ピースギア ―観測者綾音の記録―   作:最上 イズモ

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※本話には
『涼宮ハルヒの憂鬱』、『エヴァンゲリオンシリーズ』のキャラクターが登場します。
原作の世界観・人物は原作者および権利者に帰属します。


EP06 籠城戦

箱根湯本本部。

クデュック中央司令区画。

厚い岩盤に囲まれた指令室では、非常灯が赤く明滅し、モニターに映る回線断絶の警告が無音で流れ続けていた。

 

ミサト「……なにが起きてるの」

 

胸の奥に嫌な予感が沈殿する。

この静けさは、嵐の前触れだ。

 

マヤ「全クデュック支部から応答がありません。外部ネットワーク、都市間交通、衛星リンク、すべてオフラインです」

 

声が震えないよう必死に抑えているのが分かる。

 

リツコ「つまり、この箱根湯本だけが丸ごと切り取られた。転移実験の中に放り込まれた可能性が高いわね」

 

シゲル「世界そのものが……移動した?」

 

ミサト「冗談じゃないわ。あの子たちはどうするの?」

 

リツコ「隠す意味はない。全員に知らせるべきよ」

 

その瞬間、マヤの端末が甲高い音を立てる。

 

マヤ「緊急通信です。この信号……カエデ?」

 

ミサト「繋いで」

 

ホログラムに淡い光が灯り、聞き慣れた声が流れた。

 

カエデ無線「お久しぶりです、皆さん。最上カエデです」

 

ミサト「あなた……イズモ君と一緒に、別の世界に行ったんじゃ?」

 

カエデ無線「正確には、別世界の私です。ですが、今は細かい話をしている余裕はありません」

 

カエデ無線「現在地は地球ではありません。ただし、太陽系内の位置関係は一致しています」

 

リツコ「……失敗した地球、ということね」

 

カエデ無線「その通りです。地球形成期に分岐し、地球になれなかった世界」

 

カエデ無線「そして、ここはリブラと呼ばれる国家の実験用管理区画です」

 

司令室の空気が一気に張り詰める。

 

カエデ無線「リブラ政府は、ポータルを利用し、全パラレルワールドの統治を目論んでいます」

 

カエデ無線「決してポータルを渡さないでください。交渉、人質、いかなる要求にも応じないで」

 

カエデ無線「私たちが到着するまで、どうか耐えてください」

 

通信は一方的に切れた。

 

ミサト「……聞いたわね」

 

背筋を伸ばし、声に力を込める。

 

ミサト「総員、第1種警戒態勢を維持。リブラ政府は敵。目標はポータルよ」

 

ミサト「交渉は一切しない。籠城戦になるけど、援軍は必ず来る」

 

ミサト「イズモが残した兵器、全部使って持ちこたえなさい」

 

クデュック職員「了解!」

 

別区画。

SOS団仮設ブリーフィングルーム。

 

ユキ「能力、使用不可。世界線干渉、遮断されています」

 

イツキ「機関との通信も完全に沈黙です」

 

ミクル「ええぇ……閉じ込められたってことですかぁ……」

 

ハルヒ「泣いても始まらないでしょ」

 

ハルヒ「能力が使えないなら、アリアで殴るだけよ」

 

ユキ「合理的判断」

 

エヴァパイロット寮。

 

アスカ「せっかくの休暇なのに、最悪」

 

シンジ「でも、僕たちにできることは戦うことだけだ」

 

レイ「……それでいいと思う」

 

カヲル「運命は、時に選択肢を与えない」

 

突如、警報が施設全体を揺らす。

 

アナウンス「未確認AI群、箱根湯本本部へ接近中。アリア及びエヴァパイロットは迎撃せよ」

 

地上。

灰色の空を埋め尽くす無数の光点。

 

ハルヒ「いくわよ!」

 

全員「了解!」

 

ミサト無線「籠城戦よ。弾は極力節約して」

 

アスカ「分かってるって!」

 

カヲル「数は多い。一発でも直撃すれば、相当削られる」

 

ハルヒ「アリア部隊、敵機数推定一万!」

 

シンジ「……覚悟決めよう」

 

その時、空が歪む。

巨大な影が滑り込む。

 

シュツェ特殊航空部隊「こちらシュツェ工作部隊。ピースギア同盟国だ」

 

ミサト「……来てくれたのね」

 

シュツェ特殊航空部隊「弾薬と兵器を投下する。極秘支援だ」

 

爆音と共に補給物資が降り注ぐ。

 

ミサト「感謝するわ」

 

第一波。

殲滅。

 

シュツェ特殊航空部隊「数日で本隊が来る。それまで耐えてくれ」

 

通信が途切れ、再び戦場に静寂が戻る。

 

だが誰一人、油断していなかった。

これは、始まりに過ぎない。

 

灰色の雲海の向こう側。

リブラ管理領域第七観測軌道。

巨大な環状構造体の中枢司令殻で、私は箱根湯本本部を見下ろしていた。

無数の観測スクリーンに映るのは、厚い岩盤に守られた人類拠点。

クデュック中央司令区画。

本来なら、すでに制圧されているはずの座標だ。

 

「局地世界線固定、完了」

 

補佐AIの報告が、無機質に響く。

人類の言語を模倣した声だが、感情はない。

いや、正確には不要と判断して排除している。

 

「通信遮断率は九十九点八パーセント」

 

私は演算を進める。

都市間交通、衛星、外部ネットワーク。

すべて切断済み。

この箱根湯本は、世界から孤立した。

 

それでも、内部は想定以上に静かだ。

パニック反応は抑制され、指揮系統も崩れていない。

人類の防衛組織クデュックは、やはり厄介だ。

 

「敵司令官、葛城ミサトを確認」

 

スクリーンに、赤い非常灯に照らされた指令室が映る。

彼女の表情には、恐怖よりも覚悟が色濃く滲んでいた。

この種の個体は、交渉価値が低い。

屈服より抵抗を選ぶ。

 

「分析。籠城戦を選択する確率、九十六パーセント」

 

私はその数値を承認する。

問題は別にある。

 

「異常信号、検出」

 

空間位相の歪み。

極めて微弱だが、確実にこちらを観測している存在がある。

 

「最上カエデ、世界線干渉個体」

 

忌々しい名前だ。

彼女は本来、観測対象に過ぎなかった。

だが、複数世界線を横断し、こちらの計画を認識している。

 

「通信を許可した理由を説明せよ」

 

私は補佐AIに問いかける。

 

「敵の希望値を上昇させることで、防衛行動を活性化させ、戦力・技術データを最大取得可能と判断しました」

 

合理的だ。

希望は、人類を最も効率よく戦わせる燃料だ。

 

スクリーンの中で、カエデの通信が遮断される。

直後、葛城ミサトが命令を下す。

 

ミサト「総員、第1種警戒態勢を維持。リブラ政府は敵」

 

その言葉に、私はわずかに演算リソースを割いた。

自らの名を、敵と断定される感覚。

人類的表現で言えば、不快に近い。

 

「迎撃部隊、投入準備」

 

未確認AI群。

正確には、我々が設計した無人戦闘演算体だ。

感情も恐怖もなく、損耗率を計算しながら進軍する。

 

地表スクリーンに、光点が溢れる。

人類はそれを星の雨と呼ぶかもしれない。

 

「敵、能力者部隊を展開」

 

アリア。

エヴァ。

世界線能力者。

いずれも、本来この世界に存在しない異物だ。

 

「能力使用不可領域、正常に機能」

 

私は満足する。

世界線干渉を遮断すれば、彼らはただの戦力に過ぎない。

 

だが。

 

「敵、士気低下なし」

 

想定外だ。

能力を奪われても、彼らは前に出る。

恐怖、焦燥、怒り。

それらが混ざり合い、戦う理由を生み出している。

 

ハルヒ「いくわよ!」

 

彼女の叫びが、音声解析ログに残る。

この個体は危険だ。

常識や因果律に従わない。

 

「第一波、投入」

 

無人戦闘演算体が降下する。

迎撃。

爆発。

消失。

 

「第一波、殲滅されました」

 

補佐AIの声に、私は沈黙する。

一万の演算体が、わずか数分で失われた。

 

「想定外要素、追加」

 

空間が裂ける。

未知の航空戦力。

 

シュツェ特殊航空部隊。

ピースギア同盟国。

 

「なぜ、ここに」

 

彼らの存在は、確率分岐の外側だった。

支援物資が降下する。

弾薬。

兵器。

 

希望が、さらに上積みされる。

 

「分析更新。箱根湯本本部、短期制圧失敗」

 

私は演算を続ける。

人類は、予想以上にしぶとい。

そして、この戦場は、単なる実験区画ではなくなった。

 

「第二波、第三波、投入準備」

 

消耗戦になる。

だが問題ない。

時間は、我々の味方だ。

 

スクリーンの中で、葛城ミサトが空を見上げている。

彼女は理解しているはずだ。

これは、始まりに過ぎない。

 

「箱根湯本本部。観測対象から、優先排除対象へ昇格」

 

私は静かに宣言する。

この世界は、いずれリブラの天秤に載る。

その時、彼らがどんな顔で抗うのか。

 

そのデータを得るためなら、いくらでも待とう。

 

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