奈楽が警備ロボットの本体と対峙するのとほぼ同時。そして、霊使が警備ロボットの本体を撃破するのと同時。水樹もまた警備ロボットと対峙していた。といっても小型の警備ロボットはエリアルの振るう杖に撃退されてその数をどんどん減らしている。だが、エリアルの目にははっきりとした焦りがあった。当たり前だ。友人に危機が迫っているのだから。だからこのまとわりつくコバエにも満たないような存在が
「ああもう!邪魔だなぁ!僕と水樹の邪魔をしないでよ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたエリアルは自身の姿を変化させる儀式を行おうとする。もちろん肉体に意識は残るし、元の姿に戻る可逆性もあるので安心できる儀式だ。
だが、そんなエリアルを呼び戻したのは他ならない水樹の声だった。
「エリアル、ステイ!邪魔なのはわかるけど今、マインドオーガスになったら―――!」
水樹はその後の言葉を飲み込んだ。僕が、瓦礫に押しつぶされて死ぬ―――。そんな事を言ってしまえばただでさえウィンダの事でもい詰めている彼女をさらに追い詰めることになってしまうだろう。だから、水樹は何も言わずに飲み込んだ。エリアルならきっと止めてくれると信じて。
「ああ!もう!何か手っ取り早い方法は!?」
語勢を強めてエリアルが何か楽な方法はないか聞いてきた。
「――エリアルッ!どうやらこのロボットたちには本体が居るっぽいよ!」
「見た目で分かる?」
「うん。―――でかいのだ。」
「じゃあ、これを鉄くずに変えればいいってわけだね!」
エリアルの問に叫ぶようにして答える水樹。霊使は本当にいいタイミングでこの情報を送ってくれていたと思う。そうじゃなければ今頃がれきの下だっただろう。
気付けば、目の前に現れた一際でかいロボットをエリアルが叩き潰そうとして―――相手がデュエルディスクを構えているのに気が付いた。なるほど、叩き潰さなくて良い分楽になる―――そう考えて、エリアルはこの決闘を受けることにした。
水樹の方を見れば既にデュエルディスクを構えてやる気満々といった感じだ。
『デュエル!ワタシノターン。…ワタシハ手札ノ"しゃりの軍貫"ヲ公開シテ"赤しゃりの軍貫"ヲ特殊召喚!』
「お寿司だぁ!」
そうして始まった水樹とエリアル対警備ロボット本体の
「今日の晩御飯お寿司がいいなぁ。」
「はいはい。―――取り敢えず目的は見失わないでね。」
「ん―――。どうせソリッドビジョンじゃ味感じないしね。」
どうやらエリアルは好物の寿司を見たことでいくらか気持ちも落ち着いたらしい。気持ちを新たにウィンダを助けると誓ったことでか面持ちが軽くなった。
『ワタシハ"赤しゃりの軍貫"ノ効果ハツドウ!デッキカラ効果ヲ無効ニシテ"いくらの軍貫"ヲ特殊召喚シ、ソノゴソノモンスタートコノカードヲエクシーズ素材トシテEXデッキカラソノカードメイガシルサレタエクシーズモンスターヲエクシーズ召喚扱イトシテ特殊召喚スル!"弩級軍貫―いくら型一番艦"ヲ特殊召喚!ソノゴ、"いくら型一番艦"ノコウカハツドウ。"しゃりの軍貫"アツカイノ"赤しゃりの軍貫"ヲエクシーズ素材トシタタメ一枚ドロー!』
「いくらだぁ!水樹、いくらだよ!?行っていいよね?」
「エリアル!?」
本当にさっきまでの雰囲気はどこへやら。何気にお高い食材であるいくらが山ほど乗った豪華な―――そして本当に軍艦なんじゃないかと思わせるような"軍貫"がフィールドに現れた途端、エリアルが涎を垂らして出番を待ち構え始めた。何気にドローを行っているがそれはネタが切れない―――という事を現しているのだろうか。後、艦体に施されている「いくら」の飾り切りが妙に気になる。だが、エリアルはどうにもそれに気づいていないようだ。
どうやら彼女は好物にはとことん目が無いらしい。こんな形でエリアルの一面を知ることになるとは思いもしなかったが。はしゃぐ彼女に少しだけ心が奪われそうになる。
だが、水樹は心を鬼にしなければならない。そう、彼女には目の前にある好物を我慢してもらわねばならない。何故なら―――
「エリアルじゃ攻撃力が足りない!」
そういうことである。
水樹の言葉に分かりやすくテンションを下げるエリアル。「しょぼーん」という擬音がピッタリ当てはまる位に落ち込んでいるエリアル。エリアルの
『ツヅケテワタシハ"しゃりの軍貫"ヲ通常召喚。手札ノ"しらうおの軍貫"ハ自分フィールド上ニ"しゃりの軍貫"がソンザイスルバアイ手札カラ特殊召喚デキル!"しらうおの軍貫"ヲ特殊召喚!』
「レベル4の"軍貫"が二体…。次のネタが来るよ!」
『ワタシハ"しゃりの軍貫"ト"しらうおの軍貫"デオーバーレイ。―――"空母軍貫―しらうお型特務艦"ヲエクシーズ召喚。』
「しらうお…。こりゃまた珍しい物を。」
次に現れたのはたくさんのしらうおが乗った空母型の軍艦。艦体の滑走路らしき場所にはにはご丁寧に飾り切りで「しらうお」と刻まれている。そんなところにまで労力をかけなくていいだろうに。
『"しゃりの軍貫"ヲエクシーズ素材トシタタメ一枚ドロー。サラニ"しらうおの軍貫"ヲエクシーズ素材トシタ"空母軍貫―しらうお型特務艦"ハデッキカラ"軍貫"魔法・罠カードヲ手札ニクワエルコトガデキル。ワタシハ"軍貫処『海せん』"ヲ手札ニ!』
そんなおいしそうな外見とは裏腹に効果は確実にアドバンテージを開いていくものだった。水樹は歯噛みしてその光景を見守るしかない。
水樹は、デュエルにおいて少しずつアドバンテージが広げられていくこの感覚はあまり好きではない。自分がどんどん劣勢に追い込まれている気がして気が気賀ではなくなるからだ。
『ワタシハフィールド魔法"軍貫処『海せん』ヲ発動!ワタシハコレデターネンド…。』
警備ロボット・本体 LP8000 手札4枚
モンスター 弩級軍貫―いくら型一番艦 (
空母軍貫―しらうお型特務艦(
フィールド魔法 軍貫処『海せん』
攻撃力はそんなに高くないが二体のエクシーズモンスターにフィールド魔法が一枚。手札三枚から実質五枚のアドバンテージを稼ぎ出している。どうやら相手のデッキはアドバンテージを相手に押し付けていくデッキなようだ。
「カードは伏せないのかい?それとも―――」
『…』
「沈黙…。勝手に是と取らせてもらうよ。僕のターン。ドロー。」
警備ロボットが用いるデッキはエクシーズが主体の軍貫デッキ。それにしてもアドバンテージの稼ぎ方が半端ではない。決闘が長引けば長引くほど不利になるのはこちら側だろう。ならば。
この一ターンで相手を倒しきってしまえばいいだけの話だ。今の手札なら―――水樹のデッキならばそれができるという確信がある。
「僕は手札の"シャドウ・リチュア"の効果を発動。このカードを手札から捨てることによってデッキから"リチュア"と名のついた儀式魔法カードを手札に加えることができる。僕はデッキから"リチュアの儀水鏡"を手札に!」
そう。水樹のデッキは"リチュア"。このデッキはアドバンテージの稼ぎが非常に行いやすいデッキだ。何度も何度も"儀水鏡"を使いまわし、その他の方法も交えながら"イビリチュア"と呼ばれる儀式モンスターを並べていくデッキだ。そのデッキの回し方によってはレベル10が二体並ぶなんて光景も一ターンで起こりえる。
「僕は手札から"リチュアの儀水鏡"発動!手札の"イビリチュア・ジールギガス"をコストに"イビリチュア・ジールギガス"を儀式召喚!1000のライフを支払い"イビリチュア・ジールギガス"の効果発動!」
水樹 LP8000→7000
早速一体目の儀式モンスターである"イビリチュア・ジールギガス"が姿を現した。エリアル曰く四道零夜の用いる"インヴェルズ・グレス"がリチュアの儀式を乗っ取ってこの姿になったそうだ。狂っていたころのノエリアが儀式で呼び出そうとした際にその事を知ったらしい。エリアルは因縁のあるカードでもあるそれを余り好んではいない。それでも今はリチュアの一員であり、攻撃力3200であるがゆえにデッキから外せないカードの内の一枚でもある。そして、その効果は軍貫にとっては厄介極まりないものである、といういやらしい確信が水樹にはあったのだ。
「デッキから一枚ドローする!そのカードを互いに確認しそのカードが"リチュア"モンスターカードならば相手フィールドのカード一枚をデッキに戻すことができる!この効果は対象を足らないよ!さあ行くよ…ドロー。」
水樹は穏やかな面持ちでデッキの上からカードを一枚引いた。あたかもそれがリチュアの一員であることがはっきりとわかっているかのように。
「僕の引いたカードは…"シャドウ・リチュア"。これは明らかにリチュアモンスターだね。」
『肯定。』
「じゃあ、僕は"弩級軍貫―いくら型一番艦"をデッキに。」
『ワカリマシタ。…"『海せん』"ハ効果デ墓地ニ行カナケレバ効果ヲ発動デキナイ…。』
"軍貫処 『海せん』"は相手の効果でEXデッキから特殊召喚された"軍貫"モンスターが墓地へ送られなければ意味がない。つまりデッキへとバウンスする"ジールギガス"の効果に対して"『海せん』"の効果は無力で無意味なものでしかないのだ。
効果を発動したジールギガスは水樹の引いたカードから何かしらの力を受け取るとまっすぐに"いくら型一番艦"へと向かって行く。そして何を思ったのか、唐突に、"いくら型一番艦"を投げ飛ばして転覆させた。ジールギガスの口をよく見れば若干の米粒が付いている。どうやら軍貫は彼―――で正しいのかどうかは分からないがジールギガスの口には合わなかったようだ。だからって軍貫をひっくり返すとは、とんでもないクレーマーである。
「続けて墓地の"リチュアの儀水鏡"の効果発動。このカードをデッキに戻すことで墓地の"イビリチュア・ジールギガス"を回収。更に再び"シャドウ・リチュア"の効果。このカードを捨ててデッキから"リチュアの儀水鏡"を手札に。僕は再び手札から"リチュアの儀水鏡"発動!僕は"ヴィジョン・リチュア"をリリースして"イビリチュア・ソウルオーガ"を儀式召喚!」
『儀式召喚ハモンスターノレベルヲ儀式召喚スルモンスターノレベルトオナジニナルヨウニリリースシナケレバナラナイノデハナイノデスカ?』
警備ロボットの疑問も最もだ。確かに、"ヴィジョン・リチュア"のレベルは2。しかしながら"イビリチュア・ソウルオーガ"のレベルは8。本来ならば儀式召喚を行う事は出来ない。けれども、"ヴィジョン・リチュア"の場合は話が別だ。何故なら―――
「このカードは一枚で儀式のリリースとできるのさ!」
そういうことである。儀式そのものが異なる"ドライトロン"とは別の意味で儀式を行いやすくするカード。このカード一枚で儀式の生贄になれるのならば儀式のためにそこまでたくさんのコストを支払う必要もない。つまり、本来ならばアドバンテージを失いやすいという儀式召喚の欠点を見事に中和しているのだ。
「そして、手札から"リチュア"モンスターである"イビリチュア・ジールギガス"を墓地に送って"ソウルオーガ"の効果発動!"空母軍貫―しらうお型特務艦"をデッキに!」
『…』
そんな事を考えているうちに今度は"ソウルオーガ"によってひっくり返され
「僕は手札から魔法カード"サルベージ"発動。墓地の攻撃力1500以下のモンスターである"ヴィジョン・リチュア"と"シャドウ・リチュア"を手札に。僕は"シャドウ・リチュア"を墓地に送ってデッキから"リチュアの写魂鏡"を、"ヴィジョン・リチュア"を墓地に送ることで"イビリチュア・マインドオーガス"を手札に!」
どうやら相手は自分がここまでモンスターを展開するだなんて思いもしなかったようだ。
最後の召喚さえ通ってしまえばこれでワンショットキルは完成する。哀れ、とうとうエリアルは一口も軍貫を口にすることは終ぞなかったのである。
「僕は"リチュアの写魂鏡"を発動!このカードは儀式召喚するモンスターのレベル×500のライフを払う事で儀式召喚を行う事が出来る!僕は3000のライフを支払ってこのカードを儀式召喚する!」
エリアルが何やらぶつぶつと呪文を唱え始める。それに伴い水樹を力が抜けていくような感覚が襲う。この感覚は何度やっても慣れるものではないし、それにエリアルもこの儀式は水樹の負担になると分かっているのかあまりいい顔をしていない。
「我が命食らいて、この儀式を為せ!悪逆の道をいざ行かん!儀式召喚…出でよ"イビリチュア・マインドオーガス"!」
水樹 LP7000→4000
エリアルの下半身が魚のような何かに変わった。これがエリアルが自らを生贄として行う儀式の行きつく果てである"イビリチュア・マインドオーガス"。だがエリアルの意識はそこにあるようでまっすぐに倒すべき敵を見つめていた。
「バトルだ!行くよ―――!」
フィールド上にモンスターが存在しない警備ロボットはこの連続攻撃を防ぐ手立てはない。故に。
水樹の後攻一ターン目でその役目を終了させられてしまった。
警備ロボット LP8000→4800→2000→0
警備ロボットが最後に記録した光景は、"イビリチュア・マインドオーガス"に変異したエリアルが見せた、何処までも冷たく侵略者の笑みを浮かべた顔だった。
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まさか三機全てが破壊されるとは思ってもいなかった。
というか全員合わせても10ターン程度しか経過していない。
恐ろしい―――を通り越してもはや何も言えない。
「やれやれとんだお客さんだ。」
「全くだ。」
創と颯人は確かに相容れない立場に立っている人間だ。だが、今回の決闘を観戦していて一つだけ共感することができた。それは―――
「アイツら本気になるとすげぇ脳筋になる」
という感想である。
「エリアルのバカ…。」
その様子を見ていたウィンダは嬉しそうに呟いていた。こんな危険地帯へと堂々と乗り込んであまつさえ、侵略者としての性を垣間見せてまで自分を吸いに来てくれた友人への呆れや嬉しさが混ざったようなそんな言葉。
「本当にあの時の言葉を果たしに来てくれたんだね。エリアル。」
ウィンダはそう言って、彼女と友人になった日を思い出していた―――。
登場人物紹介
・二重原水樹
初登場でリチュアワンショットを決めるやべー奴。
・エリアル
寿司が好物。好物を目の前にすると年相応の面が出ることも
・警備ロボット
実は次のターンに"アーゼウス"を用意していた。手札は"闇の量産工場"二枚と"火霊術―紅"が二枚だった。ドローが事故ってた。
リチュアに大暴れしてもらいました。やることなす事えぐいなこれ…。この後には進化も待っている事ですし…。
次回もお楽しみに!
水樹君のデッキ強化
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ネクロス
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リチュア