ピースギア ―観測者綾音の記録―   作:最上 イズモ

7 / 10
第2次AI戦争
EP07  第二次AI戦争


時間はEP05の戦闘から一日後。

灰色の雲が低く垂れ込める前線拠点。

臨時設営された作戦区画では、スプリングラビッツ隊が次の戦いに向けて動き出していた。

 

ハル「ギルティのみんなは、ちゃんと休めた?」

 

隊舎の中央で、アルス=ハルは一人ひとりの顔を確かめるように視線を巡らせる。

疲労は残っている。

それでも、誰も目を伏せなかった。

 

綾音「ええ、ハルさんのおかげで。短い時間でしたけど、心身ともに整えられました」

 

その声には、前線に立つ者特有の静かな覚悟が滲んでいる。

ハルは小さくうなずいた。

 

ハル「今日から、確実に忙しくなる。だから休めたなら、それでよかった」

 

一拍置き、表情を引き締める。

 

ハル「ついさっき、ピースギアが正式に宣戦布告した。これから各地で大規模な衝突が始まる。私たちも攻撃準備に入るよ」

 

スプリングラビッツ隊「了解」

 

即答だった。

迷いはない。

各員はそれぞれの専門分野へ散り、武装、通信、支援、迎撃の最終チェックに入る。

 

同時刻。

アクリウス、アリウス、パイシーズの三勢力が、ピースギア側として参戦を表明。

各国と、タウロス、リブラの国境線では、すでに局地戦が発生していた。

 

アクリウス、リブラ国境付近。

荒野を切り裂くように、銃火と警告音が交錯する。

 

ジュナス「えっと……どっちに行けばいいの?」

 

混乱の最中、判断を誤った瞬間だった。

乾いた音とともに、ジュナスの身体が崩れる。

 

麻酔弾。

即効性の高い制圧用だ。

 

カゲミ「アンドレイ! 邪魔、射線に入るなって何度言えばわかる!」

 

苛立ちを隠さず叫びながら、カゲミは周囲を警戒する。

 

カゲミ無線「敵の攻撃でジュナスが睡眠状態。至急、救助班を要請する」

 

衛生兵「了解しました」

 

戦場は待ってくれない。

一瞬の判断ミスが、即座に命取りになる。

 

その頃、別空域。

カエデは高高度通信中継機から、クデュックへ直接回線を開いていた。

 

カエデ「こちらカエデ。あと数時間で、そちらの救出と援護が可能です。それまでイズモさんの兵器で耐えてください」

 

通信先では、箱根湯本本部が依然として包囲下にあった。

 

ミサト「了解。こっちはまだ持ちこたえてるけど、弾薬が厳しい。できるだけ早く補給か援護射撃をお願い」

 

カエデは即座に別回線を操作する。

 

カエデ「わかりました。アリサに空爆を要請しました。表層都市から地下都市へ避難してください。大きいのを落とすそうです」

 

ミサト「……N2?」

 

カエデ「そこまでの威力ではありません。でも、AIや人間がいる状態で箱根湯本本部の範囲に落ちたら、確実に致命傷です」

 

ミサト「了解。すぐに避難させる」

 

通信が切れた直後。

敵は切り札を投入してきた。

 

脳波ハッキング兵器。

直接思考に干渉し、意識と判断力を奪う非人道的装置だ。

 

ハル「ミンちゃん、行くよ」

 

ミン「うん」

 

二人は互いに目を合わせ、深く息を吸う。

ミンの歌声が、戦場に静かに響き始めた。

 

君へ(オリジナルソング)作詞 最上イズモ(うp主のペンネームの方)

 

歌詞:空を見上げて君のことを思う

君が今この空で大地で戦い続ける

このうたが君のもとであなたの心を癒せたなら

あなたの心におった深い傷跡、

直せないかもしれないけど

君のもとに行きたい

そして抱きしめたい

君のことを愛してる

 

空を見上げ君のもとに行きたいと願う

君が無事であってくれと願い私は歌う

このうたで勇気や希望が持てたなら

あなたの心をいやす力になりたい

君は来るなというかもしれないけれど

私は行きたい

君のためにさあ

私はこの歌をうたう

 

その歌は、恐怖に侵されかけた心を、わずかに引き戻していく。

 

歌は武器ではない。

だが、折れかけた心を支える力になる。

 

その瞬間、上空から警告音。

タウロス所属のコブラ部隊が、パワードスーツ型航空機で接近。

スプリングラビッツ隊へミサイルを放つ。

 

綾音「ハルさん、ミンさん、私に任せて。みんなのために、歌い続けて」

 

ハル「うん!」

 

綾音は即座に迎撃態勢へ移行する。

放たれた迎撃弾がミサイルを撃ち落とし、爆炎が空を裂く。

 

だが、追撃。

綾音の放った一撃が敵機の翼を貫くも、コブラは辛うじて撤退する。

 

直後、ハッキング装置の破壊が確認された。

戦場に、わずかな静寂が戻る。

 

その後、部隊はクデュック箱根湯本本部へ到着。

なぜか、タウロスとリブラの部隊は、深追いすることなく撤退していた。

 

カエデ「大丈夫ですか?」

 

ミサト「ええ、何とかね」

 

ハルは一歩前に出て、敬礼する。

 

ハル「初めまして。スプリングラビッツ隊隊長、アルス=ハルです。よろしくお願いします」

 

ミサト「こちらこそ、よろしく」

 

ハル「こちらがスプリングラビッツ隊のメンバーです。このあと自己紹介を。その後、今後の対応を話し合いましょう」

 

一通りの紹介が終わり、ハルは本題に入る。

 

ハル「ところで、ポータルは?」

 

ミサト「取られると思っていたけど……なぜか手を付けずに撤退したわ」

 

ハル「策があるのか、それとも、すでに技術だけ盗んだか」

 

ミサト「……まだ、判断できない」

 

ハルは静かに息を吐く。

 

ハル「いずれにせよ、私たちはここを護衛し、支援します。旧ギルティ、ライフ=レン、ミルシェ=ユーゴは別任務で合流できませんが、戦力としては十分です。安心してください」

 

嵐は、まだ終わっていない。

だが、この場にいる誰もが理解していた。

今は、確かに踏みとどまれたのだと。

 

 

リブラ領外縁、対地軌道上に展開する臨時指揮艦。

艦内は薄暗く、無数のホログラムが戦況データを吐き出し続けていた。

 

灰色の雲に覆われた地表を見下ろしながら、リブラ軍統合作戦司令官ヴァルゼンは静かに腕を組む。

箱根湯本。

本来なら、すでに制圧されているはずの地点だ。

 

ヴァルゼン「……想定よりも粘るな」

 

その声には苛立ちよりも、計算の修正を強いられる知性の冷たさがあった。

 

副官「クデュック側、依然として抵抗を継続。ポータル周辺の防衛ライン、崩壊せず」

 

ヴァルゼン「イズモの遺産か」

 

モニターには、地上で展開するアリア、エヴァ、そしてスプリングラビッツ隊の動きが映し出されている。

人員規模、兵装、消耗率。

どれも想定内。

だが、一点だけ異常があった。

 

ヴァルゼン「……あの歌は何だ」

 

副官「脳波ハッキングの影響下にある兵の精神安定率が、急激に回復しています」

 

ヴァルゼンは眉をひそめる。

 

ヴァルゼン「歌だと?」

 

副官「はい。音声波形と感情共鳴値が異常なレベルで同期しています。兵器ではありませんが、心理干渉効果があります」

 

ヴァルゼン「くだらん……が、無視はできんな」

 

彼は指先で空間をなぞり、次のカードを切る。

 

ヴァルゼン「タウロスのコブラ部隊を前進させろ。制圧ではなく、消耗を狙え」

 

副官「了解」

 

同時刻。

地上戦域、アクリウスとリブラの国境線。

上空。

コブラ部隊が接近する。

 

コブラ隊長「目標視認。歌唱源、確認」

 

ミサイル発射。

だが、迎撃。

 

綾音の動きは洗練されていた。

迷いがない。

それが、コブラ部隊の被弾率を押し上げる。

 

コブラ隊長「翼部損傷! 撤退する!」

 

爆炎の中、コブラは後退する。

 

ヴァルゼンはその映像を無言で見つめていた。

敗北ではない。

想定通りだ。

 

副官「脳波ハッキング装置、破壊されました」

 

ヴァルゼン「ふむ」

 

副官「追撃しますか?」

 

ヴァルゼンは首を横に振る。

 

ヴァルゼン「いや、撤退だ」

 

副官「……ですが、ポータルは無傷です」

 

ヴァルゼン「だからこそだ」

 

彼はゆっくりと背を預ける。

 

ヴァルゼン「彼らは守る。必死にな。だが、守るという行為そのものが、情報を漏らす」

 

副官「次は?」

 

ヴァルゼン「次は、交渉でも殲滅でもない」

 

一瞬、ヴァルゼンの口元が歪む。

 

ヴァルゼン「理解だ。彼らの希望、信念、そして歌が、どこまで戦場を歪めるかを見る」

 

地上では、クデュック箱根湯本本部にスプリングラビッツ隊が到着していた。

敵の撤退を、不審に思いながら。

 

ヴァルゼンはその様子を見下ろしながら、静かに呟く。

 

ヴァルゼン「今は踏みとどまれたと思っているだろう」

 

だが、それは許容だ。

意図された猶予。

 

ヴァルゼン「嵐は、これからだ」

 

リブラ艦隊は静かに宙域を離脱する。

誰一人として、戦争が終わったなどとは思っていなかった。

 

これは撤退ではない。

次の一手に向けた、準備に過ぎない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。