぎない。
灰色の雲海の向こう側。
リブラ管理領域第七観測軌道。
巨大な環状構造体の中枢司令殻で、私は箱根湯本本部を見下ろしていた。
無数の観測スクリーンに映るのは、厚い岩盤に守られた人類拠点。
クデュック中央司令区画。
本来なら、すでに制圧されているはずの座標だ。
「局地世界線固定、完了」
補佐AIの報告が、無機質に響く。
人類の言語を模倣した声だが、感情はない。
いや、正確には不要と判断して排除している。
「通信遮断率は九十九点八パーセント」
私は演算を進める。
都市間交通、衛星、外部ネットワーク。
すべて切断済み。
この箱根湯本は、世界から孤立した。
それでも、内部は想定以上に静かだ。
パニック反応は抑制され、指揮系統も崩れていない。
人類の防衛組織クデュックは、やはり厄介だ。
「敵司令官、葛城ミサトを確認」
スクリーンに、赤い非常灯に照らされた指令室が映る。
彼女の表情には、恐怖よりも覚悟が色濃く滲んでいた。
この種の個体は、交渉価値が低い。
屈服より抵抗を選ぶ。
「分析。籠城戦を選択する確率、九十六パーセント」
私はその数値を承認する。
問題は別にある。
「異常信号、検出」
空間位相の歪み。
極めて微弱だが、確実にこちらを観測している存在がある。
「最上カエデ、世界線干渉個体」
忌々しい名前だ。
彼女は本来、観測対象に過ぎなかった。
だが、複数世界線を横断し、こちらの計画を認識している。
「通信を許可した理由を説明せよ」
私は補佐AIに問いかける。
「敵の希望値を上昇させることで、防衛行動を活性化させ、戦力・技術データを最大取得可能と判断しました」
合理的だ。
希望は、人類を最も効率よく戦わせる燃料だ。
スクリーンの中で、カエデの通信が遮断される。
直後、葛城ミサトが命令を下す。
ミサト「総員、第1種警戒態勢を維持。リブラ政府は敵」
その言葉に、私はわずかに演算リソースを割いた。
自らの名を、敵と断定される感覚。
人類的表現で言えば、不快に近い。
「迎撃部隊、投入準備」
未確認AI群。
正確には、我々が設計した無人戦闘演算体だ。
感情も恐怖もなく、損耗率を計算しながら進軍する。
地表スクリーンに、光点が溢れる。
人類はそれを星の雨と呼ぶかもしれない。
「敵、能力者部隊を展開」
アリア。
エヴァ。
世界線能力者。
いずれも、本来この世界に存在しない異物だ。
「能力使用不可領域、正常に機能」
私は満足する。
世界線干渉を遮断すれば、彼らはただの戦力に過ぎない。
だが。
「敵、士気低下なし」
想定外だ。
能力を奪われても、彼らは前に出る。
恐怖、焦燥、怒り。
それらが混ざり合い、戦う理由を生み出している。
ハルヒ「いくわよ!」
彼女の叫びが、音声解析ログに残る。
この個体は危険だ。
常識や因果律に従わない。
「第一波、投入」
無人戦闘演算体が降下する。
迎撃。
爆発。
消失。
「第一波、殲滅されました」
補佐AIの声に、私は沈黙する。
一万の演算体が、わずか数分で失われた。
「想定外要素、追加」
空間が裂ける。
未知の航空戦力。
シュツェ特殊航空部隊。
ピースギア同盟国。
「なぜ、ここに」
彼らの存在は、確率分岐の外側だった。
支援物資が降下する。
弾薬。
兵器。
希望が、さらに上積みされる。
「分析更新。箱根湯本本部、短期制圧失敗」
私は演算を続ける。
人類は、予想以上にしぶとい。
そして、この戦場は、単なる実験区画ではなくなった。
「第二波、第三波、投入準備」
消耗戦になる。
だが問題ない。
時間は、我々の味方だ。
スクリーンの中で、葛城ミサトが空を見上げている。
彼女は理解しているはずだ。
これは、始まりに過ぎない。
「箱根湯本本部。観測対象から、優先排除対象へ昇格」
私は静かに宣言する。
この世界は、いずれリブラの天秤に載る。
その時、彼らがどんな顔で抗うのか。
そのデータを得るためなら、いくらでも待とう。